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MICEの基礎知識

【MICEの基礎知識20】IR・統合型リゾートとはどういうものか。アジアのIRの現状と、日本の大阪IRが挑む世界最高水準の規制とMICE戦略の詳細

MICEの基礎知識

統合型リゾート(IR)とは、カジノ収益を基盤とし、ホテル、国際会議場(MICE)、エンターテイメント施設、展示施設、ショッピングモールなど多様な施設を一体的に併設・運営する大規模複合開発施設です。IRは単なる娯楽施設ではなく、都市の新たな魅力を創出し、ビジネスからレジャーまで幅広い層の来訪者を昼夜を問わず惹きつける経済的・文化的ハブとして機能します。この複合的な構造により、IRは観光客誘致や地域経済活性化の起爆剤としてアジア各国で採用されてきました。本記事では、大阪で2030年に開業が計画されているIRと、近隣のアジア諸国のIRの現状をまとめています。

IRとは

統合型リゾート(IR)の定義とビジネスモデルの詳細

統合型リゾート(IR、Integrated Resort)という言葉は、しばしばカジノと同一視されがちですが、その本質は、カジノ収益を基盤としつつも、それ以上の多様な施設を統合した大規模な複合観光施設である点にあります。アジア各国がIR開発を加速させている背景には、カジノが生み出す高い収益をテコに、公的資金に頼らずに大規模な観光インフラを整備し、地域経済を活性化させるという戦略的な目的が存在します。

統合型リゾート(IR)の定義 「統合」の意味するもの

IRの最も重要な特徴は、その名称が示す通り「統合型(Integrated)」である点にあります。単に複数のビジネスが同じ場所に集まっているのではなく、一つのマスタープランに基づき、各施設が相互に補完し合い、来訪者の消費や滞在を一つの目的地内で完結させるエコシステムを創出することを目指していることを意味します。

IRにおいてカジノは多様な施設のひとつ

IRを構成する主要な施設と役割

IRは、カジノ施設を中核的な収益源としながらも、ホテル、国際会議場(MICE)、展示施設、ショッピングモール、劇場、テーマパークといった多様な施設を一体的に運営する大規模複合開発施設です。法的な定義では、カジノ、国際会議場、展示施設、宿泊施設、その他の観光振興に寄与する施設群と規定されることが多いです。

1. カジノ施設:収益のエンジン カジノはIR全体の財務的存続性を支える中核的な収益源ですが、その物理的な占有面積は、日本の計画では施設全体の延床面積の3パーセント以内など、厳しく制限されることが多いです。このカジノが生み出す高収益が、MICE施設や劇場といった、それ自体では収益化が難しい大規模公共インフラの建設・運営費用を補填する仕組みとなっています。

2. MICE施設:ビジネスツーリズムの拠点 MICE施設(国際会議場および展示場)は、ビジネスツーリズムを誘致するための世界水準の拠点として、IRの不可欠な構成要素です。MICE目的の来訪者は、滞在中の消費額が高く、平日に来訪することが多いため、IR全体の収益安定化に大きく貢献する価値の高い顧客層です。日本の大阪IR計画では、最大収容人数6,000人以上の国際会議室と約20,000平方メートルの展示面積が構想されており、MICE機能が最重要視されていることの証左です。

3. 宿泊施設、エンターテイメント、リテール(小売・販売):滞在価値の向上 ラグジュアリー宿泊施設は、VIPやビジネス客、ファミリー層など多様な顧客セグメントのニーズに応えるためのホテル群です。エンターテイメント施設(劇場、アリーナ、テーマパークなど)や高級リテールおよびダイニング施設は、カジノ目的以外の客層を惹きつけ、来訪者に「非日常的な空間」を提供し、滞在時間を延長させるための魅力的なアトラクションとして機能します。

