
【海外取材】フィリピン・マニラ「SiGMA Asia 2025」ゲーミング展示会で海外から見た大阪IRの期待値を知る
大阪・関西万博が開催地として注目を集める人工島『夢洲(ゆめしま)』。そのすぐ隣では、統合型リゾート(以下:IR)の建設が進められています。IR開業の2030年を見据え、夢洲に隣接する大型複合施設『アジア太平洋トレードセンター(以下:ATC)』でも取り組みを進めています。
ATCでIR調整担当の井上雄二さんは、アジアのゲーミング産業の最新動向をつかみ、地域経済やIR産業、ゲーミング(カジノ)関連企業への貢献を探るため、フィリピン・マニラで開催された『SiGMA Asia 2025』に参加しました。本記事では、会場や出展ブース、カンファレンスで見えた大阪IRの現在地と、今後の展望について考察します。
※寄稿記事
案内人:ATC 万博・統合型リゾート(IR)調整マネージャー 井上雄二さん

大阪・関西万博においては、パビリオンの建設・運営に関わる多数の海外企業のオフィス誘致、契約管理、英語でのコミュニケーションを担当。大阪ベイエリアMICE事務局長も兼務し、地域の国際MICE誘致や調整業務にも携わる。大学ではアラビア語を専攻し、エジプトとチュニジアへの留学経験あり。
ゲーミング産業の国際展示会「SiGMA Asia 2025」
「SiGMA Asia 2025」はアジア市場におけるゲーミング産業のビジネス促進を図る国際展示会です。コンセプトは「EAST MEETS WEST」。規制当局、オペレーター、アフィリエイト、スタートアップ、投資家、テックイノベーターなど、多様で影響力のある関係者が集まります。
第3回となる『SiGMA Asia 2025』には、20,000人以上の参加者、450社以上の出展、350人以上のスピーカーによるセッションが行われ、過去最大規模となりました。業界の持続的な成長を推進する場となっています。
名称:SiGMA Asia 2025
会期:2025年6月2日(火)~3日(水)2日間 ※6/1(月)はネットワーキング
時間:午前10時~午後6時
会場:SMXコンベンションセンター・マニラ
主催:SiGMA Group(シグマ・グループ)
公式Webサイト:https://sigma.world/asia/
SiGMA Group:キプロスに本社を置き、マルタ、マニラ、サンパウロ、ノイダ、ベオグラードなど世界各地に拠点を持つ、国際的なイベントとメディアを手がけるグローバル企業。
いわゆるゲームだけじゃない「ゲーミング」
ゲーミング(Gaming)とは、娯楽としてのゲーム全般を指す用語で、カジノ業界では事業者や行政、対策機関が連携した合法的で責任あるギャンブル活動を含む広義の意味で使用されます。

フィリピンの首都、マニラ。その南に位置するパサイ市にある会場
「マニラ」はフィリピンの首都で、ルソン島に位置する大都市です。通りではクラクションが鳴り響き、バスにはぎっしりと乗客が乗り込み、夜でもファーストフード店は大勢のお客さんで賑わう…雑多な街の空気から、マニラが持つパワーを感じます。
展示会、ネットワーキングの会場は、マニラの南、パサイ市にあるランドマーク「モール・オブ・アジア・グローブ(Mall of Asia Globe)」の周辺に位置します。「SMモール・オブ・アジア(SM Mall of Asia)」を中心に、200を超えるレストランやカフェ、ショップが集積しており、休憩や昼食にはまったく困りません。
エリア内でも価格帯には幅がありますが、ランチはおおむね2,000円程度で、東京と変わらない水準です。

ベイエリアにはIRが3つ。リゾートやMICE施設開発も計画
タクシーで10分ほどのベイエリアには、3つのIR『Solaire Resort & Casino』『City of Dreams Manila』『Okada Manila』が立ち並びます。新たなリゾート開発も進行しています。また、MICE施設として『SMX Center for International Trade and Exhibitions(SMXCITE)』の開発も計画されており、エリア全体が多くの投資を集める成長拠点となっています。

ウェルカムレセプション:前日からイベントは始まっている
開催前日(6月1日)には、3つのIRを駆け足で視察し、夜はネットワーキングのウェルカムレセプションに参加しました。

参加者のクラスごとに会場が分かれており、経営者や講演者たちは別の会場で、私はカジュアルなブラジルレストランでした。
フィリピン、インドネシア、香港からの参加者と打ち解けることができました。各国のゲーミング規制、フィンテック、アフィリエイト、統合システムソリューションなど、幅広い話題で情報交換を行い、大阪IRの進捗や現状についても簡単に紹介しました。

SMX全館を使った最新ゲーミング技術が集まるイベントに参加
6月2日、3日は展示会とカンファレンスに参加しました。
フィリピン最大のSMXコンベンションセンター・マニラ


会場は『SMXコンベンションセンター・マニラ(SMX Convention Center Manila)』。2007年に開業。フィリピン最大の民間運営による展示・会議施設です。1階が展示ホール、2階がファンクション スペースとなっており、イベントでは全館がフル活用されていました。ホワイエにもブースが並びます。全体を合わせると、20,000㎡ほどを活用しているように見えました。
展示会の様子:出展者の4分の3以上は”iGaming(オンラインゲーミング)”関連企業

