2026年7月韓国法務部発表・デジタルノマドビザ正式導入に向けた若年層の所得要件緩和策および地方滞在の長期化に向けた戦略、日本の制度との違い
韓国法務部は、約2年半のテスト期間を経て「デジタルノマドビザ」の正式運用を開始したと発表しました。(2026年6月30日より正式運用を開始)
本記事では、韓国法務部が自ら公開した資料に基づき、今回の制度改定の核となる所得基準の大幅な引き下げや滞在期間の延長について解説します。

韓国法務部の公的資料が示すビザ改定の背景にある試験運用の実態
首都圏への過度な一極集中を是正するワーケーション誘致の現状
韓国政府は2024年1月から2026年5月までの2年5ヶ月間、海外の企業に所属しながらリモートワークで業務を行う外国人を対象に、ワーケーションを目的としたビザの試験運用を実施してきました。法務部が公開した発表資料の記録によれば、この期間中に合計743人に対して新たなビザが発給されています。2026年5月の段階で韓国内に滞在している当該ビザの登録外国人の総数は398人でした。
国籍の割合を詳細に見ると、全体の約70パーセントにあたる278人がOECD加盟国の出身者で構成されていることがわかります。また年齢層については、30代が約52パーセントの206人、40代が約19パーセントの74人と続いており、世界各国で働く現役世代が本制度の中心的な利用者層となっている実態が浮き彫りになっています。
しかし、彼らが滞在する地域に関しては大きな偏りが生じていたことも同時に報告されています。利用者の約85パーセントにあたる340人が、ソウルや京畿道、仁川といった首都圏エリアに集中して滞在しているのです。法務部はこうした偏在のデータを踏まえ、地方自治体との懇談会やビザ関連の政策協議会を重ねて改善案を模索してきました。正式導入の段階では、海外の優秀な人材を人口減少が懸念される地方へ積極的に誘導し、地域経済を循環させる方向へと制度の舵を大きく切っています。

