
第3回 出展者へのインタビュー BGBEは他のイベントとどう違うのか、出展者の声を通して探ります
「BGBEが描く来場者2倍の夢。挑戦する人たちを1年にわたって追う」第3回
国内最大級のボードゲームビジネスイベント「Board Game Business Expo Japan」(以下、BGBE)。大きく成長するイベントを追いかける企画の第3回です。今回はこれまで出展された方にお話をうかがいました。他のゲームイベント・販売会とBGBEの違いを通して、出展者が支持するイベントの形を探ります。

配慮の運営がもたらす、出展者の「私たちも力になりたい」という思い
ゲームで使用するグッズを手がける @Dokkoi_JP(アットマークドッコイジェイピー)nabeさん
nabeさんは、ゲームそのものを作るのではなく、ゲームに役立つ便利なグッズを制作しています。当初は3Dプリンターを使って趣味でグッズを作るところから始めた活動だそうです。
「BGBEには、第1回から参加しています。初回はボードゲームで使うカードスタンドを主力とし、カードスタンドのほかにも大ストレイになるポーチや、BGBEのメインビジュアルを手掛けているイラストレーターの別府さいさんとコラボしたカードスタンドも販売しました。
他のイベントにも出展してきたのですが、より多くの方にうちの商品を知ってもらいたいと思って、各地のイベントにも出展していました。大阪でのイベント開催を望んでいたものの、BGBEが開催されるまでは機会がありませんでした。(BGBE主催者の)高橋さんがBGBEをすると聞いた時には、「参加します」と即答しました。
以前、台湾の台北ゲームショウでご一緒してから、ずっとお世話になっています。BGBEが始まってからも、高橋さんが海外にどんどん出ていく姿に刺激を受け、私も海外への関心が高くなりました。今もいろいろと相談させてもらっています。」


(左)姫路レザーを使用したダイストレイになるポーチ(右)2024年のSPIEL ESSEN(ドイツの見本市)
主催者の配慮が行き届いている。「楽しませよう」としているのが伝わる
-BGBEに出展してみて、いかがでしたか。
「第1回BGBEに出展してみて、実際にすごく楽しかったですね。高橋さんは色々なイベントに参加している方なので、周りへの配慮が非常に行き届いていると感じました。例えば、出展者の導線だったり、位置を決めるための目張りがしっかり張ってあるとか、「さすがだな」と思いましたね。
大阪のお客さんは賑やかで、積極的に話しかけてくれます。来場者層については、どちらかというとコアなゲーマーが多かった印象ですね」

-出展者の立場から見て、BGBEはどのようなイベントですか。
「高橋さんの出展者への配慮や、お客さんを楽しませようとする姿勢が伝わってきます。キッチンカーが充実していることや、宣伝に関してもボードゲームの界隈だけじゃなく、VTuberだったりイラストレーターさんだったりと、本当に広く宣伝しているところが他とは違うなと思いましたね。イベントの裾野を広げてくれている感じがします。海外のイベント参加の経験が生きていると感じさせる海外パビリオンの存在も特徴的だと感じます」

初めて参加する台湾のイベントでたくさんの方を紹介してくれました
-主催者・高橋さんとの印象的なエピソードはありますか。
「初めて台湾のイベントに参加した時に、海外での参加は初めてで、不安だったんです。その時に高橋さんが、日本出展者のLINEグループを作って情報共有を促してくれたんですね。
現地では、周りに知っている人がほとんどいない中で、高橋さんがたくさんの方を紹介してくれたんです。そうやって周りに紹介してくれる精神がすごいなと思いました。その時、「なんでこんなに良くしてくれるんですか?」と聞いたら、「みんなが良くなれば、さらにボードゲーム界全体が盛り上がるでしょう」と答えてくれました。「やっぱりこの人違うな」と思いましたね。
この経験から、私もBGBEでは、海外イベントで知り合った方へ日本のサークルさんを紹介してました。高橋さんは、BGBEの(SNSの)メインアカウントからも各サークルの投稿を積極的にシェアし、全体を盛り上げようとしてくださっていると感じます。
忙しい中でも、高橋さん本人や(スタッフをされている)息子さんも、多忙にもかかわらず、出展ブースへの挨拶をされていたことが印象的でした。見てくれていると分かるから、私たちもイベントを盛り上げたい、少しでも力になりたいという気持ちになります。もらったから返す、というわけではないのですが、自分もなんとかお返ししたいという気持ちが出てくるんですよね」

