
【取材】万博とMICEの未来を拓く!大阪・関西万博、持続可能性への挑戦とオランダ・オーストラリアパビリオンの先進事例【MICE & Event Professionals Meeting at 大阪・関西万博】
2025年6月10日、大阪・関西万博の会場内で行われた「MICE & Event Professionals Meeting」は、文字通り国内外のMICEプロフェッショナルが集結する熱気あふれる場となりました。「MICE TIMES ONLINE」編集部はJCMA会員として参加するとともに、イベントの様子をプレスとして取材を行いました。
大きなテーマの一つが「持続可能性(サステナビリティ)」です。MICEに携わる者にとって、経済効果やイノベーション創出といったメリットがある一方で、資源の大量消費や環境負荷といった課題があることは長年の懸念でした。万博が開催される今こそ、これらの課題を克服し、MICEイベントを大きく進化させる絶好のチャンスです。

大阪・関西万博、そして海外パビリオンの中でも先進的な取り組みを進めるオーストラリアパビリオン、オランダパビリオンが、持続可能性にどのように取り組んでいるのかを、レポートします。

イベント概要:MICE & Event Professionals Meeting at 大阪・関西万博
会期: 2025年6月10日(火)16:30~20:00
会場: EXPOサロン(大阪・関西万博会場内 テーマウィークスタジオ 2階)
主催: イベント・MICEサステナブル運営コンソーシアム
一般社団法人 日本イベント産業振興協会、一般社団法人 日本コンベンション協会、一般社団法人 日本展示会協会、一般社団法人 日本ディスプレイ業団体連合会、公益社団法人 2025年日本国際博覧会協会、公益財団法人 大阪観光局
参加者:日本全国の自治体/コンベンションビューローやMICE業界関係者
10カ国以上の海外パビリオン関係者など、総勢300名


主催者挨拶:大阪観光局 MICE政策統括官 田中嘉一氏
ミャクミャクの装いでイベントの冒頭、主催者を代表して登壇した田中氏。会場が大きく沸きます。
田中氏は万博で導入される予約システム、キャッシュレス化、パーソナルエージェント、翻訳機能といった様々な運営手法は、MICE産業を進化させるものであると強調。その重要な一つとして「サステナブルな運営」があることを述べました。
改善が遅れていた負の部分を、持続的な発展に不可欠なことと捉え、万博を好機として「イベント・MICEサステナブル運営コンソーシアム」が設立。本コンソーシアムの成果として、サステナブル運営のための使いやすいガイドブックが完成したことを紹介し、業界全体での活用を広く呼びかけました。
Part 1:大阪・関西万博のサステナビリティ

ターニングポイント:サステナビリティへの大胆な方針転換
登壇者:2025年日本国際博覧会協会 会場運営プロデューサー 石川勝氏
石川プロデューサーからは、万博の基本計画策定段階では、サステナビリティの重要性がまだ十分に認識されていなかったという率直な経緯が語られました。当初、持続可能性に関する記述は膨大な資料のうち、わずか1ページ。しかし、東京オリパラやドバイ万博の高い目標設定、世界的なESG投資の拡大といった社会の急速な変化を踏まえ、「万博が社会を牽引するべきだ」と大きく方針転換したそうです。
以降、有識者委員会の設置、グリーンビジョンの発表、大規模イベントでは初となるGHGプロトコルの導入、ISO 20121の取得など、本格的な取り組みが加速しました。
石川氏は、これらの経験や成果を万博だけで終わらせず、日常的な展示会や国際会議に広く普及させるため、業界団体に働きかけ「イベント・MICEサステナブル運営コンソーシアム」の設立に至ったと説明。グローバル化が進むMICE業界において、サステナビリティへの対応は次世代にとって大きな意味を持つと、その意義を力説しました。
「GHGプロトコル」とは、企業などが自らの事業活動でどれだけ温室効果ガスを排出しているかを計算・報告するための、国際的に標準的なルールです。

