
【海外取材】台湾MICEの新拠点「メッセ桃園」完全ガイド 国際空港から23分・展示棟・会議棟・商業モールを網羅したMICE施設の全貌/運営代表インタビュー
台湾で2024年に開業したばかりの「メッセ桃園」(桃園会展中心、Messe Taoyuan)。この新施設は、台湾の玄関口に位置する新たなランドマークとして、その芸術性と機能性を兼ね備え、大規模な国際会議、専門展示会、企業イベント、そして産業交流のための理想的なプラットフォームとして設計されています。台湾のMICE産業をアジア太平洋のハブへと押し上げる戦略的な拠点となる可能性を秘めたメッセ桃園。本記事ではメッセ桃園の協力を得て、その全容をご紹介します。

桃園メッセとは?台湾最新MICE拠点の概要と特徴
開業の経緯と運営会社インタープラン
メッセ桃園は2024年10月29日に正式にオープンした新しいMICE施設です。その建設は、桃園地域の産業継続を目的としており、中央政府、地方政府、そして地元の企業の協力によって実現しました。運営はインタープラン社が担っており、同社は展示会場の運営だけでなく、国際的なイベントも自社で手掛けています。インタープランの総経理(CEO)であるキャサリン・トゥ氏は、桃園メッセだけでなく、高雄の展示会場のゼネラルマネージャーも兼任し、インタープラン・グループのCEOでもあります。インタープランはMICE事業において、中央政府および地方政府と共同でプロジェクトを進めることで、この複合施設の役割を強化しています。

インタープラン社 Webサイト https://www.interplan.group/en/interplan-go-beyond/

「アール・ヌーヴォー×MICE」コンセプト
メッセ桃園は「アール・ヌーヴォー×MICE」という独自の運営戦略を掲げています。
桃園アートコリドー都市発展構想に基づき、展示空間、会議施設、そして1階の商業エリアを都市計画と融合させることで、新たな国際MICE体験を創出しています。
また、本施設は経済部が出資する「展示・会議デュアルセンター型施設」であり、台湾で唯一、展示、会議、芸術、ショッピングエンタメ機能を融合した複合MICE施設となっています。桃園市は芸術にも力を入れており、美術館や博物館が近くにあるように、桃園メッセ自体も生活、芸術、文化に密着した環境づくりを目指しているとのことです。
桃園市について
台湾の空の玄関口、桃園国際空港を擁する桃園市は、人口約235万人の台湾北部の核心都市です。2014年に直轄市に昇格し、台北都市圏への近接性を武器にビジネス拠点として急速に発展を遂げています。市内には30以上の工業団地が集積、電子、自動車、物流産業が盛んです。その生産額は台湾最大の規模であり、製造業全体の約18%に達します。現在、空港周辺ではスマートシティ構想を含む巨大都市開発「桃園航空城」が進行中で、次世代のビジネスハブとして日系企業からの注目も高いです。一方、日本統治時代の街並みが残る「大渓老街」、風光明媚な景勝地「石門水庫」、大型商業施設「グロリアアウトレット」など観光資源も多彩。最先端の産業、国際物流、豊かな文化が融合する、台湾で最も将来性豊かな都市のひとつです。
抜群のアクセス性 桃園国際空港から20分、アジア各地に空路平均175分
メッセ桃園は、その立地の優位性が大きな強みです。桃園国際空港からはわずか6駅、約20分でアクセス可能であり、公式パンフレットには桃園国際空港から23分で到着すると記載されています。


アジアの主要5空港(上海、東京、シンガポール、バンコク、ソウル)へ平均175分で接続できる戦略的な拠点であり、国際的なビジネスのハブとしての役割を期待されています。台北駅からも台湾高速鉄道(HSR)を利用すれば約30分で到着します。取材時の2025年6月時点では、台北駅から桃園駅までの高速鉄道料金は160TWD(約750円)でした。高速鉄道の桃園駅で降りた後、普通電車に乗り換えて1駅、桃園スポーツパーク駅が最寄り駅となり、そこから徒歩約5分でメッセに到着します。車でのアクセスも良好で、高速道路1号線の中壢インターチェンジを利用でき、施設内には電気自動車充電ステーションを含む700台分の屋内駐車場が完備されています。


施設詳細:展示棟・会議棟・商業モール
桃園メッセは、総面積76,000平方メートルに及び、カンファレンスホールは最大8,800人を収容できる規模を誇ります。施設全体のデザインは「ボックス・イン・ボックス」構造を採用しており、自然採光と優れた防音性を実現し、柔軟な空間配置を可能にしています。

