【取材】大阪・関西万博を支えたグローバル人材が直面する1月13日のタイムリミット アマンディーヌ・フリユーゼさんが語る採用のメリットと切実な現状
2025年大阪・関西万博の現場では、世界中から集まった優秀な外国人スタッフが活躍しました。しかし、その契約期間が終了した後、日本での就職が叶わずに優秀な人材が日本を去らざるを得ない状況にあることをご存じでしょうか。今回は、4か国語を操りVIP対応のプロとして活躍したフランス出身のアマンディーヌ・フリユーゼさんに、外国人スタッフが置かれた状況や、日本企業がグローバル人材を活用する意義について取材しました。

突発的なVIP対応も独学で対応、現場力を鍛えた万博会場での経験
今回お話を伺ったアマンディーヌ・フリユーゼさんは、フランス語、日本語、スペイン語、英語の4か国語を使いこなすマルチリンガルです。彼女の経歴は単なる通訳にとどまりません。フランスの国立東洋言語文化研究所(INALCO)で修士課程を修了し、国際マーケティングや異文化コミュニケーションを専攻しました。
大阪・関西万博では、英国館およびスペイン館において、国際外交関係やVIP対応を担当しました。皇族の方々や各国の王族や政府要人、外交官、大使、企業のトップといったハイプロファイルなゲストの接遇を行い、プロトコル(儀礼)に基づいたきめ細やかな対応を実践してきました。
取材の中で彼女は、現場でのエピソードを語ってくれました。現場は慌ただしく、十分なトレーニングもないまま現場に立ち、「10分後に王族の方がいらっしゃる」と告げられたこともあったそうです。彼女は持ち前の度胸と適応力を発揮しました。その国の文化や背景をリサーチし、相手に失礼がなく、かつ関心を引くような接遇をその場で構築して対応したそうです。


憧れの国「日本」、諦めずにチャレンジをして来日を叶える
彼女の日本への愛着は深く、15歳の時に初めて来日し、日本の高校へ留学しました。ホストファミリーとの生活を通じて、言葉だけでなく、相手を敬う日本特有の文化や価値観を肌で感じてきたといいます。日本の伝統や相手を大事にする心に深く共感し、将来は日本に住み、日本の経済のために貢献したいという夢を抱き続けてきたそうです。
彼女の日本への想いは、フランス南部の田舎で過ごした幼少期に遡ります。周囲にアジア人が全くいない環境でありながら、子どもの頃、「お箸がないとご飯を食べたくない」と母親に訴え、一生懸命にお箸を使う練習をしていたといいます。彼女は、日本語の歌に惹かれ、独学で日本語の勉強を始めました。


どうしても日本に行きたい。その想いは日に日に強くなりましたが、遠い日本への留学は簡単なことではありません。諦めかけた彼女を奮い立たせたのは、母親の「自分の夢なんだから諦めないで」という言葉でした。その言葉に背中を押された彼女は、地元の知事やEUなどに手紙を書き、資金援助を求めるレポートを送り続けました。EUからは断られましたが、彼女は諦めませんでした。そしてついに、ごく少人数しか選ばれない奨学金制度を見つけ出し、見事にその枠を勝ち取ったのです。こうして高校1年生の時、彼女は初めて日本の土を踏み、法政女子高校への留学を果たしました。
何度断られても諦めない突破力と芽生えた日本への貢献意欲
日本での留学を終えてフランスに帰国した後も、彼女の試練は続きました。日本人が多く通うパリの高校への転入を希望しましたが、「ハーフではない」という理由だけで6回も入学を断られたのです。ここでも母親が「ダメ元で直接行って、日本語で話しなさい」と助言しました。アマンディーヌさんはその言葉通り、学校に直談判し、流暢な日本語を披露して入学を認めさせました。フランス人として初めて、そのクラスに入ることができたのです。

パリでの生活も決して楽ではありませんでした。お金も住む場所もなかった彼女を救ったのは、ある日本人家族でした。以前から親交のあったその家族が「うちに来てください」と声をかけ、彼女を受け入れてくれたのです。彼女は高校に通いながらアルバイトをして生活費を稼ぎ、学業と生活を両立させました。彼女は取材の中で、日本の家族と過ごす中で「相手を大事にする心」や日本の伝統的な価値観を肌で感じ、将来は日本の経済のために貢献したいという夢を確固たるものにしたと語ってくれました。

