
25年の歴史を誇る「KOREA MICE EXPO」(韓国MICEエキスポ KME)2025年には開催地をソウルに移す アジア最大級のMICE専門展示会とは
韓国のMICE産業を牽引する専門展示会、「KOREA MICE EXPO(KME)」。MICE全般を網羅するこのイベントは、業界関係者にとって不可欠なプラットフォームです。本記事では、その歴史から最新の動向、そしてこれから展望までをお届けします。

KOREA MICE EXPO イベントの概要
開催日程と場所 今年は11月3日~5日 ソウルCOEXで
KOREA MICE EXPO(KME)は、韓国MICE産業の最前線を体験できる一大イベントです。直近の「KME 2024」は2024年11月6日(水)から8日(金)の3日間、仁川広域市の松島(ソンド)コンベンシアで開催されました。今年の「KME 2025」は、2025年11月3日(月)から5日(水)にソウルのCOEX(コエックス)に会場を移して開催される予定です。

公式Webサイト https://koreamiceexpo.com/
主催と支援体制
本イベントは、民間の韓国MICE協会(KMA)が主催し、KME 2024では仁川観光公社(ITO)が共催を務めました。さらに、韓国文化体育観光部(MCST)、仁川市、韓国観光公社(KTO)といった公的機関が強力に後援しており、官民一体となった推進体制がKMEの大きな強みとなっています。
規模と参加者
KME 2024は記念すべき第25回大会として開催されました。国内外から約3,000名のMICE専門家が参加し、300以上の企業・団体が出展し、展示ブースは400以上に達しました。31カ国から130人以上の国内外バイヤーが招聘され、会期中には約4,000件もの事前予約制ビジネス商談が行われるなど、活発なビジネス交流の場となりました。
出展者の構成は非常に多様で、韓国国内の18の地域から参加した地方観光公社(RTO)、コンベンションセンター、PCO(会議運営専門会社)、PEO(展示会主催会社)、ホテル、ユニークベニュー、IT企業、その他サービスプロバイダーなど、MICEエコシステムのあらゆるプレーヤーが一堂に会しました。

プログラム内容
KME 2024のテーマは「Much, More, MICE」であり、韓国MICE産業の急速な拡大と将来性を強調するものでした。イベントは主に展示会(ブース出展)、商談会(1対1ビジネスミーティング)、カンファレンス(各種セミナー)、そしてネットワーキング企画で構成されています。
カンファレンス「KME Conference – MICE WAVE」では、トレンド・政策、テクノロジー、サステナビリティの3つをテーマに、業界の最新動向や事例が共有されました。初日夜に開催される「KME Night」では、MICE企業や人材を表彰するアワードセレモニーも行われました。最終日には、将来のMICE人材育成を目指す「MICEユースセッション」も実施されるなど、多角的なプログラムが提供されました。

KOREA MICE EXPO 歴史と成長の軌跡
創設期 2000年~
KMEの起源は、2000年に「Korea Convention Industry Expo(韓国コンベンション産業博覧会)」として初開催されたことに遡ります。韓国政府が1990年代後半に制定した「コンベンション産業振興法」などの政策の一環として位置づけられ、当初から「アジアを代表する見本市に」という構想が掲げられていました。その後、「KOREA MICE EXPO」へと名称変更され、コンベンションだけでなく、会議、インセンティブ旅行、展示会を含むより包括的なMICEの概念を採択し、そのスコープを戦略的に拡大しました。


開催地の変遷と戦略的意義
KMEの歴史は、開催地の変遷と共にその戦略的な意図の進化を物語っています。黎明期は首都ソウルで始まり、そのブランド力とインフラを活用して基盤を築きました。特に2010年から2012年にかけてはソウルのCOEXで開催され、2013年には参加者4,600人以上、海外ホストバイヤー数は前年比52%増を記録するなど、著しい成長期を迎えました。
その後、2015年からは開催地を仁川の松島(ソンド)コンベンシアに移し、9年間にわたって開催されました。この長期開催は、仁川の自由経済区域と近代的なインフラを活用し、同市をMICE都市として育成する国家戦略の一環とされています。
そして、2025年に再びソウルへ回帰する決定は、単なる原点回帰ではありません。仁川のMICE能力を十分に引き上げた上で、強化されたイベントを再び韓国の主要ゲートウェイであるソウルに戻すことで、世界トップクラスのMICE都市として一貫して評価されているソウルのブランド力(米国のビジネストラベル誌『Global Traveler』で10年連続「最高のMICE都市」に選出されています)を最大限に活用し、より大きな国際舞台で競争するための「戦略的エスカレーション」と解釈できます。
ICCA(国際会議協会)、2024年に全世界で開催された国際会議の統計では…
国別の開催件数では韓国は世界12位(日本7位)、都市別ではソウルは世界6位(東京は16位)。アジア太平洋地域に限ると、ソウルは2位、釜山16位、済州島20位となっています。
年 | 回 | 開催地(都市) | 主要主催・支援団体 | 参加者、バイヤー、出展者 | 主要な出来事 |
2000 | 1 | – | – | – | 「Korea Convention Fair」として創設 |
2012 | 13 | COEX (ソウル) | ソウル市政府, KTO, STO, KMA | 3,000人以上, 300人, 200社 | ソウルでの3年連続開催 |
2013 | 14 | COEX (ソウル) | KTO | 4,600人以上, 300人, 200社 | 海外ホストバイヤー数が前年比52%増 |
2020 | 21 | 松島コンベンシア (仁川) | – | – | COVID-19禍での開催 |
2024 | 25 | 松島コンベンシア (仁川) | KMA, ITO, MCST, 仁川市, KTO | ~3,000人, 130人以上, ~300社 | 初の「日中韓MICEフォーラム」開催 |
2025 | 26 | COEX (ソウル) | KMA | – | 9年ぶりにソウルへ回帰 |

