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【韓国取材】KOREA MICE EXPO 2025 に見る韓国MICE産業の若手人材獲得と育成のエコシステム【韓国2025秋特集5】

KOREA MICE EXPO (KME) 2025の会場は、熱気と活気に満ちていました。日本のMICE業界が若手人材の不足という課題に直面しているのに対し、韓国のイベント会場には学生と思しき若手参加者が多く、自信に満ちた若いスタッフが来場者と交流する姿が目立ちました。韓国でも「若手人材は不足している」とお聞きしましたが、その質感は日本とは違うものに見えます。

日本のイベントがどこか「地味」であるのに対し、韓国のイベントは「華やか」であり、この違いの背景には、国、大学、そして学生自身が有機的に連動して価値を創出する緻密に設計された「産官学連携」のエコシステムが存在します。本記事では、KME 2025の現場で韓国観光公社の担当者や現役学生への取材に基づき、韓国がいかにしてMICE業界への若者の関心を引きつけ、優秀な人材を育成・輩出しているのかを考えていきます。

KOREA MICE EXPO 2025
KME提供

韓国MICE業界の活気 若手人材育成のエコシステム

韓国のMICE人材育成の強みは、政府、大学、学生という3つの主体がそれぞれの役割を果たし、相互に作用し合うエコシステムを形成している点にあります。この構造が、業界全体のダイナミズムを生み出す原動力となっているようです。

「官」の役割 韓国観光公社による学生支援

韓国の若手人材育成において、韓国観光公社(KTO)をはじめとする公的機関が果たす役割は極めて大きく、彼らは学生が業界と直接繋がり、実践的な経験を積むための具体的な「仕組み」を設計・推進する戦略的プレイヤーとして機能しています。

KOREA MICE EXPO 2025
韓国観光公社 チーム長 MICE企画チーム チョ・ヒョンジョさん

全国の大学に存在するMICE関連の学生団体を「MICEサポーターズ」としてネットワーク化

韓国観光公社のブースでチーム長にお話を伺ったところ、韓国では大学生がMICEやコンベンションについて専攻していることが多いため、MICE業界に若い人たちが参加しやすい環境があるとのことでした。 公社が主導する主な取り組みとして、「MICEサポーターズ制度」があります。これは、全国の大学に存在するMICE関連の学生団体をネットワーク化し、その主体的な活動を支援する制度です。公社は学生の自発的なエネルギーを「支援」し、「連携を促進」する役割に徹しています。

KOREA MICE EXPO 2025
韓国観光公社 チーム長 MICEマーケティングチーム ソン・ウンギョンさん

アイデアピッチ大会発の提案から、実際のフォーラムが開催された成功例

公社内には「観光人材育成チーム」という専門部署が存在し、大学と連携してMICE分野のカリキュラム開発や、学生向けのフィールド体験プログラムを提供しています。その中で重要なことは、学生のアイデアを実社会で活かす循環を生み出している点です。年に一度開催されるアイデアピッチ大会では、大学生たちがMICE産業の未来に関するアイデアを提案し、優れたアイデアは実際の事業化へと繋がっています。過去には、学生の提案がきっかけとなり、韓国南部で実際にフォーラムが開催されるといった成功事例も生まれているとのことでした。

KOREA MICE EXPO 2025
韓国観光公社ブース

「学」の役割 学生の主体性 慶煕大学ブースで見た実践活動

韓国のMICE人材育成のもう一つの核となるのが、大学教育と学生の自発的な活動です。慶煕(キョンヒ)大学のブースで学生たちに取材したところ、彼らはMICEに関心を持つ学生が集まったグループで活動しており、その人数は30名から40名程度に及びます。

やりがいは、極めて具体的。プロフェッショナルと直接交流できる。イベントを成功させた時の圧倒的な達成感

「大学の授業は理論中心で、実践的な内容が少ない」そうで、この学会は、まさにアカデミズムと現場のギャップを埋めるための、課題解決型組織として機能しています。 授業は非常に体系的で前期と後期に分かれていて、前期は座学中心、後期で実践的なアウトプット中心の活動をしています。
MICEに関心を持つ学生が比較的少ないため、様々な大学の関連団体と連合し、ネットワーキングの機会を創出しているのこと。ハン・スヨンさんは「MICEに関心のある友人がそれほど多くはないので、そうした友人たちと集まり、(業界の)関係者の方々と交流しています」語ります。

