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【MICEクローズアップ】ボードゲームビジネスイベントで目指すのは来場者2万人。コロナ禍での分断、梅田50人のイベントから始まった物語。業界を盛り上げたい思いで、周囲の共感と期待を巻き込んでいく

「BGBEが描く来場者2倍の夢。挑戦する人たちを1年にわたって追う」第1回

夕暮れの関西、2023年冬。小さな会場に集まった約50人のボードゲームファンたちの間には、久しぶりの再会を喜ぶ声が響いていました。コロナ禍で途絶えていたコミュニティの絆を取り戻すための「関西ボードゲームファン感謝祭」。この小さな交流会が、後に関西最大級のボードゲームイベントへと発展する物語の始まりでした。

長期に渡ってMICEに関わるストーリーを追う【MICEクローズアップ】

これから一年に渡って、日本で初めてのボードゲーム業界のビジネスイベント「Board Game Business Expo Japan」(以下、BGBE)の主催者、高橋宏佳さんがいかにして、このイベントを立ち上げ、2026年次回開催でボードゲームビジネスイベントとして前人未到の2万人を目指すのかを追いかけます。

イベントの主催者がどのような思いをもっているのか、イベントはどのように作られていくのか、出展者の願い、来場者の期待。私たちもMICE業界では例を見ない、1年に渡る長期取材で、MICE・イベント・展示会に携わるすべての方に届けます。
もちろん、ボードゲームを愛するすべての方にも、ぜひ読んでいただきたいです。


分断されたコミュニティを再び結ぶために。梅田のボードゲーム酒場から始まった

「コロナ禍で関西の大型ボードゲーム即売会が開催されなくなってしまったんです」

穏やかな口調で語る高橋さんの瞳には、当時の焦りと決意が今も宿っています。業界全体を盛り上げるため、特に熱量のある関西の人たちが「自分たちでやっていかないといけない」という思いを強く抱いていました。

「他の土地から来た人が運営するイベントに頼るのではなく、自分たちでできることから始めよう」

その気概が、イベント開催への原動力となりました。「関西ボードゲームファン感謝祭」には、中止になったイベントに出展予定だった人や、新作を発表できていない人、新規参入を考えている人など、様々な背景を持つ人々が大阪梅田のボードゲーム居酒屋の定員いっぱいに集まりました。

「ヒロさんしかいないよ」

参加者からの後押しを受け、高橋さんは大型イベントの開催を決意します。以前からイベント経験があった彼に、多くの期待が寄せられていました。関西を中心に活動する人々との出会いも、高橋さんの背中を押しました。

当時の様子を伝えるX(旧Twitter)の投稿

インテックス大阪で開催したい。熱意が多くの関係者を動かし、発表はSNSで134万インプレッション

しかし、道のりは平坦ではありませんでした。

「いきなりインテックスさんだとか、お客さんそんなに来てくれますか」

やるからには全力でやりたい、場所は西日本最大級の展示会場「インテックス大阪」でと考えた高橋さん。ボードゲームのイベントがインテックス大阪で開催できるのか、初めてのイベントでは無謀と周囲の反対は当然でした。関西でイベントをすること、これまでの恩返しの意味もある、これは与えられた使命だと高橋さんは思いました。
そして、水面下で着々と準備を進めていきました。業界関係者や企業に協力・協賛を依頼し、連日オンラインでの打ち合わせを繰り返します。しかし、出展者には出展の根拠が必要です。

「大阪まで行く理由が欲しい、決済がおりない」「宣伝効果を得られるのか」

企業からはそんな声も上がりましたが、高橋さんの熱意は次第に多くの人の心を動かしていきました。出展者にとって大阪でのイベントが単なる地方イベントではなく、海外との接点を持つ機会となるように工夫しました。2日間の開催としたのは、海外からの参加者が大きなブースを設けても、1日だけで撤収してしまうと予算的に合わないという意見に応えたためです。イベントの形はこのように生まれてきました。

BGBE2025のシンガポールブース。海外との接点が生まれます

そして、プレスリリース発表前に50以上の企業や団体から参加承諾を得ることに成功します。実際には、出展者はこのようなイベントを待ち望んでいたのです。関係者には箝口令を敷き、イベント開催を発表するタイミングで大きな話題を生むことを狙います。この発表は業界にインパクトを生み、SNSの投稿は134万ものインプレッションにつながります。多くの出展者がいることで、あらたな出展者が集まります。

「みんなが喜ぶようなイベントにしたい」

高橋さんは、多くの人に話を聞き、可能な限り要望を反映することに努めました。海外との接点を求める声に応え、海外企業にも声をかけ、ビジネス目的で参加しやすいようにビジネスタイムを設けるなどの工夫も凝らしました。開催に向けて、イベントの詳細を少しずつリリースして、人々の期待感を高めていきます。

BGBE2024 メインビジュアル design:Sai Beppu

「待っていた」の声が寄せられる。第1回目、BGBE2024で来場者5000人超え

初開催にも関わらず5000人以上が来場するという成功を収めました。会場に足を運んだ参加者からは「待っていたんだよ」という声が多く寄せられ、高橋さんの決断が正しかったことを証明しました。