展示棟 広大な空間と優れた柔軟性が特徴
メッセ桃園の主要な機能の一つである展示棟。
室内展示空間は合計で10,120平方メートルもの広さを誇り、約600の標準ブースを並べることができます。この空間は、高さ12メートルの柱のない広々とした設計となっており、これにより多種多様な展示やイベントに柔軟に対応することが可能です。
展示ホールは二つの独立したエリアに分割でき、同時に異なるイベントを開催したり、イベントの規模に合わせてスペースを調整したりすることができます。多様な吊り下げポイント(リギングポイント)が設けられているのも特徴です。大型の展示物や、来場者の視覚に訴えかけるようなダイナミックな演出、特定のテーマを表現するための没入型空間の構築を展開できるそうです。
見本市や消費者イベント、コンサート、インセンティブイベントなど、幅広い種類の活動に最適であり、取材時には会場の主催による物流展が開催されていました。
会議棟 台湾最大級3,440㎡大会堂など多様な会議室
会議棟は、台湾最大規模の会議空間であり、国際会議から企業イベントまで、あらゆる規模と形式の会議に対応できるよう設計されています。最大で8,800人もの参加者を収容することができるといいます。空間はパーティションを活用することで15種類もの異なるレイアウトを作り出すことができ、多様な会議の人数や形式のニーズに応えます。
主要な会議スペース

7階に位置する大会堂(Grand Hall)があり、クラスルーム形式で2,000人を収容できます。壁や天井には音が反響しない仕組みが施されており、大音量でも音が返ってこないような工夫がされています。


5階の宴会ホール(Banquet Hall)はプロ仕様のセントラルキッチンを完備。最大200卓もの豪華な宴会料理を提供することができます。これは結婚披露宴やブランドイベントに最適であり、クラスルーム形式で1,500人、着席ビュッフェ形式で1,880人を収容します。新車発表会や国際会議、セミナー、企業の年次総会などにも利用されており、大型の貨物用エレベーターも設置されていることから、自動車などの大型展示品も5階フロアに直接搬入できます。


その他、800人収容可能な会議室が1室、250人収容可能な会議室が2室、100人収容可能な会議室が3階に3室、1階(GF)に2室といった多機能会議室も備えられています。3階フロアにはVIP用の部屋や通訳用の部屋も設置されています。机と椅子は日本製であると伺いました。自然光を取り入れつつ、優れた防音性も兼ね備えており、最適な会議環境が提供されます。さらに、プロフェッショナルな視聴覚設備、通訳室、準備室、人間工学に基づいた椅子など、国際基準の設備が完備されております。



1階ショッピングアーケード&デイリーショープラザ
1階のこのエリアは、会議や展示会の参加者への食事提供やビジネスミーティングの場として機能するだけでなく、中華料理店、レストラン、カフェ、ギャラリーといった多様な商業形態を提供し、消費者のニーズに応える計画が立てられています。ビジネスイベントと芸術、ライフスタイルがシームレスに融合された革新的なビジネスモデルであり、センターの最も特徴的なサービスとなることを目指しています。将来的には、日本の楽天が日本の店舗を誘致する意向も示されており、隣接する楽天スタジアムとの連携も期待されます。


駐車場、祈祷室など充実した付帯設備
施設には、地下駐車場が完備されており、地下とは思えないほど明るく清潔で、700台分の屋内駐車スペースが確保されています。また、電気自動車用の充電ステーションも多数設置されており、環境への配慮もなされています。国際的な役割を担うことを前提に設計されているため、施設内には祈祷室(Prayer Room)も設けられています。
フロント横には5階まで吹き抜けのエスカレーターがあり、桃園メッセのテーマカラーである桃色が内装に用いられ、印象的な空間を演出。メッセ桃園の5階からは隣接する楽天スタジアムを一望できる景観も楽しめます。

これらの多くの施設・設備は、「展示、会議、芸術、商業」の機能を融合した複合MICE施設としてのメッセ桃園の強みを際立たせています。中央政府、地方政府、地元企業の協力によって作られた戦略的な拠点として、今後も国際的なMICEイベントの中心地としての発展が大いに期待されます。

桃園メッセで開催される多彩なイベント実績
メッセ桃園は、その多機能性を活かし、国際会議からエンターテイメントまで多彩なイベントが開催・予定されています。

国際会議:100カ国以上から若手リーダーが集結した「2024 JCI 世界会議」の開催実績は、国際会議拠点であることを象徴しています 。
エンターテインメント:K-POPファンミーティング(JISOO、Super Juniorドンヘ)、欧米の人気アーティスト(Cigarettes After Sex)のコンサート 、日本のアニメソングライブ(ANISAMA WORLD) まで、多様な大型イベントが予定されています。

産業・専門展示会:地域の産業基盤を背景に、航空産業フォーラムや「アジアスマート物流展」といった専門展示会を積極的に開催。また、親会社が主催する「国際中小企業博」などを通じ、地域経済の活性化にも貢献しています。
一般消費者向けイベント:ペット用品展、グルメ&ワインフェア、台湾ランタンフェスティバルと連動したマーケットなど、地域住民が楽しめる多彩なイベントも豊富です。
ブランドイベント:洗練された空間を活かし、BMWの新車発表会のような高級ブランドの発表会場としても選ばれています。
運営を担うインタープラン/総経理 キャサリン・トゥ氏にお話をうかがいました

