【レポート/主催者インタビュー】京都開催「地域×Tech関西」地方にこそ必要な展示会、出展者と主催者の思い
2024年11月12日(火)~11月13日(水)に「京都市勧業館みやこめっせ」で開催された「第3回 地域×Tech 関西」と、今年から始まった「第1回 こども×Tech 関西」のレポートをお届けします。
「地域×Tech」とは、地域をより良く発展させたい、活性化させたい企業が最新のテクノロジーを持って出展し、同じ思いを持つ自治体や行政関係者と交流が深められる展示会です。関西の他に、東北で5回、九州で2回開催されています。
最新サービスや製品を実際に見られる、触れられることはもちろん、課題を抱えている自治体と、技術を持った企業が出会える場として役立っています。
開催概要
名称:第3回 地域×Tech 関西 第1回 こども×Tech 関西
会期:2024年11月12日(火)〜11月13日(水)
会場:京都市勧業館みやこめっせ 3階 第3展示場
開場時間:10:00~17:00
主催:株式会社あわえ
https://kyoto.localtech.jp/
大きな鳥居をくぐり、美術館や図書館の横を通り、「地域×Tech」の会場である「みやこめっせ」に入ります。
「地域×Tech」の会場である「みやこめっせ」は京都を代表する展示会場のひとつ。3階第3展示場には出展者約70社のブースが並びます。
開催のたびに出展する”お馴染みの企業”も数社ありました。開催するごとに出展者も来場者も増えています。
約70社の中から、「地域×Tech」らしいユニークな出展者のブースを5社ご紹介します。
ストラクチュアルライン株式会社 :ARを使用したプラットフォームを無料で提供中
AR機能を使用し、地域で暮らす方や旅行で訪れた方をお店に誘導する地域活性化のプラットフォーム「InnerBazaar(インナーバザール)」を提供している、ストラクチュアルライン株式会社(本社 東京都千代田区)。
QRコードを読み込み、行きたい場所や施設を検索をすると、現在地から近い順に施設が表示されます。世界遺産やコンビニエンスストアなどわかりやすい建物だけではなく、トイレやAEDの場所も掲載されています。
大体の方向が見てすぐにわかるので、土地勘のない場所でも安心して街歩きを楽しめるでしょう。
お店の登録や地域情報の掲載など基本サービスは無料。ホームページの開設、求人の掲載も無料プランに含まれます。毎月2,000円で全機能が使える有料プランもあるとのこと。
代表取締役の牧石さんにお話を伺いました。「実は別の事業もやっていて、そちらで利益が出ているのでインナーバザールはお金儲け目的ではやっていないんです。少しくらい当たればうれしいですけれど(笑)自社の利益を増やすことよりも、困っている人に使ってもらえたらうれしいです。どこでも、なんでも手伝いますよ」と、終始笑顔で熱意を持ってお話いただいたのが印象的でした。
ストラクチュアルライン株式会社 Webサイト https://sl-inc.co.jp/
InnerBazaar(インナーバザール) https://www.innerbazaar.com/
さきのこと(株式会社永和システムマネジメント):約1万4000時間を削減。やさしくゆるやかにDX
自治体からの情報、お知らせ、連絡などをスマートフォンやタブレットで見られるアプリ「タウン・デジボ」を提供する「さきのこと」。
実は「さきのこと」は会社名ではありません。株式会社永和システムマネジメント(本社 福井県福井市)の一つの部署です。去年の8月に発足してから、いくつもの企画開発を行っています。
「今まで受託開発しかしていなかった社員が『さきのこと』にコミットして、企画・開発をしています。みんな普段の受託開発とは違う脳を使っているので、大変そうです」と、ブース担当の宮下さんが楽し気に語ってくれました。
「タウン・デジボ」は、自治体から配布されている広報誌や大切なお知らせの配布にかかる、年間約1万4000時間を削減するために作られました。まだまだ実証段階ですが、配布の手間を大幅に削減することを目指しています。
宮下さんは「自治体や町内会により、LINEグループが乱立したり、特定の町内会だけメールだったり、面倒なやりとりも多いんです。『タウン・デジボ』であればこのアプリだけで完結するので、便利になっていると思います。配信したお知らせの未読・既読を確認できる機能や、各地域のゴミの日も設定できますよ」と、とある地域のゴミの日カレンダーも見せてくれました。
さきのことWebサイト https://sakinokoto.esm.co.jp/
タウン・デジボ https://sakinokoto.esm.co.jp/town-digibo
株式会社メタ・イズム:AIと地域のオペレーターが協力して最適なルートを提案
AIを利用したデマンド運行・予約配車管理システム「スマート・デマンド交通システム」を提供する、株式会社メタ・イズム(本社 大阪府大阪市)。
利用者が電話やWeb、LINEを使って配車を予約すると、行き先や希望の時間帯などの情報がオペレーターに連携されます。その情報をもとに、送迎時間やルートをAIが設定。設定した情報を車に載せているタブレットに連携することで、効率的な配車、円滑な送迎を実現しています。
