【取材】三重県の魅力は「衣食住」ならぬ「移食充」。県が行うモデルツアー造成のためのトライツアーに参加して見えた三重MICEの強み
12月に行われた三重県が実施する「三重県企業MI向けモデルコース造成事業」のトライツアーに参加しました。三重県には海外誘客課にMICE・高付加価値観光の担当が置かれ、MICE誘致に力を入れています。本記事では、三重MICEの強みを、移動・食・体験の3点でご紹介します。

かつての三重は日本屈指のディスティネーション
「伊勢参宮 大神宮へも ちょっと寄り」
この川柳からは、参拝を目的とした旅という建前で、実のところ観光を楽しんだ当時の人々の様子がうかがえます。
江戸時代中期以降、全盛期には江戸からだけではなく、全国から半年未満で460万人が伊勢参りを行ったという記録が残るほど、熱狂が広がったそうです。現代でも、内宮・外宮合わせて750万人(2024年)が伊勢神宮を訪れます。三重県、特に伊勢志摩地方は古来より「美し国(うましくに)」として発展してきました。歴史・文化があり、風光明媚で、美味しいものもたくさんある、観光旅行をする分には、選択肢がたくさんあります。かつての三重は日本でも屈指の今の言葉でいうところの「ディスティネーション」でした。
では、現代のMICEのディスティネーションとしてはどうでしょうか。
「移食充」の3つの視点で伊勢・志摩・鳥羽の魅力を探る
今回の行程は、1泊2日。1日目は近鉄名古屋駅から近鉄特急「しまかぜ」で賢島まで移動。ランチ、遊覧船、真珠体験のアクティビティと巡り、鳥羽国際ホテルに宿泊。2日目はミキモト真珠島、伊勢神宮内宮→外宮と参拝し、おかげ横丁散策というものでした。
本記事では、行程通りのご紹介ではなく「移食充」の3点で魅力を探ります。

1)「移」=移動、乗り物にこだわれる、多様な選択肢
南北に長い三重県。山もあれば、海もあり、地形は変化に富んでいます。
公共交通としてはJRと近鉄の利用が便利です。名古屋から賢島(かしこじま)までは2時間ほどの旅。カフェ車両が含まれる編成で、全席指定。グリーン車のようなリラクゼーション機能付き大型座席。和洋の個室、半個室のサロン席など席種別も多様。名古屋発だけでなく、大阪発、京都発も設定されていて、これらの都市からの移動では乗り換えなしで非常に快適な移動体験です。


インセンティブツアーや京都、大阪などでのMICEからのアフターMICEの観光でも活躍しそうです。国内屈指の豪華車両のグレードの高さは、VIPの移動ニーズにも応えられるものです。

ツアーで乗船したのが英虞湾(あごわん)遊覧の賢島エスパーニャクルーズ。乗り場は近鉄賢島駅から徒歩2分。大航海時代のカラック船を模した旅客定員250名、総トン数166トンの遊覧船で、1時間弱クルーズします。無数の島々が浮かぶ複雑なリアス式海岸の景観と、真珠養殖が盛んな地域でもあり、船からの眺めはどの時間帯でも美しいです。

船の2階デッキには貸し切りできる特別室があります。20名までの定員ですが、料金は1万円とリーズナブル。他の利用者と一緒にならないため、MICEでの利用には便利そうです。実際に、2023年のG7三重・伊勢志摩交通大臣会合で各国の交通大臣も乗船しています。
また、小型船でのチャータークルーズや、愛知県と鳥羽を結ぶ伊勢湾フェリーなど船を使った遊覧、移動手段は他にもあります。

今回のツアーでは訪ねていませんが、FIA F1日本グランプリや鈴鹿8時間耐久ロードレース(8耐)などが開催されるモータースポーツの聖地・鈴鹿サーキット、伊勢志摩上空のヘリ遊覧、伊勢志摩スカイラインやパールロードでの景勝ドライブと「移動」のオプションが多様です。また、熊野古道は「歩く」ことが体験になります。三重県でのMICEは移動や乗り物にいくらでもこだわれそうです。

2)「食」=御食国のポテンシャル。松阪牛や伊勢海老だけでないラインナップ
「食」もまた三重MICEの強みといえます。海産物と内陸部の山里の食材が共存する豊かな食文化があり、食や食体験を目的とするガストロノミーツーリズムの推進を掲げています。志摩はかつて若狭や淡路と並ぶ「御食国(みけつくに)」でした。古代から平安時代にかけて、皇室や朝廷に海産物などの特別な食材(御食料・御贄)を納めていた地域のひとつです。

松阪牛、伊勢海老、伊勢茶、赤福などの定番に限らず、伊勢うどん、手こね寿司、めはり寿司、新鮮な海の幸(カキ、タイなど)、伊賀牛、津のうなぎやぎょうざ、スイーツなど、両手で足りないほどの充実ぶり。水資源が豊富で米作りに適した三重の気候により日本酒の蔵元も多く、高い評価を受ける銘柄もあります。


ツアーでも三重の「食」を満喫できました。NEMU RESORTのレストランでのランチコース、鳥羽国際ホテルの和食レストランでのディナー、伊勢市駅前の割烹寿司 桂 外宮のいずれも味、サービスともに大満足でした。美味しいものを少しずつたくさんいただきたくなるような、多彩な料理の数々と美しい盛り付けが楽しめます。
もちろん、豪華な食事だけではなく、おかげ横丁での食べ歩きをはじめ「サッと食べられる」「みんなでシェアしやすい」カジュアルフードがたくさんあります。MICEに欠かせない「食」における、三重のポテンシャルは相当高いものがあります。


NEMU RESORTや鳥羽国際ホテルは宴会場、ボールルームも備えています。このエリアには各国のVIPを受け入れた実績のある施設も多くあるのは、安心できますね。

3)「充」=体験によってもたらされる、充実した時間
MICE参加者にディスティネーションとしての印象を強く残すには「体験」も欠かせない要素です。三重ならではの体験にはどのようなものがあるのでしょうか。


たとえば、ツアーでは「真珠工房 真珠の里」で、真珠の取り出しとアクセサリー作り体験ができました。自分の貝を選び、真珠を取り出すのはガチャのようなワクワク感があり、自分の真珠を磨くことで愛着が生まれます。そしてアクセサリーのパーツを選び、その場で加工してもらえます。真珠について学ぶことで驚きや発見があります。
定番でもある伊勢神宮の参拝も、外宮(げくう)から内宮(ないくう)と訪ねる独特の体験ができます。神楽殿では、御神楽・御饌のご祈祷を受けるといった特別な体験もその気になれば可能です。伊賀流忍者の体験、熊野古道(伊勢路)での世界遺産参詣道ウォーク、ミキモト真珠島の海女実演観覧、鈴鹿サーキットを自車で走るサーキットクルーズほか、選択肢は豊富です。

「自分だけの体験」を持ち帰れる設計で充実する三重県MICEの可能性
三重県MICEのポイントは、素材の多さではなく、体験としての組み立てやすさにあります。短い滞在でも、参加者の属性や目的に合わせてトーンを調整し、行程に一貫性を持たせやすい点は実務的な価値です。
さらに、参加者が自分で動いて確かめられる要素を入れることで、満足度だけでなく記憶の残り方も変わります。「移・食・充」の組み合わせを丁寧に設計すれば、「自分だけの体験」を持ち帰れる三重MICEに近づくはずです。