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IR(統合型リゾート)

【インタビュー】万博をどうIRへつなぐのか。2030年、IRから観光産業の変革へ。大阪観光局 MICE誘致戦略部長 田中さんが語る「カギは送客と地域連携」

2025年の大阪・関西万博、そして2030年に予定されているIR(統合型リゾート)開業。これらはイベントや施設の建設にとどまらず、日本の観光産業そのものを根本から変革する巨大な契機となります。大阪観光局 MICE誘致戦略部長 田中嘉一さんは、万博で見えた課題を踏まえ、IRが日本の観光にもたらす真の価値は「送客」と「地域連携」にあると語ります。田中さんへのインタビューを通じて、観光の産業構造を変え、地域を豊かにするための戦略と展望を探ります。

観光産業の構造的な課題と、コンテンツを生み出すメーカーとしての地域の役割

日本の観光産業が抱える長年の課題として、田中さんが強く指摘するのが産業構造の歪みです。自動車産業など一般的な産業では、モノを作るメーカーが最も強い力を持ち、リスクを負いつつも最大の利益を得る構造にあります。しかし、旅行業界においては、この力関係が逆転していると田中さんは分析します。

コンテンツを作る「地域」や「観光地」がメーカーにあたるはずですが、地域が持つコンテンツは安く仕入れられ、薄利多売の構造に陥っています。これが、観光業界全体の収益性の低さ、ひいては労働集約型でありながら給与水準が上がらないという問題の根本原因となります。内閣府の調査によれば、全産業の平均年収に対し、旅行業界の平均は大きく下回っているという現実があります。

令和7年版 観光白書によると、「賃金」は「宿泊業の賃金(年間賃金総支給額)についてみると、2020 年から 2024 年にかけてほぼ横ばいで推移しており、依然として全産業の水準を下回っている」とされ、2024年は全産業平均年収527万円(総支給額)に対して、宿泊業は390万円となっています。労働生産性に関しても、「宿泊業の労働生産性は全産業の水準を依然として下回っている」とされ、「観光地や観光産業における人材不足や生産性の低さ等、供給面の課題が顕在化している」と解説されています。

このような状況では、優秀な人材が観光産業を選ばなくなるおそれがあります。産業としての発展性を確保するためには、メーカーである地域やコンテンツ制作者が主導権を持ち、適正な利益を得られる「強い産業」へと変革しなければなりません。田中さんは、万博やIRといった巨大プロジェクトが、この構造を是正し、地域に本来の価値を取り戻させるチャンスであると捉えています。


田中嘉一(たなか よしかず)さん
(公財)大阪観光局 統括官(兼)経営企画部長(兼)MICE誘致戦略部長

東京大学在学中から約7年間にわたり、学習塾と旅行会社の経営に参画。その後、日本最大の国際見本市主催会社、リード エグジビション ジャパン株式会社にて、出展勧誘営業、専門セミナーの構築・運営、社内システム、広報の責任者を務め、2010年に取締役、2013年に常務就任。管理部門を統括。現在はMICEを核とした地域活性化に情熱を燃やす。「日本各地が互いに競争して地域の魅力を開発し、発信し続ければ、日本はもっと面白い国になる」が持論。

大阪・関西万博前に田中さんにお話をうかがった記事

万博への期待とこれからの挑戦 https://micetimes.jp/interview-mice-osaka-tanaka-1/
着任直後のコロナ危機、大阪からMICEの存在感を高める https://micetimes.jp/interview-mice-osaka-tanaka-2/

開業直後の夢洲駅(編集部撮影)

大阪IRが果たすべき真の役割とは

万博は地域観光の魅力を発信する好機でしたが、その効果を日本全国へ波及させる点においては一部課題も残りました。田中氏は、2030年のIR開業では、大阪から日本全国へと人の流れを作る大きな転換点になると確信しています。