セールス・マーケティング部マネージャーの山田さんから、「ルート設定はAIが行いますが、不完全な部分も多く、道を間違えることもあります。そこで地域で暮らすオペレーターを採用し、地域の方だからこそわかる最適なルート、効率の良いルートに直して対応する自治体もあるんですよ」と教えていただきました。
現段階では55の地域、自治体が「スマート・デマンド交通システム」を導入しています。運用方法や利用者層は、その地域によってまちまち。地域に合わせた運用が可能です。「その土地で暮らす方に欠かせないシステムになってくれれば。さらに導入自治体を増やしたいです」。
山田さんの後ろにいた「コ」のキャラクターがつい気になってしまい、最後にお伺いしたところ「うちのエンジン的なシステムのキャラクターです」と回答をいただきました。「ココニル」の文字それぞれに目と足がついているのですが、「ニ」と「ル」は少し特殊な形をしていて、どう歩くのか気になるところです。
株式会社メタ・イズム Webサイト https://metaism.co.jp/
デマンド運行・予約配車管理システム「スマート・デマンド交通システム」 https://metaism.co.jp/service_smart-demand-transportation
株式会社MARUKU:スタンプラリーで地域を回遊。観光資源に気づくきっかけをつくる
LINE機能を拡張したデジタルスタンプラリーサービス「mawaru」を提供する、株式会社MARUKU(本社 熊本県上益城郡)。
芸能人や人気のアニメ、キャラクターとコラボしたり、観光スポットを巡ったりするスタンプラリーを目当てに街へ来てもらい、足を運んでくれた方にはデジタルガイドブックやデジタルクーポンを提供。
スタンプを集めながらお得に街を巡り、最終的には街のファンになってもらって、再び訪れてもらうことを目的としたサービスです。
元々紙のスタンプラリーを行っていた地域も多く、デジタルになることで担当者の負担軽減にもつながっています。また、LINEはスマートフォンを持つほとんどの方が利用しているツールです。よくわからないアプリをインストールせずに使えることも「mawaru」の強みでしょう。
ソリューション事業本部、統括本部長の甲斐さんによると、街や地域に関わる人口を増やしたい、観光の力でファンを増やしたいと考え導入している自治体が多いそう。
「『街に来てもらいたいけれど、きっかけがない』『観光資源がない』と思っている方も非常に多い。ですが、そこに住んでいると、観光資源があるのに気づいていない場合も多いんです。街に人を呼ぶスタンプラリーとしてはもちろん、観光資源に気がつける・見つけられるきっかけにもなればうれしいですね」。
株式会社MARUKU Webサイト https://maruku.biz/
LINEで簡単スタンプラリー「mawaru」 https://mawaru.co.jp/line-stamprally/
株式会社カスペルスキー:インターネット上の「あやしい」を見極める子ども向け教材を無料で提供
ブース前を通るときに目に入ったのが、緑のクマのキャラクター。株式会社カスペルスキーのブースです(東京本社 千代田区)。
マーケティング本部・本部長の金野さんは、展示されていた紙を手に取り「これ、あやしいと思いますか?」と私に問いかけてきました。
見せてもらった紙をよく読むと「トロイの木馬に感染しました」とディスプレイに表示された際の対応方法を問うものです。
以前、広告を間違えてクリックしてしまったときに、この紙と同じように「トロイの木馬に感染しました」との表示と、大音量で不快な音が鳴り続ける経験をしたので、「電源を切る」と正解できました。その経験がなければ対応を間違えていたと思います。
展示されていた紙と、金野さんの問いかけこそが、情報セキュリティ啓発商材、ネットの「あやしい」を見きわめようを使った教育の一貫でした。
株式会社カスペルスキーはアンチウイルスソフトなどを提供する企業ですが、子ども(生徒)のデジタルライフを守り、子ども(生徒)が自分で見極める力を育むため、セキュリティ教育支援として教材を無料で提供しています。
Webで提供されているので、アプリ上で動かしながら考えること、紙に印刷をしてカードゲームのように楽しむこともできます。遊びながらあやしさを察知する能力が身につけられるでしょう。
今回は「こども×Tech」への出展でしたが、これまでは「地域×Tech」に出展されていました。「教育系も新しいことをどんどんやっていかないといけないですよね。危険に巻き込まれる子どもを減らすためにも、さらに広めていきたいですね」金野さんはそう語り、緑のクマ(ミドリクマ)を「持って帰っていいですよ」と渡してくれました。
物欲しそうな顔をしてしまったのかと思うと恥ずかしい限りですが、ありがたくいただき、自宅PCの上に飾りました。セキュリティソフトを開発している企業からいただいたぬいぐるみ。ご利益がありそうです。
株式会社カスペルスキー Webサイト https://www.kaspersky.co.jp/
ネットの「あやしい」を見きわめよう https://kasperskylabs.jp/activity/giga/index.html
地域活性に必要な人間、情報、テクノロジーに出合う場「地域×Tech」
「地域×Tech」主催の「株式会社あわえ」代表を務める、吉田基晴様へのインタビューの機会をいただきました。
・「地域×Tech」開催の理由
・開催を重ねる中で気がついたこと
