1. HOME
  2. 取材・レポート・コラム
  3. イベントの取材・レポート
  4. 【レポート】サウンドメッセ2025 “音”の展示会はどう作られているのか? 出展者取材で探る魅せ方と音楽業界のこれから(出展者インタビュー)
イベントの取材・レポート

【レポート】サウンドメッセ2025 “音”の展示会はどう作られているのか? 出展者取材で探る魅せ方と音楽業界のこれから(出展者インタビュー)

イベントの取材・レポート

“音”に関することを扱う展示会とは、どういうものでしょう。実物を手に取る展示会のなかでも、音楽機材や楽器のイベントは少し異色です。なぜなら、そこには「音を鳴らして体感する」「音を聴く」ことそのものが、商品の価値を決める要素になるからです。

「サウンドメッセ in OSAKA」は、国内最大級のギター&ウクレレ展示販売イベント。2024年は165社が出展し、来場者は8,000人を超えました。展示ブースでは演奏が繰り広げられ、試奏、演奏の音が会場のあちこちから聴こえてくる。まさに“音”そのものが飛び交う空間です。

日本のギター人口はおよそ300万人とも言われており、その裾野はプロから趣味層、さらには子どもやシニア層にまで広がっています。しかし、少子化や趣味の多様化が進むなかで、ギターは“生活必需品”ではありません。だからこそ「どうやって価値を届けるか?」は業界にとって考える必要があると感じています。

今回は、どんな企業、事業者が、何を目的に出展しているのか…。本記事では、出展者インタビューを通じて、音楽業界が目指す次のステージを探ります。

※2025年5月10日 現地取材

サウンドメッセを構成する3つのもの、つくる、売る、弾く

ギター産業は3つの立場があります。ギターを“つくる”メーカーや工房(YAMAHA、Martinなどの大手から個人製作家まで)、それを“売る”ディーラーや楽器店、そして“弾く”ユーザー(ミュージシャンや趣味層、コレクターなど)。さらにメディアや関連サービスを提供するところもあるのですが…大きくこの3者が揃い、サウンドメッセが構成されています。

この日の会場は大阪・南港にあるATCホール。11時のオープンを前に、すでに入り口には来場者の列ができていました。

筆者が到着したのは10時30分ごろ。ざっと見たところ、すでに50名ほどが並んでおり、みなさん開場を今か今かと待っている様子。友人同士で談笑する姿もあり、イベントへの期待感がじわじわと伝わります。


フロアマップで全体を把握、大きく2つのエリアに分かれる

ひとつは、ギターを“つくる”側。つまりメーカーや製作家(ルシアー)たちによるエリアです。ここでは自社ブランドの新作や、クラフトマンシップが光る一点ものなどが並んでいます。ブースはさらに細かく分かれていて、「エレクトリックゾーン」「GENゾーン」「ルシアーズゾーン」「アコースティックゾーン」「ウクレレゾーン」「ペダルサミットゾーン」と、楽器の種類やジャンルごとに分かれて展示されていました。主には楽器店やバイヤーに向けて紹介・販売をされています。

そして、楽器店による販売エリア。その名も「ショップゾーン」。ここでは店舗ごとのおすすめモデルや即売品がずらり。中には、100万円台のハイエンドギターを扱うところも。
手にとり、話を聞き、試奏して買う…という動線ができあがっています。

防音室で商談?そのわけは…

ところどころ、ヤマハの防音室「アビテックス」も見かけました。出展者によっては、自分のブースでは難しい商談や演奏を、この防音室の中で行っているようです。会場は音が飛び交っているので、演奏してもらえる空間があることで、音の細かな違いをじっくり聴かせられるのは大きなメリット。ヤマハにとっても実用シーンを見せられるPRの機会になっていたように思います。


4つのステージでは絶え間なく「ライブ」の音が響く

4つのステージで、入れ代わり立ち代わり演奏されています。トーク中心のステージイベントとは違い、こちらでは演奏が主役。来場者は自由に立ち寄って音に耳を傾けられます。

・海辺のステージ
ホール入口すぐにある屋根付きのステージ。24席ほどの観覧エリアが設けられており、イベントに入場しなくても、誰でも参加できます。たまたま通りがかった人が、演奏に惹かれて足を止める姿も多く見られました。

・Dホールステージ
唯一クローズドなホール。人気イベントが多く、当日9時から確実に席を押さえる「ワンコイン・リザーブシート(500円)」を購入することで、事前に席を確保できます。チケットは各回150枚限定。


・ホワイエステージ
あまりの人で撮影ができませんでしたがお許しください。人気ステージはステージエリアからはみ出すほどの盛況。混雑対策のため、列の整備等で工夫されていました。


