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【担当者インタビュー】パシフィコ横浜、MICE施設では日本初となる「ISO 20121」取得の背景と評価された取り組み

国際会議や大型展示会の舞台となるMICE施設。その新たな世界基準が「サステナビリティ」です。2025年7月10日、パシフィコ横浜が日本のMICE施設として初めて、持続可能なイベント運営の国際規格「ISO 20121」の認証を取得しました。この取り組みは日本のMICE業界が国際競争の次なるステージに進むための重要な一歩と言えます。今回はパシフィコ横浜の担当者に詳しくお話をうかがいました。

写真:パシフィコ横浜提供
写真:パシフィコ横浜提供

日本のMICE施設として初のISO 20121認証取得、その舞台裏に迫る

「ISO 20121」の重要性:MICE業界の新たなスタンダードへ

読者の皆様にとって「ISO 20121」という言葉は、まだ馴染みが薄いかもしれません。ISO 20121とはどのようなものか、パシフィコ横浜 経営推進部 経営企画課の土屋様にご説明いただきました。

イベント運営における環境への影響に加えて、経済的・社会的側面も含めて管理することでイベント産業の持続可能性を支援する国際的に認められた規格」であると説明されました。さらに、一般の方にも分かりやすい例としては「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会でも取得された認証で、最近では大阪・関西万博でも取得が発表されました」と具体例を挙げられました。

参考:大阪・関西万博プレスリリース「ISO20121認証書を授与されました」
https://www.expo2025.or.jp/news/news-20240926-04/

MICEや、イベントは多くの人を集めるため、「人やモノの移動によるCO2排出量が多いことや、装飾物の廃棄、フードロスなど、一般的に環境負荷が高いと言われることがある」と話されました。しかし一方で、「イベントが持つ社会的効果だったり経済的効果は大きいです。MICE業界においてサステナビリティがスタンダードになっていくと、MICE開催の意義、いわゆるその社会的効果や経済的効果を最大化することができる」と展望を語られました。今回の取り組みは、「私たちの取り組みが波及し、MICE業界全体のサステナビリティへの意識を少しでも変えることができたら、その理解者や協力者が増えて、よりサステナビリティを推進しやすくなるという『好循環』が生まれていく」と期待を寄せました。

「日本初」への挑戦:国際競争力強化と信頼性の確保

数あるMICE施設の中で、なぜパシフィコ横浜は他施設に先駆けて「日本初」のISO 20121認証取得に挑まれたのでしょうか。その背景には、「国際会議において、主催者の方々のサステナビリティの要求が高まっている」という点が大きな理由でした。パシフィコ横浜はこれまでも雨水の再利用やCO2排出量の実質ゼロ化など、様々な環境への取り組みを行ってきました。
「取り組みに対して、第三者に評価をしていただくことによって、自己評価ではなく信頼度の高いものになります」と説明いただきました。

さらに、このISO 20121認証は、「海外のMICE施設では、シンガポールのマリーナベイサンズや台湾の高雄展覧館、タイのクイーン・シリキット・ナショナル・コンベンション・センターなど、既に取得されている事例が多い」と国際的な動向に触れ、「海外の施設の競争において、遅れを取らないようにしたい」と、国際競争への意識を語られました。

危機意識の共有から始めて、社内調整の大変さを乗り越える

社内調整においては、ISOと聞いただけで、業務管理の煩雑さを懸念する人もいて、丁寧に取り組みを進めました。たとえば次のような工夫で乗り越えられたとのことです。

  • 危機意識の共有:「主催者が今求めているということ、海外では取得が進んでいて、このままでは国際会議の誘致で遅れを取るという危機意識をみんなで共有した」と、その困難を乗り越えた経緯を説明しました。
  • 規格の特性説明:「ISO 20121がモノ規格のように定められた数値要件を満たすものではなく、マネジメントシステム規格であり、組織ごとに自分たちでどう要件を満たすかを設定できるもの」であるため、「今の運用をベースにして仕組みを構築できる」ことを丁寧に説明し、過度にハードルの高さを感じさせないよう努めたことを強調しました。
  • 継続的な改善:「運用は固定化するつもりではなく、やっていくうちにエラーが出ればそこは随時改善していく」という柔軟な姿勢を示し、社内の不安感を払拭しました。
写真:パシフィコ横浜提供
写真:パシフィコ横浜提供

サプライチェーンとの協働と地域連携の強化

認証取得を通じて、パシフィコ横浜は「運用を大幅に変更しなければいけない状況にはならず、私たちが目指してきた方向性は間違っていなかったと再確認することができました」と、既存の取り組みがすでに認証取得に値するものであったことを示しました。

