【取材】名護市・白馬村・金沢市・琴平町…デジタルノマド誘客、地域に愛着をもち関係を続けるためには「地域と混ぜること」。7つの地域事例から見えたポテンシャル(観光庁主催シンポジウム)
2026年1月30日、大阪市内で観光庁主催シンポジウム「デジタルノマド誘客への挑戦!~観光庁モデル実証取組事例からみるポテンシャルと課題~」が行われました。デジタルノマドの誘客は、関係人口の増加や滞在による消費額などの観点から、地域の活性化のひとつの手がかりとなります。地域への誘客のためには、”継続すること”の重要性も挙げられていました。
本記事では、自治体・DMO・DMCなど、地域に人を呼び込む施策を検討している方に向けて、ヒントを整理しました。

国はビジネスインバウンドともいえるデジタルノマド誘客に力を入れている
デジタルノマド(国際的なリモートワーカー)とは、IT技術を活用して場所にとらわれずに仕事をする人を指します。日本では、2024年3月からデジタルノマド向けの在留資格制度が施行されました。観光庁はデジタルノマドを「ロングステイのビジネスインバウンド」と捉え、長期滞在による消費額の高さに加え、イノベーション創出、日本への投資拡大なども期待できる存在としています。
要は、金銭的に余裕がある方をどう呼んでこられるのか。そして長く関わってもらえるかということです。

観光客と異なる”滞在期間”と”消費額”
観光客の滞在期間が1~2週間程度であるのに対し、仕事をしながら旅をする層(デジタルノマド等)は、3〜4週間以上滞在を選択する傾向が顕著にあります。
沖縄県名護市(Nomad Resort)の実証事業では、1人あたりの消費額が約12.3万円となり、一般観光客の約1.5倍に達したというデータが報告されました。デジタルノマド誘致に向けた地域の取組は、MICEとも親和性が高いと言えます。
デジタルノマドと自認しているのは、わずか37%
松下教授の訪日デジタルノマド調査によると「自分はデジタルノマドだ」と自認しているのは37%に過ぎず、残りの63%は自身をデジタルノマドと捉えていない「隠れノマド(非自認層)」。
観光客として振る舞いつつ、滞在先で仕事を行う「ワーキングトラベラー」でもあります。「デジタルノマド」という言葉で施策を打つと、約6割以上を取りこぼしてしまう可能性がある、という指摘がなされました。

教授の松下氏をはじめ、モデル実証事業者7団体が登壇
シンポジウムはオンライン配信とのハイブリッド形式で行われ、会場にはデジタルノマド誘客に取り組む自治体や民間の担当者、誘客に関心のある事業者など約20名が参加。プログラムは、前半に関西大学社会学部の松下慶太教授による基調講演と、令和6年度および7年度の調査事業採択事業者7団体による取組事例紹介、後半に登壇者や参加者を交えたトークセッションが行われました。
※左から
松下氏(関西大学社会学部 教授)
松尾氏(福岡市 経済観光文化局 観光コンベンション部 観光課 課長)
福島氏(一般社団法人白馬村観光局 事務局長)
楠木氏(琴平バス株式会社 代表取締役)
西部氏(株式会社パソナJOB HUB ソーシャルイノベーション部 ワーケーションチーム長)
松本氏(株式会社Nomad Resort 代表取締役)
※オンラインで参加
新本氏(日向市役所 ふるさとプロモーション課 主任主事)
松田氏(株式会社キッチハイク こどもと地域の未来総研事業統括 部長)
※「デジタルノマド誘客促進事業」では、各事業者が実施地域を定めたうえで事業を行っています。記事中は地域名で記載をしていますが、シンポジウムに登壇した7事業者のうち、地方自治体として採択事業者となったのは「福岡市」「日向市」です。ほかは民間事業者及びDMOが採択事業者で、それぞれ実施地域を定めています。
デジタルノマド誘致で〇〇が変わった
調査事業採択事業者による取組事例紹介やトークセッションでは、デジタルノマドを受け入れて、どのような変化が起きたのかが語られました。

1. 長野県白馬村(白馬村観光局)/閑散期・平日の稼働率向上への期待
10か所のスキー場が集積する世界的に知られたスキーリゾート、長野県白馬村。村の経済や雇用の多くが観光産業に支えられており、冬季以外の集客と雇用の安定化が大きな課題となっています。白馬村観光局は「スキーリゾートからマウンテンリゾートへ」という合言葉の中で、紅葉が終わりスキー場オープン前の10月下旬~11月上旬をコア期間として、デジタルノマドの誘致に取り組みました。
観光地が抱える閑散期に滞在需要をつくりだすことで、オフシーズンの稼働率向上や、地域の雇用安定化に取り組んでいます。

2.香川県琴平町(琴平バス)/観光地の外にも人が流れ始めた
香川県の琴平町では、観光スポットである金刀比羅宮の表参道エリアに観光客が集中していました。一方デジタルノマドは、地元の人しか行かないような飲食店など、ローカルなエリアにまで足を運ぶように。長期滞在ゆえに観光客ではなく、生活者として行動するのです。観光消費エリアが広がり、観光の恩恵を受けにくかった店舗にも経済効果の波及が期待されています。

3.名護市(Nomad Resort)・金沢市(パソナJOB HUB)/定住・ビジネス・投資などの関係が深まる
滞在プログラムに参加したイスラエル人事業家のデジタルノマドは、日本への移住を検討。将来的には沖縄で古民家を購入したいと言っていました。(沖縄県名護市 / 株式会社Nomad Resort)