出展企業8社にインタビューしました

サウンドメッセは、日本国内だけでなく、海外からの出展も多いのが特徴です。イタリアやフランス(パリ)、メキシコなど、会場を歩いているだけでも多国籍感を味わえます。

色が変わるギター!?:Cream Guitars(メキシコ) / 株式会社キョーリツコーポレーション

ブース装飾で1番インパクトに残ったのはこちらのブースでした。ひときわ目を引くショッキングピンクに染まった空間に、スピーカーの頭を持つマネキンたち……。そこは、株式会社キョーリツコーポレーションが輸入代理店を務める「Cream Guitars」のブースです。

Cream Guitarsは、メキシコ北東部で生まれた比較的新しいブランド。派手なギターがなかなか見当たらないなかで、「もっと面白いものを作りたい」と4年前に立ち上げました。中でも象徴的なのが、“スピーカーヘッド・マネキン”。頭がスピーカーになっていて、「それぞれが自分の音を鳴らしていいんだよ」というメッセージも込められているのだとか。ブランドコンセプトから先に考えられ、キャラクターや色使いにもしっかりと意味が込められているのですね。

楽器としての完成度も高く、さらに驚かされたのが、ボディの模様が変化するギター。「ダ・ビンチモデル」と呼ばれ、エレクトロ・マグネット(電磁石)の仕組みでボディ表面の色や模様が変わるというもの。演奏中に色が変わることで、衣装チェンジのような演出もできそうです。

(音が出ます)

ギターの枠を超えて、技術とアート、そして遊び心を融合させたこの展示。会場を見渡しても、こんな発想に出会えるのはCream Guitarsだけかもしれません。

Cream Guitars https://kcmusic.jp/creamguitars/
株式会社キョーリツコーポレーション https://kyoritsu-group.com/


領事館が日本進出をサポート:Genta Guitar(インドネシア)

インドネシアからの合同出展ブースでは、なんと6つのメーカーが1つのブースに集まり、インドネシアの楽器産業の魅力を発信。その背景には、「在大阪インドネシア共和国総領事館」や「インドネシア貿易振興センター(ITPC大阪)」の支援があり、国家プロジェクトとして大阪の展示会に挑んでいるという力の入りよう。

Genta Guitars(ゲンタ・ギター)さんに伺いました。
1959年に設立された歴史あるブランドで、インドネシア・バンドンに拠点を構えています。現在は2代目の息子さんがブランドを継承し、毎月数千本のギターを生産する大手へと成長しているそうです。今回期待したのは、商品を日本の楽器屋においてもらうことでした。

インドネシア産のローズウッドやマンゴーの木を使ったデザインギターを展示。木材サンプルに貼られたQRコードを読み込むと、その素材で作られたギターの音色がInstagramで聴けるという仕掛けも。視覚・触覚・聴覚を連動させる、ユーザー体験に優れたアプローチでした。


また、Genta設立66周年を記念して製作された世界に6本しか存在しない限定アニバーサリーモデルには、ブロックチェーン(NFT)で所有履歴が管理され、権利も紐づきます。まさに時代を映した1本です。最後には、ロゴとQRコード入りのピックをプレゼントしていただきました。名刺代わりにもなるおみやげで、思い出にも残るブース体験となりました。

Genta Guitar https://gentaguitar.com/


エフェクターの“沼”と、ロック魂が詰まったお酒:株式会社都商会

サウンドメッセの中でも、ひときわディープなエリアが「ペダルサミットゾーン」です。ここは、東京で開催されている「東京ペダルサミット」というエフェクター特化のイベントが、そのままサウンドメッセにも“出張出展”しているような形。まさに“エフェクターのお祭り”です。

入り口近くで人を集める株式会社都商会のブースがありました。ロックバンドの公式酒をずらりと展開。KISS、モーターヘッド、ジューダス・プリースト、スリップノット、ハロウィン、スキッド・ロウ、スレイヤー、シン・リジィ、ANTHEM、LOUDNESS、亜無亜危異など、国内外の名だたるバンドが監修・プロデュースした“ロック酒”が並びます。

ボトルのデザインは、ジャケットそのもの。パッと見ただけで「あのバンドだ!」とわかる見た目へのこだわりが光ります。

「Marshall(マーシャル)」のアンプ…? かと思いきや、実は冷蔵庫というサプライズ仕様です。「開けてみてください!」と声をかけると、思わず立ち止まる人が続出。冷蔵庫の中には、口当たりの良いラガービールが冷えています。Marshall公式ビールは通販でも購入可能で、自分用にはもちろん、ライブ後の打ち上げやアーティストへの差し入れ、誕生日プレゼントなどにもぴったり。最近ではロックバーなどの飲食店での採用も増えており、「音楽好き」が集まる場所では話題性も抜群です。