迫りくる2026年1月13日の期限と待遇面での現実的な課題
これほどの実績と日本への熱い想いを持つアマンディーヌさんですが、万博閉幕後のキャリアについては大きな不安を抱えています。彼女は現在の切実な状況を明かしてくれました。
最大の問題は、ビザと時間の制約です。万博の業務が終了した後、特定活動ビザなどで日本に滞在できる期間は限られるケースが多くあります。アマンディーヌさんや同僚たちの一部は在留期限は1月13日前後に迫っており、この短い期間内に次の就職先を見つけられなければ、志半ばで帰国せざるを得ません。
また、日本企業における給与水準の問題も深刻です。アマンディーヌさんは、日本の給与が欧米に比べて低いことが、外国人材にとって大きなハードルになっていると指摘します。特に母国の大学や大学院などで学び、奨学金の返済義務を負っている人にとっては、日本の初任給レベルでは返済と生活の両立が困難になる場合があります。日本が好きで働きたいという強い意欲があっても、経済的な理由で帰国を選択せざるを得ない仲間が多いのが現実だと彼女は語ります。
企業が懸念する文化の壁とそれを超えるメリット
日本企業が外国人の採用に二の足を踏む理由の一つに、文化の違いやコミュニケーションの齟齬への懸念があります。しかし、アマンディーヌさんは、まさにその点こそが自身の強みで解決できると語ります。
ビジネスの現場、特に海外との取引においては、単に言葉が通じるだけでは不十分な場合があります。彼女は外国人同士だからこそ築ける信頼関係や、スムーズに進むコミュニケーションがあると指摘します。もし、海外のクライアントが日本の商習慣における「言わなくても察する」文化に戸惑っているなら、彼女のような存在が間に入ることで、相手の背景を理解した上で日本側の意図を適切に言語化し、誤解を解くことができます。
日本人は説明を省きがちですが、外国人は論理的な説明を求めます。彼女は万博の現場でも、このギャップを埋める役割を果たしてきました。双方の文化を深く理解した人材がいることは、グローバル展開を目指す企業にとって、単なる通訳以上の価値をもたらすはずです。
求職者への助言「ビザ取得サポートの記載がなくても応募すべき」
取材の終盤、彼女が特に力を込めて語り、記事に必ず記載してほしいと強調したポイントがあります。それは求職活動における姿勢についてです。
多くの求人情報には「ビザ取得サポートあり」と明記されていません。そのため、多くの外国人が「自分は対象外だ」と判断し、応募を躊躇してしまいます。しかし、彼女の実体験や周囲の事例によると、募集要項に記載がなくても、企業側がその人材に価値を感じれば、ビザの手続きをサポートしてくれるケースはあるようです。
アマンディーヌさんは、同じように仕事を探している外国人材に対し、記載がないからといって諦めず、積極的に応募してほしいと呼びかけています。企業側も最初から外国人の採用を想定していなくても、優秀な人材との出会いによって柔軟に対応を変える可能性があるからです。もしこれを読んでいる求職者の方がいれば、可能性を自ら狭めずにアプローチを続けてください。

大阪・関西への愛着と地方での可能性
最後に、彼女は大阪という土地への愛着についても語ってくれました。多くの外国人が東京に集中しがちですが、彼女は大阪の人々の温かさや、物事をはっきりと伝えるコミュニケーションスタイルに惹かれているといいます。
日本のパスポート保有率が低い現状において、海外進出やインバウンド対応を強化したい関西の企業にとって、彼女のような日本文化を深く愛し、かつグローバルな視点を持つ人材は得難い存在です。東京一極集中ではなく、大阪や地方都市でこそ、こうした人材が活躍できる土壌があるのかもしれません。

万博のレガシーは、施設や設備だけではない。「人」「縁」「思い」もまた、大切なレガシー
アマンディーヌ・フリユーゼさんのような、高度な専門性と日本への深い愛情を持つ人材が、1月13日という期限によって日本を去ってしまうことは、日本の産業界にとっても大きな損失と言えます。万博のレガシーは、施設や設備だけではありません。「人」や「縁」「思い」もまた、大切なレガシーです。
会期中、国際対応や会場運営の最前線で、プロトコール、接遇、認証、動線管理、広報制作などを担い、現場を支え続けたスタッフがいました。ところが、会期が終わった途端に、契約の区切れやビザの期限といった“時間の壁”によって、日本を去らなければならないかもしれない人たちがいます。こうした高度な専門性と日本への深い愛情を持つ人材が、次の仕事につながらないまま日本を離れてしまうことは、日本の産業界にとっても大きな損失と言えます。
採用する企業にとってのメリットは計り知れません。単なる語学力だけでなく、異文化への適応力、困難を自力で切り開く突破力、関係者の間に信頼を築く調整力、そして何より「日本のために働きたい」という強い熱意は、日本のビジネス現場において大きな戦力となるはずです。労働力不足やグローバル化への対応が急務となる中、このスキルと経験を活用しない手はありません。ビザのタイムリミットが刻一刻と迫る中、この卓越したスキルと情熱を活かせる企業との出会いが生まれることを願ってやみません。
もし、アマンディーヌさんと話をしてみたいと関心を持たれた企業担当者の方がいらっしゃいましたら、ぜひMICE TIMES ONLINE編集部までお問い合わせください。