-これからのBGBEに期待することはありますか?
「どんどん海外パビリオンが増えると楽しいですね。海外だけでなく、ボードゲームに関わる業者さん、イラストレーターさんや製造会社さんなどが参加されるといいですね。特にビジネスタイムがあるBGBEだからこそ、そういう出展者や参加者が増えるといいんじゃないかと個人的に思いますね。
ビジネスタイムは、商談の機会を生み、横のつながりを広げるという点で大きな特徴があると感じています。出展者は接客が中心になります。そのため、ビジネスタイムがあることで、出展者同士や海外パビリオンでご縁のあった方と交流、商談ができるのはとてもありがたいです。イベント当日はスケジュールがタイトになりがちだからこそ、BGBEのビジネスタイムは横のつながりや海外との接点づくりに役立つと実感しています」
グッズ制作者としてもっとチャンスを広げていきたい
「グッズ制作者として、イベントで皆さまとの交流を楽しみながら、手探りで販路開拓を行っております。だからこそ、国内外のボードゲームバイヤーの皆さまと出会い、ビジネスタイムで商談や情報交換ができる場は、新たなご縁や連携に結び付きます。出展者の多くは「自分が製作したゲームを多くの人に楽しんでもらいたい」「このゲームで笑顔になってもらいたい」という思いで活動されている方だと思います。その機会を用意してくださることに、私たちは大きな価値を感じています。BGBEは新しい出会いのきっかけになっており、本当に素敵なイベントです」
Xアカウント https://x.com/Dokkoi_JP

大阪のボードゲーム創作集団「HEY!」が語るBGBEの魅力
HEY!のリーダーかどたさん と『国旗王』を制作されたウナムさんにお話をうかがいました
私はBGBE2025でHEY!さんのブースを訪れていて、そのとき試遊した「国旗王」(こっきんぐ)が面白くて、購入しました。この国旗王、アナログゲームでは異例と呼べるほどの大ヒット作品となっています。制作されたのは大阪を拠点に14名で活動しているボードゲーム創作集団「HEY!」さんです。
- BGBE出展は、これまでも毎回出展されているのですか?
「初回から企業ブースとして出展しています。私たちは現在は14人のグループで活動しています。大阪で行われていたイベントが中止になったこともあり、大阪でボードゲームのイベントがあれば良いとずっと思っていました。ちょうど良いタイミングだったんです。メンバーは皆、地元が大阪なので、大阪で開催されることも大きかったですね」
-それまではどのような場で活動を発表していましたか?大阪のBGBE出展の経緯も教えてください。
「HEY!の前身である「Sangenya」は、2019年のゲームマーケット大阪で『富士山地下99階』を発表し、約200個を販売した実績がありました。しかし、コロナ禍でSangenyaのメンバーが集まれなくなり、ネットで新メンバーを募集したところ、私を含め11人のメンバーが集まってHEY!が発足しました。東京のイベントに数人で出展するよりも、大阪で企業出展する方が交通費や宿泊費を抑えられるという戦略的な判断もありました。
当初、新作の予定は全くなかったのですが、約3ヶ月という短期間で『国旗王』を制作し、BGBEに間に合わせました」

