
欧州最大級テックイベント「VivaTech 2025」グローバル市場へのゲートウェイと日本企業の戦略
2025年6月11日から14日までフランス・パリで開催された「Viva Technology 2025(VivaTech 2025)」は、欧州最大級のスタートアップ&テクノロジーイベントとして、今回で9回目を迎えました。総来場者数は過去最高の180,000人に達し、14,000社ものスタートアップ、3,600人以上の投資家、4,000社以上の企業パートナーが集結しました。会期中には640,000件以上のビジネスコネクションが記録されるなど、活発な交流が行われました。本記事では、この活気あるイベントについてご紹介します。

VivaTechとは何か?欧州最大級テックイベントの全体像
ミッションと成り立ち
VivaTechの核となるミッションは、スタートアップ、テックリーダー、大企業、投資家を結びつけ、イノベーションを加速させ、現代社会が直面する大きな課題に対応することにあります。その理念は、「ビジネスがイノベーションと出会う場所」に集約されています。2016年にフランスの大手メディアグループと世界的な広告代理店によって設立されたこのイベントは、フランス政府の「フレンチ・テック・イニシアチブ」とも密接に連携し、欧州のイノベーション政策を象徴するプラットフォームとしての地位を確立しました。

驚異的な成長と規模 2025年は18万人が参加
VivaTechの参加者数は驚異的な成長を遂げています。2016年の初開催時には45,000人だった参加者数は、年々増加を続け、2025年大会では過去最高となる180,000人を記録し、名実ともに欧州最大のテックサミットとしての地位を不動のものとしました。イベントは毎年、パリ市内の大規模展示会場で4日間にわたって開催され、最初の3日間はプロフェッショナル向け、最終日は一般公開日と設定されています。この規模は、欧州、特にパリが世界のテクノロジーイベントの勢力図において中心的な役割を担い始めたことを示す重要な転換点と言えるでしょう。
グローバルエコシステム 会期中に64万件のビジネスコネクションを記録
VivaTech 2025の規模と国際的な広がりは、その主要指標からも明らかです。日本でも多くのスタートアップイベントが開催されるようになりましたが、VivaTechは文字通り桁違いのスケールです。
総来場者数180,000人に加え、14,000社のスタートアップ、3,600人以上の投資家、そして4,000社以上の企業パートナーが参加しました。171カ国からの来場者と120カ国以上の出展国、50以上の国別パビリオンがその真にグローバルな舞台を示し、会期中には640,000件ものビジネスコネクションが記録されています。この二重性は、ハイレベルな戦略的議論の場であると同時に、具体的な商談やパートナーシップが生まれるB2Bマーケットプレイスでもあるという、VivaTechのユニークな特徴を際立たせています。

2025年のトレンド:AI、サステナビリティ、そして欧州の技術主権
成熟期を迎えたAI革命:目新しさから社会インフラへ
2025年のVivaTechにおいて、人工知能(AI)は議論の余地なく中心的なテーマでした。AIに特化した出展者数は前年比で40%増加し、会場の熱気は最高潮に達しました。注目すべきは、AIに関する議論の質的変化です。生成AIの登場による「魔法のような目新しさ」から、技術をいかにビジネスに「統合」し、「規制」し、そして「具体的なインパクト」を生み出すかという、より成熟した段階へと移行していました。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOはAIを国家の競争力を左右する「インフラ」として捉え直す新たなビジョンを提示しました。
テクノロジーの地政学:欧州の「デジタル主権」探求
VivaTech 2025の全体を貫くもう一つの強力なテーマは、欧州の「デジタル主権」、すなわち技術的自律性を確立するという戦略的要請でした。これは、政治指導者とビジネスリーダー双方によって繰り返し強調されたテーマです。エマニュエル・マクロン仏大統領は、欧州独自のAIへの投資を、単なる経済競争ではなく、文化と歴史を守るための戦いと位置づけました。このビジョンを具現化する重要な発表がNVIDIAとフランスのMistral AIとの戦略的パートナーシップであり、欧州向けの主権AIインフラ「Mistral Compute」を構築することを目的としています. これは、米国および中国を拠点とするクラウド・AIプロバイダーに代わる選択肢を提供することを目指しています。

「Impact Bridge」の設置:インパクトとサステナビリティの台頭
VivaTech 2025は、利益追求だけでなく、社会課題の解決を目指す「パーパスドリブン(目的志向)」なイノベーションを強く推進しました。その象徴が、フランス電力(EDF)の支援を受けて設置された「Impact Bridge」です。これは、環境や社会に貢献するプロジェクトに特化した1,500平方メートルの展示スペースです。さらに、VivaTechのイベント運営自体が、持続可能なイベントマネジメントに関する国際規格ISO 20121の認証を取得しており、CSR(企業の社会的責任)への本格的なコミットメントを示しています。このテーマは、各種アワードにも明確に反映され、社会課題を解決するソリューションが高く評価されています。