人権、環境、調達まで。万博が実践する包括的サステナビリティ戦略
登壇者:万博協会 持続可能性局長 永見靖氏
永見局長からは、万博運営の基本方針として「サステナブル」と「インクルーシブ」が重要視されていることが紹介されました。特に、人権問題への取り組みを明確化するため「インクルーシブ」を別途掲げた点が特徴的です。
この方針を強固にするため、国際認証ISO 20121に基づいたESMS(持続可能性管理システム)を導入。SDGsの5つのP(Planet, People, Prosperity, Peace, Partnership)に基づき、PDCAサイクルを回していると説明しました。
具体的な取り組みとして、以下の点が挙げられました。
- 人権への配慮: 人権デュー・デリジェンスを実施する初の万博となった。工事現場の労働者から来場者まで、万博が影響を与える可能性のある人権を特定し、対策・評価を行う。ハード・ソフト両面でのユニバーサルデザイン/サービスガイドラインも策定。
- 環境対策: GHGプロトコルに基づき、サプライチェーン全体(スコープ1~3)での温室効果ガス排出量を算定・推計し、削減策(省エネ、電化、オフセット燃料等)を検討。
- 廃棄物削減: リサイクルに加え、リユースを最優先。万博終了後の施設や資材の再利用先を募るウェブサイト(「ミャク市」を示唆)も運営。
- サステナブル調達: 物品調達において、環境・人権への配慮をルール化し、サプライチェーン全体での遵守を要請。
- 来場者参加: 給水スポット設置によるマイボトル利用の推奨や、フードロス削減への協力呼びかけ。
永見氏は、これらの万博での取り組みが、将来の日本のイベントにおけるサステナビリティの基準となることへの期待を述べて締めくくりました。
ミャク市 Webサイト https://www.reuse-materials.jp
プロジェクト概要:リユースマッチング事業は、万博終了後に発生する建築物やアート、建材・設備、什器・備品等の資源の有効利用を図り、サステナブルな万博運営を実現するための取り組みです。Webシステム「万博サーキュラーマーケット ミャク市!」は一度使ったものを再利用してもらうことを目的とした、需要と供給をマッチングさせるサービスです。ごみの発生量を抑制し、環境にやさしい社会を目指します。
ミャク市 Webサイトより引用
「ISO 20121」とは、展示会や国際会議、スポーツ大会などのイベントを、持続可能性(サステナビリティ)に配慮して運営・管理するための仕組み(マネジメントシステム)を定めた国際規格です。
Part 2:海外パビリオンに見るサステナビリティの最前線

オーストラリア館:「心躍る太陽の大地」が実践する循環経済
登壇者:パートナーシップ・プログラム担当 コンスタンティン・ニコラコプロス氏
ニコラコプロス氏は、日本とオーストラリアが共にネットゼロと循環経済を目指す中、万博はグリーンイニシアティブにおける絶好の協力機会だと述べました。オーストラリア館では、建築、運営、プログラムの3つの側面で持続可能性を徹底的に実践しています。
パビリオン建築:パビリオンの主要構造の約80%に、過去のイベントで使われた資材を再利用。農業廃棄物の麦わらから作られた革新的建材「デューラパネル」を採用。環境負荷削減と炭素固定に貢献し、会期後は分解可能。サスティナブルなパネルが使われ、来館者の快適な環境にもつながる。ミャク市にも期待している。
運営:カフェのキャビン、厨房設備、家具、空調設備に至るまで、レンタル品を積極的に活用し、会期後の再利用を徹底。植栽のユーカリなども日本の園芸店に返却し、別の場所で再活用する計画。
体験と食:包装は全て生分解性素材、提供する牛肉やマグロもサステナビリティ認証を取得したものを使用。先住民アボリジニの「大地を守り、無駄をなくす」という知恵を展示の核とし、来場者に持続可能な暮らしのヒントを提示。
オーストラリアパビリオン Webサイト https://www.expoaustralia.gov.au/ja
パビリオンのテーマ『Chasing the Sun ― 太陽の大地へ』
会期中、約150ものビジネスイベントを通じてサステナビリティへの取り組みを発信するほか、9月の「地球の未来と生物多様性」ウィークではネットゼロ実現へのリーダーシップを示すイベントも開催します。
来場者体験においては、パビリオンのテーマ『Chasing the Sun ― 太陽の大地へ』のもと、先住民アボリジニが実践してきた「大地を守り、無駄をなくす」という循環型の暮らしの知恵を紹介し、現代社会へのヒントを提示します。運営面では、万博後の資材を有効活用するため公式のマッチングプラットフォーム「ミャク市」を積極的に活用し、共にパビリオンを創るパートナー企業も持続可能性への努力を基準に選定しています。これらの取り組みは万博の目標に沿うものであり、日本と協力してよりグリーンで命輝く未来を築くという、強い意志を示すものです。
オランダ館:「Common Ground(共通の基盤)」で築く未来
登壇者:陳列区域副代表兼プロジェクトディレクター アイノ・ヤンセン氏

