
カルチャーは交わると面白い。京都国際マンガミュージアム「ボードゲームとマンガ展」から見えた展示ノウハウ(京都国際マンガミュージアム×BGBEのキーマン対談)
2025年4月26日(土)から京都国際マンガミュージアムでスタートした「ボードゲームとマンガ展」。ボードゲームを題材にしたマンガを約200冊集めた特集棚と、マンガとボードゲームの関係性を紐解くパネルが展示されています。気になるマンガは、その場で手に取って読むことができます。
”ボードゲーム”と”マンガ”…。異なるものが組み合わさった体験展示を手がけたのは、京都国際マンガミュージアムの應矢さんと、西日本最大級のボードゲームビジネスイベント「Board Game Business Expo Japan(BGBE)」を主催する高橋さんのお二人です。
「本当は展示ができていない資料が、2倍くらいあるんです(笑)」と語る、高橋さん。異なるカルチャーを展示で、どのようにミックスさせたのか。話し出すと止まらない熱量で、語っていただきました!
Board Game Business Expo Japan 代表 高橋宏佳(H1R0)
イベントやゲームの企画のプランニングを行っており、東京ゲームショウ2024で発表した『ボードゲーム版 魔法捜査官』の開発や北米最大の「Gen Con 2024」で「Japan Pavilion」の運営などを手掛ける。仙台デザイン&テクノロジー専門学校ではゲームプランニングの講師をしており、未来のエンターテイメント業界を担う人材の育成に力を注ぐ。
過去のインタビュー記事はこちら https://micetimes.jp/close-up-bgbe/


京都国際マンガミュージアム 研究員 應矢泰紀
京都国際マンガミュージアム 学芸室員
1974年、大阪府生まれ。京都国際マンガミュージアムの学芸室員で、展示やイベントの企画を行う。サブカルチャー関係、主にTVアニメの表現について研究しているが、妖怪について調査を行い、妖怪マンガの原作やイベントの企画も行う。オーバーハウゼンショートフィルムフェスティバル(ドイツ)など国内外のビデオフェスティバルや短編映画祭でビデオアート作品を発表しているが、プロダクションとしてTVアニメを作成する。書籍「マンガ京・妖怪絵巻」の監修や「アラマタヒロシの日本全国妖怪マップ」の共著書籍がある。
いずれ開催すべきものだったーーボードゲーム×マンガの意外な組み合わせの背景

京都国際マンガミュージアムの應矢さんはアニメ、マンガ、妖怪など、話の引き出しがとにかく広い方です。大学時代にはゲームサークルに所属し、”テーブルトークRPG”を熱心にプレイ。「いつか自分でゲームを作りたい」という夢をずっと抱いてきました。
スウェーデンで開催された妖怪の展覧会のトークイベントで、高橋さんが手がけたゲーム作品を紹介。「初めてお話したときには、掛け合いが本になるんじゃないかと思うくらい面白かった。マンガとボードゲームは、相性がすごく良いと互いに分かっていたので、いずれ開催すべきものだった」と当時を振り返ります。
「ミュージアムらしい表現」のための3つのリクエスト

準備にあたっては、應矢さんからリクエストがありました。
1.歴史を伝えたい
2.日本のボードゲームの過去を振り返り、現在どうなっているのかを教えてほしい
3.マンガとの共通性、活用性を教えてほしい
この要望を受けて、展示パネルの内容やデザインは高橋さんが一手に引き受けました。単に情報を羅列するのではなく、ミュージアムらしい表現にもこだわりました。

江戸時代の『絵双六』から『同人ゲーム』まで、クロスオーバーの進化をたどる
世界のボードゲームの歴史から始まり、日本における江戸時代の『絵双六』や昭和期の『ドンジャラ』『パーティージョイ』といった家庭向けゲームへと時代を追いながら、文化的背景と現在の動きを辿れる構成となっています。
高橋さん
「ミュージアムである以上、”ボードゲーム文化”を中心に、様々なゲームとマンガとの関係性の成り立ち、最新のトレンドを伝えることが大切でした」

