
【取材】「関西ロボットワールド2025」 300m搬送、非破壊全数検査、1mmカメラ…現場の課題を解決する専門技術が集結 6/5-6インテックス大阪で開催
関西ロボットワールドは、サービスロボット展、産業用ロボット展、次世代モビリティ展、宇宙開発ビジネス展の四企画展で構成されるロボット・モビリティ関連の展示会です。展示会は関西と横浜で年2回開催されるロボットワールドシリーズの一環で、各分野の専門家による無料セミナー、宇宙ビジネスピッチ、導入事例発表が行われます。編集部では開催されたインテックス大阪にて取材を行いました。
開催概要
名称:関西ロボットワールド2025
会期:2025年6月5日(木)・6日(金) 10:00-17:00
会場:インテックス大阪 5号館
主催:関西ロボットワールド実行委員会(株式会社エグジビションオーガナイザーズ)
構成企画展:サービスロボット展/産業用ロボット展/次世代モビリティ展/宇宙開発ビジネス展
前回実績:来場者15,596名(2日間合計)
公式サイト:https://www.srobo.jp/outline/index.html

会場の様子
今年は5月に内容が近い展示会が別で開催されたこともあり、来場者への影響が懸念されていました。しかし、会場では活発な情報交換や商談が行われ、専門性の高い来場者と出展者との間で熱気が感じられました。

開場前から学生の団体で行列、セミナーは満席も見られる盛況ぶり
開催初日の10時30分に会場に到着すると、100名ほどの学生と団体が列を作っており、入場まで少し時間がかかるほどでした。来場者からは「今年の来場者数は例年の半分くらいかもしれないね」といった声が聞かれました。一方で、会場内に設けられた3か所のセミナー会場はどこも盛況で、満席に近い状態でした。来場者は、最新の技術動向や導入事例などの情報収集に熱心な様子でした。
出展者はロボット周辺領域が中心、関西メーカーとの繋がりに期待
今回の展示会では、いわゆる”ロボットアーム”などを製造する大手ロボットメーカーの出展は見られませんでした。その代わりに、ロボット開発に欠かせない部品や周辺技術を持つ企業、大学の研究室、そして政府系の機関の出展が目立ちました。
取材中、出展に関わる企業担当者は、「5月に競合となる展示会があったため、正直どうなることかと思っていましたが、目的意識の高いお客様がブースに来てくださり、安心しました」と話してくれました。また、関東方面からの出展者からは、「関西のメーカーと繋がることができる貴重な機会なので、この展示会に出展しています」という声も聞かれ、ロボット開発や導入を検討している関西の製造業とのマッチングの場として、本展示会が重要な役割を担っていることがわかりました。

新設「宇宙ブースエリア」の実際と今後の展望
主催者の事前発表では、今年から「宇宙ブースエリア」が新設されるとのことで期待が寄せられていました。実際に足を運んでみると、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と国土交通省の宇宙関連ブースが出展していましたが、民間企業の宇宙関連の出展はなく、今後の充実に期待したいところです。
競合の展示会との差別化や集客が、今後の課題として注目されますが、専門分野に特化した企業と、具体的な課題を持つ製造業が出会う「質の高いマッチングの場」として、関西ロボットワールドの価値は今後も高まっていくのではないでしょうか。
会場で見つけた注目のブースをご紹介します

SKマシナリー:300mの長距離搬送を実現!ワイヤー式システムで工場の「運ぶ」を高速化
SKマシナリーは、ワイヤーを使った長距離搬送システムを展示。同社の特徴は300メートルもの長距離搬送を実現する点にあります。従来の搬送システムでは距離に制約がありましたが、同社の技術では長さに関係なく正確な移動が可能です。移動の距離はワイヤーの長さではなく、センサーを踏むと減速をかけて止まる制御システムにより、高精度な位置決めを実現しています。
現在の主要顧客は自動車会社で、工場内での搬送時間短縮が大きなニーズとなっています。「部品を作るのは早くて、運ぶのは遅かった。生産性が向上してから搬送時間を短縮させたいという要望が多い」と、担当者は業界の課題を指摘しました。
会社Webサイト http://www.skm-web.co.jp/

エヌアイシ・オートテック:乗用車で運べるロボット架台?分割式システムが輸送とデモの常識を変える
エヌアイシ・オートテックのブースの主役は、同社の強みであるアルミフレームを活かしたロボットの架台製作と、導入のワンストップサービス。「ロボットを導入したいが、ロボットメーカー、ハンドメーカー、プログラム、筐体など、お客様が複数の会社に問い合わせなければならない」という課題があるそうです。この手間を解決するため、同社では関連サービスを一括で請け負う体制を構築しています。
特に印象的だったのは、輸送コストを劇的に削減する「分割式の架台システム」です。ロボットを設置する架台自体が2つに分割でき、そのまま収納ケースにもなるという画期的な構造を持っています。分割すれば乗用車にも積載可能なサイズになるため、これまで専門業者が必要だった輸送が不要になります。これにより、様々な場所でのデモンストレーションも容易になり、ロボット導入の可能性を大きく広げます。
会社Webサイト https://www.nic-inc.co.jp/

アイズロボ:「取る」も「しまう」も自動化。中小企業の物流を変えるQRコード活用ピッキングロボ
「大規模な物流倉庫には大手メーカーの自動化システムがあるが、中小企業にはそのようなシステムがない」。そんな市場ギャップに着目して開発されたピッキング自動化システム。QRコードを活用した、導入しやすく柔軟なピッキングロボットを開発しました。同社は物流の自動化に特化したシステムインテグレーターです。
このシステムは、上位システムからの指令で完全自動運転させることも、朝にオペレーターがその日の作業内容をプログラムして動かすこともできる、企業の状況に合わせた柔軟な運用が大きな強みです。さらに、ロボットアームを組み合わせることで、棚から商品を取ってくるだけでなく、棚に商品を補充する「しまう」作業の自動化も実現している点が、大きな特徴と言えるでしょう。
会社Webサイト https://www.aizrobo.co.jp/

