
【MICEの基礎知識15】FAMツアーとは。その有用性と効果的な実施方法 MICEにおけるFAMツアーについても考えます
観光地や宿泊施設、リゾート、体験アクティビティなどを運営する事業者にとって、自社の魅力を効果的に発信し、顧客を呼び込むことはビジネスの生命線です。しかし、WebサイトやSNS上の写真・文章だけでは、現地の空気感やサービスの質、地域特有の文化的魅力までを十分に伝えきれないのが実情です。そのような課題を解決するために注目されているのが「FAMツアー」です。
FAMツアーは、旅行代理店やメディア関係者、さらにはSNS上で強い影響力を持つインフルエンサーなどを対象に、現地を実際に訪れてもらい、体験を通じて地域や施設の魅力を“肌で”感じてもらう招待旅行のことを指します。この記事では、FAMツアーの概念、種類、有用性、そして成功させるための具体的な実施方法を詳しく解説します。
FAMツアーとは「下見のための招待ツアー」のこと?
FAMツアーとは「Familiarization Tour(ファミリアライゼーション・ツアー)」の略称で、旅行業界ではしばしば「ファムトリップ(FAM Trip)」とも呼ばれます。日本語では「下見ツアー」「招待旅行」などとも表現されることがあり、その目的は大きく二つに分けられます。
- 販売促進や商品開発のための理解深化
旅行代理店やツアーオペレーターなどが実際に訪問し、施設や観光スポット、食事内容、移動手段などを下見・体験することで、次の旅行商品企画や販売促進に活かします。 - メディア・インフルエンサーによる情報発信
ジャーナリスト、ブロガー、SNSインフルエンサーなどに現地を体験してもらい、雑誌・Web記事・SNS投稿などを通じて幅広い層へのプロモーションを狙います。実際の体験に基づく発信は、読者・視聴者から高い信頼と共感を得やすいという特徴があります。
FAMツアーの主な種類
FAMツアーは招待する対象によって、おおむね三つのタイプに分けられます。
- 旅行会社・ツアーオペレーター向け
商品開発やツアー造成を担う専門家を招き、地域や施設を視察してもらう。旅行商品として組み込んでもらうための情報収集と関係構築を目指します。 - メディア向け
雑誌・新聞・テレビ・Webメディアなどのライター、編集者、撮影スタッフを招待。記事化・番組化を通じて、読者や視聴者への認知度向上を図ります。 - インフルエンサー向け
ブロガー、YouTuber、SNS上でフォロワーの多いインフルエンサーを招き、現地の体験を即時に拡散してもらうことで、より若い層や特定のファン層へアプローチする狙いがあります。
FAMツアーの有用性と効果
FAMツアーは一見すると、主催者側が出費や手間をかけて関係者を“無料招待”するようにも見えます。しかし、正しく企画・運営されれば、投資以上のメリットが得られる高効率なマーケティング手法です。その具体的な有用性と効果は次のとおりです。
1. 直接的な体験による理解の深化
FAMツアー最大の利点は、五感を通じてリアルな体験が得られることです。施設の快適さ、食事の美味しさ、現地の風景や人々の温かさなど、カタログや写真・文章では捉えきれない部分を肌で感じてもらえます。参加者が実際に体験すると、その魅力をより深く理解し、自信をもって販売・発信ができるようになるため、結果的にプロモーションの説得力が格段に高まります。
2. 信頼性と拡散力のあるプロモーションが期待できる
広告と違い、旅行会社やメディア、インフルエンサーが「自ら現地を訪れたうえで語る」情報は、読む側・見る側に強い信頼感を与えます。特にインフルエンサーのSNS発信は、フォロワーからのエンゲージメントが高く、ターゲット層との距離が近いため、企業の公式発信以上に拡散力を持つケースもあります。このように、体験に基づいたリアルな声を多様なチャネルに広げることができる点は、FAMツアーならではの大きな強みといえます。
