
ADLM 2025:臨床検査医学の未来を拓く国際会議・展示会 7/25-31、シカゴに世界の最新医療技術が集結
ADLM臨床検査エキスポ(ADLM Annual Scientific Meeting & Clinical Lab Expo)は、臨床検査医学の“今と未来”を世界に示す最大規模の国際会議・展示会です。AI、質量分析、POCT、ナノテクノロジーなど多岐にわたる最先端トピックが一堂に会し、研究成果の発表とビジネス交流が同時に行われる本イベントは、日本ではまだ十分に知られていません。本記事では、2024年の開催実績と2025年の開催予定を中心に、その価値と最新動向をわかりやすく解説します。

ADLMとは何か?その歴史と進化、そして意義
ADLM臨床検査エキスポは、診断学と臨床検査医学の最前線を牽引する世界最大級の学術会議・展示会です。
名称変更の背景と「同一組織」であること
まず触れておきたいのは、2023年に「AACC(American Association for Clinical Chemistry:米国臨床化学会)」から「ADLM(Association for Diagnostics & Laboratory Medicine:診断・臨床検査医学会)」へと名称が変更された点です。これは、従来の「臨床化学」という枠組みを超え、分子診断学、ゲノミクス、質量分析、AI、データサイエンスといった広範な診断・臨床検査医学の全領域を包含するという、この分野の急速な進化と拡大を反映した戦略的な決定です。したがって、ADLMとAACCは異なる組織ではなく、旧名称と現名称の関係にある、まさに進化を遂げた同一組織です。
主催・目的・歴史:1948年創立・75年を超える歴史をもつ
ADLMは、臨床検査科学とその医療への応用を専門とする世界的な科学・医学専門家組織であり、学術大会の開催、質の高い科学ジャーナル(「Clinical Chemistry」など)の発行、ガイドラインの策定、教育・啓蒙活動などを幅広く行っています。その歴史は深く、AACCは1948年にわずか9名のメンバーで創立され、1958年に初の独立学会を開催して以来、毎年開催され続けています。2023年には75周年を迎え、その革新の歴史を祝いました。
規模と世界における位置づけ
ADLM年次会議には、世界中から19,000人以上の臨床検査専門家と850社以上の出展者が集結し、「世界最大級、最速成長中の集まり」と称されています。展示会場は約25,000㎡(271,000平方フィート)もの広大なスペースを誇り、人工知能(AI)、POCT(院内即時検査)、分子診断、自動化機器など、各分野の最新テクノロジーが披露されます。
単なる研究発表の場にとどまらず、企業によるプレゼンや産学連携の機会も豊富で、まさに世界規模の製品発表・情報交換の場となっているのです。グローバル市場の動向を把握する上で欠かせないイベントです。
対象者と参加メリット
臨床化学者、分子生物学者、検査室管理者、病理医、IVD(体外診断用医薬品・医療機器)企業の開発・研究担当者など、臨床検査医学に関わるあらゆる専門家を対象としています。参加するメリットは多岐にわたります。世界のトップリーダーとのネットワーキング、最新の研究動向や技術革新に関する知識の習得、そして国際共同研究やビジネス連携といった協力機会の獲得が期待できるでしょう。特に、急速に進化する臨床検査医学分野において、「業界の洞察とイノベーションで時代を先取りする」ための貴重な機会を提供しています。

会議・展示会の構成
ADLMは、多岐にわたる教育プログラムと大規模な展示会で構成されています。
科学プログラム
全体会議(Plenaries)での著名専門家の講演、科学セッションでの最新研究成果の発表、少人数制の円卓会議(Roundtables)、そして実践的なスキル習得を目指すADLMユニバーシティコース(ADLM University Courses)など、年間300名以上の専門家が講演し、250以上の教育セッションが開催されます。
クリニカルラボエキスポ
850社以上の出展企業が集い、200以上の製品カテゴリーにわたる最新技術やサービスが展示されます。製品ショーケース、レクチャーシリーズプレゼンテーション、企業主導のインダストリーワークショップ(展示会場内および近隣ホテルで開催)などがあり、科学的発表と産業界の展示が融合することで、研究成果が製品・サービスに結びつくプロセスを理解できます。
ポスターセッション
採択された抄録はポスターホールに展示され、2023年からは主力ジャーナル「Clinical Chemistry」の補遺として出版されるようになり、学術的価値と認知度が大幅に向上しました。2023年には65カ国から882件の抄録が投稿され、国際的な参加者の広がりを示しています。
ネットワーキング
エキスポホールでのアイスクリームソーシャルやコーヒーブレイク、クイズ形式の「Lab Feud」など、楽しみながら交流できるイベントが多数用意され、非公式な意見交換や共同研究のきっかけ作りに貢献します。
ADLM 2025:開催概要と注目すべき展望
来たる「ADLM 2025」は、臨床検査医学の未来をさらに大胆に推進するイベントとして、すでに大きな注目を集めています。
開催概要/日程・場所・共催
ADLM 2025は、2025年7月27日から31日までの5日間、米国イリノイ州シカゴの「McCormick Place」(マコーミック プレイス)で開催される予定です。2024年に引き続き同じ会場での開催となり、エキスポ部分は7月29日から31日(米国中部時間)に展開されます。特に注目は、カナダ臨床化学会(CSCC)との共催となる点で、これにより北米および国際的な参加と協力がさらに拡大し、より多様なプログラムが期待されます。
ADLM 公式Webサイト https://meeting.myadlm.org/