プラックス:「隙間から不具合が見えない」を解決する1mm極細カメラ
プラックスは、東京都府中市に拠点を置く電子機器の受託開発・製造会社です。創業61年の歴史を持ち、ゼロベースからオーダーメイドの電子回路開発・製造を手がけています。ブースでは自社製品である産業用カメラシステムの技術を紹介していました。中でもグローバルシャッター機能を搭載したカメラは、高速で回転する物体でも歪みなく撮影できる性能を実演し、その技術力を示していました。
特筆すべきは、直径わずか1ミリの極細カメラです。「1ミリから1.8ミリの極細径で、LEDライト付き」という仕様で、製品の内部検査などに活用されています。「ネジ穴の中や筐体の隙間から不具合がないか確認したい」という、これまで困難だった検査のニーズに応える技術です。
会社Webサイト http://www.pulax.co.jp/

東芝検査ソリューションズ:トヨタも100台以上導入。溶接品質を見抜く全数検査可能な非破壊検査装置
展示会への出展が少ないため「実演を見られる機会は少ないです」と担当者が語る東芝検査ソリューションズのブースでは、超音波を使った非破壊検査装置が紹介されていました。この装置の最大の特徴は、接合部分の品質をリアルタイムで画像化し、その場で良否を判定できる点です。「従来は破壊検査で100枚に1枚を実際に壊して判定していましたが、この装置なら全数検査が可能です」
特に自動車メーカーでの需要が高く、トヨタ自動車株式会社では100台以上の導入実績があるとのこと。溶接の接合状態を超音波でスキャンし、正常な部分が緑色で表示されるシステムのため、作業者の熟練度を問わず誰でも簡単に品質を判定できる仕組みを構築しています。
会社Webサイト https://www.toshiba-insp-sol.co.jp/

浜正:40万円ロボから最新吸着ハンドまで。複数メーカーで最適な工場自動化を提案
会場内で大きな4マス分のブースを構えていたのが、大阪に本社を置く浜正です。同社は、複数メーカーの製品を組み合わせた工場自動化のトータルソリューションを提案していました。

ブースで特に注目を集めていた製品の一つが、中国・JOOBOT社の協働ロボットです。40万円という低価格を実現しながら、「プログラムが簡単で、子どもでも使えるブロックリー形式」という高い操作性を両立させています。
また、YAMAHA製のリニアコンベアシステムも、従来のベルトコンベアと異なる「正確な位置決めができ、モジュール式で段取り替えも可能」という特徴で注目を集めていました。ほかにも、空気を吹き出すことで真空を作り出す新しいタイプの吸着ハンドを展示。この技術により、表面が平らでなくても吸着が可能です。担当者によると、「接触部分はFDA準拠の食品用材料を使用している」とのことで、食品業界での活用が期待されます。
会社Webサイト https://www.hamashou.co.jp/

日本ロボットシステムインテグレータ協会:未来の技術者を育てる!高校生の全国大会からロボット導入支援まで
ロボット業界の発展を多角的に支える 一般社団法人 日本ロボットシステムインテグレータ協会のブースでは、その幅広い取り組みが紹介されていました。同協会は、ロボットの導入促進だけでなく、未来を担う人材の育成にも特に力を入れています。具体的な取り組みとして、若手技術者の育成を目的に「全国40ヶ所で地方大会を開催し、勝ち上がった高校生がビッグサイトで全国大会を行う」という大規模なイベントを主催しています。
さらに、個別の企業支援にとどまらない活動も展開。「行政からの要請で、深刻な人手不足を解決するためのロボット導入支援や、導入事例の発表の場も提供している」とのことで、業界全体のレベルアップに向けた重要な役割を担っています。
会社Webサイト https://www.farobotsier.com

Editor’s Note:来場者数だけでは測れない。問われる専門的マッチングの価値
近接した時期に競合の展示会が開催されたこともあり、来場者規模への懸念が聞かれた「関西ロボットワールド2025」。しかし、MICEという視点で捉え直すと、数字だけでは測れない独自の価値と、今後の専門展示会の一つのモデルが見えてきます。
本展の最大の特徴は、大手ロボットメーカーではなく、周辺技術を持つ専門企業やシステムインテグレーター、そして商社が主役となっていた点です。具体的な課題を持つ来場者と、的確な解決策を持つ出展者との間で「質の高いマッチング」が数多く生まれているのであれば、双方にとっては高い価値を持つことになります。「関西のメーカーと繋がりたい」という他地域からの出展者の声は、この展示会が地域に根差した重要なビジネスマッチングのプラットフォームであることを象徴しています。
また、盛況だったセミナー会場は、展示会が単なる製品見本市ではなく、最新の知識や技術動向を学ぶ「学びの場」として強く求められていることを示しています。日本ロボットシステムインテグレータ協会のような人材育成の取り組みは、業界の未来を創造するという、MICEが担うべきもう一つの重要な役割を体現していました。
「関西ロボットワールド」は、単に製品が並ぶ「モノの展示会」から、技術と課題、そして未来を担う人材が出会う「コトのプラットフォーム」へと進化を遂げようとしているのかもしれません。規模の追求とは異なる軸で専門性と地域性を磨き、参加者にとって本質的な価値を提供すること。それもMICEの提供する大切な価値と言えます。
取材担当:木村