
【取材】MICEに参加する家族の笑顔をつくる、旅先シッターサービス。京都で利用されたお母さんの声「娘も私も、安心して過ごせました」
MICEの現場で、いまだ解決されない課題のひとつが”子どもをどうするのか”。展示会やビジネスイベントに、子どもを同伴させるのは難しく、かといって離れて過ごすことにも不安を感じる…。ジレンマを抱える参加者も少なくありません。海外では、家族旅行を兼ねてMICEに参加するFITがある傾向を考えれば、子連れ対応のニーズは確実に存在しています。近年、一部の展示会では託児所を設ける動きも見られますが、数が限られているのが現状です。
【キーワード】FIT:団体旅行やパッケージツアーを利用することなく個人で海外旅行に行くこと。
日本政府観光局(JNTO)が掲げる「MICEのサステナビリティ」には、多様性と平等性の確保も含まれており、LGBTQ、ムスリム、ビーガン・ベジタリアンと並び、”子連れ参加”にも視点を向ける時期にきているのではないでしょうか。

そんな中、注目したいのは保育士による訪日観光客向けベビーシッターサービス「Parent Time」。今回はサービスを提供する様子を取材し、「Parent Time」を提供する代表の菅原さんと、利用されたお母さんに伺いました。MICEでの導入の可能性についても探ります。
旅行中に子どもを預けるサービス「トラベルナニー」
「トラベルナニー」をご存知でしょうか。保護者が旅行中に安心して子どもを預けられるシッターサービスです。ナニーは「育児や教育の専門家が子どもの世話を行う職業」です。Synk合同会社が提供するトラベルナ二ーサービス「Parent Time」では、訪日観光客を対象に、日本の保育士資格を持ち、英語対応が可能なナニーを派遣しています。
利用者は、子ども連れ不可のレストランでの食事や、体験、ビジネスイベントへの参加など、大人だけの時間を安心して過ごすことができます。対応するのは、インターナショナルプリスクールや幼稚園での勤務経験を持つ、実務経験豊富な保育士です。単に子どもと過ごすのではなく、専門の資格を持つ保育士だからこその高い信頼性が特徴です。
日本の保育士の低賃金・低待遇に布石を打ちたい

運営するのはラグジュアリートラベルに精通した「Synk合同会社」。2025年3月には、外国人向けの屋外シッティングサービスとして、初めて保育所(認可外)として登録されました。創業者の菅原さん自身も保育士資格を取得しており、”旅行”と”保育”の融合という新たな市場を切り拓いています。
立ち上げたきっかけは保育士の待遇への疑問にありました。保育士は本来、保護者を支え、子どもの心身の適切な発達をサポートする不可欠な存在であるにもかかわらず、日本では低賃金・低待遇という厳しい環境に置かれています。保育士の仕事が適正に評価され、ふさわしい待遇が得られる憧れの職業としての未来を目指しています。
レポート:京都のお宿での利用の流れ


京都の中心地、静かな町並みに佇む、8室限定のお宿があります。「要庵西富家(かなめあんにしとみや)」です。若女将・御崎(みさき)さんは娘(Tちゃん 5歳)を預けました。12時から16時30分までの4時間半をナニーが見守ります。御崎さんはその間お仕事に集中。
12時 邪魔せず、そっとサポート

人形遊びや、ハサミで紙を切ったり、絵を描いたり、時には勉強をしたり…とにかく楽しそうに過ごしていました。ナニーはその子のペースを尊重しながら、やりたいことを邪魔せず、でもそっとサポート。お母さんの”勉強をさせてほしい”というリクエストには、「くまさんが勉強したいって言ってるよ」と、自然なかたちで促していました。


16時半 お母さん帰宅、サービス終了時間
お仕事を終えて戻ってきた御崎さんを見て、Tちゃんは安心した様子。「もうみんな帰っちゃうの?」とちょっぴり寂しそうです。帰り際まで見送ってくれました。

1日の出来事を 丁寧に報告
「最初の1時間くらいは、算数の宿題と、おばあさまへのお手紙を書いていました。絵本を膝の上で読んだあと、ピンクのくまちゃんでごっこ遊びが始まりました。くまちゃんが怪我をしたという設定から始まって、入院、看病、学校の先生ごっこと、どんどん物語がふくらんで…」
「うちの子、ずっとごっこ遊びばかりしてるんですが…」と不安そうに尋ねる御崎さんに、ナニーは優しくこう答えます。