2024年10月にオープンされたとのことですが、まずはメッセ桃園設立の経緯と、この地域との関わりについてお聞かせください。
キャサリン・トゥ総経理:私たちの桃園メッセは、桃園地域の産業を持続的に発展させることを目的に、2024年10月29日にオープンしました。中央政府、地方政府、そして地元企業が協力して設立された施設です。
運営母体であるインタープラン・グループは、単なる展示会場の運営会社ではなく、国際的なイベントを自社で企画・運営する機能も持っています。私自身、ここメッセ桃園と高雄の展示会場の総経理(ゼネラルマネージャー)を兼任し、インタープラン・グループのCEOも務めております。
非常に大規模で素晴らしい施設ですが、競合はどのあたりを意識されていますか。台北市内や、あるいはアジア全体が視野に入っているのでしょうか。
キャサリン・トゥ総経理: 私たちは、桃園国際空港と台北市の両方からアクセスが良いという立地そのものに優位性があると考えています。何より、空港からわずか20分という利便性の高さが最大の強みです。この立地を活かし、地域の産業支援に貢献しながら、台湾での会議、イベント、展示会など、幅広いニーズに対応できる複合施設としての役割を担っています。

館内にアート作品が多く展示されているのも印象的でした。
キャサリン・トゥ総経理: ありがとうございます。桃園市は芸術にも力を入れており、アートが市民の生活の一部になっています。近隣には美術館や博物館も点在しており、ここメッセ桃園でも、芸術や文化を感じられる生活空間に近い環境づくりを心がけています 。
日本との関係についてお伺いします。これまでの日本関連のイベント実績や、今後の日本企業との連携戦略について教えていただけますか。
キャサリン・トゥ総経理: 親会社のインタープランは、設立の初期段階から日本の博報堂と関わりがあり、日本との協力関係は当初からありました。具体的な実績としては、今年の5月に日本のアニメイベントを開催し、7,000人もの方にご来場いただきました 。このイベントはもともと高雄で開催されていましたが、大変な人気だったため、今回は私たちの会場が選ばれました。また、お隣には日本の楽天が運営するスタジアムがあり、将来的には隣接するショッピングセンターに日本のお店を誘致したいと考えています 。
最後に、日本の読者へメッセージをお願いします。
キャサリン・トゥ総経理: 私たちは会場をお貸しするだけでなく、イベント自体を企画・運営できるのが強みです。本日開催している物流展も、私たちが自社で運営しています 。多種多様な展覧会に対応できますので、今後も日本の企業の皆様を積極的にお招きし、幅広い活動でご一緒できることを楽しみにしています。

まとめ:台湾の先端産業を世界へ繋ぐゲートウェイ「桃園メッセ」の可能性
メッセ桃園は、単なる大規模MICE施設ではなく、台湾の産業発展と国際競争力強化という国家戦略を担う重要拠点といえます。設立は中央政府、地方政府、地元企業の強固な協力体制によって実現し、経済部からも出資を受ける国家的なプロジェクトとして位置づけられています。
この施設が掲げるのは、2030年とその先を見据えた長期ビジョンです。空港MRTが結ぶ「桃園アートコリドー」都市発展構想を背景に、「アール・ヌーヴォー×MICE」という独自の運営戦略を打ち出しています。展示・会議・芸術・商業の4要素を融合したユニークな複合型MICE施設として、空港隣接の地理的優位性を最大限に活かし、台湾MICE産業のアジア太平洋ハブ化を強力に推進する構えです。
この壮大な計画で日本として注目すべきは、博報堂グループが海外で投資・運営を手がけるMICE施設であるということでしょう。運営は博報堂傘下の企業が担い、「人」を中心に据える「生活者発想」の理念を具現化しています。これは単なる事業進出ではなく、グローバルな知見を地域に実装するモデルであり、博報堂の戦略的長期投資プロジェクトとされています。
すでに2025年中頃までに約40件の大型展示・国際会議で延べ20万人以上を動員する目標を掲げ、半導体やAIoTなど台湾の先端産業と世界を繋ぐゲートウェイとしての役割も本格化させています。

MICE施設の新たな開発モデル
メッセ桃園の事例が示すのは、MICE施設の新たな開発モデルです。国家戦略と一体化した「ハード」としての施設に、博報堂というグローバルなクリエイティブ企業が持つ「ソフト」としての企画力・ブランドプロデュース力が掛け合わされています。「場所の提供」から脱却し、施設自らがコンテンツを創出し、市場を創造する姿への進化のように見えます。
この官民連携、特に海外の企業を深く巻き込んだ官民連携モデルは、今後のアジアにおけるMICE施設開発のベンチマークとなり得ます。ハードの建設だけでなく、その上で展開されるソフト戦略までを一体で計画する。メッセ桃園の挑戦は、MICEがもたらす経済効果や文化交流の価値を、戦略的に生み出していくための重要な示唆を与えています。
※取材担当:木村