BGBEでのヒットが団体としての活動を大きく変えることに
- 実際に出展されてみてどうでしたか?来場者の反応や、出展者としての感想を教えてください。
「『国旗王』は突貫で作ったので、正直そんなに売れるとは思っていませんでした。しかし、予想をはるかに上回る予約が入り、BGBEで200個すべてを完売しました。もし300個用意できていれば、それも売れていたかもしれませんね。この成功が、団体としての活動を大きく変えました」
-具体的にどのように変わったのですか?
「それまで最高の販売数だった『富士山地下99階』をはるかに超え、その後、ゲームマーケット春でも300個を完売し、3000個や6000個といった大量の発注を行うようになりました。BGBEでの成功要因としては、初開催のイベントで新作を出すサークルや団体が少なかったため、非常に目立ったことが挙げられると思います。また、企業ブースでの出展の意味も大きく、ライト層向けのゲームは企業ブースである安心感と相まって、普段こういった同人イベントには来ないような一般のライト層やファミリー層にもリーチできたと感じています」

-来場者の層もライトユーザーが多かった印象ですか?
「はい、そうですね。ファミリー層が特に2日目は多かった印象です。ゲームマーケットとは客層が違いましたね。(企業出展の費用)25万円だけで済み、交通費や宿泊費がかからないため、企業出展しても東京のイベントで大きめのブースを出すのと同等かそれ以下の費用で済みます。大阪で大々的に出した方が戦略的に得だと考えました」

BGBEイベント運営の特徴と今後への期待
-BGBEのイベント運営で、他のイベントとの違いや良かった点はありますか?
「ビジネス寄りのイベントで、商談の時間が設けられている点が非常に良いです。(他のイベントが)販売に特化しているのに対し、BGBEではビジネス的な話や普段できない交流ができました。特に初出展では、ビジネスタイムのために気合を入れてプレゼン資料を配布したり、海外メーカーへの挨拶回りも行いました。これが業界内での知名度向上に大きく貢献したと考えています。
また、高橋さんご自身がゲームを作る方なので、ゲームクリエイターの視点を理解してくれていると感じますね。そして、大阪のボードゲーム団体の存在感が前より増しているとも感じます」

-2回目で雰囲気や運営の工夫を感じた点はありますか?
「これは推測なのですが、初回で新作を発表した、HEY!を運営側が応援してくれているように感じました。この期待に応えるためにも、私たちも大阪の地位を上げるため、さらに気合を入れて活動していきたいと思っています」
- 今後のBGBEへの期待や、HEY!として考えている活動はありますか?
「まずは来場者数の増加を期待しています。また、『国旗王』のカードを他のパビリオンなどでコラボレーションするような試みも面白いと考えています。BGBEでの経験を通じて分かったことですが、BGBEのようなイベントで先行発表し、ある程度の前評判を形成してから他のイベントに臨む方が良いという戦略の有効性に気づきました。
『マッチ売りの大富豪』をBGBE初めて販売する予定で、Tシャツ & カードスタンドといったグッズ販売にも力を入れていきます。ぜひ、次回のBGBEではHEY!のブースにより多くの方に立ち寄っていただきたいです」
HEY! Webサイト https://heyteam.net/

高橋さんはパワフルな方。同じ主催者としてアナログゲームを盛り上げていく
株式会社バーチャルパーティー アディン・ヨハネさんにお話をうかがいました
第1回から出展されている株式会社バーチャルパーティー。VR空間を使ったアナログゲームの楽しさを伝えるサービスを提供されています。また、VR上でのイベント「バーチャルダイスパーティー」も開催されています。今回は同社代表取締役兼CEO アディン・ヨハネ(HN)さんにお話をお聞きしました。
-他のアナログゲームブースとは異なるVR。出展するうえで何か工夫されたことはありますか。
「そうですね、VR空間の特性上外から見えづらいことや、経験者が少ないということがありました。まずはやはり直接体験してもらわないといけないです。しかし、ボードゲームのプレーは20分、30分とかかるので、多くの方に体験してもらうため、VR空間に入って「こんなふうになっているんだ」と仕組みをわかっていただくような形にしました」