「同じ設定で話をどんどん展開させていかれるのは、すごいと思いますよ。1人遊びが続けられるということは、ストーリーを自分で発展させていけるということで、これは想像力がしっかり育っている証拠なんです。想像力は、”相手の気持ちを思いやる”という点でお友達とのコミュニケーションにも役立ちますね」


「段差がある場所では、少し注意が必要かもしれません」お宿でのファミリー受け入れに関する相談も行われました。最後には、ナニーからの手書きメッセージと、Tちゃんのイラストが添えられたカードがプレゼントされました。御崎さんの表情が、ふっと和らいだのがとても印象的でした。

利用者の声「娘も私も、安心して過ごせました」

利用された「要庵西富家」若女将の御崎(みさき)さんに伺いました。
お客様を安心して迎えるために利用
「本日はどうしても大切なお客様がお見えになりますので、お迎えするために、娘を預けさせてもらいました」
普段は保育園や幼稚園を利用しながら、若女将の仕事もこなす御崎さん。休日は近隣の施設に預けることもあるそうですが、他の子どもがいる環境に、娘さんが緊張してしまうこともあったといいます。
「やっぱり娘だけっていうわけにもいかないじゃないですか。トラベルナ二ーをお願いすることによって、娘の専属で、なおかつ馴染みのある場所で見てもらえるのは、有り難いですね。私も落ち着いて仕事に集中できましたし、娘も思いきり楽しんでくれたようです。私も娘も安心して過ごせました」

プロの技に驚き!娘が初対面で笑顔に
人見知りな性格で、初対面では緊張しがちだという娘さんも、この日はすぐにナニーと打ち解けたそうです。
「本当にスムーズに打ち解けていらっしゃいました。子どもの好きなことを知っていらっしゃるといいますか…。事前に”娘は切ったり、色を塗ったりするのが好きです”とお伝えしていたのですが、娘に合わせてカスタマイズしてくださって。理解してくれている感じがして、プロの技を感じました」
さらに嬉しかったのは、LINEでのこまめな報告。
「親としては、ちゃんと過ごせているか心配になるじゃないですか。LINEで”大丈夫です”と一言もらえるだけで安堵しますよね」
ゆっくり大人だけで食事を楽しみたい
「懐石料理をお部屋でゆっくり楽しみたいというご希望をいただくことがあるんです。”大人だけで食事を楽しみたい”という声って意外と多くて…。食事中に泣き叫ばれたりすると、不愉快に思われる方も中にはいらっしゃいます。たとえば、子どもを客室でナニーが見守り、ご両親がゆっくりとレストランへ行く…というサービスが提供できるのではと思います」
Editor’s note 子連れは、制限ではなく前提へ

「Parent Time」が提供するのは、ただの託児ではありません。経験豊富なナニーが、子どもの気持ちや個性に寄り添いながら見守り、小さな変化や成長のサインにも丁寧に気づいて保護者にそっと伝えてくれる。プロの存在が、保護者にとっては想像以上の安心感となり、自分の時間に集中できる心強い支えになります。さらに、英語の対応も可能なため、海外ゲストにも対応できるのが強み。だからこそ、MICEとの親和性も高いのです。
一方で、今後の課題としては、全国各地での対応体制や、複数人の預かりに対応できるかといった点も挙げられるでしょう。とはいえ、「1人にしっかり向き合う」ことこそが、サービスの核であり、他にはない強みでもあると考えます。
MICEの現場でも、”子どもをどうするか”という悩みは存在します。トラベルナ二ーの考えがもっと浸透すれば、子どもがいるから参加できないではなく、家族でMICEに参加するなど、より前向きになると思いませんか。
トラベルナニーサービスは、”誰もが参加できるMICE”という理想を現実にするために欠かせないピースです。

訪日観光客向けトラベルナ二ー「Parent Time」
サービス詳細
2名/3時間 49,500円(税込)
最大2名の子ども(0~15歳)のケア
詳細は直接お問い合わせください
Webサイト https://www.synkllc.com/parenttime