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【取材】京都発、アートの空間ブランディング「Casie」が展開する法人向け事業 MICEやイベントシーンにアートを取り入れることが、滞在価値を高める

ビジネスイベントやオフィス空間のあり方が問われる今、アートによる空間ブランディングサービスを展開する株式会社Casieが法人向け事業を本格化させています。CasieはMICE TIMES ONLINE編集部と同じ京都の企業。以前から様々なメディアでも注目されてきたスタートアップです。MICEやイベントシーンにおけるその可能性について、BtoB事業を牽引する同社CBO中島健仁さんにお話をうかがうため、Casieを訪ねました。

Louis Vuitton / ルイ・ヴィトン 福屋八丁堀店
Louis Vuitton / ルイ・ヴィトン 福屋八丁堀店

ビジネスの現場で求められるアート

株式会社Casieは、月額制でアートをレンタルできるサブスクリプションサービスを提供しています。一般的には個人宅向けのサービスとして知られていますが、実は以前から、積極的な営業を行わずとも利用者の約3割から4割が法人顧客で占められていました。中島さんによれば、法人顧客は個人顧客に比べて、より長期間に渡りサービスを継続する傾向が出ていたそうです。アートがオフィスや店舗に設置されることで、空間の質が変わり、なくてはならない存在として定着していたのです。

この実績を背景に、同社は法人向け需要の可能性を見出し、「Casie for Business」としてサービスを再定義しました。中島さんは、アートを単なる鑑賞物としてではなく、ビジネスや社会課題を解決するためのツールとして位置づけています。これまでの「絵を飾る」という行為を、企業のブランディングや従業員のエンゲージメント向上、そして来訪者とのコミュニケーションを促進する「伴走者」を迎えることだと捉え直したのです。

Casie for Business

お話をうかがった 株式会社Casie CBO/中島健仁さん(Taketo Nakajima)

みずほ銀行に約12年間勤務した金融のプロフェッショナルという経歴を持つ中島さん。アート業界にはビジネスや金融のバックグラウンドを持つ人材が少なく、自身の経験が価値を発揮できることに気づきました。

Casieにジョインした理由のひとつは、親族にアーティストがいたことです。一見成功しているように見えるその親族から「もっと作品を売りたいが、流通の方法がわからない」という悩みを聞き、アートを社会に流通させる仕組みを作る必要性を強く感じたそうです。当時のCasieは東京でBtoB展開を推進できる人材を求めており、中島氏は「金融・ビジネス×アート」という新たなキャリアを築くため、そしてアーティストが経済的に報われる土台を作るために参画しました。現在は、ビジネスの論理とアートの世界を繋ぎ、ビジネス空間におけるアートの価値最大化に取り組んでいます。

シェアオフィス&コワーキングスペース・WORKING SWITCH ELK(大阪)
シェアオフィス&コワーキングスペース・WORKING SWITCH ELK(大阪)

会場やイベントごとにアートを”着せ替えること”の意味

MICEやイベントの場には、「何を伝えたいのか」「誰のための場なのか」という明確な意図があります。Casieはその意図に合わせて、作品に意味を持たせたり、複数作品で会場全体に文脈やリズムを生み出したりします。

たとえば地域性を重視するイベントでは、土地にゆかりのあるアーティストの作品を選ぶことで「この場所らしさ」が自然に伝わります。アートを固定すると空間の意味も固定されますが、着せ替えられる状態にしておけば、同じ会場でもイベントごとに異なる表情をつくれます。アートは完成された答えではなく、その都度、場に合わせて意味を編み直す存在になります。

「MICE会場において、アートは主役になる必要はないと考えています」

MICEにおけるアートの活用や意味を考えている読者の方も少なくないと思います。アートを導入することで、来場者の行動や会場の空気にどのような変化が生まれると感じているかについて、次のようにお話いただきました。

「MICE会場では、アートが主役になる必要はないと私たちは考えています。国際会議やビジネスイベントの中心は、議論や出会いそのものです。アートの役割は目立つことではなく、参加者が自然に場に入り込み、集中し、対話しやすい状態を整えることだと思っています。

待ち時間は、何もない空間だと時間を消費している感覚になりがちですが、アートがあることで視線が上がり、「見る」「感じる」という行為が生まれます。交流の場面でも、会話を強制するのではなく、「この作品、どう感じましたか」といった一言が生まれる余白をつくり、場の空気をやわらげ、記憶に残る体験につながっていくということです」

Casie内 Kyoto Art Gallery
Casie内 Kyoto Art Gallery

空間の「意味」を翻訳するキュレーション力、アーティスト1500名・作品16000点が生み出す価値

MICEの現場において、主催者が頭を悩ませるのが空間づくりです。無機質な会議室やホールを、いかにしてイベントのテーマに沿った、熱量のある空間に変えるか。こういった場面で、Casieのキュレーション力は発揮されます。

中島さんは、導入に際して「どんな絵を飾りたいか」ではなく、「この場をどんな場所にしたいか」「参加者にどんな状態で帰ってほしいか」を問いかけるといいます。アートの役割は、主役になることではなく、その空間の意図を翻訳し、参加者の体験を静かに支えることだからです。

たとえば、地域創生をテーマにしたカンファレンスであれば、その開催地にゆかりのある出身アーティストの作品を選定することで、参加者に土地の文脈を身体感覚として伝えることができます。また、スタートアップが集まるイノベーションイベントであれば、新しい価値観を予感させる現代的な抽象画を配置し、場のエネルギーを高める演出も可能です。

所属するアーティストが全国に存在し、多様な作風を持っていることがCasieの強み。イベントの趣旨や企業のコーポレートカラー、さらには季節感に合わせたきめ細やかな提案が可能になります。なんとなく美しい絵を飾るのではなく、空間に意味を持たせ、参加者の無意識に働きかける「機能」としてアートを活用する。1,500名を超えるアーティスト、16,000点以上の原画作品を保管するCasieだからこそ提供できる価値です。