初出展時に「買いに来るだけではない楽しみを持っている」来場者がいると感じた
-実際にBGBEに出展されてみていかがでしたか。
「2024年に出展した時に、これはかなり多くの方が興味を持ってくれるんだなと思いました。EXPOという名前がついているくらいですから、ボードゲームを体験しにきたという方、買いに来るだけではない楽しみを持っていらっしゃるんだと感じました」
BGBEとは密接な協力関係を築いており、お互いのイベントに参加したり、宣伝し合うなど、相互にメリットのある関係性があるとのことでした。
-BGBEが他のゲームイベントと違うところはどのようなところだと考えていますか。
「BGBEを面白いなと思ったの点は大きくふたつあります。
ひとつはただ即売会ではない総合的な体験できる要素です。家族で遊びに来ている方がいて、Vチューバーが表示されているモニターで(VR機の対象年齢以下の)お子様がとても楽しんでくれたりしました。他のイベントとは客層も異なると感じます。
もうひとつはビジネスタイムが設けられているところです。多くの方と話ができる機会が増えました。販売よりも体験をメインとしているので、ビジネスタイムとは非常に相性がよかったです」
-(主催者の)高橋様はどのような方ですか。
「パワフルな方ですね」
高橋さんとの出会いは静岡のボードゲームイベントでした。VR化の話をした際も、単なるボードゲーム愛好家としてだけでなく、事業家としての考え方を持っていることに感銘を受けたそうです。
「ビジネスイベントとしてBGBEを立ち上げるだけあって、事業家としての考え方をお持ちだなと。最近もそうですけど、本当にいろんなところへ行かれていますね。しかも、ひとりで行くんじゃないんですよね。様々な方に声をかけて一緒に行かれるんですよ。相当パワフルじゃないとこの行動はできないなといつも思っています」
-今後のBGBEへの期待を教えてください。
「もう、ボードゲームと言ったらBGBEだよという定番イベントになっていってほしい。そろそろ、BGBEだから準備を始めるというような定番のイベント。ボードゲームに関するすべてのものが集約されている、包括的なイベントに、どんどん大きくなっていってほしいです」
バーチャルパーティーは今年も11月に『バーチャルダイスパーティー2025 with 冒険企画局』を開催します。アディン・ヨハネさんもイベントの主催者。お互いのイベントを盛り上げていくことで、アナログゲーム全体の発展につながればと考えています。興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。
バーチャルパーティー Webサイト https://virtualparty.jp/
バーチャルダイスパーティー2025 with 冒険企画局
開催期間:2025年11月8日(土)~2025年11月16日(日)
開催場所:VRChat(来場にはアカウントの作成が必要です)
入場料:無料
イベントページURL:https://event.virtualparty.jp/

出展者のことを本当に理解している主催者はどれくらいいるでしょうか
展示会やイベントのことをよく知る方ほど、この出展者のコメントに小さな驚きがあるのではないでしょうか。出展者が気持ちよく、こういった取材にご協力いただけるということが新鮮な驚きではないでしょうか。
実際に出展者の本音を知っている主催者や会場はいったいどれくらいあるのでしょうか。安くない出展費用を支払い、時間と思いをかけて出展しても、イベント主催者が現場で挨拶にも来ない、顔を見せないなんてことは珍しくないどころか当たり前になっていませんか。どんなブースがどんな展示をしているかわかっているでしょうか。当社も数多く出展していますが、来賓の方への接待で一生懸命で、大切な出展者や来場者に向き合えていない主催者が当たり前だと思っていましたし、違和感を持っていました。
イベント後のアンケートだけでは出展者や来場者の感想や気持ちはすべてわかるとは到底考えられません。レポートや来場者数だけで判断してはいないでしょうか。
BGBE主催者はどんな方が出展しているのか知っています。そして結果に向き合い、改善を続けています。自らもゲーム制作者であり、出展者であることから、大切なことは何かをよく知っています。プロ主催者とプロ出展者の「常識」におさまることなく、本当によいイベントにするためには何が必要か。出展者の方々にお話を聞いて、あらためて考えさせられました。
Board Game Business Expo Japan 公式Webサイト
https://www.bgbe-j.com/