特大パネルは『ボルカルス』。実寸では100mのキャラクターを 1/65スケール にしたパネルも、今回のために用意されました。

原作・脚本はボードゲーム版の総合ディレクションも務めるドロッセルマイヤーズの渡辺範明さん。ボードゲームとして登場した後、マンガ化され、さらに続編にあたるゲームが制作されるという“逆輸入”的な展開が生まれています。



高橋さん
「江戸時代には勇敢な侍や妖怪などが描かれた『絵双六』が当時の子どもたちに人気で、昭和になるとマンガ・アニメのキャラクターが登場する『ドンジャラ』や『パーティジョイ』が大人気でした。1995年にドイツで生まれた『カタンの開拓者たち』が世界的な大ヒットとなりドイツゲームのムーブメントが始まりました。日本でもボードゲームをプレイする人口が増え、マンガの分野にもボードゲームをテーマにしたマンガが登場していきます。このように日本ではマンガ・アニメ・ゲームがクロスオーバーしながら発展していることを伝えたいですね」

じっくり鑑賞をする外国人観光客の姿
展示は京都国際マンガミュージアム1階の通路沿いにあるスペースにあります。本棚側と窓際側の両サイドを活用した展示がされました。

通路にもかかわらず足を止める方が多く、「普段と様子が違う」と應矢さんは気がつきました。筆者が取材で訪れた際も、多くの外国人観光客が、真剣にパネルを読む姿が印象的でした。

英訳にも工夫されていました。「奈良時代」や「高度経済成長期」の表現は、海外の方には分かりづらいかもしれません。「西暦◯年」と明記することで、時代背景を知らずとも、数字で年代がイメージができますね。

世界累計4,400万個超のヒット作『カタン』はアイキャッチ

展示の入口に、大きな存在感を放ちながら置かれているのが、世界的なヒット作『カタン』。ドイツで生まれたボードゲームです。1995年の発売以来、世界で4,400万個以上が販売され、60か国以上で親しまれている名作ボードゲームです。(※2025年4月30日 現在)
カタンをはじめ、世界のボードゲームを日本に紹介し販売する、株式会社ジーピーの米川さんにもお話を伺えました。カタン日本選手権大会の企画運営もされるなど、ボードゲームの普及に大きく貢献する人物です。

米川さん
「ヨーロッパでは1家に1カタンというくらいポピュラーな存在なんです。日本でいうと『人生ゲーム』のような位置づけですが、大きく違うのは、複合ゲームとしてのバランスのよさです。ダイスでの運だけではなく、交渉力、戦略性、タイミングといった要素が勝敗を左右します」
海外からの来館者には、カタンは“共通言語”として、大きな役割を果たしていたのです。

高橋さん
「『なぜカタンがあるのだろう?』と、気になって足を止め展示を見る。ボードゲームとマンガの繋がりを理解する。マンガを読み始める…。まさに狙い通りです」


『放課後さいころ倶楽部』(小学館)では2巻にカタンが登場します
展示に登場したカタンは、なんと想定よりも大きく、当初予定していた棚には収まらなかったという裏話も。なんとか完全版を設置し、結果として想定以上の反応がありました。

導線設計「展示を見る→マンガを読む→購入する→遊ぶ」

展示を見終わって終わりではありません。レジ横の物販エリアでは、作品に登場したボードゲームやマンガの第1巻目が販売されていました。お土産として手軽に手に取れます。展示を見てマンガを読んだ後、購入をして遊ぶという循環が生まれていました。

ビジュアルイメージ『天王寺さんはボドゲがしたい』はクロスカルチャーの象徴だった

應矢さんが強く希望したのがビジュアルでのフックでした。
應矢さん
「視覚的に惹きつけられる何かが欲しかったんです。『天王寺さんはボドゲがしたい』(竹書房)の女の子のビジュアルが使えると高橋さんから言われて。えええ?!って、驚きましたよ(笑)」
高橋さん
「作画を担当されているmononofu先生とは、もともと親交があったんです。最初はボードゲームの写真をビジュアルに使おうとも考えたのですが、どうしても“固い印象”になってしまうなって。せっかくならマンガで、ワクワク感があるものを…。竹書房さんに相談したところ、ぜひと快諾いただきました」