都商会のように、音楽にまつわる“モノ”を扱う企業が参加しているのも、サウンドメッセの面白いところ。

株式会社都商会 https://www.miyako-shokai.com/


次世代クラフトマンの祭典「ギタークラフト甲子園」

会場の一角で、ひっそりと、しかしながら熱気あふれるコンテストが開催されていました。GENが主催する「ギタークラフト甲子園」です。クラフトマンを目指す専門学生たちが製作したギターやベースを展示し、来場者や業界のプロが投票するというイベント。オーディエンス賞、ルックス賞、技術賞、アイデア賞の4部門があり、最終日(11日)には各賞の発表も行われました。

会場には、全国から参加した学生たちの個性あふれる作品がずらりと並び、来場者は自分の“推しギター”を見つけて投票できるスタイル。筆者のお気に入りは、なんと斧のようなシルエットのギター。見事、ルックス賞を受賞していました! おめでとうございます。

展示会の中に学びの場を組み込む…。学生は自分の作品を広く見てもらえる機会になり、一般来場者にとっては、“未来の才能”を発掘する、展示会を楽しむコンテンツになります。


アウトドアと音楽を提案:黒澤楽器店(マーティンギター)

マーティンは、その長い歴史と数え切れないほど多くの画期的な発明により、世界中のアコースティック・ギター・メーカーが「標準」と呼ぶギターを作り上げてきた会社である。

引用:マーティンギター Webサイトより

開場してすぐ、ファンと見られる女性達が走って向かうブースがありました。FM COCOLOの生放送が行われていたマーティンギターのブースです。CLOWさんと藤巻亮太さんによる生放送&生演奏が行われました。配信スタジオが展示会場に“組み込まれている”のは初めて見ましたが、音楽イベントとラジオの生配信の相性は抜群ですね。

ブースの雰囲気は、まるでアウトドア雑貨店。木の温もりに包まれ、ふと木の香りがするのです。ブース設営の意図を伺ったところ「自然の中でギターを楽しむシーンを想定した」とのこと。ブースの什器はすべて木材で作られており細部までこだわりが詰まっています。ギター単体を展示するのではなく、雑貨やアウトドアグッズを交えた空間演出によって、楽器ユーザー以外の来場者にも強い印象を残す、ブースづくりの好例といえるでしょう。

黒澤楽器店 https://www.martinclubjp.com/guitars/


木材の温かみを出すために引き算をする:ヤイリギター

メイドインジャパンを、岐阜県可児市の工房から。
私たちが作りたいのは、世代を超えてずっと愛され続けるギター。年月を重ねても色あせないデザイン、使い込むほどに深みが増す音色…。そんな1本をプレイヤーの方に手にしていただくために、材料である天然木の品質にこだわり、30人ほどのクラフトマンによる多種少量の手工生産というスタイルを1970年代から守っています。1日に生産できるのは20本程度。「small beautiful」をポリシーに掲げ、機会あるごとに「後世にまで残るのは本物のみ」と語っていた矢入一男は2014年3月に惜しまれつつ永眠しましたが、その志と職人技は、工房を守る職人たちに確実に受け継がれています。

展示ブースのこだわりについて伺いました。展示ギターの下には畳を敷き、壁面には無機質なコンクリート素材を取り入れることで、ギターの温かみを際立たせています。照明も上下から丁寧に当てられ、影の出方まで計算されている様子でした。

ブースは横長で間口が広く、仕切りがないため来場者もふらっと入りやすい設計。スツールを6つほど設置されており、複数人が同時に試演できるよう工夫されています。手にとり音を鳴らす来場者の姿も多く見られました。「ビジネスデーで何本かバイヤーさんに売れたんです」ともお話しされていました。

ヤイリギター https://www.yairi.co.jp/


ライブこそがプレゼンテーション:Natasha Guitar

世界有数のギター生産地として世界が注目し、革命的な発展を続ける中国、正安県。フィンガースタイルの音楽をこよなく敬愛するAaron Zhao氏が立ち上げた真のオリジナルとして最高峰と呼び声も高いギターブランドが「ナターシャ」です。 オリジナリティとクオリティの高さは、ギターの新時代の始まりを確実に感じさせます。世界のフィンガーピッカーからの評価と注目度も高く、すでに中国ではトップブランドの仲間入りを果たしています。

この日は、名古屋を拠点に活動するシンガーソングライター Gustavo Avilaさんによるデモ演奏も実施。演奏が始まると、たちまち観客が集まり、通路を塞ぐほどの盛況ぶりに。ギターとアーティストの距離が近いのも、サウンドメッセならではの光景です。観客の熱気に包まれながら、演奏されるナターシャの音。言葉以上に製品の良さを物語っていました。「ライブこそが最高のプレゼンテーション」という考え方が、ブース設計の中心にあるのかもしれません。