スロットマシンの最新仕様はもちろん、日本のカジノ管理委員会が重視する取引時確認(KYC)やマネー・ローンダリング対策(AML)を支えるソリューション、決済システムとの連携などを間近で見られます。
出展者の4分の3以上は”iGaming(オンラインゲーミング)”関連企業。日本ではオンラインカジノ自体が禁止されているため、こうした企業と直接ビジネスの話を進めるのは難しい面もありますね。

企業展示を通じて、ゲーミング業界がどのようにテクノロジーを取り入れて進化してきたのか、規制対応と技術革新を両立させているのかを肌で感じました。これは非常に大きな学びであり、貴重な体験となりました。
これまでインターネットで流し読みしていた知識も、サービスプロバイダーから直接話を聞き、仕組みや動き方を教えてもらうことで、点と点が線で繋がるように理解が深まりました。

強い関心が寄せられるタイ。「次のアジアのラスベガスはどこか?」白熱パネル討論
イベント開始から夕方まで途切れることなくパネルディスカッションが行われ、活発な議論が続きました。テーマは「アジア市場のトレンド」「変化する規制への対応」「市場参入と文化理解」など、事業者が直面する具体的な課題とその解決策を取り上げたものから、「次のアジアのラスベガスはどこか?」といった刺激的な話題まで、幅広く展開されました。
注目したいのは、アジア各地で加速するIR開発と、次の進出先として”タイ”に強い関心が寄せられている点でした。カジノ禁止から規制へと移行しつつある、タイ市場への期待が繰り返し、取り上げられました。残念ながら大阪IRに関する言及はほとんどありません。
またアジア全体で過熱するゲーミングビジネスにおいて、専門性と経験を備えたグローバルな労働力の確保についても議論されました。英語を公用語とするフィリピンの人材が注目され、人材獲得競争の激化が示唆されました。
大阪IRが直面する人材面での課題とも、深く関わる重要なテーマとなっていました。

新参者を受け入れる空気感と、ナイスな人であろうとする態度
また、世界各国の展示会で顔を合わせてきた旧知の間柄なのでしょうか、再会を喜び合う光景があちこちで見られました。人と人との繋がりや信頼関係、そして世界中に張り巡らされたネットワークこそが、産業の大きな基盤だと感じさせられます。
国ごとに異なる規制を先読みし、厳格なライセンス制度に対応するための情報交換も活発で、こうした先見性こそがリスクを避け、事業を前進させる力になると実感しました。
参加者から感じたのは”新参者を受け入れる姿勢”です。知らない相手を排除せず、分からないことを面倒がらずに教えてくれる風土がありました。それはゲーミング業界は常に新しい市場が生まれ、地政学リスクにさらされ、先週まで許可されていた規制が突然変わるような不透明さがあるからこそ。情報をアップデートし続けるためには新しい人との信頼構築が欠かせないと理解していて、自身も「ナイスな人」であろうとする態度を徹底しています。協力的でオープンな空気感は、発見のひとつでした。

情報も人脈もタダではない、参加費は585ドル
参加費はネットワーキング参加費も含み、585米ドル、日本円にすると約8万5千円。決して安くはありません。オペレーター事業者や、いわゆる「Cクラス」(カジノの経営幹部クラスなど特定の業界内ポジション)は参加費を免除されます。これから関わろうとする参加者には、しっかりと費用を課す仕組みです。情報はタダでは手に入らないことを実感します…。

おわりに:日本と海外の温度差を痛感。大阪IRは足踏み、タイ市場への熱視線
タイ政府の動きが業界関係者の関心集めている
ゲーミング産業に私はバックグラウンドはないものの、知れば知るほど、その奥深さや魅力を強く感じます。
『SiGMA Asia 2025』では、大阪IRに対する日本と海外市場との温度差が顕れていました。出展者へのヒアリングでは、大阪IRに対する期待感は全体的にトーンダウンしている印象を受けました。開業までの計画の遅れや、事業者への規制範囲と方法の不透明さが、大阪でのビジネス展開を検討するうえで足かせになっているようです。
一方で、タイでは2025年1月に内閣がギャンブルおよびカジノを合法化する法案を承認し、観光や雇用、投資を戦略的に促進する方針を打ち出しています。こうした動きは業界関係者の関心を大きく惹きつけており、展示会でもタイ市場への期待が強く語られていました。
「日本人が海外に出向くことが重要だが、まだそのような動きが見られない」
カンファレンスステージにて、登壇されていた日本人の方とお話しできました。私が唯一出会った日本人です。ゲーミング業界でのバックグラウンドをお持ちで、大阪IRプロジェクトにも関わられてきました。「日本で新たにゲーミング産業を育てるには、日本人が積極的に海外に出向き、情報収集やネットワーク構築を進めることがますます重要になっているものの、現状ではまだそのような動きが十分には見られない」とのことでした。
今後の主要なゲーミング関連展示会としては、2025年10月にラスベガスで開催予定の『Global Gaming Expo(G2E)』(主催:RX社)が控えています。ランドベース型カジノ(従来の施設型カジノ)を中心とした製品展示や商談が行われる予定です。
私も今後、最新情報の収集や、国際的な関係構築をさらに進めていく予定です。
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