新たなデジタルノマドビザ適用に向けた各種要件の抜本的な緩和策
18歳から34歳の若年層を対象とした非首都圏でのGNI基準引き下げの詳細
今回の正式運用への移行にともなって最も大きな変更が加えられた規定が、就労者の所得要件です。試験運用を実施していた期間中は、申請者の年齢や滞在を希望する地域に関係なく、一律で韓国の1人当たり国民総所得であるGNIの2倍に相当する年収が求められていました。2025年のGNI基準に換算して計算すると、約1億483万ウォン(2026年7月現在、日本円で約1141万円)という非常に高いハードルが設定されていたことになります。
GNIとは?
GNI(国民総所得)は、一国の居住者が国内外から得た所得の合計です。国内の生産額を示すGDPに、海外からの利子や配当などの純所得を加えたもので、国や国民全体の経済的な豊かさを測る指標として使われます。
新しい規定のもとでは、年齢が若い層や首都圏以外の地域に滞在する予定の外国人に対して、この基準が大幅に引き下げられる措置が取られました。具体的には、18歳から34歳までの申請者が人口減少地域を含む非首都圏でワーケーションを行う場合、GNIの1倍である約5241万ウォン(2026年7月現在、日本円で約570万円)が要件として適用されます。同年代の申請者が首都圏に滞在する場合は、GNIの1.5倍である約7862万ウォンが基準額となります。
35歳以上の申請者についても、非首都圏に滞在するケースではGNIの1.5倍に要件が引き下げられます。35歳以上の申請者が首都圏に滞在する場合に限って、従来通りGNIの2倍の厳しい基準がそのまま維持される仕組みが採用されています。年齢や地域に応じて条件を細かく分ける手法を取り入れることで、これまで所得の壁によって申請を諦めていた若者や地方志向の層に向けて門戸を広く開放しています。
欧州諸国の事例を参考指標とした最長3年に及ぶ在留期間の延長規定
所得基準の見直しに加えて、韓国国内に滞在できる期間の延長も重要な変更点として挙げられます。改定前のルールでは、入国した日から1年間の滞在が許可され、その後さらに1回だけ延長手続きを行うことが認められる最長2年の制度として機能していました。今回発表された正式な運用案では、1回につき1年ごとの延長手続きを更新していくことで、最長3年までの継続的な滞在が法的に許可されるよう改められています。
資料のなかで韓国法務部は、OECDに加盟する38カ国のうち8カ国以上がすでに同種のビザ制度を国境を越えて運用している事実に言及しています。なかでもドイツやスペイン、ギリシャといったヨーロッパの国々が最長3年までの滞在期間を認めている先行事例を研究し、世界的な人材獲得競争において競争力を高める判断を下しました。外国人が韓国の文化や生活環境を十分な時間をかけて経験し、最終的な定住先として選択できるように政策的に誘導する狙いが文面から明確に読み取れます。
家族を同伴した移住計画に向けた医療保険加入ルールを含む申請時の重要規定
滞在地域の区分に連動して変動する同伴家族向けの年収基準の特殊な算出方法
「デジタルノマドビザ」は、就労を制限する規定は存在しますが、一定の条件を満たせば配偶者や未成年の子どもを同伴して韓国に住むことが可能です。家族を同伴して首都圏エリアに滞在する場合、申請者の年齢に関わらずGNIの2倍の所得要件が厳格に適用されます。その一方で、家族とともに非首都圏や人口減少地域への滞在を選択するケースでは、要件がGNIの1.5倍に緩和される特例が設けられています。
実際の手続きを進める際には、海外に設置された各在外公館へ各種書類を提出して審査を受けます。現在の職場で同一の業種に1年以上の期間勤務している事実を証明する在職証明書や給与明細書の用意が必要です。さらに、滞在期間中に発生する可能性のある医療費や、本国への緊急送還費用を確実にカバーできる1億ウォン以上の補償額を持つ個人医療保険への加入証明書が必須書類として指定されています。地方での要件緩和の適用を正式に受けるためには、1ヶ月以上の賃貸借契約書やワーケーション特化施設の予約確認書など、該当地域に確実に滞在することを客観的な事実として証明する書類の準備が求められます。
日本のデジタルノマド制度との違い
日本でも2024年3月から、デジタルノマド向けの在留制度が運用されています。主な条件は、年収1,000万円以上、民間医療保険への加入、滞在期間6か月以内です。配偶者や子の帯同は可能ですが、在留期間の更新はできません。また、日本では年齢や滞在地域による所得要件の緩和はありません。地方に滞在する場合でも、年収1000万円以上という条件は変わりません。
これに対して韓国は、若年層や非首都圏への滞在者の所得基準を引き下げ、最長3年の滞在を認めています。日本が短期の長期滞在・ワーケーション型であるのに対し、韓国は地方誘導や将来的な定着まで視野に入れた制度といえます。
この記事もチェック!観光庁主催・デジタルノマド誘客テーマのイベントの取材記事
https://micetimes.jp/digital-nomado2601/

優秀な海外人材の地方定着を目指す韓国政府のビザ戦略から見える今後の展望
試験運用で課題として浮上した首都圏への過度な一極集中を是正するため、若年層と地方滞在を積極的に優遇する所得要件の細分化が行われたことが制度の根幹にあります。海外の制度動向を研究し、滞在期間を3年に延長する措置を講じていることも重要なポイントです。
鄭成鎬法務部長官は発表資料のなかで、制度の目的が外国人の一時的な観光体験に終わらせないところにあると明言しています。世界中の創造的な人材が韓国の魅力を長期間にわたって経験し、自発的に定着して国家の重要な人的資産となるような「定着モデル」の構築を目指す方針を掲げています。韓国での長期的なリモートワークを計画する際は、自身の年齢や希望する滞在地域を正確に照らし合わせ、細かく設定された要件を十分に把握して申請準備を進めることが求められます。
韓国での取材記事:ワーケーション
https://micetimes.jp/report_warcation_busan/
https://micetimes.jp/interview-worcationcenter-kim/