他のコンベンションセンターや他大学のMICE関連団体と積極的に連携し、展示会に実際に参加・協力することで、業界の最新動向を肌で感じ、プロフェッショナルとのネットワークを構築しているとのことです。彼らは、MICEを学ぶ学生が少ない中で、関係者と学生を結びつける重要な役割も担っています。

KOREA MICE EXPO 2025

MICEをキャリアにする学生たちの熱意

慶煕大学の学生たちに尋ねたところ、将来PCOやPEOといったコンベンション関連の業界への就職を希望している人も多くいました。最近では、イベント企画だけでなく、MICEセンターやコンベンションセンターといった施設運営の方面にも関心を持つ人が増えているようです。

韓国のMICE分野においては女性が多く活動しており、それに伴い関心を持つ女性も多いという現状があります。当日、ただひとりの男性であったヨム・ジェユンさんは「男性は業界に多くはないものの、その分、就職の機会という点ではメリットがあると考えています」と現実的な側面についても話してくれました。

彼らに活動のやりがいを尋ねると、イベントを通じて業界の第一線で活躍するプロフェッショナルと直接交流できること、そして数ヶ月の準備期間を経てイベントを成功させた時の圧倒的な達成感が一番大きい理由だと語ってくれました。
日本の若い世代へ向けたメッセージとして、「MICEの企画には、若い世代が持つ創造力を最大限に発揮できる場面がある」と力強く話してくれました。MICEが若者の能力を活かせる魅力的なフィールドであることを示しています。

KOREA MICE EXPO 2025

世宗(セジョン)大学のブースでは、デジタル技術が重要である現在、大学の技術をMICE活動に取り入れているという話も聞くことができました。こちらで取材に答えてくれたのは、おもに大学院生。観光大学院・コンベンション産業専攻という専門性の高いプログラムです。ビジョンとして、デジタル融合時代、MICE産業の先導的グローバル人材育成、外国人留学生の比率増加、グローバル競争力強化が挙げられていました。


KOREA MICE EXPO 2025
KME初日のナイトパーティー。まるでクラブのような盛り上がりでした

若手人材への投資は、単なる労働力の確保ではない。日本MICE業界が取るべき次の手は

韓国のMICE人材育成の成功は、単一の優れた施策によるものではなく、「官」「学」「学生」が有機的に連動する「エコシステム」として機能している結果であることが分かりました。体系的な連携が土壌を作り、実践を通じた動機付けで熱意を育み、明確なキャリアパスの提示が未来へと繋がるという連鎖です。

これは特別な対策ではなく、広く各産業で行われている施策でもあります。しかし、日本のMICE産業は韓国MICE産業に対してだけではなく、他の産業に対しても施策が遅れています。ユニークな人事制度、採用戦略を見せる業界企業は数少ないのが現状です。

KOREA MICE EXPO 2025
KME出展者一覧
KOREA MICE EXPO 2025
出展企業の中にも、MICE人材育成を組織的に行っているものがありました

日本では多くの学生がMICEという言葉を知らず、キャリアの選択肢として認識されていない

日本のMICE業界が若手人材不足という課題を克服し、国際競争力を向上させるためには、韓国の先進的な事例から学ぶことは急務と言えるでしょう。
具体的には、「バラバラで動いている」現状を解消するため、観光庁やJNTOが主導し、MICEを学ぶ学生団体を全国的にネットワーク化する日本版「MICEサポーターズ」の創設。学生やスタートアップの創造力をイノベーションに直結させる「MICEアイデアピッチ大会」を全国規模で開催し、企画段階から学生やスタートアップが関与できる制度の確立。企業や自治体による事業化支援を組み合わせたものがよさそうです。学問的な興味を職業としての強い動機へと昇華させるための、仕組みや仕掛けづくりも求められるでしょう。

MICEを具体的なキャリアパスとして、認識できるようになることが大切です。ロールモデルとなるMICEで活躍する人材の露出も少ないため、MICE TIMES ONLINEとしては「MICEキャリアナビ」を通じて、取り組みを進めていきます。

若手人材への投資は、単なる労働力の確保ではありません。業界に新しい視点と創造性をもたらし、日本のMICE業界全体の国際競争力を向上させるための、最も重要かつ効果的な戦略的投資です。

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