IRビジネスモデルの戦略的構造

IRのビジネスモデルは、カジノが生み出す高収益を、非ゲーミング(カジノ以外)部門の大規模投資と運営に再配分する「収益の二元性」に特徴があります。

この構造により、IRは単なる巨大なカジノではなく、都市の新たな魅力を創出し、幅広い層の来訪者を昼夜を問わず惹きつける経済的・文化的ハブとして機能します。IRの設計思想には、カジノの物理的規模と経済的重要性との間に「戦略的なパラドックス」が存在します。カジノの床面積は意図的に小さく抑えられますが、その小さな面積が数十億ドル規模のプロジェクト全体の財務的存続性を支える利益の大半を生み出すからです。

IRが担う公共政策上の役割

IRは、単一企業の利益を超えて、地域経済全体に大きな正の外部性をもたらすことを目的としています。政府は、カジノのライセンスをインセンティブとして民間事業者に付与し、公共の利益に資する大規模な観光インフラ(MICE施設など)への投資を促す政策ツールとしてIRの枠組みを採用しています。

IRからの税収や納付金(日本の計画ではカジノ粗収益の合計30パーセントなど)は、ギャンブル依存症対策、インフラ整備、文化芸術の振興といった公共の福祉に充当されることが法的に定められています。

収益の二元性とMICEの戦略的役割

IRのビジネスモデルは、法的に床面積が厳しく制限されることが多いカジノ部門(例:日本の計画では施設全体の3パーセント以内)が生み出す高収益を、巨額の初期投資を要する非ゲーミング(カジノ以外)部門の投資と運営に再配分する構造に基づいています。この高収益性が、ホテル、テーマパーク、そして特にMICE施設(国際会議場および展示場)の維持を財政的に可能にしています。

MICE施設は、IRの不可欠な構成要素であり、ビジネスツーリズムを誘致するための「世界水準の会議場および展示場」として位置づけられています。MICEは平日の稼働率を高め、カジノ目的以外の多様な客層を惹きつける強力な集客装置として機能し、カジノと非ゲーミング施設が相互に送客し合う好循環を生み出します。

日本の大阪IR計画では、最大収容人数6,000人以上の国際会議室と約20,000平方メートルの展示面積が構想されており、MICE機能が最重要視されていることがわかります。IRからの税収や納付金は、ギャンブル依存症対策やインフラ整備などの公共の福祉に充当されることが法的に定められることが多く、IRが公共政策の一環であることを示しています。


アジア主要IR市場の現状と歴史的経緯

アジアのIR市場は、各国の戦略や社会的背景に応じて「ゲーミング重視型」「品質主導型」「観光特化型」「成長志向型」など多様なモデルが存在します。市場全体としては、競争軸がカジノから非ゲーミング分野へと移行しつつあります。

マカオ:GDPの6割を超えるカジノ産業から多角化への転換

マカオは1847年の合法化に起源を持ち、2001年の市場開放以降、ラスベガスを凌ぐ世界最大のゲーミングハブへと急成長しました。マカオのIRは長らくゲーミング収益が総収益の90パーセント以上を占める「ゲーミング重視型」の代表例であり、ピーク時にはカジノ産業がGDPの63パーセントを占めていました。

しかし、中国本土の政策転換を受け、マカオ政府は「経済の多角化」を最重要課題とし、大きな変革期を迎えています。2023年に更新されたコンセッション契約では、6つの運営事業者すべてに対し、今後10年間で総額1,180億パタカ(約1.9兆円)以上、そのうち約90パーセントを非ゲーミング分野に充当する巨額の投資が義務付けられました。VIP顧客仲介業者(ジャンケット)への規制も大幅に強化され、VIP中心のビジネスモデルは事実上崩壊し、マス市場中心への転換が加速しています。