民間移管とイノベーション
KMEは、2019年に第20回の節目を迎え、2020年には新型コロナウイルスの影響で初のオンライン・ハイブリッド開催となりましたが、困難な時期にも柔軟に形式を変えて開催を継続しました。この間も3,000名超の参加者と300社の出展者がバーチャルプラットフォーム上で商談・交流を行うなど、デジタル時代に即した挑戦が行われました。
そして、2023年からは主催が長年KMEを育成してきた韓国観光公社(KTO)から、民間の韓国MICE協会(KMA)へと移管されるという大きな転機がありました。これにより、官民の協働により一層グローバル水準の展示会へ進化させる狙いが明確になりました。実際、民間移管後初開催となった2023年のKMEからはプログラムにも革新が加えられ、2024年には後述する「韓中日MICEフォーラム」が実現するなど、国際協力の新たな枠組みも生まれています。

国際的・地域的に見たKMEの位置づけと存在感
KMEは、韓国における旗艦的MICE見本市であると同時に、アジア地域でも有数のMICE産業イベントでもあります。世界にはIMEX(フランクフルト・ラスベガス)のようなグローバルなMICE専門見本市が存在しますが、KMEはそれらに次ぐアジア発の国際MICEハブを目指しており、特に韓国および近隣市場に特化した強みを持っています。
KMEは、政府観光局(KTO)主導で始まった経緯から官民の強力な支援を背景に持ち、国としてのMICE振興戦略と連動している点が特徴です。例えば、海外から招聘される「Hosted Buyer(招待バイヤー)」には渡航費・宿泊費を提供し、終了後に主要MICE都市を視察するツアーを実施するなど、手厚い招待プログラムで高品質な需要家を集客しています。こういった取り組みによって、KMEには毎年世界各国から会議主催者・イベントプランナーが訪れ、韓国のMICEポテンシャルを直接体験する機会となっています。
また、KMEはアジア地域のMICEハブとして、近隣の日本・中国との連携強化にも力を入れています。海外の関連組織とのパートナーシップも拡大しており、PCMA(プロフェッショナル・コンベンション・マネジメント協会)など国際的団体との協働セッション開催、中東・欧米の観光局によるプレゼンテーション枠の提供、海外MICE専門メディアの取材誘致といった取り組みを通じ、国際的存在感を高めています。
アジアでは、日本でも「Japan MICE Expo」が開催されたり、シンガポールのITB Asia、タイのIT&CMAなどが活発化しているなか、KMEは20年以上の歴史と官民一体の推進力を備え、規模・内容の充実度において先頭を走る存在です。韓国は世界的な会議開催件数ランキングで常に上位を占めるMICE大国であり、KMEはその牽引車として国内外に広く名を知られています。
日本との関わり
KME 2024における最も特筆すべきプログラムの一つが、初開催された「日中韓MICEフォーラム」です。これは単なる一カンファレンスセッションではなく、MICEの枠組みの中で行われた画期的な外交的・戦略的イニシアチブです。
このフォーラムの重要性は、日本コンベンション協会(JCMA)の参加によって一層際立ちます。JCMAは、韓国MICE協会(KMA)との覚書(MOU)締結の成果として、今回初めてKMEに出展しました。期間中、JCMAは世界のバイヤーと22件の事前予約商談を行い、日本の会員企業を紹介する貴重な機会を得ました。さらに、JCMAの国際交流推進委員長である馬鳥氏がパネリストとして登壇し、日本のMICE産業が直面する主要な課題として、「認知度向上、ブランディング、政府への政策提言、メディアへの効果的な広報、他団体との連携」を挙げました。
この三国間フォーラムの設立は、東アジアのMICE戦略における大きな転換点を示唆しています。日本、中国、韓国はMICEビジネスにおいて競合関係にありますが、同時に、他のグローバル地域に対抗するためには東アジア全体の魅力を高める地域協力が必要であるという認識を共有し始めています。KMEは、この「協力的競争」を実践するための、中立的で理想的な舞台を提供したのです。JCMAがこの場で日本の「課題」を率直に議論したことは、単なるプロモーション合戦を超え、透明性の高い、問題解決志向の対話へと移行する意欲の表れと言えるでしょう。