3. ネットワーク構築のチャンスを生む
FAMツアーでは、主催者(自治体や観光施設、DMOなど)と参加者(旅行会社、メディア、インフルエンサー)の間で直接の人脈が築かれます。顔の見える関係性ができることで、今後のコラボ企画の立案や、商品造成に向けた継続的な相談など、双方にメリットのあるパートナーシップが育ちやすくなります。また、参加者同士の交流や情報交換が生まれ、新しいアイデアやビジネスチャンスに結びつく可能性もあります。
4. 費用対効果の高いマーケティング
FAMツアーの開催には、移動費・宿泊費・食事など一定のコストがかかりますが、うまく運営できれば想像以上の費用対効果を生むことができます。メディアへの掲載やSNS上の口コミ、旅行商品化による売上増などを広告費用に換算すると、通常のプロモーション費よりも成果が大きくなるケースは珍しくありません。特にインバウンド戦略においては、海外の旅行会社やメディアを招き、現地から直接発信してもらうことで、海外市場への露出を効率的に拡大できます。

効果的なFAMツアーの実施方法
FAMツアーの成功は、事前の準備とターゲットの選定、そしてツアー運営の丁寧さにかかっています。以下に、主なステップとポイントをまとめます。
1. 明確な目的とターゲット選定
まずは「どんな目的でFAMツアーを行うのか」を明確にしましょう。新規顧客(旅行者)の獲得を狙うのか、特定の市場(高級志向、若年層、アウトドア好きなど)に訴求したいのか、あるいは地域の知名度向上が最優先なのか。目的がはっきりしていれば、おのずと「誰を招待すべきか」が定まります。
- 旅行会社向け:新規ツアー商品に組み込んでもらいたい。企画担当者や仕入担当者を招く。
- メディア向け:雑誌・テレビ番組・Webメディアなどへの掲載を狙う。ライターや編集者、カメラマンを招く。
- インフルエンサー向け:SNSを使った拡散効果を狙う。フォロワー数やエンゲージメントの高い人材を選定。
いずれも、招待者の読者層・視聴者層・フォロワー層が自分たちのターゲット層とマッチしているかを重視することが重要です。
2. 魅力的で無理のないプログラム設計
次に、参加者が「行ってよかった」「ぜひ紹介したい」と感じられるよう、魅力的な体験コンテンツを用意しましょう。以下のポイントを意識すると、参加者の満足度が高まります。
- 地域特有の体験を盛り込む:季節ごとの行事、地元食材を使った料理教室、伝統工芸体験、自然アクティビティなど。
- 移動や宿泊のストレスを最小化:過密スケジュールは避け、ゆとりを持った日程設定を心がける。また、移動手段はわかりやすく手配し、宿泊や食事のクオリティにも配慮する。
- 撮影ポイントの配慮:メディアやインフルエンサーは写真・動画撮影のニーズが高い。映えるスポットや自由時間を設けると満足度が上がる。
また、実施日程は余裕をもって設定し、少なくとも3〜6ヶ月前から企画をスタートするのが理想です。特に海外から参加を見込む場合は、ビザやフライト手配なども考慮し、スケジュールにゆとりを持たせましょう。旅行の日程にも注意が必要です。盛りだくさんにした結果、参加者が疲れ切ってしまう、食べきれないほどのご馳走を残すことになってしまう、といったネガティブな体験になると、逆効果になりかねません。
3. ホスピタリティと現地案内の充実
FAMツアーの品質を左右する大きな要素が、現地での「おもてなし」と「案内のわかりやすさ」です。
- 到着時の歓迎セッション:簡単なブリーフィングや地域の概要説明を行い、参加者同士の顔合わせを促す。
- 専門家や地元ガイドの活用:建築の由来や文化的背景など、深いストーリーを伝えられる人がいると、印象が大きく異なる。