シンガポール:ライセンスを2事業者に限定し、厳格な規制下のMICE主導成功モデル

シンガポールは2005年にIR導入を決定し、観光産業の停滞打破とアジア随一のMICEデスティネーション確立を目的に、ライセンスを2つに限定する「二寡占(デュオポリー)」体制を敷きました。2010年のマリーナベイ・サンズ(MBS)とリゾート・ワールド・セントーサ(RWS)の開業後、わずか4年で外国人訪問者数が60パーセント増、観光収入が90パーセント増という成功を収めています。

成功の鍵は、世界的に模範とされる「シンガポール・モデル」と呼ばれる厳格な社会的セーフガードにあります。自国民・永住者に対し1回150シンガポールドル(約16,000円)という高額な入場料を課すことで、安易な入場や依存症を抑制しています。自己破産者や生活保護受給者などを法的に自動で入場禁止にする第三者による入場制限制度も整備されています。

現在、シンガポール政府は両IR事業者に対し、カジノ独占権を2030年まで延長する見返りとして、総額90億シンガポールドル(約7兆円)以上の追加投資を非ゲーミング施設拡充に義務付けました。MBSは第4のホテルタワーや大規模アリーナ、RWSはテーマパーク拡張などを進めており、MICE機能やエンターテイメント性の強化が図られています。

仁川

韓国:外国人専用カジノを展開 大阪IR開業への対抗策を打ち出す

韓国には約20軒のカジノがありますが、地域振興目的の江原ランドを除き、全て外国人専用です、江原ランド(カンウォンランド)を除き、全て外国人専用です。カジノを外国人観光客誘致の手段として位置づける「観光特化型」モデルを採用しているためです。近年、仁川国際空港周辺ではパラダイスシティや大規模アリーナを持つモヒガン・インスパイア・リゾートなど、外国人専用の大規模IRが集積し、「空港クラスター」を形成しています。

しかし、日本の大阪IR開業は、韓国のIR業界にとって大きな脅威と認識されています。「大阪IR開業で韓国人顧客が年間760万人流出し、19億ドルの消費が日本に流れる」と予測する分析もあり、韓国国内では規制緩和や競争力強化策が模索されています。唯一韓国人が入場可能な江原ランドも、カジノ面積を3倍に拡張する大規模投資計画を発表するなど、大阪IRへの対抗策を打ち出しています。

その他のアジア市場の動向

フィリピンでは、政府系のフィリピン娯楽賭博公社(PAGCOR)が規制と運営を担う体制の下、マニラ湾岸の「エンターテインメント・シティ」を中心にIR開発を推進し、アジア第3位の市場規模に急成長しました。自国民のアクセスは比較的自由な「完全解禁型」です。

ベトナムは従来外国人専用カジノのみでしたが、2017年よりフーコック島のコロナ・リゾート&カジノなど一部施設で、厳しい所得要件と高額な入場料を条件にベトナム国民の入場を試験的に許可する「条件付き解禁型」のパイロットプログラムを導入・延長しています。


日本の大阪IR:厳格規制とMICE戦略の詳細

日本では2018年にIR整備法が成立し、2023年4月に大阪府・市の夢洲におけるIR区域整備計画が国内初の認定を受けました。

大阪IRの投資と目標

大阪IRは米MGMリゾーツとオリックス株式会社を中心とするコンソーシアムが開発・運営を担い、初期投資額は約1兆2,700億円に上ります。2030年夏までの開業を目指しており、年間延べ来場者数約2,000万人、関西地域に年間1.14兆円の経済効果をもたらすと試算されています。

大阪IRの戦略的焦点は、「世界最高水準のMICE拠点」の形成であり、IRを「観光先進国実現」に向けたインフラ投資と位置づけています。大規模会議場、大規模展示場、日本文化の発信施設、家族で楽しめる娯楽施設等を必ず備えることが定められており、単なるカジノではなく観光・文化複合施設としての役割が求められています。

世界最高水準のカジノ規制

日本のIR制度は、経済効果を追求しつつ、社会的懸念を最小限に抑えるため、世界で最も厳格な部類に入ります。これはシンガポール・モデルを参考にしつつ、さらに厳格な措置を加えた内容です。

