【コラム】徒歩で訪ねたマイファースト ニンテンドーミュージアム/感想と地元民の思い
仕事場にもなっている宇治の拠点から歩いて10分少々。自宅からも自転車で行ける距離にできた注目の施設。先日、ようやく訪問できました。仕事を早めに切り上げて歩いて向かいます。
この記事はニンテンドーミュージアムの感想と、地元民・地元企業として思ったことを徒然とつづったものです。とりとめもない内容ですので、肩肘張らずにお読みください。
平日午後の客層と館内の様子
平日午後という時間帯は日本人の家族連れや一般的なお勤めの方には訪問しづらいのでしょうか、入場前の列に並んでいる半数ほどはインバウンドと見られる観光客でした。
ニンテンドーミュージアムはもともとは京都の南部にあった工場やカスタマーサービスセンターとして使っていた施設です。建物をうまく使ってまとめられているため、何も言わればければ気づかないでしょう。京都南部に住んでいる方には「あれがこうなった」と想像が付く程度には外観は面影があります。
開業まもないと思えないスマートな運営
任天堂は海外版ファミコンであるNESをはじめ、海外でも昔から多くのゲームファンを生み、そして育ててくれました。展示には日本以外で発売されたゲーム機本体や海外版ソフトのパッケージも並んでいました。説明を読ませる展示ではなく、まるで任天堂の歴史を曼荼羅にしたような展示は、見て楽しめるもので、海外からのお客様にも十分楽しめるものだろうと思います。
意外だったのはサードパーティ(本体を製造しているメーカー以外の主に周辺機器やソフトを発売する会社)のパッケージも置かれていたことです。日本版「ロックマン」と海外版「メガマン」が並んでいるのは、日本・海外どちらのゲームファンも興味深いものでしょう。
館内は順路が定められているわけではなく、好きなように展示を見られるようになっています。スタッフの皆さんは終始、ホスピタリティがあって、とても気持ちよく利用できました。人数も多く配置されていて、事前に周到に施設の設計やオペレーションの想定がされています。平日午後とはいえ、開業からまもないことを考えると、相当に事前のトレーニングが実施されていることがよくわかります。スタッフ同士の私語もなくて、お客様に向き合っている様子は、とても気持ちがいいですね。
体験展示はアミューズメントパークのような雰囲気
1階の体験展示もは身体を動かすアクティビティが大半で、さながらアミューズメントパーク。人気の体験には手持ちのコイン(体験展示に必要なポイント数)が多く必要で、このへんのバランス感覚は素晴らしいです。並んでいる時間があるため10枚すべて使い切るには、2時間以上かかりそうです。しかし、ゲームファンの悲しい性、思わず空いているファミコンのゲーム体験では家でいつでも遊べる「エキサイトバイク」で遊んでしまいました。
大きなコントローラーを使う「スーパーマリオブラザーズ」は思ったほど、ゲームセンターあらしでもファミコンロッキーでもありませんでした。自分が小人になったような不思議な感覚だったのです。
簡単なはずのゲームが操作系が変わるだけで違う楽しさをともなう遊びになる。なるほど、任天堂らしいアプローチです。
こんなので遊んでしまうと、セガにも往年の体感ゲーム機で遊べるパークを作ってほしいものです。昔のゲームセンターは体感型のアクティビティがたくさん並んでいました、これって相当に贅沢なことだったんですね。プライズゲームとプリントシール機が並ぶ今からでは想像ができないですが、どの街にもニンテンドーミュージアムみたいなのがあったわけです(おおげさ
閉館間際のショップは行列必至
ショップの商品は事前に予習していけば、お目当てのものを見つけるのは難しくありません。キャラクターグッズではなく、ゲーム機グッズがほとんどです。マリオやカービィ、リンクやゼルダに会いたい人は高島屋のニンテンドーキョウト(Nintendo KYOTO)にGOです。年代によって親しんだゲーム機が違うでしょうから、どのグッズも人気の様子。ファミコンやスーパーファミコンといった今の任天堂を築いたハードだけが人気にならないのです。たしかに、私もゲームボーイもゲームボーイアドバンスのグッズも欲しくなってしまっていました。
レトロゲームマニアは右向け右
レトロゲームが大好きで、日本橋のスーパーポ●トのようなお店にしょっちゅう行く方には、ゲーム機やゲームの展示はそれほど珍しいものではないかもしれません。一切触れません。レトロゲームのお店はあの通路の細さと所狭しと並ぶ大量のカセットやパッケージに圧倒されつつ、掘り出し物を探すことで、探検家精神がくすぐられます。もちろん、ミュージアムの展示とは本質的にまったく違うものです。今もレトロ、クラシックなゲーム機やゲームは街の何処かで買えるわけで、それが展示されているというのが、実は不思議な体験だったのかもしれません。