ビジネス面でも手応えは十分でした。イベント単体での黒字化は難しいとされる業界常識を覆し、スポンサー収入や広告収入など、様々な要素が重なり、初回開催で赤字にはならないという素晴らしい結果を残したのです。

さらに、イベント開催を通して業界からの信頼を得た高橋さんのもとには、様々な相談や依頼が舞い込むようになりました。ボードゲーム業界の関係者を紹介してほしいという依頼や、海外進出に関する相談など、イベントが新たなビジネスチャンスを生み出すきっかけとなっていきました。

BGBE2024の様子。プレスリリースより

参加者からの声を直接拾い、向き合う。

BGBE2024の閉会30分前。翌年のBGBE2025開催を発表した際、会場は拍手とどよめきに包まれました。
高橋さんは初回で終わるつもりはありませんでした。次の開催を視野に入れていた高橋さんは、次なる目標に向かって走り始めます。アンケートの結果、95%の人が満足度の高いイベントだったと回答するという驚異的な支持率も獲得しています。参加者アンケートの結果をもとに、通路幅を改善するなど、より満足度の高いイベントを目指しました。

BGBE2025 会場の様子。通路幅など前年開催時から多くのことが改善されました

高橋さんは、イベントをより良くするために、参加者(出展者や顧客)からのフィードバックを非常に重要視しています。彼自身もイベント参加者として、「こうなったらいいな」という要望があっても、SNSで発信するだけでは何も変わらないと感じていました。そのため、自らがイベントを主催する立場になった際には、直接意見交換ができる機会を設けたり、アンケートを実施したりすることで、参加者の声を積極的に拾い上げる工夫をしました。

「次は1万人を目指します」

高橋さんは目標来場者数を1万人に設定し、集客に力を入れました。より多くの来場者を集めるための施策を次々と打ち出していきました。その結果、2025年の2回目では利益も増え、イベントとして利益が出る体質を作ることができました。高橋さんの挑戦は、業界の常識を覆す快進撃へと変わっていったのです。

BGBE2025会場に掲示されたブース案内。これだけの出展者が集まるイベントになりました

さあ、次は2026年。より大きな目標を見据える

「2026年には2万人の来場者を目指しています」

高橋さんの目は既に先を見据えています。過去の来場者に向け、次回のイベント情報を積極的に発信し、友人や家族を誘って来場してもらえれば来場者は増えせると、そのお話からは目標が決して夢ではないことがうかがえます。

世界最大級のアナログゲーム見本市「SPIEL Essen 2024」(ドイツ)にて。なんと20万人も来場するアナログゲームイベントが海外にはあります

地域との連携も強化しています。沖縄のイベントに出展し、地域を盛り上げるためのパートナーシップを結びました。沖縄のような離島では、輸送コストが課題となるため、イベントを通じて現地の熱量を高めることが重要だと高橋さんは語ります。国内では、沖縄、岐阜、名古屋、東京、福岡、北海道といった都市でのイベントに参加し、海外では、タイ、フィリピン、台湾、マレーシア、アメリカ、北京、ドイツ、シンガポールなど、多くの国や地域でのイベントに参加を予定しています。
自分が行くことで熱量を直接伝えたい、各国のイベントで得た経験や知識を共有することで、業界全体の発展に貢献したいという思いを胸に、高橋さんの挑戦は続きます。

「イベントをしようとしてる人たちを応援したい」

高橋さんは自身の経験やイベントで得た知識を共有することで、他のイベント主催者の成功をサポートしたいと考えています。イベント主催者が増えることが大切だからです。小規模なイベントでも成功事例は多く、お金をかけなくてもできることはたくさんあると語ります。

ボードゲーム業界以外との交流も深めています。自治体、商工会議所、学校や福祉施設など、ボードゲームの魅力を伝える活動を展開し、新たな取り組みも計画中です。

「ボードゲームは教育やコミュニケーションに役立つツールです」

コロナ禍で途絶えかけていたボードゲームの灯を守り、さらに大きく育てていく―。その挑戦の行方を、これからも追いかけていきます。


クローズアップポイント

高橋さんの言葉からは、イベントを成功させるためには、主催者側の視点だけでなく、出展者や参加者のニーズを理解し、それに応えることが重要であるという考えが伝わってきます。そして、単にイベントを成功させるだけでなく、ボードゲーム業界全体をより良くしていきたいという思い。参加者の声を真摯に受け止め、イベントに反映させることで、より魅力的なイベントを作り上げ、ボードゲーム文化の発展に貢献していくことを目指している姿勢は、ほかの分野のイベントでもおおいに参考になるはずです。

MICEクローズアップ
「BGBEが描く来場者2倍の夢。挑戦する人たちを1年にわたって追う」第1回
取材:MICE TIMES ONLINE 井上浩二

本企画はこれから1年間、「Board Game Business Expo Japan2026」までの長期連載企画となります。
次からは実際に動き出したBGBE2026を取り上げていきます。
フェーズ1 始動(3月~5月)
フェーズ2 イベント開催準備を追う(6月~11月)
フェーズ3 イベント直前(12月)
フェーズ4 イベント当日(1月)編集部では当日2日間会場からレポートをお届け予定です
フェーズ5 アフターレポート(2月)

※取材:2025年3月1日

BGBE 公式Xアカウント https://x.com/BGBEJAPAN

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