【韓国取材】KOREA MICE EXPO 2025 各地域で進む戦略的な施設開発や取り組み/高陽メガベニュー、産業都市浦項、江陵リゾートMICE、大田サイエンスMICE【韓国2025秋特集6】
KOREA MICE EXPO 2025での現地取材を通じて、韓国のMICE産業が今、ソウル中心の時代から地域分散と多様化の時代へと移行する可能性を感じました。国内の主要各都市では、単なる施設の増設に留まらず、それぞれの地域の特性や産業基盤を最大限に活かした、戦略的な新規MICE施設の建設計画や取り組みが次々と進行しています。本記事では、各地域の新施設計画と、その背景にある都市ごとの戦略的意図を探ります。
KOREA MICE EXPOには韓国全17広域市が参加

KOREA MICE EXPOには全国の主要な地域のすべてが参加。これだけでも韓国のMICEへの期待値が伝わってきます。当編集部では各地域のブースを巡り、大型MICE施設を中心にそれぞれの取り組みをお聞きしました。

1. 高陽市(コヤン):首都圏の巨大拠点「KINTEX」の拡張戦略
展示場拡大、スマートMICE、首都圏へのアクセス改善、ホテル併設…大規模な正当進化
首都圏という地理的な優位性を誇る高陽市のKINTEXは、既存の施設に加えて第3展示場の建設計画を推進しており、アジアを代表するメガMICEベニューとしての地位を確固たるものにしようとしています。規模の拡大とアクセス性の向上、そして最先端技術の導入という三拍子揃った戦略です。
KINTEX現地取材記事はこちら

第3展示場の計画とスマートMICE
KINTEX第3展示場は、2027年~2028年までの完成を予定しています。展示場と会議室を備えたA棟とB棟の2棟構成となる計画で、完成すれば、現在の10.8万平米から約18万㎡の展示面積を誇る巨大展示場となる見込みです。この新施設では、最新の設備と技術が導入される「スマートMICE」のコンセプトが競争力の源泉となります。2025年現在、詳細は未公開ながらも、AIをはじめとする最新技術を最大限に活用し、参加者と主催者の双方に利便性と体験価値を提供することを目指しているとのことです。
また、第3展示場の建設に合わせて、ホテルも同時に建設される計画があり、これは日帰り利用の施設から、高付加価値な滞在型MICEに進化するための一手と分析されます。

圧倒的なアクセス性:GTXの開通効果

KINTEXの競争力を劇的に高めている要因の一つが、GTX(首都圏広域急行鉄道)の開通です。ソウル駅からKINTEXまで約30分という短時間で到達可能となり、アクセス性は飛躍的に向上しました。既にGTXを利用した来場者は増加しており、これまで他の地域で開催されていたイベントをKINTEXに移したいという具体的な問い合わせも増えているそうです。

KINTEX https://www.kintex.com/web/en/index.do
KINTEXは「規模の拡大」「最先端技術」「アクセス性の向上」という三拍子揃った戦略で、首都圏のMICE需要をさらに強力に引き寄せようとしています。KINTEXが規模とアクセス性という「量」の戦略で首都圏市場を席巻しようとしているのに対し、次にご紹介する浦項市は地域産業との連携という「質」で特定の専門分野を深掘りする、異なる思想のMICE戦略を展開します。このアプローチは、首都圏のメガベニューとの直接競合を避ける地方都市の巧みな生存戦略と言えるかもしれません。
2. 浦項市(ポハン):産業と自然が融合する新たなMICE都市「POEX」

浦項市は、従来の「鉄鋼の街」という産業都市のレガシーを活かしつつ、二次電池や水素産業などの先端産業基盤と、美しい海岸線という自然資源を融合させる、専門特化型のMICE戦略を展開しています。新設される浦項国際展示コンベンションセンター(POEX)がその中核を担います。
地域産業との強力な連携とグリーンシティへの転換

POEXは、約7,200平方メートルの展示場や中小会議室を含む複数のコンベンションホールで構成され、海辺に隣接した開放的なロケーションを誇ります。最大の強みは、浦項市が持つ強力な産業基盤との連携です。2024年に着工され、2026年末完成予定です。
浦項は、二次電池、水素、バイオ、AIなど未来の先端産業の中心地であり、世界的な鉄鋼企業であるPOSCOや、韓国屈指の理工系大学POSTECHなどの研究機関が集積しています。POEXは、これらの産業と連携した専門性の高い展示会や国際会議の誘致を主な目的としており、特に日本、韓国、中国からの参加者に実質的なビジネス機会を提供することを目指しています。