應矢さん
「実在するボードゲームを題材にしたマンガは、まだ多くないんです。だから作品の存在は大きかった。竹書房さんが協力してくださったことが、ほんとうに嬉しかったですね」
展示の立ち上げにおいて、マンガが果たした役割は、想像以上に大きいものでした。
高橋さん
「ボードゲームを紹介するマンガということで、業界の方が積極的に協力してくれています。なぜ協力するのか。それは、“もっと多くの人に、ボードゲームの魅力を知ってほしい”から。まずは作品を知ってもらいたいし、マンガを通してボードゲームの世界にも興味をもってもらえたら嬉しいです」

ゲーム・マンガ・アニメは独立した存在ではなく、密接に関わっている
日本を代表するカルチャーとして語られることの多い「ゲーム」「マンガ」「アニメ」。展示では、各々が独立した存在ではなく、密接につながっていることも意識的に表現されています。
應矢さん
「マンガは、自分で読み進める“能動的”なコンテンツ。アニメは一方的に流れてくる“受動的”なコンテンツ。ですが、ボードゲームは“マンガ以上に能動的”です。自分が世界の住人になり、体験として没入できる。しかもコンピューターを介さず人間同士でやりとりするので、よりリアルなんです。とはいえ、マンガにも大きな役割があります。”没入”だけでなく世界観を共有し、互いに補完し合う関係に進化したものもあります。”情報の入り口”として、視覚的にも物語的にも伝わりやすい存在です」

高橋さん
「ゲーム、マンガ、アニメは三角形、常に行き来してクロスオーバーしているんです。どれもが独立しているようで、実は密接につながっている。その関係性も感じてもらいたいです」
まずは知ってもらうことから始めたい

最後に、展示で伝えたいことをお二人に伺いました。
應矢さん
「正直言うと、僕自身が最近のボードゲームをあまり知らなかったんですよ。だからこそ、同じようにこれから知る人がマンガミュージアムには来るだろうと思って。僕も学びながら、来館者の皆さんと一緒に知っていきたいです」
高橋さん
「将棋や麻雀、カルタだってボードゲーム。ボードゲームをやったことがない人のほうが珍しいんですよね。マンガを読んだことがない人も、あまりいないと思います。展示をきっかけに『あれもボードゲームだったんだ』『この作品もつながっていたんだ』と、気付いてもらえたら嬉しいですね。興味がある分野は知りたくなりますよね。その知的好奇心から、次の行動が生まれるはず。展示は氷山の一角です。だから、次のステップへ進むきっかけになることを願っています」
Editor’s note:「ボードゲーム」と「マンガ」がクロスする体験型展示が、魅力的になった理由
異なるコンテンツがクロスした体験型展示が実現し、魅力的なものになった最大の理由は、異なる立場にいながらも、高橋さんと應矢さんが同じ熱量で“業界をもっと盛り上げたい”という想いを共有していたからに他なりません。
熱意に加えて、来館者の導線を丁寧に設計すること、歴史的な視点から背景を伝える構成、そして訪日外国人の来館者も意識した表記やビジュアルの工夫など、技術的な側面もしっかりと支えになっていました。
単に展示するだけでなく、「どう見せるか」「どう届けるか」を真剣に考え抜いた結果が、訪れた人の心をつかむ体験へとつながっていたのだと思います。これから展示・イベントを企画しようとしている方、あるいは業界の発展に携わる方にとっても、多くのヒントと気づきが詰まった展示ではないでしょうか。
会期は7月1日まで。ぜひ足を運んでみてくださいね。

<概要>
日時:令和7年4月26日(土)~7月1日(火)
場所:京都国際マンガミュージアム 1階 吹き抜けスペース
(〒604-0846 京都市中京区烏丸通御池上る)
参加費:無料
(ミュージアム入館料〔大人1,200円、中高生400円、小学生200円〕は別途必要)
主催等 共催:京都国際マンガミュージアム、Board Game Business Expo Japan
協力:竹書房、mononofu『天王寺さんはボドゲがしたい』、株式会社 小学館、中道裕大『放課後さいころ倶楽部』、渡辺範明、中道裕大『Kaiju on theEarth ボルカルス』、株式会社 ドロッセルマイヤー商會
Webサイト:https://kyotomm.jp/ee/manga-boardgame/