単に珍しい・懐かしいゲーム機やゲームソフトを見たいのなら、レトロゲームショップで十分です。
しかし、任天堂がゲーム機以前から販売していた、カードゲーム、ボードゲーム、おもちゃたちはとてもとても魅力的でした。40代~60代くらいの方にはどストライクだと思います。そして、ファミコン以前のゲーム&ウォッチやビデオゲーム本体の展示も貴重なものでした。ゲームの歴史の中を生きて来た方にはこれらの展示こそがご褒美なのではないかと思います。
ビジネスと地域への影響
館内のホスピタリティや運営体制に驚かされる一方で、ビジネスとしてもその成功ぶりがすでに見えていました。経営者やマーケティング職の方からすると任天堂の商売のうまさに舌を巻くのではないでしょうか。思わず1日どれくらいの売上で年間では‥と計算をしてしまいましたが、この立地やこのコンテンツ、施設やIPをフル活用してこれだけ稼ぐのか‥と絶句です。
USJ「スーパー・ニンテンドー・ワールド」はアメリカでも展開されます。映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は大ヒットし、「ゼルダの伝説」の映画化が進んでいます。各地の公式ショップ「Nintendo TOKYO」も大盛況です。
ゲーム機本体とゲーム作品がヒットするかどうかで、大きな浮き沈みの可能性のあるゲーム業界。長年育ててきたIPを活かしたビジネス戦略は大きな成功を収めています。
京都の人にとっての任天堂
同級生のお母さんが任天堂の花札やトランプを作るお仕事をされていました。
近所に任天堂にお勤めの方が住んでいて、自転車に乗って毎朝出勤されていました。
京阪や近鉄に乗ると、任天堂の社屋が目に入ります。
京都の人にとってはゲームファンではなくても、任天堂はとても近しい存在であり、自分は何も貢献していないのに、なんとなく誇らしい存在です。それは任天堂が大きくなっても京都に本社を置き、京都という場所を大切にしてことを、なんとなくわかっているからです。宇治の小倉工場をミュージアムにするというニンテンドーダイレクトを見たときも、驚きはありませんでした。ああ、任天堂らしい。
ニンテンドーミュージアムが開業したのは京都府宇治市の幹線道路近くです。
最寄りの近鉄小倉駅からは歩いて3分ほど。駅チカで非常にアクセスがよく見えますが、乗降客数はそれほど多くはなく、2023年11月7日の発表で1日 13,342人。そこその利用者数ですが、ほとんどが通勤・通学の方です。20年前に比べて30%減っており、駅前の大型商業施設は数年前に廃業し、今は更地です。すぐそばにかつての国道24号、今は府道69号が通り、ロードサイド型の飲食店やスーパーはありますが、日本のどこにでもある「郊外」の幹線道路風景です。
宇治市さんと京都府さん、大チャンス…のはずが
任天堂が世界で初めて手掛ける自社運営の体験型展示のミュージアム施設が開業。宇治市にとっても、京都府にとっても大きな好機だったはずです。しかしながら、宇治市も京都府も、任天堂がどういう存在なのか、任天堂がどうしてここにミュージアムを展開するのか、してくれるのか、まったくわかっていないように見えます。
なにも街や通りをマリオ色に染めたり、任天堂チックにする必要はないのです。時間はあったはずです。遠くから足を運んだ方に、できることはないのだろうかともどかしい思いです。大チャンスですよ!大チャンス!
開業以来、近鉄小倉駅の乗降客は目に見えて増えています。これまでに見かけなかった外国人旅行者や複数名のグループの若い観光客がニンテンドーミュージアムの方に流れていきます。夕方以降になると大きな袋を抱えた方も見かけるようになりました。
世界や日本の各地から、任天堂のゲームやキャラクターに親しみ、育ってきた人が、訪ねてくれていることを、私は誇らしく感じています。大阪にUSJ、千葉にディズニーランドができたのとは意味が違いすぎる。マリオやドンキーコング、メトロイド、ゼルダが生まれた京都にニンテンドーミュージアムができたことは必然であり、それを実現してくれてなんともうれしいのです。
私はこれから出会う外国からのゲストには、うちのオフィスはニンテンドーミュージアムの近くにあるんだ、ときっと話します。
MICEとしての期待
ニンテンドーミュージアムは企業の工場跡地を自社IPを活かせる場として再生させた、ケーススタディとなりそうです。今の宇治市や京都府のままでは難しそうですが、うまく機能すれば京都市の一部に集中するオーバーツーリズムへのカウンターにもなります。自治体や企業からの視察を兼ねた訪問が増えるかもしれません。
ゲームやアミューズメントに関わる方に、任天堂の歴史や文化を学ばせることは、よい研修・報奨旅行になるでしょう。人が集まる場所になることで、MICEにつながる動きが出てくることを期待したいです。
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