マコーミック プレイス コンベンション センター(シカゴ 米国イリノイ州)
会場Webサイト https://www.mccormickplace.com/
テーマとその背景にあるトレンド
ADLM 2025のテーマは、「Bring the wonder to global laboratory medicine(世界の臨床検査医学に驚きをもたらす)」です。このテーマには、人工知能(AI)、ナノテクノロジー、質量分析、診断薬開発といった最先端分野への期待が込められています。 近年、ADLMでは特に以下の科学技術トレンドに焦点を当てています。
- AIと機械学習の臨床応用:診断の効率性、精度、速度の向上、人員不足への対応、予測分析の実現など、様々な側面でAI/MLの統合が進んでいます
- 質量分析(MS)技術の進化と応用:プロテオミクス、メタボロミクス、治療薬物モニタリング(TDM)など、臨床応用の範囲を拡大し、個別化医療においても役割が増しています
- 個別化医療とプレシジョンメディシン:ファーマコゲノミクス(PGx)や標的療法の推進に不可欠な診断技術が注目され、診断薬企業、製薬企業、投資家の連携が強調されます
- ポイントオブケア検査(POCT)と遠隔サンプリング技術:医療サービスが行き届いていない地域や遠隔地の住民への医療アクセス改善、健康の公平性実現のためのツールとして重要視されています
- 新規バイオマーカーの探索と開発:がん、心血管疾患、神経疾患など、様々な疾患に対する新規かつ改良されたバイオマーカーの探求が継続的に行われ、診断・予後精度向上のためのパネルやアルゴリズム開発に重点が置かれています
- ナノテクノロジー:より高感度で特異的な診断ツール(センサーや検体前処理法など)の開発に応用され、早期疾患検出や精密測定に繋がる可能性を秘めています
日本企業にとっての意義と過去の参加事例
ADLM/AACC年次会議は、年間1.8万人・900社級の規模で行われるため、グローバル市場における臨床検査分野の動向を把握する場として、また日本企業にとっても新技術や商談機会の重要拠点と位置づけられています。
ADLM/AACC年次科学会議・臨床検査エキスポへの2018年以降に出展が確認された日本の企業(またはその米国法人など関連企業)の社名は以下の通りです。
Asahi Kasei Corporation (旭化成株式会社)、FUJIFILM Wako Diagnostics U.S.A. (富士フイルム和光純薬株式会社の米国法人)、LSI Medience Corporation (株式会社LSIメディエンス)、Nittobo (日東紡績株式会社) / Nittobo Medical Co., Ltd. (日東紡メディカル株式会社)、NOF CORPORATION (NOF株式会社)、NSK (日本精工株式会社)、OYC Americas, Inc. (オリエンタル酵母工業の米国法人)、Sekisui Diagnostics LLC (積水メディカル株式会社の米国法人)、Shimadzu Scientific Instruments, Inc. (株式会社島津製作所の米国法人)、Sysmex America, Inc. (シスメックス株式会社の米国法人)、Tosoh Bioscience (東ソー株式会社)、Toyobo Co., Ltd (東洋紡株式会社)
まとめ:ADLM臨床検査エキスポは、世界の研究者・企業が最新技術や知見を共有する国際的なプラットフォーム
ADLM臨床検査エキスポは、臨床検査医学分野の最先端が集結し、世界の研究者・企業が最新技術や知見を共有する国際的なプラットフォームです。AIや質量分析、POCTなど注目分野が幅広く扱われ、学術と産業界が交差することで、新たなイノベーションや協業の可能性が広がっています。2025年はカナダ臨床化学会との共催によって、よりグローバルな展開と多様なプログラムが期待されます。日本企業にとってもグローバル市場参入や情報収集、国際ネットワーク構築の貴重な場となるため、臨床検査医学の未来を担う企業・専門家にとって見逃せないイベントです。