  • カジノ面積制限:IR施設全体の延床面積の3パーセント以内に厳格に制限されます。
  • 自国民の利用制限:自国民の入場に対し、1回(24時間)あたり6,000円という高額な入場料を課します。
  • 回数制限:7日間で3回、かつ28日間で10回までという厳格な利用回数制限が設けられています。
  • 本人確認:日本人および国内居住の外国人に対しては、マイナンバーカードによる厳格な本人確認と回数管理が義務付けられています。

これらの規制は、ギャンブル依存症対策と治安配慮のためであり、政府は「世界最高水準の依存症対策パッケージ」で国民の不安に応えることを目指しています。また、カジノ収益に対して国と地方にそれぞれ15パーセント、合計30パーセントの納付金が課されます。

IR

アジアIR市場の戦略的比較と今後の展望

アジアのIR政策は、自国民のカジノ利用に関する規制によって大きく類型化できます。

規制類型と競争戦略

  1. 完全解禁型:マカオ、フィリピン、マレーシアなど。年齢制限のみで、自国民も自由に入場可能。経済効果は大きい反面、社会問題リスクも内包します。マカオは現在、この依存構造からの脱却を急いでいます。
  2. 条件付解禁型:シンガポール、日本、ベトナムなど。高額な入場料、回数制限、所得要件などのフィルターを設けて限定的に容認。社会への悪影響を最小化しつつ経済利益を得る折衷策であり、シンガポールはこのモデルで成功を収めました。
  3. 原則禁止型:韓国(江原ランド除く)、タイなど。国民の入場を原則禁止し、外国人観光客専用とします。社会問題は抑えられますが、国内需要を活かせず経済効果が限定的になるデメリットがあります。

日本は、シンガポール・モデルを踏襲しつつも回数制限などのさらなる厳格な措置を加え、社会的懸念に最大限配慮したアプローチを採用しています。

国際競争の激化と非ゲーミングへの軍拡競争

大阪IRの開業は、北アジアの観光市場の勢力図を塗り替える可能性があり、韓国市場は特に強い危機感を抱いています。この競争環境に対応するため、アジア全体で非ゲーミング分野への投資が加速しています。マカオは非ゲーミングに巨額投資を強制され、シンガポールは独占延長と引き換えに施設拡張を推進しており、競争の主戦場はカジノフロアそのものから、独自のエンターテイメント、MICE機能、サービスの質といった非ゲーミング施設へと移行しています。

持続可能性とガバナンスの重要性

アジアのIR市場は、経済的利益と社会的リスクへの配慮を両立させる方向に成熟してきました。IRが長期的に健全な発展を遂げるための鍵は、運営の透明性・健全性を確保するための厳格なガバナンスと社会的責任の遂行です。日本が導入するマイナンバーカードによる入場管理など、各国は規制とテクノロジーを駆使し、ギャンブル依存症対策や反社会的勢力排除を徹底する「責任あるゲーミング体制」の構築を進めています。IRの設計思想においても、ESG(環境、社会、ガバナンス)への配慮が不可欠な要素となりつつあります。

まとめ

統合型リゾート(IR)は、カジノ収益をエンジンとしつつも、MICE機能を中心とした多機能な複合観光インフラとして、アジア各地で独自の進化を遂げています。マカオの多角化、シンガポールのMICE主導モデルの成功、日本の大阪IRが掲げる厳格な規制と非ゲーミング戦略は、アジア市場が「量から質へ」の転換期にあることを明確に示しています。

2030年頃の大阪IR開業に向けて、アジアのIR市場はさらなる拡大と競争の時代を迎えますが、持続的な成功のためには、経済的利益の追求と社会的責任の遂行を両立させる、洗練されたガバナンスと運営能力が不可欠となります。日本の厳格なIRモデルの成否は、今後IR合法化を検討する他の国々にとって極めて重要なケーススタディとなるでしょう。

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