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イベントの取材・レポート

【レポート】スポーツ庁 室伏長官や空手家 清水希容さんも!武道ツーリズムと日本文化を体験する参加型イベントが京都・仁和寺で開催/BUDOツーリズムフェア

柔道、剣道、空手道、合気道、弓道…。「武道」は、日本の武士道に根差した心技体を鍛える運動文化です。現在、スポーツ庁ではその武道を観光資源として活用する取り組みを進めていることをご存知でしょうか。

今回はその取り組みを広めるためスポーツ庁が2024年10月11日に開催した「BUDOツーリズムフェア」に参加しました。「MICE TIMES ONLINE」の編集長 藤井とインターンシップ生 今岡、2名がイベントについてお伝えします。


発祥の地である日本でしかできない「武道ツーリズム」とは

「武道ツーリズム」とは、日本発祥の武道や武術を通じて、スポーツと文化(伝統文化・精神文化)の融合を体験する観光のひとつです。柔道、空手道、剣道、合気道、弓道、相撲…など、日本には和の心を受け継いできた素晴らしいスポーツの文化があります。日本でしか体験できない希少性の高いツーリズムとして、武道が持つ歴史、文化、精神性を学ぶ機会として、世界中から関心を集めています。

武道とBUDO どう違うの?

卓越性・精神性の高い「武道」、ライト層にも馴染みやすい「BUDO」を両輪で推進することで、双方への関心喚起を図り、間口の広い日本独自のツーリズムを創出する。武道ツーリズムのコンテンツは、徐々に取組が増えているものの、まだ認知度等も低いため、これから更に各地域や関係団体間で連携し、開発していく必要があります。武道ツーリズムのコンテンツは、その精神性や伝統・文化等の性質から、以下2つの方向性に大別することができます。

(引用:スポーツ庁「武道ツーリズムとは」https://sporttourism-japan.com/budoBtoB_about.html )


BUDOツーリズムフェア」は秋の京都・仁和寺で開催

武道ツーリズムを日本文化と共により多くの方々に知っていただくため2024年10月11日(金)に、スポーツ庁主催の参加型のイベントが開催されました。

会場は京都市の真言宗御室派の総本山「仁和寺(にんなじ)」。世界遺産“古都京都の文化財”にも構成される京都を代表する寺院の一つです。遅咲きの”御室桜(おむろざくら)”で有名な桜の名所でもあります。今年は世界遺産登録から30年、仁和寺を舞台にどのようなイベントが行われたのかくわしくご紹介します。

イベントの詳細についてはこちら


イベント会場は二王門と御室会館

おもな会場は二王門(におうもん)、御室会館(おむろかいかん)の2箇所に分かれています。二王門 屋外特設ステージでは「清水希容さんによる空手演武」と「室伏スポーツ庁長官と都倉文化庁長官によるトークセッション」、御室会館では参加型の「ミニ武道・日本文化体験」が行われました。


東京五輪メダリスト・清水希容さんによる演武披露

注目は2020年東京オリンピック、銀メダリストの清水希容(しみず きよう)さんによる空手演武の披露です。京都三大門のひとつ二王門をバックにした野外ステージで、太陽が照りつける中、迫力ある演武を披露。演武は3分間。観衆が音を立てずに見守ります。距離はわずか10mほど、清水さんの身体から放たれる強い気迫と緊張感におもわず息を呑みました。

清水さん:「今までは競技の中で演武をしてまいりましたが、こういった場所で、さらに屋外での演武は初めてで良い経験になりました」


我々メディアの前に関係者席があったのですが、演武の直前に、室伏スポーツ庁長官と都倉文化庁長官のおふたりが着席。おふたりの背中越しに演武を拝見しました。

室伏スポーツ庁長官と都倉文化庁長官の背中越しの演武

室伏スポーツ庁長官と都倉文化庁長官、清水希容さんによるトークセッション

スポーツ庁 室伏広治 長官

2004年アテネオリンピック金メダル、2011年世界陸上大会金メダル2012年ロンドンオリンピック銅メダル獲得と多くの功績を収めました。数々の要職を経て、令和2年よりスポーツ庁長官を現在に至るまで務めております。現在は、武道の更なる発展、振興に加え、武道ツーリズムの認知や浸透に向けて、多くのアイディアなどを持ってご尽力されています。

