愛知県がIR(統合型リゾート)事業者の意向調査を開始へ 中部国際空港島で目指す国際観光都市の未来/愛知県知事会見
愛知県は2026年2月12日、中部国際空港およびその周辺エリアにおいて「MICEを核とした国際観光都市」を実現するため、統合型リゾート(IR)の事業実現の可能性について改めて調査を行うと発表しました。大村秀章知事は臨時記者会見を開き、国がIRの認定申請期間を2027年5月から11月に設定する見通しとなったことを受け、まずは関心を持つ民間事業者が存在するかどうかを確認する方針を明らかにしました。本記事では、今回の発表に至った背景や愛知県が持つポテンシャル、そして課題への対策について、知事の会見内容をもとに解説します。

再挑戦の背景にある観光と人口の課題
愛知県が今回、IR誘致の可能性調査に踏み切った背景には、同県が抱える複数の地域課題があります。現在、世界全体の国際観光客数はコロナ禍前の水準を上回り、日本全体の訪日外国人旅行者数も過去最多を記録するなど観光需要は急速に回復しています。しかし、愛知県への訪問外国人旅行者数や宿泊者数は、東京や大阪、京都といった国内の主要観光都市と比較して依然として少ないのが現状です。地域ブランド調査などの魅力度ランキングでも愛知県は三大都市圏の中で下位に留まっており、圧倒的な知名度を持つ観光資源が不足しているという認識が示されました。
人口減少問題も深刻な影を落としています。愛知県では2020年から人口が減少に転じており、特に20代を中心とした若年層の東京圏への流出が続いています。大学卒業後の就職時に東京へ転出するケースが多く、その理由として「東京で暮らしたい」という動機が多く挙げられています。知事は、愛知県は製造業を中心とした産業力が強く所得水準も高いものの、若者を惹きつける「都市の魅力」や「エンターテインメント性」が不足していると指摘しました。若年層の流出に歯止めをかけるためには、働く場所だけでなく、エキサイティングな体験ができる環境整備が不可欠であると説明しています。

県の財政状況も決して楽観視できません。義務的経費の増加により財政は不安定な状況にありながらも、県民の命を守る医療福祉施策は着実に進める必要があります。特に、老朽化した愛知県がんセンターや愛知小児保健医療総合センターの建て替えなど、多額の費用を要するプロジェクトが控えています。IR整備によって得られる収益を、こうした医療福祉施策の強化を図るための安定的な財源として活用できるかどうかも、今回の検討における重要な視点となっています。


中部国際空港島が持つ圧倒的なポテンシャル
今回の計画で想定されているのは、中部国際空港(セントレア)およびその周辺エリアです。知事はこの場所がIR整備において極めて高いポテンシャルを持っていると強調しました。
まず挙げられるのが、交通アクセスの利便性です。中部国際空港は国際線ネットワークを有しており、海外からのゲートウェイとして機能します。さらに、名古屋駅からは鉄道で最速28分という近さにあり、リニア中央新幹線の開業も控えていることから、東京や大阪からのアクセスも飛躍的に向上します。高速道路や港湾施設も整備されており、国内外からの集客において非常に有利な条件が揃っています。
次に、インフラと用地の準備状況です。予定地となる空港島内の約50ヘクタールの土地は愛知県が所有しており、開発に向けた手続きがスムーズに進められる利点があります。電力、ガス、水道といった生活インフラもすでに完備されており、新たな大規模開発を行うための基盤が整っています。空港島という立地特性上、居住者がいないため、24時間の運営が可能です。騒音問題や住環境への影響を最小限に抑えることができます。地域住民との合意形成や治安維持の観点からも大きなアドバンテージになると考えられています。

愛知県にはすでに「Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)」があり、展示会ビジネスの実績があります。これにIR施設としての巨大なホテル群や国際会議場、エンターテインメント施設が加わることで、既存施設との相乗効果が生まれ、世界レベルのMICE開催地にふさわしいエリアが形成されることが期待されています。
Aichi Sky Expo特集記事
https://micetimes.jp/feature-aichi-sky-expo/
懸念されるギャンブル依存症への対策と科学的アプローチ
IR誘致において必ず議論となるのがギャンブル依存症への懸念です。この点について会見では、藤田医科大学の専門家による監修のもと作成された資料をもとに、科学的な対策が可能であるとの見解が示されました。
現在、スマートフォンの普及により24時間利用可能なオンラインカジノが若年層を中心に広がっており、依存症リスクが高いことが問題視されています。これに対し、IRにおけるカジノ施設(オフラインカジノ)は、厳格な入場管理や監視体制の下で運営されるため、むしろ依存症対策のモデルになり得ると説明されました。
具体的な対策技術として、最新のICTやAI技術の活用が挙げられています。カジノ施設内の監視カメラと顔認証システム、AIによる行動分析を組み合わせることで、利用者の表情や行動の変化から依存症の兆候を早期に検知することが可能です。危険性があると判断された利用者には、早期にカウンセリングへの誘導や入場制限を行うなどの介入ができます。シンガポールや韓国といった先行事例では、IR開業後に適切な規制や対策を講じることで、ギャンブル依存症が疑われる人の割合がむしろ低下したというデータも紹介されました。
知事は、何もしないことが一番の問題であり、厳格に管理されたIR施設を整備することで、オンラインカジノなどの不透明なギャンブルへの流出を防ぎ、健全なエンターテインメントとしての環境を提供できると説明しました。
今後のプロセスと大阪IRとの差別化
今後の進め方については、まずは民間事業者の関心を探る段階であり、現時点で正式にIR誘致を決定したわけではないとしています。事業者の意向調査(RFI等)を通じて、優れた提案や実現可能な計画が出てくるかを見極める方針です。もし十分な意向を持つ事業者が現れなければ、計画を見送る可能性もあるとし、あくまで民間主導のプロジェクトであることを強調しました。
先行して整備が進む大阪のIRとの競合については、差別化と連携による共存が可能であるとの認識を示しました。海外からの観光客は一カ所に留まらず国内を周遊する傾向があるため、大阪とは異なるテイストの施設やコンテンツを提供することで、相互に補完し合う関係を築けるとしています。展示会や国際会議の日程を調整したり、イベントを巡回させたりすることで、西日本エリア全体での相乗効果を生み出すことが期待されています。
愛知県の「国際観光都市」への挑戦
今回の発表は、愛知県が再び「国際観光都市」としての地位確立に向けて動き出したことを意味します。製造業という強固な経済基盤を持ちながらも、観光やエンターテインメント分野での遅れを取り戻し、若者が魅力を感じる都市へと進化できるかが問われています。
インフラが整った中部国際空港島という絶好のロケーションを活かし、MICE機能とエンターテインメントを融合させた日本型IRが実現すれば、愛知県のみならず中部圏全体の経済活性化に大きく寄与することでしょう。民間事業者からどのような革新的な提案が出されるのか、県民の理解を得ながらプロジェクトが進められるのか、今後の動向に注目です。
愛知県 Webページ https://www.pref.aichi.jp/press-release/kokusaikankotoshi0212.html