- トラブル対応・柔軟なサポート:体調不良やスケジュール変更の要望などに臨機応変に対応できるスタッフ体制を整える。
ツアー中は参加者へのアテンドをきめ細かく行いながら、同時に「体験の自由度」もある程度確保すると良いでしょう。写真撮影や取材メモ、SNS投稿タイミングなどは各々のスタイルがあるため、無理にスケジュールを詰め込みすぎないことが重要です。
4. ツアー終了後のフォローアップ
FAMツアーは「体験してもらって終わり」ではなく、その後のフォローアップが成功を左右します。
- 感謝の連絡と追加情報の提供
ツアー後は速やかにお礼のメッセージを送り、写真素材や地域の追加資料などを提供しましょう。メディアやインフルエンサーにとって記事作成や発信活動をサポートする材料があると大変助かります。 - 発信内容のモニタリングと共有
参加者がブログやSNS、記事で発信した場合は、主催者もそれを把握し、自社の公式SNSやWebサイトで二次拡散するなど、相乗効果を高める施策を行います。 - 成果の検証と次回への活用
メディア掲載の反響や、旅行会社の新商品造成状況、SNS投稿のエンゲージメントなどを定期的にモニタリングして、どれだけ集客や認知拡大に寄与したかを分析します。得られたフィードバックは次回の企画改善に役立ちます。
FAMツアー実施の流れ
一般的な目安としてのスケジュール例を考えてみましょう。次のようなスケジュールなら無理なく進められると思われます。
- 計画立案(3〜6ヶ月前)
- 目的とKPIの設定
- ターゲット市場・招待者像の確定
- 予算と実施時期の調整
- プログラム案の作成
- 招待と準備(1〜3ヶ月前)
- 招待者リストの作成、招待状の送付
- 参加確定者との連絡・詳細スケジュール調整
- 宿泊施設・移動手段・食事場所の確保
- ガイドやスタッフの手配、必要な許可申請など
- ツアー実施(当日〜数日間)
- 参加者へのオリエンテーション
- 観光スポット巡り、体験プログラム実施
- 移動・宿泊・飲食・撮影サポート
- 参加者同士・地元関係者との交流
- フォローアップ(ツアー後)
- お礼状と追加資料の提供
- メディア掲載・SNS投稿のモニタリングと拡散
- 成果の分析と次回への改善点洗い出し

FAMツアーを成功させるポイントと注意点
1. 招待する相手の選定基準を明確に
参加者(旅行会社・メディア・インフルエンサーなど)の選定においては、影響力の範囲(フォロワー数、読者数、視聴率など)だけでなく、専門分野やターゲット層との親和性などを考慮する必要があります。また、過去の投稿や記事のクオリティ・頻度、コミュニケーション力、協力姿勢などの見極めも大切です。
2. 適切な予算配分とコスト管理
FAMツアーは一定の経費がかかるため、予算策定をしっかり行う必要があります。宿泊費や交通費などをすべて招待側が負担するのか、一部自己負担とするのかといったルールは、事前に明確にしておきましょう。また、豪華すぎるもてなしをしても、肝心の体験や内容が伴わなければ効果は薄れてしまいます。費用対効果を意識しながら、コストをかけるべきポイントを見極めることが大切です。
3. 現地協力者との連携
FAMツアーでは、地域の観光協会や自治体、DMO、個別の体験事業者、レストランなどとの連携が欠かせません。各所への連絡を疎かにすると、当日の段取りに支障をきたすだけでなく、参加者の評価にも大きく影響します。特に複数の施設を巡る場合は、スケジュールのすり合わせやお迎え・お見送りの役割分担など、丁寧な事前打ち合わせが必要です。
4. 災害・トラブル対策
自然災害や交通トラブルなど、予期せぬ事態が発生する可能性も想定しておきましょう。代替プランをあらかじめ用意しておき、参加者の安全確保を最優先に考えた運営体制を整えておくことが重要です。

MICEにおけるFAMツアーの重要性と可能性:MICE誘致に効果を発揮