文化庁 都倉俊一 長官

大学在学中に作曲家としてデビュー。「UFO」「どうにもとまらない」「狙いうち」など数々のヒット曲を世に出し、日本レコード大賞作曲賞を始め、数多くの賞を受賞されました。日本の昭和アイドル歌謡全盛期を築いた人気作曲家としても知られています。その後、平成30年に文化功労者に選出、令和3年より文化庁長官を務めておられます。現在は京都に移転した文化庁から、日本の文化芸術の更なる振興発展に向けて、知見を生かし、日々邁進されています。

清水希容さん

大阪府大阪市のご出身で、ミキハウスに所属されています。お兄様の影響で小学3年生のときに空手を始められました。道場の先輩の演武を見て、空手のかっこよさや美しさを感じ、自分を表現できる演武に打ち込まれます。中学時代から全国区で活躍し、高校3年生のときには全国高等学校総合体育大会で優勝史上最年少の20歳で全日本選手権を初制覇すると、そこから7連覇また、世界選手権では2連覇を達成し、2021年の東京2020オリンピックでは銀メダルを獲得するなど、日本を代表する空手家としてご活躍されています。今年5月に競技を引退され、引退後は国内外の空手のイベントや講習会などに参加し、後進の育成や空手の普及活動に取り組まれています。

(トークセッション時のアナウンスより)

日本ならではのスポーツ×文化「武道ツーリズム」の楽しみ方と題してお話を伺います。スポーツ庁が推進している武道ツーリズムとはどのようなものでしょうか?

室伏長官:「我々は日本全国にある様々な武道の魅力をできるだけ多くの方にご理解いただき、楽しんでいただきたいと考えております。武道を見る・体験するだけではなくて、波及効果として、交流人口が増え、インバウンドなどにも影響を与えられると思います」

武道は日本ならではのものであり、伝統、精神文化の色も濃いものと思います。文化的な側面や、国内外の方々から見た魅力・価値という面ではどのようにお考えでしょうか?

都倉長官:「武道とスポーツの違いというのは、単なる武闘家やアスリートということよりも、もう少し精神性の高い修行をしているという位置づけができると思います。よく”心技体”といいますけれども、精神性(=心)は、芸術・文化とつながる部分があると考えています。
”心”という言葉は、日本語にしかないのをご存知ですか? かたちのない”心”に、存在があることをみんな知っています。芸術もまた、高い精神性をもって修行している芸術家がたくさんいます。日本人独特の精神性というものが、たまたまスポーツとして形づくられたのですね。その点では芸術と共通する魅力があると思います」

—今後さらに武道ツーリズムが広がり、世界中の皆さんが楽しまれることと思いますが、今後どのような期待をお持ちでしょうか?

清水さん:「空手の型について、そもそも知らない方や、『オリンピックを通して空手を知った』というお声も聞きます。まずは日本で見てもらえるよう、私自身が足を運んで活動することが大事だと思います。また海外の街中でも演武できるくらい、空手を見てもらえるよう頑張ります。もし何か良い案があれば、教えていいただけると嬉しいです」

室伏長官:「スポーツと芸術文化を一体的に取り組んでいくことは、重要なことです。まさに本日繋ぎ合わせてくれたのが、清水さんの演武だったのかもしれません。武道単体ではなく、武道ツーリズムを切り口に、日本全体を楽しんでいただけるよう進めてまいります」

都倉長官:「3000万人を超えるインバウンドの人たちは、古くから日本が持っているものを、魅力的に感じます。観光庁によりますと、30%はリピーターです。日本の文化は深くて広くて多様。もっと深く知りたいと思わせる奥深いものが日本の文化にはあります。ですから武道ツーリズムを通じて、背景を知りたい、体験したいと思わせられれば、日本の文化観光の資源になり得ると思います。
まだ世に知られていない武道も世界に広めていきたいですね。皆さんに楽しんでもらうと同時に、精神性、つまり日本の文化を理解してもらえるよう、国が率先して支援をしたいと思います」