スタートアップのためのエコシステム:VivaTechを最大限に活用する方法
資金と顧客との接点:マーケットプレイスとしての機能
VivaTechは、グローバルな投資家へのアクセスを提供する、欧州屈指の資金調達の場となっています。3,600人以上の投資家が集結し、Accel、KKR、Lightspeedといった世界で影響力のあるベンチャーキャピタルが名を連ねています。イベントでは投資家専用のネットワーキングスペースやVCが自社の投資哲学をプレゼンする「Investor Reverse Pitch」といった仕組みが用意され、公式データによれば、参加スタートアップの75%がVivaTechで適切な投資家と出会っています。
数多くのチャレンジとアワードによる認知度向上
VivaTechでは、LVMHやOrangeといった大手企業と提携し、40以上のスタートアップチャレンジが開催されています。これらのチャレンジへの参加や受賞は、無料の出展スペース、企業の意思決定者へのアクセス、メディア露出、さらにはインキュベーションプログラムへの参加といった多大なメリットをもたらします。2025年には、LVMHイノベーションアワードやFemale Founder Challenge、AfricaTech Awardsなど、多岐にわたる分野で革新的なスタートアップが表彰され、市場の評価軸が示されました。
実践的な会場活用とネットワーキング
VivaTech公式アプリは、イベントを成功させるための必須ツールであり、参加者は個人的なアジェンダの作成、インタラクティブマップでの会場ナビゲーション、他の参加者との直接的なネットワーキングが可能となります。AIやサステナビリティといったテーマに沿ったキュレーションガイドや、パーソナルアシスタントのように最適な回り方を提案する「AI Navigator」といった新機能も、参加者の体験を最適化しました。また、「Viva After Work」のような公式サイドイベントは、リラックスした雰囲気の中で質の高いインフォーマルなネットワーキングの機会を提供しています。

日本企業にとってのVivaTech:欧州市場進出の戦略的考察
確立された日本の存在感:成功の土台を活かす
日本は、VivaTech 2024において主賓国である「Country of the Year」として迎えられ、その勢いは2025年も継続されました。日本貿易振興機構(JETRO)は「Japanパビリオン」を設置し、海外展開を目指す日本のスタートアップ20社の出展を支援しました。これらのスタートアップはAIやロボティクス、クリーンテックなど幅広い分野を網羅しています。また、東京都や愛知県、京都市、仙台市といった地方自治体も「ジャパン・ヴィレッジ」エリアを出展し、日本勢スタートアップによるピッチが行われました。
成功への道筋:日本スタートアップのケーススタディ
Heralbonyは、知的障害のあるアーティストのアート作品ライセンス事業を展開し、2024年のLVMHイノベーションアワードを受賞しました。この成功は、社会的インパクトとD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に根差したビジネスモデルが欧州を代表するラグジュアリー企業の価値観と強く共鳴した結果と言えるでしょう。また、視覚障害者向けの足装着型ナビゲーションシステムを開発するAshiraseは、「VivaTech 2025で見逃せない6つのスタートアップ」の一つとして公式に紹介され、社会課題を解決する日本の「ディープテック」への欧州市場の関心を示しました。
欧州の技術主権という潮流への戦略的対応
欧州の技術主権確立に向けた動きは、日本企業を排除する保護主義として捉えるべきではありません。むしろ、米国と中国の二極支配に対する第三の選択肢を創出しようとする、多極的な技術世界への移行と理解できます。この文脈において、高品質な製品、長期的な研究開発へのコミットメント、そして独自のビジネス文化で知られる日本企業は、欧州にとって理想的な「第三のパートナー」となりうる独自のポジションを占めています。欧州市場への参入を成功させる鍵は、データプライバシー(GDPR)、サステナビリティ、責任あるAIなど、欧州の中核的な価値観との整合性を示すことにあるでしょう。
VivaTech 2026(10周年記念大会)に向けた実践的提言
VivaTech 2026は、6月17日から20日にかけて開催される10周年の記念大会となります。この特別な機会を最大限に活用するため、日本企業にはJETROとの連携を最も重要な第一歩として推奨いたします. JETROが主導するJapan Pavilionへの参加を目指すことで、出展費用の補助、ロジスティクス支援、質の高いネットワーキング機会といった多大な恩恵を受けられます。会期前のターゲットリサーチ、自社のピッチストーリーの精緻化、そして会期中の計画的なネットワーキングと迅速なフォローアップが成功の鍵を握るでしょう。
VivaTech 公式Webサイト https://vivatechnology.com/

まとめ:日本企業にとって”未来”へのゲートウェイとなるVivaTech
VivaTechは、単なるテックイベントを超え、日本企業がグローバル市場における自身の位置を理解し、未来志向のビジネスを創造するための重要な学びの場です。JETROをはじめとする手厚い支援を活用することで、欧州市場への「友好的な市場参入」が可能となり、成功の確率を劇的に高めることができます。このイベントで得られる刺激と人脈は、日本発のスタートアップが世界で一層躍進していくための計り知れない価値を提供してくれるでしょう。
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