浦項市は、従来の産業都市から「緑の都市」「観光都市」への転換を積極的に進めています。その象徴的な取り組みが、廃線跡を市民の憩いの森へと生まれ変わらせた「ヘチョルギル森」の造成です。このような環境に配慮した街づくりは、MICE参加者に対して、ビジネスだけでなく心身のリフレッシュという付加価値を提供する重要な要素となっています。
独自の観光資源と文化

浦項は、山と海の両方を楽しむことができる恵まれた自然環境を持ち、マリンスポーツやパラグライディングといったアクティビティも盛んです。また、鉄の街ならではの「スチールフェスティバル」や、説話「延烏郎・細烏女(ヨノランとソニョ)」に代表される、日本のルーツにも関連するユニークな文化・歴史的背景も、MICEのユニークベニューとして魅力的な資源となっているとのことでした。
浦項市は地域の産業基盤と、自然・文化資源という二つの強力な武器を巧みに組み合わせ、専門性の高いMICEイベントを誘致するという戦略的意図が読み取れます。こうした産業連携型とは違ったアプローチでMICE市場への参入を図るのが、次に紹介する江陵市です。
3. 江陵市(カンヌン):美しい景観を活かすリゾート型MICEの拠点

江陵市は、韓国有数の美しい東海岸の景観を最大限に活用し、ビジネス中心のMICEとは一線を画す「リゾートMICE」というニッチ市場を開拓しようとしています。美しい環境そのものを最大の価値として提供する、巧みな戦略です。
非日常を求めるインセンティブ市場をターゲットに

2026年の完成を目指している新しいコンベンションセンターは、海を望む景色の良い立地に建設されます。江陵市の戦略は、ソウルや釜山のような大都市の喧騒から離れた、静かで美しい自然環境を求める需要層をターゲットとしています。日本の企業からのインセンティブトラベルや、特別なビジネスイベントのセレモニーなど、景観が重要な要素となるイベント誘致にも期待を寄せているとお話いただきました。
KTXを利用すればソウルから約2時間半、仁川国際空港からも約3時間でアクセスが可能であり、リゾート地でありながら国内外からの参加者をスムーズに受け入れられる点も強みです。
江陵はドラマや映画のロケ地としても知られており、「自然美」という絶対的な強みを活かし、特定の需要層をターゲットにした巧みなニッチ戦略を展開していると思います。次に紹介する大田市は、施設そのものではなく、国際的な連携というソフトパワーを軸としたユニークなMICE戦略を進めている点が興味深いものでした。
4. 大田市(テジョン):国際連携で推進するサイエンスMICE

大田市は、韓国第5の人口を抱える大都市です。2025年には札幌市と姉妹都市提携15周年を迎えます。まずブースでお聞きしたのは、札幌市との姉妹都市関係という強固な国際的パートナーシップを基盤として、MICE誘致のプロモーションと相互交流を活性化させるという、ソフト面を重視したユニークな戦略でした。MOU(了解覚書)を締結し、MICE誘致における相乗効果を狙っています。

大田市には、韓国科学技術院(KAIST)をはじめとする世界レベルの研究機関や大学が既に集積しており、これらの知的資本を国際ネットワークで活性化させる戦略的判断があるのかもしれません。大田市は、韓国MICE市場における「国際連携型」の事例として位置づけられています。高陽市が規模とアクセス性で大規模需要を狙う「メガベニュー化」戦略や、浦項市が地域産業と結びついた専門性の高いMICEを創出する「産業連携型」戦略などと対比され、各都市が独自の強みを活かした戦略的差別化を進める韓国MICE市場の多様化を象徴しています。
大田観光公社(Daejeon Tourism Organization, DJTO) https://www.daejeoncvb.kr/
大田コンベンションセンター https://www.dcckorea.or.kr/index.do
2022年に第2展示場がオープンし、施設が大幅に拡張されています。
各地の独自性や強みを活かし、多様化する韓国MICE

今回のKOREA MICE EXPOでの取材で見えてきた各地域・都市の戦略は、韓国のMICE産業が単なる規模の拡大競争から、独自性や強みを活かした戦略的差別化の時代へと移行したことを示しています。
- 首都圏のメガベニュー化(高陽市): 圧倒的な規模とアクセス性で大規模需要を狙う。
- 産業連携型(浦項市): 地域の先端産業と結びつき、専門性の高いMICEを創出する。
- リゾート型(江陵市): 豊かな自然環境を活かし、インセンティブ市場を開拓する。
- 国際連携型(大田市): 都市間ネットワークを活用し、ソフト面で競争力を高める。
各地域・都市が独自の強みを磨き、差別化を図るこれらの動きは、世界のMICE市場における韓国全体の競争力を一層高める要因となるでしょう。日本のMICE関係者にとって、韓国の各都市が提供するユニークで多様な選択肢は、今後ますます注目すべき価値を持つことになるに違いありません。