ミニ武道・日本文化体験

⼆王⾨から数分歩いた先に位置する御室会館では、武道や⽇本⽂化に触れられる体験コーナーが設けられました。

御室会館の外観

2階の会場では、合気道、空手(板割り)、忍者の武道関係者によるデモンストレーションや体験コーナーが並びます。参加者の過半数は外国の⽅で賑わっており、場内のあちこちで英語を⽿にしました。


合気道歴39年!聖地から魅力を伝える田辺道場 五味田さん

⽥辺道場の五味⽥純⼀さんの指導による合気道体験ができます。教わったのは、合気道の基本となる「半⾝」。相⼿のバランスを崩すことが重要だそうです。丁寧に教えてくださり、私よりも圧倒的に⼒が強く、体格の⼤きい先⽣を投げることに成功しました。

ステージに移動し⽇本語・英語ともに流暢な司会のアナウンスのもと、合気道の実演が始まりました。

導⼊では、道場や五味田さんのプロフィールの説明がありました。「合気道歴は 39 年です」と話す五味⽥さんに、鑑賞していた外国⼈の⽅が「ワオ…」と声を漏らす場面も。武道に⼈⽣の⼤半を費やされた五味田さんの演武に、期待が高まります。演武が始まると、先ほどまでの和やかな雰囲気が一変。緊張感の中、固唾を飲んで鑑賞しました。

合気道は⼀対多数を想定しており、全⽅向に注意を向ける必要があるそうです。五味田さんの演武は、観客を巻き込む気迫がありました。

—ご⾃⾝の道場での外国⼈向けの取り組みについてお聞かせください
五味田さん:「2年前にスポーツ庁にお声がけをいただき、BUDOツーリズムの体験エリアとして取り組んでいます。具体的には、熊野古道という世界遺産と共に合気道を体験するというイベントを実施しています。合気道⽣誕の地ということもあって、年間400 ⼈ほどの⽅々にお越しいただいていますね」

—合気道と熊野古道には何らかの関係性があるのですか?
五味田さん:「はい。開祖である植芝先⽣は『わしは熊野神社の申し⼦じゃ』とおっしゃっていたほど、深い関係があります。というのも、植芝先⽣は⼥性の家系だったみたいで、先⽣のお⽗様が熊野神社に何度も男の⼦が⽣まれるよう願掛けをしておられたみたいです。その甲斐あって⽣まれた、植芝先⽣と熊野古道の精神性というのは密接な関係です。ツーリズムに参加される⽅は、合気道と熊野古道の親和性を実感していただけると思いますよ」

—今回イベントに参加してみていかがでしたか?
五味田さん:「他の武道を⾒る機会があまりないので、刺激になりました。参加してよかったです」


⽇本唯⼀の正統派忍び集団、忍びはインバウンドに通じる?

忍者コーナーでは忍者⽤具の展⽰・説明に加え、⼿裏剣体験ができます。案内いただいた武蔵⼀族は、なんと徳川家康と江⼾幕府に仕えた⽇本の忍⼠(忍術を使う武⼠)の⼀族です。

手裏剣体験は、実際にやってみると、なかなか難しい…。⼿裏剣が板に刺さらないのです。お⼿本で⾒た忍びの⽅々のように上⼿くはいきません。丁寧なご指導のもと何回か繰り返し練習し、成功率が上がりました。

忍者パフォーマンスの実演は印結びからスタート。場を清めるために⾏うのだそうです。続いて、長さ180センチほどの剣や棒⼿裏剣を⽤いた技を鑑賞。数ある剣の中でも最⻑のものを使ったパフォーマンスは、迫⼒がありながらも軽やかな印象がありました。それもそのはず、体の使い⽅を熟知した忍者は技に⼒を使わず、⼩柄な⼈でも忍者になることができるのだそうです。観客参加型で和気あいあいとした臨場感あふれる時間でした。

客席から印結びを体験

編集長 藤井が⻑剣を使った技に挑戦!常に身体をひねり続けることを意識するだけで、力を入れなくても長剣を扱うことができました

—普段どういった取り組みをされていますか?
「服部半蔵と武蔵⼀族の柴⽥が伊賀越えの際、徳川家康と共に江⼾に向かったという過去があります。国の仕事をしていたのですね。我々の技がそういった⽤途に使われることは無くなりましたが、⽇本⽂化の広がりや、還元に貢献するための取り組みを⾏なっています」