ひがし茶屋街のような歴史的なエリアでは、インバウンド観光客の増加に伴い、海外からの不動産購入ニーズが高まっています。しかし、地元では「大切にしてきた文化や歴史的背景が理解されないまま物件を購入されてしまうのでは」「投資の対象として扱われたうえ、町並みが壊されてしまうのではないか」と懸念の声が上がっています。
こうした状況を受け、町家再生やまちづくりをする地元事業者は、デジタルノマド向けのレクチャーを実施。地域の”残して活用したい”という思いを理解して、デジタルノマドと地域が関わろうとする事例が生まれました。
(石川県金沢市 / 株式会社パソナJOB HUB)
4.名護市(Nomad Resort)・白馬村(白馬村観光局)/住民や若者の意識が変わり始める
当初は外国人に対して身構えていた地元住民も、継続的なコミュニケーションで徐々に打ち解け、意識の変化がありました。
地元の大学生とデジタルノマドと、ビーチクリーン活動をしました。地元就職一択だった学生たちが「起業したい」「海外に行きたい」と意欲的になり、人生の選択肢が広がったように思います。(沖縄県名護市 / 株式会社Nomad Resort)
かつて、Amazonのエンジニアが、白馬村のコワーキングスペースで働いていました。その姿を地元の子どもたちが見て、「こういう働き方があるんだ」と知ったみたいで。あらゆる価値観の人と会うことで職業選択の視野を広げられると思います。(長野県白馬村 / 一般社団法人白馬村観光局)
一過性で終わらせない”続ける”ために欠かせないもの
観光庁の令和7年度デジタルノマド誘客促進事業(調査事業)では、デジタルノマドイベント等で集中的に誘致する「コア期間」と、継続的に受け入れる「通年期間」に求められる取組を組み合わせて実施することが求められています。
無理なく地域が続けられる仕組みが問われていると、私は考えます。シンポジウムを取材して見えたものをまとめました。
1.デジタルノマド側の負担を減らす/生活につきまとう面倒さ、子どもなどのケア責任
デジタルノマドの訪日の目的には、観光がありつつも、中心には生活と仕事があります。ビザ、税金、移動手配、仕事環境の確保といった付帯業務(メタ・ワーク)がつきまといます。”面倒さ”を乗り越え、来たいと思えるモチベーションをつくるようにしなければなりません。松下教授は、制度やインフラ整備による負担軽減の重要性を伝えます。

2.地域側の負担を減らす/元ある施設を使うと新たな投資コストがかからず継続しやすい
「新たな施設を1から整備することはない」とキッチハイクの松田氏。すでにある保育園や行政の仕組みを活用することで、地域側の負担を抑えながら継続的な受け入れが可能になります。
(株式会社キッチハイク)
子育て世帯のデジタルノマドを対象とした「保育園留学」を紹介。1週間~3週間ほど家族で地域に滞在し、子どもは現地の保育園に通いながら親は仕事や暮らしを体験するプログラムです。
和歌山県田辺市、新潟県佐渡市、富山県富山市等で連携して取り組みます。新潟県では、市内の保育園に加え、コワーキングスペースを運営する事業者と連携し、仕事と育児を両立しながら滞在できる環境をつくります。富山県の上滝保育園では、保育園そのものが受け入れの主体となり、地元の保護者がコミュニティマネージャーとして活躍。子育てする親だから分かる視点で、滞在する家族をサポートしています。
複数の拠点をホッピング(周遊)することで、1週間単位の滞在を、1ヶ月~2ヶ月の長期滞在へと拡張させる狙いです。また、地域に元々ある保育園やこども園の空き定員を活用して、外からの子どもを受け入れます。地域にとっても新たな投資コストがかからず、日常の延長線上で受け入れられます。

Editor’s note:お客さんにせず地域と混ぜること
地域に呼んでくる際には、単発の集客だけでなく、関わり続ける関係づくりと、地域が無理なく継続できる仕組みを丁寧につくっていくことだと分かりました。

松下教授が紹介したのは、「プレイスレスネス(移動の自由)」「プレイスフルネス(場所への愛着)」「プレイス・インテグレーション(地域に深く関わりたいという欲求・活動)」という3つの視点です。満たすべきは「「プレイス・インテグレーション」。
訪れた人を“お客さん”として扱うのではなく、地域コミュニティの中に混ざってもらうこと。沖縄県名護市(Nomad Resort)では、滞在プログラム最終日に行われる打ち上げパーティーに、地域住民を紹介できるインビテーションカード(招待状)を導入しました。プログラム参加者は滞在中に仲良くなった地元の人にインビテーションカードを渡し、打ち上げパーティーに1人連れてきて良いい、という仕組みです。参加者たちは、親しくなったスナックのママや店主を連れて参加し、そこから地元の人たちにも活動が自然に共有されていきました。
継続して訪れてもらうためには、コンテンツそのものも必要です。継続してきてもらうために、地域に愛着を持ってもらうこと。そのために来る人のニーズを理解し、地域とどう混ぜていくか。その設計が、関係を続けていく鍵になります。

堺筋本町駅すぐのイノベーションの拠点「The DECK」
シンポジウムは、大阪メトロ堺筋本町駅を出てすぐにある「The DECK」で開催されました。イベント、コワーキング、ものづくりができるFabスペースを併設するイノベーションハブです。
The DECK https://thedeck.jp