ゲートウェイとしての日本のショーケース構想

大阪に開業するIRは、カジノやエンターテインメント施設だけではありません。田中さんは、IRが「日本のショーケース」としての機能を果たすことに着目しています。大阪を訪れた外国人観光客が、IRという入り口(ゲートウェイ)を通じて、日本各地の優れたコンテンツに触れ、そこから実際に地方へと旅立つ流れを作ることです。これを実現するために、「日本が圧倒的に強いテーマ」に絞ったコンテンツ開発を進めています。

そのひとつが「温泉」です。日本の温泉の源泉数は約2万7000あり、世界でも圧倒的です。2位の中国が約3000であることを考えれば、これは他国が逆立ちしても勝てない、日本独自の強力なコンテンツと言えます。同様に、日本酒、相撲、忍者といった、日本ならではのオンリーワン、ナンバーワンのコンテンツをテーマとして掲げ、紹介します。「ここの温泉に行くべきだ」「ここで最高の体験ができる」という情報を提供し、そこから地方への送客を行います。

シンガポール
IRで先行するシンガポール

シンガポールにはない日本の強みである後背地

IRの開発において、日本は後発組となります。先行するシンガポールや韓国のIRとの差別化はどう図るべきでしょうか。田中さんは、日本の最大の強みは「総合力」、別の言葉で言えば「後背地」の存在にあるとします。

シンガポールは素晴らしい都市ですが、国土が小さく、豊かな自然や歴史的な地方都市といった「後背地」をほとんど持っていません。そのため、全てをその場で作られた施設の中で完結させるモデルにならざるを得ません。一方、大阪のIRは立地条件が全く異なります。すぐ近くには歴史を誇る京都、奈良があり、国際港湾都市・神戸があります。さらに少し足を延ばせば、琵琶湖、淡路島や、豊かな食材を持つ地域が広がっています。IRという施設単体で完結するのではなく、周辺に世界的な観光資源が存在していることが、日本のIRが持つ競争力の源泉になります。

「送客」がIR成功のポイント

この「後背地」という強みを活かすために不可欠なのが「送客(そうきゃく)」という考え方です。田中さんは、大阪IRでは事業者に対して「送客」が義務付けられているといいます。IR施設内に旅行者や顧客を囲い込むのではなく、積極的に大阪府内、関西、そして日本全国へと観光客を送り出すことを事業の条件としているということです。これは世界的に見てもユニークな取り組みであり、日本のIR事業の根幹をなすコンセプトです。

大阪のIRが顧客の囲い込みに走り、施設内だけで消費を完結させようとすれば、先行する海外のIRには苦戦するかもしれません。日本のIRへの投資規模や展示場面積が当初の想定よりもスモールスタートになっている現状を踏まえると、単体での勝負は得策ではありません。しかし、周辺の観光地と連携し、日本全体の魅力をセットで提供できるのであれば、その価値は計り知れないものになります。つまり、「送客」がうまくいくかどうかが、大阪IRが選ばれるデスティネーション(目的地)になれるかどうかに直結します。

競争から連携へ。京阪神など自治体間の連携が不可欠

送客を実現するためには、自治体間の連携が不可欠です。これまでは各市町村がバラバラに観光プロモーションを行ってきました。たとえば、別府や熱海といった温泉地が個別に海外へ発信しても、外国人観光客の目に留まりづらく、魅力も伝わりづらいかもしれません。「日本の温泉」として統一したブランディングを行い、そこから各地域へシャワー効果で客を流す。この役割を大阪IRがゲートウェイとして担うのです。

特に関西エリアにおいては、大阪、京都、神戸の連携が極めて重要です。これら3都市がお互いに利益を共有できる関係にあると、田中さんは説きます。MICEで大阪に来たビジネス客は、会議の後には京都へ行きたいと望むでしょう。逆に、京都で国際会議が開かれれば、参加者は関西国際空港を利用し、大阪でお金を使うことになります。神戸空港の国際化が進めば、大阪都心部に最も近い国際空港として、その利便性は大阪にも大きな恩恵をもたらします。これまでのような都市間の競争意識ではなく、効果的な連携が、求められます。