唯一、新しく加えた大きな取り組みは、「サプライチェーンマネジメントと呼ばれる取引先(関係会社・協力会社)への働きかけ」だったと説明されました。「最初に、認証取得を目指す中でサプライチェーンマネジメントを始めると伝えたときは、結構皆さん心配されていらっしゃいました。具体的には、私たちが定めた『サステナブル調達指針』を守っていただくこと、各社の取組状況を確認する『サステナブル調達アンケート』に回答していただくことをお願いしました。しかし、調達指針自体もあまりにハードルの高いものにしてしまうと取引していただける方がいらっしゃらなくなってしまいます。そのため、基本的には法令順守をベースとした、ハードルが高くならない内容にし、それについても説明会を開催するなど丁寧なコミュニケーションを心がけました。その結果、これなら対応できそうと理解を得られたケースが多かった」と語られました。なかには、パシフィコ横浜がそういう方向に進んでいくことに対して、「自分たちがその中でサステナビリティに協力できることは良いことだと考えている」と前向きな反応を示す取引先もあったそうです。

審査において特に評価された点として、以下の項目が挙げられました。

  • 環境対策
  • 人権への配慮対策
  • 多様性に対する施策と設備設置
  • 危機管理に対する取り組み
  • 地域との繋がりを意識した取り組み

特に「地域との繋がりを意識した取り組み」には力を入れているそうです。
「サステナビリティは環境だけでなく社会と経済の部分も入ってきますので、地域活性化や地域貢献も非常に重要視しています。例えば、地元企業である崎陽軒とコラボレーションして『サステナブル弁当』を開発・販売したり、県内の自治体や事業者と包括連携協定を締結し、パシフィコ横浜に来た来場者を周辺地域へ送客する回遊性向上策、ツアー開発などにも取り組んでいる」と話しました。

認証取得後の展望:持続可能性を推進

ISO 20121認証取得後の展望について、「まずはしっかりと国際会議の誘致に活用していきたいです。1件でも多くの国際会議を誘致することで、政府が掲げている国際会議件数ランキングの向上に、少しでも力になれれば」とお話いただきました。

施設運営においては、今回このISO 20121を取得するためにPDCAサイクルを強化しました。その中で、年間計画を立てて運用を見直すことにしています。
「改善だったり目標に向けて確実に前進していくため、よりサステナブルな施設に近づいていくことができると考えています。また、主催者やイベント参加者に対しては、まず、私たちの取り組みを知ってもらうことから始めたいです。私たちのサステナビリティに対する考えに共感・理解をしていただくことで、サステナブルな行動変容を促すきっかけ作りができればいいですね」

  • 主催者へ:例えば、他のイベントでのサステナブルな取組の事例紹介や、私たちのサービスを使ってサステナブルにイベントを開催する方法のご提案
  • 来場者へ:ゴミの分別だったり、食べきっていただくことだけでもサステナブルなので、そういう小さなことでもサステナブルに繋がっていることを呼びかけ。

「私たちの活動を広く伝えていくことができれば好循環が生まれていくのではないかと考えています。MICEがサステナブルに実現できるような環境を提供していきたいです。」


認証授与式(左から)BSIグループジャパン㈱ 代表取締役社長 漆原 将樹氏、パシフィコ横浜 代表取締役社長 林 琢己
認証授与式(左から)BSIグループジャパン㈱ 代表取締役社長 漆原 将樹氏、パシフィコ横浜 代表取締役社長 林 琢己氏

ニュースのポイント

認証取得の背景と意義

パシフィコ横浜は2023年にサステナビリティ方針を掲げ、取り組みを推進してきました。海外の競合MICE施設ではサステナビリティに関する国際認証の取得事例が増加しており、国際競争力を高めるためには認証取得が必要不可欠だと考えていました。そこで、世界的に広く知られ、取得事例も多いISO 20121の認証を目指すことを決定しました。

パシフィコ横浜 サステナビリティ取組実績 https://sustainable.pacifico.co.jp/action

認証機関と施設について

BSIグループジャパン株式会社は、世界最古の国家規格協会であるBSI(英国規格協会)の日本法人です。マネジメントシステム認証をはじめとする各種認証サービス・国際規格に関する研修等を提供しています。パシフィコ横浜は、会議場・展示場・ホテルなどが一体となった国内最大級の複合MICE施設です。日本政府観光局(JNTO)の国際会議統計において、MICE施設別の国際会議開催件数で21年連続首位を獲得しています。2024年度の総来場者数は487万人(屋外エリア含む)にのぼりました。

パシフィコ横浜 公式Webサイト https://www.pacifico.co.jp/


MICE施設の新たな選定基準としてのサステナビリティ

サステナビリティは、現代のMICE業界にとって避けては通れないテーマとなっています。企業はもはや自発的な意志だけでなく、社会からの期待や要請に応える形で、SDGsやサステナビリティへの取り組みを推進する必要に迫られています。

この流れにおいて、日本のMICE業界が世界の動向から遅れをとっている部分があります。海外では、サステナビリティはもとより、アートやデザインといった要素もMICE施設の標準仕様として定着しており、日本もこのグローバルスタンダードに追随することが急務と言えるでしょう。このような状況下で、ISO 20121のような客観的な認証は、施設選定における不可欠な基準として、その重要性を増していくと考えられます。

この度のパシフィコ横浜によるISO 20121の認証取得は、日本のMICE業界が持続可能な未来へ向けて大きく前進したことを示す象徴的な出来事です。MICE TIMES ONLINEでは、今後も同社の取り組みをはじめ、業界全体のサステナビリティを巡る動向に注目してまいります。


パシフィコ横浜:施設紹介記事

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