—具体的にはどのような技を?
「忍者はリラックスするための形や呼吸を⽤います。それに加え、死ぬまで元気でいる必要があるので、なるべく体を壊さないようにする⼯夫も。健康⾯で⼈々を⽀えられる技の普及を⾏なっています」

—英語で対応されている姿が印象的です。外国⼈向けの取り組みについてお聞かせください
「元々、海外の情報を仕⼊れたり交渉したり、隠密を⾏なったりしてきた⼀族ですので、翻訳や外国との関わりの歴史が何百年とあります。外交を⾏ってきたことが地盤となり、現在のインバウンド事業に⼊りやすかったというのはありますね」


今回のようなイベントに参加するだけでなく、⽇本⽂化に関するコンベンションなどでのパフォーマンスを⾏うことも多いのだとか。忍者とは MICE のうち”C” と”E”の境界を軽やかに超えた、特別な存在だと感じました。


人生初の板割りチャレンジ!

最初に訪れたのは空⼿コーナー。横浜武道館による板割り体験が実施されました。
まずは空⼿着と帯を着⽤。次に拳の握り⽅、⽴ち⽅など、簡単なレクチャーを受けます。

いざ板割り!無事に成功!

最後に認定証をいただきました。

—本イベントの参加経緯を教えてください
船橋さん:「横浜市武道館のお声掛けで、横浜市空⼿道連盟としてお⼿伝いに来ました」

—ご⾃⾝の道場では外国⼈向けの体験などは⾏われていますか
船橋さん:「私⾃⾝、国際⼤会への出場経験があるため、現地で何⼈もの海外の選⼿と知り合いました。彼らが⽇本滞在中に、うちの道場にも立ち寄ってくれます。体験というより稽古をして交流していますね。今年はオーストラリアやブラジルから来てくれました。SNSで事前に『この期間で稽古がしたい』という連絡が来ます」

—選手の方以外で、外国⼈の⽅が道場を使う機会はありますか
船橋さん:「近くにオランダ系の学校があり、空⼿に興味のある⽣徒の要望に対応することが多いです。あえて体験の場を設けてはいませんが、過去の海外での⼤会の写真をアップロードしておくと興味を持った海外の⽅から連絡が来ますね」


⽣け花を通して会場を知る

⽣け花コーナーでは、御室流 (おむろりゅう) の⽣け花を体験することができます。御室流とは本イベントの会場である仁和寺に伝えられる⽣け花の流派のこと。武道とは異なるコンテンツでしたが、途切れることなく参加者が集まっていました。翻訳ツールを使って剣⼭について熱⼼に質問する⽅も。
花を⽣けるという⾏いを通し、仁和寺というユニークベニュー※ そのものについての理解を深めることができました。

(御室流⽣け花のレクチャーの様⼦)

※ユニークベニュー
「ユニークベニュー(Unique Venue:特別な場所)」とは、「博物館・美術館」「歴史的建造物」「神社仏閣」「城郭」「屋外空間(庭園・公園、商店街、公道等)」などで、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる会場。(観光庁 Webサイトより引用)


■Editer’s note「取材を終えて」

武道ツーリズムとは。イベントに参加して分かったことは、武道は”スポーツ”であり、精神性を高める”文化”でもあるということです。武道は日本人が大切にしてきた”心”を感じさせ、それが国や地域を越えて多くの人に魅力的に映るのでしょう。世界遺産の仁和寺と武道を組み合わせるなど、ユニークベニューとしての活用もされており、日本の観光資源を活かせるポテンシャルもあります。

参加者の多くは海外の方で、偶然の出会いでイベントに参加した方もいらっしゃいました。特に武道ライト層にとって今回のイベントは、武道の本質に触れるきっかけであり、観光資源としての武道の未来を考える入口だったといえます。MICEにおいても、武道そのものをテーマにしたカンファレンスや国際会議の開催、あるいは国際大会の開催や誘致など、今後も広がりを見せていきそうです。

MICE TIMES ONLINE 藤井

※写真撮影:清見氏(MICE TIMES ONLINE)

MCIEインサイト:一気読みで振り返り!

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