大阪府・大阪市・大阪IR株式会社 プレスリリースより(記事はこちら

MICE施設としてのIRの価値

IRに対するイメージは、一般的にはどうしても「カジノ」が先行しがちですが、田中さんは「IRの中心施設はMICE施設である」と強調します。巨大な国際会議場や展示場が集客装置になり、そこで開催されるイベントやMICEの参加者がホテルに泊まる。そしてイベントやMICEのアフターの楽しみのひとつとして、カジノがあるという図式です。

特にMICEは、特定の業界のリーダーや決定権を持つビジネスパーソンを一堂に集める力を持っています。もし、エネルギー業界の重要な会議が大阪で開かれれば、世界中の関連企業が業務として大阪を訪れます。観光目的ではない人々を日本に呼び込む強力な「きっかけ」となります。彼らが実際に日本を訪れ、食事や歴史・文化、サービスの質の高さに触れることで、個人的なリピーター(ファン)へと変わっていきます。

また、MICEは地域のブランド力を高める効果も持っています。シンガポールやバルセロナ、メルボルンといった都市は、戦略的に大規模な国際イベントやスポーツ大会を誘致し、都市の名前を世界に売り込んできました。大阪もまた、IRを得ることで、世界的なMICE都市としての地位を確立できる機会を得ます。「IRだけではなく、OSAKAの名を冠した世界トップクラスのイベント誘致も、今後大阪にとって必要だ」と田中さんは主張しています。

参考記事:統合型リゾート IRの解説記事

https://micetimes.jp/mice-20-ir/
大阪IRの構想と、世界各地のIRの現状についても解説しています。

2030年に向けた人材育成と産業の高度化。MICEの大谷翔平が必要

IRや観光産業が発展していく上で、大きな課題は「人」です。田中さんは、現在の日本のMICE・観光業界において、働く人々のモチベーションや自信が不足していることを懸念しています。多くの業務が「下請け」的な受託業務になっており、自らビジネスを創り出すクリエイティブな側面が弱まっているのではないか、と。

業界を変えるためには、野球界の大谷翔平選手のような、若者が憧れる「スター」「ロールモデル」が必要です。「この仕事は楽しい」「これだけ稼げる」「世界と対等に渡り合える」と胸を張って語れるスタープレイヤーを輩出することが急務です。そのためには、給与水準の向上はもちろんのこと、若いうちから世界の一流に触れさせる機会を提供することが重要です。田中さん自身も、若手人材をシンガポールなどの海外視察に連れて行き、世界レベルのMICE運営やホスピタリティを肌で感じさせる取り組みを行っています。

将来に向けて、学生や若手起業家を支援する仕組みを立ち上げ、観光分野でのイノベーションを促進したいともお話をいただきました。既存の枠組みにとらわれず、新しい発想で地域資源をビジネスに変えられる人材が育てば、日本の観光・MICEはより強く、より魅力的な産業へと進化するでしょう。

取材を終えて:IRがもたらす日本観光の変革 送客と連携がカギを握る

大阪・関西万博から始まり、2030年のIR開業へと続く道のりは、日本の観光産業が変革するための重要な期間です。外国人観光客を増やすだけでなく、IRを拠点とした「送客」の仕組みを確立し、地域全体が潤う経済循環を作ること。MICEを通じて日本のビジネスや文化の存在感を高めること。これらを実現するためには、大阪だけでなく、関西、そして日本全国の地域が連携し、オールジャパンで世界と向き合う体制が必要です。
IRは「統合型リゾート」ですが、その真の意味は、地域の魅力、産業の力、そして人々の情熱を「統合」し、世界に向けて発信するプラットフォームであると言えるでしょう。

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