最新イベントトレンドと業界への影響
KME 2024のプログラムや議論からは、現在のMICE業界が直面する重要なトレンドと、未来への方向性が明確に示されました。
デジタル技術・イノベーション
MICE産業へのAI(人工知能)やスマート技術の活用が大きな焦点となりました。カンファレンスでは、最新のAI技術トレンドや具体的なMICE業界での応用事例が紹介され、パンデミックを経て加速したオンラインプラットフォーム、データ活用、DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流が共有されました。
世界最大のテック見本市CESの幹部による基調講演では、CESがバーチャル開催へ移行した経験から得た知見が語られ、参加者はハイブリッドイベントの価値や新時代の参加者エンゲージメントについて学びました。KME 2024では、AIを活用したプラットフォーム「Snapsight」の導入など、韓国がMICE提供価値において最新のテクノロジーを重視していることが示されました。 これは効率化を超え、韓国MICEの重要なセールスポイントとなりつつあります。
※Snapsight:イベントや講演の内容をリアルタイムで要約し、重要なポイントを可視化する世界初のAIツール

サステナビリティ(持続可能性)・ESG
環境に配慮したイベント運営や社会的責任も重要なテーマとして取り上げられました。KME 2024では「サステナビリティ」が主要テーマのひとつとなり、持続可能なMICE運営ガイドライン策定に関する講演などが行われました。
展示会場でもエコフレンドリーな取り組みが進んでおり、ブース資材に再生素材を使用したり、紙の印刷物をデジタル案内に置き換えるなど環境負荷低減策が導入されています。ESG部門の表彰を通じて各組織の環境・社会貢献への努力が称えられたように、韓国MICE業界全体でサステナブル志向が高まっていることを示す場となりました。
MICE人材育成・次世代支援
MICE産業の未来を担う若手人材の育成も重要なテーマでした。前述のMICEユースセッションでは学生が実践的にイベント企画を体験するプログラムが行われただけでなく、学会と連携した産学協同のカンファレンスも併催され、最新の学術知見が業界にフィードバックされるとともに、若い世代にMICE業界で働く魅力をアピールする機会となりました。

KOREA MICE EXPO これからの展望
ソウル回帰がもたらす変化
KMEは、仁川での9年間の開催を経て、2025年11月3日から5日にかけてソウルのCOEXで開催されます。ソウルでの開催は2013年以来とも言われる異例の回帰です。
ソウルは米国のビジネストラベル誌『Global Traveler』によって10年連続で「最高のMICE都市」に選出されており、これは非常に強力なブランドです。COEXはソウルの活気ある江南(カンナム)地区に位置し、ホテル、ショッピング、エンターテイメント施設が一体となった世界クラスの複合施設であり、海外からの参加者に卓越した利便性を提供します。この移転は、KMEの国際的な地位を向上させ、海外からの注目をより積極的に集めるための意図的な一手であり、ソウル市が推進する大規模なMICEインフラ投資とも連動しています。

期待される進化と高付加価値化
ソウルへの移転に伴い、KME 2025ではいくつかの進化が期待されます。プログラム面では、日中韓MICEフォーラムの継続的な重視、テクノロジー関連テーマのさらなる深化、そしてK-カルチャーやユニークベニューといったソウルならではの資産を活用した新しいプログラム要素の導入が予測されます。
より認知度が高くアクセスしやすいグローバルゲートウェイであるソウルへの移転は、海外からのバイヤーや参加者の増加を促進する可能性が高いです。また、ソウルの新しいMICEインフラがバイオテクノロジー、AI、ロボット工学といった先進分野をターゲットにしていることから、KME 2025ではこれらの分野からの会議やイベント誘致に、より一層力が入れられる可能性があります。
韓国MICE協会は、「KME 2025は韓国がグローバルMICEリーダーとしての地位をさらに確立する場となり、業界ステークホルダーにとって不可欠なプラットフォームとして機能し続けるだろう」と自信を示しています。
海外参加者への手厚い支援
KMEは、海外からの参加者、特に出展者とバイヤーに対して、具体的で魅力的な参加プログラムを提供しています。出展者には、国内外の有力バイヤーとの1対1の商談機会、プレゼンテーションを通じた自社プロモーションなどがメリットとして挙げられます。
また、バイヤー向けの「ホストバイヤー・プログラム」はKMEのビジネスの中核を成す制度です。参加資格を得たバイヤーには、往復航空券、宿泊施設、イベント後の視察ツアーなどが無料で提供されます。しかし、これらの手厚い支援には、最低でも23件のビジネス商談を行うといった条件が伴います。これは、質の高いビジネス環境を保証するための重要な仕組みであり、真剣なバイヤーにとってはむしろ魅力的な条件と言えるでしょう。
アジアのMICEイベントを牽引するKME ソウルへの回帰でどのように進化するか
韓国MICEエキスポは、その四半世紀にわたる実績と築き上げたネットワークを基盤に、更なる飛躍を目指しています。日中韓MICEフォーラムの立ち上げに象徴されるように、単なる国内見本市に留まらず、東アジア地域全体のMICE協力とイノベーションを牽引する戦略的なプラットフォームへと進化を続けています。2025年のソウル回帰は、KMEが国際的なMICEハブとしての地位を確固たるものにし、世界にその存在感を示す重要な節目となるでしょう。
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