1. HOME
  2. 取材・レポート・コラム
  3. イベントの取材・レポート
  4. 【取材】京都・日本の伝統技術が詰まった“宝石箱”、京都迎賓館開館20周年特別企画の全貌に迫る
イベントの取材・レポート

【取材】京都・日本の伝統技術が詰まった“宝石箱”、京都迎賓館開館20周年特別企画の全貌に迫る

京都の地に静かに佇む迎賓館。海外からの賓客を迎え入れ、日本の文化と技術の粋を伝えるこの場所が、2025年に開館20周年を迎えました。これを記念し、一般の方が入れる「京都迎賓館開館20周年特別企画」が開催されました。特別企画の第1弾に同行し、参加者がどのような”日本のおもてなし”を体験したのか、MICE会場としてのポテンシャルについて探ります。
※6月19日 取材

京都迎賓館を支えてきた多くの人々への感謝の気持ちを形に

これまで足を運んだ人々、日頃から関心を寄せている地域住民、そして日本の伝統技術を支える職人たちなど、”京都迎賓館を支えてきた多くの人々への感謝の気持ちを形にしたい”という思いから企画されました。

内閣府迎賓館京都事務所 運営課の大和夏希さんは、「普段はなかなかご覧いただけない特別なしつらいや文化体験を通じて、改めて京都迎賓館の魅力や日本文化の奥深さに触れていただければ」と、企画に込めた想いを語ります。この場所や伝統技術についてあまり知らない層や、遠方からの方にもこれを機に訪れてほしいとの願いも込められていました。

申込開始から多くの応募があり、午後の部の抽選倍率は10倍を超えました。参加者の大半は日本国内からで、九州や北陸、関東など、関西圏外からの応募も多かったといいます。

午前・午後合わせて20人ずつ4グループ、合計160名が参加しました。

見どころ:体験ツアーを超えた、まるで賓客、接遇時と同様の演出でおもてなし

大和さん:「本イベントでは、まるでご自身が海外からの賓客としておもてなしを受けているかのような、特別な体験をしていただけるよう、細部まで心を配りました。
接遇時と同様に正面玄関にいけばなをしつらえ、お香を焚き、京都迎賓館の事務所長が和装で参加者をお迎えすることで、特別な雰囲気を演出いたしました。日本舞踊の披露や、通常は非公開の『水明の間』も見どころです」


通常非公開のお部屋を含む、2時間の特別ツアーへ!

それでは一緒にツアーを巡ってみましょう。

10時 「藤の間」芸妓・舞妓による日本舞踊

午前10時、参加者は20人ずつ4つのグループに分かれ、正門から入構しました。正面玄関を入ると、通常の一般公開では置かれていない”いけばな”が迎え入れてくれます。

都未生流家元の大津光章氏(京都いけばな協会)による、いけばな作品「季節のささやき」

和装姿の高野厚 京都事務所長が出迎え、接遇時には歓迎式典等が行われる「藤の間」へと案内。事務所長からの挨拶に始まり、文化体験「芸妓・舞妓による日本舞踊」が行われました。


上七軒歌舞会から芸妓の梅葉さん、舞妓のさと鈴さん、地方(じかた)の市純さんが登場。舞台扉がゆっくりと開く演出は、通常の一般公開では見られないものだといいます。梅葉さんによる「末広狩」、さと鈴さんによる「御所のお庭」が披露されました。

参加者からの質問コーナーでは、海外からのお客様を迎える、京都迎賓館ならではのエピソードも。

芸妓の梅葉さん:「賓客の通訳では、日本人の通訳さんなら京都弁のニュアンスも汲み取って訳してくれるんです。でも、外国人の通訳さんだと『お兄さん』が『brother』になったり、『おおきに』という言葉を知らず、会話の風情が薄れてしまうことがあるんです。だから、時には『はじめまして、梅葉です』と標準語にすることもあります」

参加者との記念撮影。「緊張する」「こんなことまで体験させてもらえるなんて」と驚く様子。参加者が座る椅子は、通常の一般公開では触れることすら許されていない貴重なもの。


館内ガイドツアーでお部屋を巡る

文化体験プログラムの後は、1人1台、片耳につけるインカムに似た端末「ガイド機」が配布され、グループごとに説明を聞きながら館内を巡ります。壁に触れない、絨毯(緞通)に膝をつかない、スリッパを脱がない、屈みこんで荷物が当たらないようにするなど、各部屋に入る前に、注意点が案内されました。「特別な空間なんだ」というよい緊張感が生まれます。

緞通(だんつう):中国を起源とする手織りの高級絨毯

水明の間:かつては小泉首相とブッシュ大統領が会談

普段、一般公開を行っていない『水明の間』。過去に小泉純一郎首相(当時)とジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が会談を行った場所です。ブッシュ大統領が天井の装飾を見て「宇宙ステーションのよう」と感想を述べたそうです。襖に施された京縫の刺繍は、光をあてると模様が浮かび上がり、感嘆の声があがります。