Natasha Guitar https://natashaguitar.jp/


ハワイの風とともに木材の魅力を届ける:Maikai Wood Hawaii (マイカイウッドハワイ)

ギターやウクレレを支えるのは、演奏者だけではありません。素材に命を吹き込むクラフトマンたち、そしてその素材を届ける人たちがいます。

独自の卸売実績があるハワイアンコアウッドのサプライヤーです。楽器材木屋専門、材木輸入、ハワイアンインポートショップのマイカイウッドハワイは、ハワイのエキゾチックな木材を世界中のお客様に供給する ウインクラーウッズ社(Winkler Woods LLC) と、高品質なソリッドコアウクレレをお手頃な値段で提供する イムアウクレレ (Imua Ukulele) のオーナーが運営する日本のオフィスです。ハワイアンコアやマンゴー材のハワイアン小物雑貨からイムアウクレレ、また、ウインクラーウッズ社が提供する家具材、楽器用材まで輸入販売しております。

その場で木材を“見て、触って、話して、買える”こと。「今朝、学生のクラフトマンが木材を買いに来てくれましたよ」というエピソードもあったようです。ハワイアンコアやマンゴー、日本のトチ材など、ハワイと日本の木材を扱われています。素材から音楽が生まれる。なくてはならない素材についても考えさせられるブースでした。

Maikai Wood Hawaii https://hiwoodo.jp/


まとめ:ギターの先にある“価値”を届けるために

入場料は前売り1,700円、当日2,000円。18歳以下は無料という価格設定もあって、学生の姿も見られました。一般な来場者の多くは趣味層やこだわり派のギターファン。“ここでしか出会えない1本”を目当てに足を運んでいるように思います。一方で、出展者側はメーカーサイドの比率が高く、バイヤー向けのビジネスイベントとしての顔も色濃く持ち合わせています。とはいえ、来場者と直接話せるリアルイベントの場は、商品に対する生の声を聞ける貴重な機会ですね。

ギターは“生活必需品”ではありません。少子化や趣味の多様化が進むと、需要も減ります。だからこそ「どのように価値を届けるか?」は、すべての業界に共通する課題になっていくのではないでしょうか。
もはやギターは「楽器」としての価値だけで勝負する時代ではないのかもしれません。たとえば黒澤楽器店のように、ギター×アウトドアというライフスタイルの提案が行われているように、「かっこいい」「健康的」など、別の価値と掛け合わせることで、より広く人の心に届くのでは…

生音が持つ魅力、楽器の重さ、手触りといった本物が持つ魅力を伝える場として、こういったイベントの持つ価値は色褪せません。
業界の次世代を担う学生たち、グローバル展開を見据えるメーカー、楽器店が集まったサウンドメッセは、音楽という文化がこれからどこへ向かうのかを探る貴重な機会になりました。

名称サウンドメッセ in OSAKA 2025(略称:サウンドメッセ、SM2025)
主催一般社団法人サウンドメッセ
運営サウンドメッセ実行委員会
会場アジア太平洋トレードセンター・ATCホール〒559-0034 大阪市住之江区南港北2-1-10 http://atchall.com/
開催日時2025年5月10日 (土) 11:00~18:302025年5月11日 (日) 10:00~17:30 ※バイヤーズDAY *BtoB/業者間取引日
2025年5月9日 (金) 14:00~18:00
入場料前売券:1,700円 / 当日券:2,000円(*各プレイガイドにて発売予定) ■18才以下:無料
*要学生証または身分証明書■70才以上:1,500円(当日券のみ)
*要年齢確認書類■ハンディキャッパー:1,500円(当日券のみ)
*要障害者手帳※消費税込
事務局サウンドメッセ事務局〒561-0845大阪府豊中市利倉1-13-13((株)エースケー内)
協力アルカディアプロダクツ株式会社 AVEプランニングキャットミュージックカレッジ専門学校株式会社 ジオブレイン株式会社 シンコーミュージック・エンタテイメント株式会社 第一紙行Tule music Lab.株式会社 ミュージックトレード社株式会社 リットーミュージックローリングココナッツ
(敬称略・五十音順)
後援FM COCOLO
全国楽器協会

前売り 1,700円(税込) 1日限り有効
当日  2,000円(税込) 1日限り有効
18歳以下の方は、無料でご入場可能

ギャラリー

関連記事はこちら

大阪・関西万博関連の記事はこちら
韓国有望スタートアップに出会えるイベント
Aichi Sky Expo特集
お問合せはこちらから
スマホアプリができました
過去記事から探す
カテゴリー