・今後の展望
を中心にお伺いしました。
「地域×Tech」、「こども×Tech」の開催理由
ーなぜ「地域×Tech」を開催するようになったのでしょうか。
「株式会社あわえ」は、2013年に創業しました。創業の翌年、(第2次)安倍政権が始まり地方創生が打ち出されました。地方創生の黎明期、地方創生を冠するイベントの多くが東京で開催されていたんです。地方から人を集めて東京でイベントを開催するなんて、地方創生の在り方とは逆のことをしているな、と。
少子高齢化や過疎化、高まる災害リスクなど、課題が山積する日本で、今、最も厳しい戦いをしているのが地方です。それにも関わらず、最新の情報やテクノロジーは都市部に集中している。
「インターネットがあるよね」という声もありますが、本当の課題は、検索をすれば出てくるものではありません。事業者と直接コミュニケーションを取ることで得られる気づきも多い。地方自治や行政に必要なソリューションや技術が地方で見られる場は、地方にこそ必要ではないか。そう思い、「地域×Tech」事業を始めました。
ー今年から、「こども×Tech」の開催も始まりました。こちらはなぜ始められたのでしょうか。
少子化問題は、国難とも言える国が持つ大きなテーマです。
少子化はすぐには止められなくても、多方面で活躍できる未来の人を育てることが国の豊かさを守ることにつながると思い、「こども×Tech」を開催しました。人口が少なくなっても、多方面に活躍できる人材が育てば、そこで暮らす人数だけに依存しない地域の在り方も可能になるのではないか。「こども×Tech」に期待している部分です。
国が取り組んでいるから、市場があるから、という理由もあります。しかし、地域も含めて子どもや教育にもっと光を当てたいと考えていた結果でもあります。教育環境や女性の働きやすさにも注目が集まるよう取り組みたいですね。
事業者も自治体の職員も、リアルな場を求めている
ー「地域×Tech」の開催を重ねるなかで、気がついたことはありますか。
開催理由と重なる部分がありますが、今って、本当にオンラインの時代ですよね。
顔を合わせずに仕事はできますが、直接会っての雑談や相談の中から本当の課題に気がついたり、ソリューションが生まれたりすることもたくさんあります。コロナ禍を経て、そういったリアルな場を、事業者も自治体の職員も求めていたのだと気がつきました。
また、今回は関西開催なので関西の話をすると、自治体の支援がとても厚いと感じています。ドライに言えば、いち営利組織のいち事業でしかないにもかかわらず、地域のキーになる方が支援してくれている。「地域×Tech」に大きな可能性、価値を感じてくれていることにも気がつきました。
ー出展企業、来場者は、「地域×Tech」にどのような魅力を感じていると考えていますか。
「地域×Tech」は、
・リアルな実需に応じた商談がしたい方
・地域の本当の課題を知りたいと悩んでいる方
・技術はあるが、この技術をなにに適用したらいいのかがわからない企業
このような方々に選ばれ、出展と来場をしていただいています。
「自分たちの技術やソリューションが地域や社会課題の何に使えるのか?」を、生の声で聞けることが「地域×Tech」の魅力だと捉えています。
課題意識や目的意識を持った自治体職員の来場率も高くなっています。地域活性への熱い気持ちを持ったお客様と商談ができること、出会えることも魅力のひとつでしょう。
お客様と一緒に商品を育て、進化させられる場に
ー「地域×Tech」を続ける中で、これからの地方にどのような変化が起きてほしいですか。
この場で出会った企業や技術、地域課題、地域の伝統的技術のかけ算がおこることで、未来を創るサービスが生まれるムード、場づくりも「地域×Tech」が担いたい部分です。
新しい製品、サービス、というと商売の響きが強くなりますが、実需のない商品は意味がないですよね。今日のこのタイミングにある製品は、お客様と一緒に育てることでより進化させられます。地方の行政が向き合っている深刻な課題を解決するために、より技術や製品が磨かれる循環がさらに生まれてほしいですね。
ー今後の展望をお聞かせください
今回は京都で開催しましたが、関西は広いです。賑わう都市もあれば、すぐ近くに過疎化が進む地域もある、いびつな地域だと捉えています。関西全域からももっと足を運んでもらえるよう取り組みたいです。
また、今は関西、東北、九州の3ヶ所でしか開催できていないので、開催地域もさらに広げていきたいですね。
そのために、多くの方に「地域×Tech」を知っていただくことが重要だと考えています。知らないイベントには行かない、知らない製品も買わない人がほとんどでしょう。「地域×Tech」の意義も含めて発信することが、「地域×Tech」の加速につながります。
今回出会った企業や知った知識と一緒に街づくりをする。そんな自治体もさらに増えてくれたら嬉しいですね。
■Editer’s note「取材を終えて」
約70社が出展した「第3回地域×Tech 関西」。マッチングが生まれるだけの展示会ではなく、今ある技術・製品が自治体にどう役立つのか、今までになかった使い道を発見できたり、さらなる改良の余地を感じたりできる展示会です。
遠くない未来、地域で暮らしながら地域活性に関わる人間にとって欠かせない展示会になるに違いありません。これからも「地域×Tech」と、進化を続けるテクノロジーに注目していきたいです。