正面玄関:海外からの賓客を「和」の佇まいで迎える

樹齢700年の福井県産の欅(けやき)の1枚板を使用しています。引手は銅製で、組紐をモチーフにしたシンプルなデザインの「有線七宝(ゆうせんしっぽう)」が施されています。

樹齢700年の欅(けやき)の扉

聚楽の間:ホテルロビーのような役割を持つ場所

窓がない空間ですが、鮮やかな安楽椅子により、お部屋の明るさを演出しています。

夕映の間:大臣会合などの会議や立礼式呈茶など

大臣会合などの会議や立礼式(りゅうれいしき)のお茶のおもてなし、晩餐会の待合として使用されています。東西の壁面を装飾する「比叡月映(ひえいげつえい)」、「愛宕夕照(あたごゆうしょう)」という二つの織物作品の1文字ずつをとって「夕映の間」と呼んでいます。この日は開館20周年の特別展示として、賓客用の立礼式呈茶席がセッティング。壁を動かして3つのお部屋に分割できます。

桐の間:和食を提供する「和の晩餐室」

海外の賓客が使いやすように掘りごたつになっています。賓客の夕食会セットが配置されていました。そのほか外国人の体格に合わせて障子の高さを高くしていることなど、細やかな配慮が紹介されました。

開館当時の首相であった小泉純一郎氏の書

庭園・廊橋:欄間職人の遊び心で施された透かし彫りの昆虫がひょっこり

ツアーの終盤には、庭園と廊橋の見学が行われました。廊橋の屋根には、欄間職人の遊び心で施された透かし彫りの昆虫が隠れています。

12時 アンケート記入・解散

全てのツアーを終え、参加者は再び藤の間へ戻り、アンケートを記入して12時10分に解散となりました。約2時間の特別な体験は、参加者の心に深く刻まれたことでしょう。


今後のイベント:第2弾は8月、第3弾は年明けに予定

同企画の第2弾は2025年8月7日に開催される予定で、6月25日から申し込み受付が開始されます。ちなみに第3弾は2026年1月15日を予定されています。京都迎賓館にゆかりのある伝統技能や文化を発信するイベントも年明けに検討中とのことです。

大和さん:「日本の伝統技能や職人技は、現代では実際に触れる機会が限られており、そうした技術とその価値を伝えていくことは、京都迎賓館の重要な役割のひとつであると考えています。京都迎賓館については、若い世代にもその魅力を広く知っていただきたいと思っており、京都の大学生が取材を行い、YouTubeで紹介する取り組みも進めています。また、英語によるガイドツアーの充実を図っており、国内外の多くの方々に、日本文化の奥深さを体感していただける場を目指しています」

MICEとの関わり方は

大和さん:「民間企業や民間団体等も「特別開館」という仕組みで施設をご利用いただけます。海外の賓客をもてなす施設なので、格式が高く、参加者の心に残る特別な時間を演出できるのではないでしょうか。利用に当たっての条件等もあり、これまで使われたのは1例のみですが、国際的な対話の場や会合などで、ぜひ使っていただきたい。積極的に情報発信やPRをしていきたいと思っています」

ユニークベニューとしての活用へ意欲を見せました。

利用にあたって、約3ヶ月前が申請期限となります。2018年には、京都の伝統技術の名工と宝飾技術に秀でたブルガリの名工との交流会として活用されました。こちらが唯一の京都迎賓館特別開館の利用事例だそうです。京都迎賓館の目的である海外の賓客の接遇対応が入った場合はキャンセルになりますので、ご注意ください。


Editor’s note:京都・日本の技術が詰まった“宝石箱”のような空間

20周年を記念して開催された京都迎賓館の特別ツアーは、その名にふさわしい「特別感」に満ちていました。参加者が記念撮影で座った椅子は、本来であれば触れることすらできない貴重な調度品。普段はお目にかかれない所長の和装姿まで披露されたこと。一国のトップが受けるようなおもてなしを2,000円で体験できたこと。まさに「自慢したくなるレベル」の経験でした。

一方で、ツアーを帯同するスタッフの方々が、参加者の足や、持ち物が調度品に当たらないかと目を光らせており、この場所が持つ高貴さと、そこに収められた美術品や調度品の計り知れない価値がひしひしと伝わってきました。ツアーを実施するにあたり、運営側は細心の注意を払い、多大な苦労をされていることが想像できます。

MICEの観点からは、京都迎賓館はまさに「京都・日本の技術が詰まった“宝石箱”のような空間」。館内の内装や造り、調度品ひとつひとつに伝統技術が施されています。お寺や神社、南座などの舞台、美術館、博物館などに行かないと見られないものばかり。そのため、すべてを一度に体験できる場所でのMICEは、参加者の記憶に深く刻まれる「特別な体験」を提供できる稀有な存在です。

京都迎賓館をよく知らない方、伝統技術をこれから知りたい方にも、日本の誇る文化とおもてなしの精神を発信される場所としてもっと広く周知され、利用が増えればと思いました。

※取材担当:廣島

カテゴリー