ヤンセン氏は、気候変動などの地球規模課題に対し「共に解決する唯一の方法は、共通の基盤を見い出し、協力することだ」と強調。これがオランダ館のテーマ「Common Ground」(コモングラウンド)であると語りました。今年が両国のパートナーシップ425周年であることに触れ、経済、政治、文化の関係をさらに強化することが両国にとって計り知れないメリットをもたらすと確信していると述べました
パビリオンのメインテーマは「水」。歴史的に水と共存してきたオランダのアイデンティティを外観で表現。パビリオンのファサードと屋根のデザインに反映されており、ライトアップされた球体からは海から昇る太陽のように見え、「新たな夜明け」を掲げているとのことです。同時に、水(水素)を持続可能なエネルギーの鍵と捉えています。

建築とレガシー:万博終了後、パビリオンを淡路島へ移転する計画をパソナグループと発表。イベント資材を廃棄せず、次の活用へと繋げる画期的な事例。使用資材を全てマスター登録し、再利用方法を提示するプラットフォームとして機能させることで、パビリオン自体を「建設資材倉庫」と位置づける。
日本との連携:「Road2Osaka」プログラムを立ち上げ、万博をゴールとせず、その先を見据えた長期的なパートナーシップ強化を目指す。帯水層蓄熱エネルギー貯蔵に関して大阪市、大阪大学とMOUを締結するなど、具体的な協力を推進。
ヤンセン氏は「我々の努力は2025年10月で終わるわけではない」と力強く語り、万博を契機とした継続的な協力への参加を呼びかけました。
オランダパビリオン Webサイト https://orandaexpo2025.nl/ja
ネットワーキング交流会
講演後は300名以上の参加者がネットワーキング交流会に参加しました。

来賓挨拶(日本政府代表):内閣官房内閣審議官 国際博覧会推進本部事務局 次長 井上学様
「JETROからは毎日のようにMICE、ビジネスイベントが行われていると聞いている。万博はビジネスの場でもある。現在、北海道から沖縄まで150以上のプロジェクトを進めている。MICE的な視点で見たときに、リアルで会うことの重要さ、出会わなかった人が出会って付加価値が生まれること、分断が進むなかリアルな交流が”ワクチン”になりうる」との挨拶がありました。

続いて海外代表としてタイ国政府コンベンション&エキシビション・ビューローのSenior Vice President Puripan Bunnag様からの来賓挨拶があり、乾杯となりました。交流会には、オーストラリア、ブラジル、中国、オランダ、韓国、スペイン、タイ、アメリカ、サウジアラビアからの参加があり、国際色豊かな雰囲気に包まれました。





まとめ:万博が拓くMICEサステナビリティの未来
今回のイベントを通じて、大阪・関西万博が単なる祝祭ではなく、MICE産業全体の持続可能な未来を築くための壮大な実験場であり、情報発信の世界的ハブであると感じました。
万博協会自身が過去の計画を見直し、グローバル基準を導入する姿勢。そして、オーストラリア館やオランダ館が示す、資材の再利用からイベント後の移転計画に至るまで、具体的かつ意欲的な実践例。これらは全て、今後のMICEイベントが倣うべき「生きた手本」の宝庫です。
万博がもたらす経験とレガシーを、業界全体で共有し、発展させていくこと。それが、グローバルスタンダードへの対応であり、次世代への責任を果たす道筋となります。本イベントはその重要性を再認識させ、日本のMICE産業の未来を左右する、確かな一歩となったことを強く確信しています。
また、多くの方に会場でご挨拶をさせていただくなか、内閣官房内閣審議官 井上様のご挨拶にあった「出会わなかった人が出会って付加価値が生まれること」を実感しました。「MICE TIMES ONLINE」は一メディアではありますが、MICEイベントに出展することもあれば、出席・参加することもあります。これからもMICEのもたらすものを、当事者として発信することを忘れないようにしたいです。


もちろん、しっかりと大阪・関西万博を満喫しました。あと何度、足を運ぶことになるでしょうか。