Casie for Business

主催者の負担になりかねない新しい取り組み。万全のサポート体制で対応

MICEは同じ会場でもイベントごとに文脈が変わるため、受付や導線、ホワイエ、待機スペースなど体験に影響するポイントを押さえ、アートを「どこに、どう置くか」まで含めて設計します。期間限定イベントでは会期中のみの展示やイベント単位での入れ替えが現実的で、レンタル前提のため大きな初期投資なしで試せる点も特徴です。

現実的にMICEやイベントシーンに適した仕組みが構築されています。MICE主催者にとって、新しい取り組みを導入する際のハードルとなるのが運用の手間です。しかし、Casieのサービスは、作品の選定から配送、設置、そして撤去までを専門スタッフが一貫してサポートする体制が整っています。

中島さんは「ただ、絵を貸し出すだけでなく、空間全体のコーディネートから現場での作業までを「丸ごと任せてもらえる」ことが、忙しいイベント担当者にとって大きなメリットになります」と強調されていました。

ビジネスイベントでの作品展示はアーティストの高いモチベーションにも

アーティストにとって自身の作品が公共性の高いビジネスイベントで展示されることは、多くの人の目に触れる絶好の機会であり、モチベーションの向上につながるそうです。

地域や事業につながるアーティストや作品の起用、何らかの背景をもつアーティストの応援。こういったことは、企業にとっては新しい形の社会貢献にもなります。企業とアーティストが対等なパートナーとしてコラボレーションし、新しい価値を共創する。MICEはその実験場としても機能します。


ザ・プリンス京都宝ヶ池
ザ・プリンス京都宝ヶ池

MICE産業が抱える課題とサステナビリティの親和性

MICE業界は今、世界的なサステナビリティの潮流の中にあります。従来のイベント装飾は、短期間で大量の資材を消費し廃棄する「スクラップ・アンド・ビルド」が主流でした。しかし、環境意識の高まりとともに、廃棄物を出さないイベント運営が強く求められています。フードロスや大量に配布される紙の資料など課題があります。

Casieのアートレンタルは、作品を循環利用する仕組みそのものです。この「循環するアート」という概念こそが、SDGsやESG経営を重視する現代の企業やビジネスイベントにおいて、強力なメッセージになるのではないでしょうか。

イベント主催者や会場が「環境に配慮してアートをレンタルし、アーティストを支援している」というストーリーを打ち出すことは、ただ、アートを装飾として用いる以上のブランディング効果をもたらしそうです。参加者に対しても、その空間が持続可能な社会の実現に寄与していることを、言葉ではなく視覚的な体験として伝えることができます。

Casie内 Kyoto Art Gallery
Casie内 Kyoto Art Gallery

「滞在価値」を高めるCasieのサービス

筆者は国内外のイベントや展示会で出展、取材をする中で、同じ来場者数なのに活気があるものと、閑散としているものがあることを実体験で知っています。この差は会場での滞在時間と来場者の主体的な行動から生まれていることがあると考えています。

機能性を重視するあまり殺風景になっていたり、ホスピタリティがなく会場を巡ってみようという気にならない…休憩スペースもなく、長く滞在する気にならない。スタッフが座ってスマホをいじっていてやる気がない、士気の低い会場。幾度となく見てきました。

一方、会場内にカフェやユニークな展示を配置した「居心地の良い空間」が設計され、人々が長時間滞在し、そこから自然な交流や商談が生まれているケースもあります。

Casie for Business
(左)代表取締役 藤本さんと(右)CBO 中島さん

Casieが提供するサービスは、この「滞在価値」の向上に大きく貢献するのではないかと、その可能性を感じずにはいられません。何もない壁面は単なる通路ですが、そこに一枚のアートがあるだけで、ふと足を止め、視線を上げ、隣の人と会話が生まれるきっかけになります。中島さんは、アートが会話の「伴走者」や「きっかけ」になると表現します。

特に、言語や文化の壁がある国際会議やインバウンド向けイベントにおいて、アートは共通言語としての役割を果たします。言葉を介さずとも、その空間の雰囲気や主催者の美意識を共有できるアートは、来場者の心理的な壁を取り払い、リラックスした対話の場を創出する一助となるでしょう。無機質な「会場」を、人が集い交流する「居場所」へと変える力が、アートにはあります。

効率や機能性が追求されがちな日本のビジネスシーンにおいて、Casieは「感性」や「意味」、「サステナビリティ」といった、今のの時代に不可欠な価値を提供します。「Casie for Business」は、日本のMICE産業が世界基準の競争力を持つために必要な、ソフトパワーの欠落を埋める存在になるのではとワクワクできた取材でした。

株式会社Casie について

Casie for business Webサイト https://forbusiness.casie.jp/
会社Webサイト https://casie.jp/

代表者:代表取締役 藤本 翔 / 取締役共同創業者 清水 宏輔
本社:京都市下京区俵屋町218

アートを定額制でレンタルできるサブスクリプションサービスを展開。約1,500名の登録アーティストによる16,000点以上の作品を保有し、作品がレンタルされることでアーティストに収益が還元され、創作活動を持続可能にする仕組みで、アーティストの支援や文化芸術活動にも貢献。
現在、法人向けサービス「Casie for Business」を強化しています。具体的な実績には、ルイ・ヴィトンやJEANASISといったブランド店舗の空間演出、ザ・プリンス 京都宝ヶ池や妙心寺でのイベント開催などがあり、単なる装飾にとどまらず、企業のブランディングや空間の「意味」を設計するパートナーとして活動しています。

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