【インタビュー】韓国IR「インスパイア・エンターテイメント・リゾート」担当者チェさんに聞く、MICE戦略と大阪IR時代を見据えた動き【韓国2025秋特集8】
大阪・関西万博を終え、2030年開業予定の統合型リゾート(IR)に期待が高まる日本。IRは本当にMICEの力になるのか。その問いに答えるヒントが、韓国・仁川の「インスパイア・エンターテインメント・リゾート(以下:インスパイア)」にありました。
本記事では、
・インスパイアはMICEシーンではどのように利用されているのか
・どこにターゲットを定めているのか
・大阪IRが学べるポイントは何か
を、現地取材と国際MICEセールス担当・Choiさんへのインタビューから紐解きます。
インスパイア・エンターテインメント・リゾートとは

統合型リゾートである「インスパイア・エンターテインメント・リゾート」。2023年末に開業したばかりの施設です。カジノをはじめとするエンターテインメント施設に加え、5つ星ホテル、最新鋭の会議場、アリーナなどを併設。アジアを代表するIRのひとつとして注目を集めています。
施設について詳しくご紹介しています
国際MICEセールス担当 チェ・ダソムさん
日本のホテルで働いた経験もあるチェさん。関西弁しか話せない私にとって、日本語でコミュニケーションが取れることがなんと心強いことか…。館内を丁寧に案内してくださり、インタビューにもお答えいただきました。

「これは大阪(IR)では、真似できないと思います」
15,000席級のアリーナを持つIRは珍しい

アジアの他施設と比べて、インスパイアが持つ最大の強みは“アリーナ”の存在。実は、アリーナを併設しているIRはインスパイアのみ。収容人数は約8,000〜1万人規模にのぼります。

大きな鍵は“Kカルチャーのコンテンツ”
「韓国は、独自のコンテンツが次々生まれ続けています。アリーナとコンテンツを組み合わせて展開・集客が叶います。これは大阪では真似できない部分ではないでしょうか。毎週のようにK-POPや海外アーティストのコンサートが開催されています」

2026年2月22日には松田聖子さんの初の韓国公演が決定。これまでにも「米津玄師」「なにわ男子」「YOASOBI」など、日本のアーティストがインスパイアアリーナで公演を行ってきました。

アリーナ単体だけでなく、他の会場と組み合わせて利用ができるのも、インスパイアの強み。コンサートの際には宴会場・会議室を控室に。eスポーツの「LoL(リーグ・オブ・レジェンド)」では、大会後にファンミーティングが宴会場で行われました。一体運営かつ、複数タイプの施設を持ち合わせているから実現できますね。
週末の宴会場確保が難しいソウル
「海外からのインセンティブツアーや大規模会議は、週末のニーズが高いです。ソウルの宴会場は、週末になるとウェディング(婚礼)で埋まってしまうことが多くて…。その点、インスパイアではウェディングを行っていないため、週末でもMICE利用が可能。ソウル市内の施設と比べて大きな強みになります」

企業PRができる巨大スクリーンに変身
「オーロラの天井スクリーンは、企業ロゴを映し出すなど、オリジナルカスタマイズができます。プロモーションにも活用されていて、以前はフェラーリの展示イベントで、スクリーンに車の映像を流し、実物を展示したことがあります。スペースが広く、車両など比較的大きなものを展示できます」

利用事例:世界中から数千人が集まる大型インセンティブイベントの受け皿に
「アムウェイやニュースキンのようなネットワークマーケティングの企業は、世界中から何千人ものメンバーが集まる大規模イベントを開催します。アリーナで何千人かのイベントを行った後、宴会場でお食事をとられます。また、社員旅行を目的とした中小企業からの問い合わせも多く、幅広いニーズに対応しています」

カジノ需要を見据えた日本と中国市場への重点的なアプローチ
リゾート全体の売上を牽引する「促進剤」
リゾート内には韓国内最大規模の外国人専用カジノがあります。約150台のテーブルゲームと約390台のスロットマシン。カジノはリゾート全体の売上を引き上げるための”きっかけ”であり、”促進剤”と位置付けられています。

カジノ需要を見据えた日本と中国市場への重点的なアプローチ
「参加者は、ホテルやレストラン、リテールショップ、カジノなど、リゾート内のさまざまな施設を利用。施設全体を回遊し、利用の促進剤として機能させたいと思っています。
開業当初、国内(韓国)の団体のご利用が多かったのですが、カジノは外国人専用の施設ということもあり国際営業に集中しています。私たちが注力する国は、日本と中国。カジノを好む方が比較的多いという傾向があるからです。
日本のMICE利用は年々増えています。2025年11月にも日本の団体が3件連続で予定が入っています」
日本語対応スタッフによるきめ細かなサポート体制
「日本からお越しの方は、カジノを楽しむ方・そうでない方が分かれることがあります。
あらかじめ人数を把握し、日本語での案内準備をしています。日本語に対応できるスタッフは、MICE営業チームには私ともう一人、日本人のマーケティング担当者、フロントスタッフにおります」

予測が難しいFIT客とは違うMICE団体の確実な収益性
「観光目的の個人のお客様(FIT)ももちろん多くいらっしゃいますが、その数は時期によって異なり、予測しづらくて…。MICEは1度に何百人、何千人という団体の方が動くため、予測しやすくなります」

大阪IRの開業を見据えたインスパイアの長期的な展望
「大阪IRは工事が始まった段階で、スケジュールもまだ不透明です。日本のカジノ法案の進展によっても変わるため、現時点ではその影響を意識していません。ただ、開業すればアジア最大級のIRになるでしょう。国外からの集客をさらに強化して、リゾート全体のポジションを高める必要があると考えています」
インスパイアは全体で4段階の開発計画があり、現在は第1段階が完了。今後さらに開発が進みます。オーナーが変わり、運営方針や営業戦略もアップデートされる予定です。
※2025年12月1日付けで、ゴ・ギュボム(Gyubum Ko)さんがCEOに就任される予定です。

「今後はゴルフ場の建設や、隣に新しいホテルが建設される予定です。インスパイアの土地は仁川市(インチョンシ)から借りているもの。協力しながら、国・企業の両面でどう開発していくか話し合いを進めています」
現在の計画では、2046年までの長期開発が予定されています。

まとめ:「ここまで便利なの?」IRはMICEの価値を高められるもの
今回の取材を通じて、インスパイア・エンターテインメント・リゾートが持つ強みを数多く伺うことができました。
まず圧倒的なのは、大規模アリーナを併設したIRである点です。単体の会場では提供できない体験が、一体運営だから実現します。IRは、MICEの受け入れの幅が広がり、その価値を飛躍的に高められるものだと思いました。また、仁川国際空港から車でわずか5分という点も見逃せません。大阪IRが誕生しても、空港直結という条件は再現が難しく、ここはインスパイアの揺るぎない強みになるでしょう。MICE候補地として日本の企業からも選ばれていることが取材で分かりました。
道中、車窓からは開発の余地がある広大な敷地が広がっていました。開発が進むインスパイア・エンターテインメント・リゾートは、MICEのディスティネーションとして、IRの先行事例として、訪れていただきたい場所です。