さて、ここからはMICEにおけるFAMツアーについても見ていきましょう。国際会議や企業のインセンティブ旅行など、いわゆるMICE分野が地方創生やインバウンド誘致におけるキーワードとして注目されています。MICE関連のイベントは、一度誘致に成功すると大規模な来場者数や宿泊需要を生むだけでなく、開催地のブランドイメージ向上にも大きく貢献します。こうしたMICEの誘致活動においても、FAMツアーが効果的な手段となります。
まず、会議主催者やイベントプランナー、企業の決定権者を招き、開催予定地や周辺施設の魅力を実際に体験してもらうことで、「本当に開催地として適切か」「参加者に満足してもらえる環境が整っているか」といった判断材料を提供できます。MICEでは、通常の旅行商品以上にセキュリティ面や同時通訳設備、交通インフラ、宿泊施設のキャパシティなどの整備状況が重視されます。カタログや写真の情報だけでは把握しにくい要素が多いため、現地に足を運ぶことによる具体的なイメージ形成は非常に重要です。
インセンティブ旅行としてのFAMツアー実施
インセンティブ旅行としてのFAMツアーも考えられます。企業の表彰旅行やチームビルディング研修で訪れる場合は、ユニークベニュー(歴史的建造物や美術館、自然環境を活用した会場など)や、特別感のある体験プログラムの存在が決め手になることがあります。主催者側がFAMツアーを通じて地域独自のアクティビティや施設を確認し、「ここなら忘れられないイベントが実現できる」と納得できれば、誘致の成功率は格段に上がるでしょう。
メディアや旅行会社だけでなく、旅行手配を担う専門のMICEエージェントや、国際会議のオーガナイザー(PCO:Professional Convention Organizer)などを招くことも有効です。彼らに現地の利点を深く理解してもらうことで、具体的な企画提案がしやすくなり、MICE誘致の競争力が高まります。
総じてMICEにおけるFAMツアーは、「現地を直接見てもらうことで、誘致・開催に必要な安心感と説得力を提供し、具体的な付加価値の創出を図る」という役割を担います。カスタマイズされたプログラムときめ細かなホスピタリティを組み合わせれば、他の競合地と差別化した魅力をアピールできるでしょう。結果的に、その地域が国際会議や企業イベントの有力候補地として認知されるきっかけを作り出すのが、MICE向けFAMツアーの最大の意義といえます。
まとめ:足を運ぶ、体験することで得られること。FAMツアーの価値は変わらない
FAMツアーは、観光施設や地域の魅力を余すことなく伝え、旅行商品化やメディア露出、SNS拡散など多方面での波及効果を期待できる強力なマーケティング手法です。実際の体験から生まれるリアルな感想や情報は、単なる広告を超えた説得力と共感を生み出し、結果的に高い費用対効果をもたらしてくれます。
一方で、成功のカギは「目的とターゲットの明確化」「綿密なプログラム設計」「現地での手厚いホスピタリティ」「ツアー後のフォローアップ」という一連の流れをいかに丁寧に行うかにかかっています。招待者のニーズと企画内容が合致し、旅そのものが“特別な体験”となったとき、FAMツアーは大きな成果をもたらすことでしょう。
コロナ禍を経て観光需要が再び高まる中、国内外から多くの旅行者を誘致したい自治体や企業にとって、FAMツアーはますます重要な戦略となっています。オンラインツールの進歩により、バーチャル下見やハイブリッド型のFAMツアーなど新しい展開も生まれていますが、最終的にはやはり「現地に実際に足を運んでもらう」という部分が本質的な魅力を伝える最良の方法といえるでしょう。ぜひ本記事を参考に、FAMツアーの企画・実施を検討してみてください。きっと地域や施設の新しい可能性を切り拓く大きな一歩となることでしょう。