【MICEの基礎知識(9)】地方でのMICE開催の可能性と課題
MICEとは何か?地方が果たす役割
MICEとは、Meeting(会議)、Incentive(報奨旅行)、Convention(国際会議)、Exhibition/Event(展示会・イベント)の頭文字を取った言葉で、ビジネスや観光の枠を超えて経済や社会に広範な影響を与える複合的な活動です。近年、地域振興や観光資源の活用の観点から、地方でのMICE開催が注目を集めています。地方は、都市部にはない独自の自然、文化、歴史を活かし、報奨旅行や小規模MICEを通じて特別な価値を提供する力を持っています。ここでは、地方がMICEを推進すべき理由とその可能性について掘り下げます。
地域経済に貢献するMICEの力
MICEがもたらす直接的な経済効果
地方でのMICEイベントは、参加者の宿泊費や飲食代、交通費、観光費用が地域経済に直接的な恩恵をもたらします。たとえば、地方都市で開催される300人規模の国際会議では、数千万円規模の経済効果が見込まれます。参加者の消費行動が周辺の宿泊施設や飲食店、観光施設に利益をもたらすだけでなく、イベント運営に関わる地元企業の需要も拡大します。
さらに、参加者がイベント終了後に観光を楽しむ「ポストMICE」、あるいは開催前に地域を訪れる「プレMICE」といった需要が新たな収益機会を生むため、地方経済への波及効果は長期的に続きます。
■ユニークな取組の例 「野球のまち」徳島県阿南市の取り組み
野球で経済効果1億円 「全国初」のまち、期待する高校野球の底力(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/articles/ASS6X10VWS6XPTQP00BM.html
日本初の「野球のまち推進課」を創設 徳島県阿南市 前半(笹川スポーツ財団)
https://www.ssf.or.jp/knowledge/sport_topics/regional_20110916_1.html
小規模MICEが生む柔軟な経済モデル
地方では、大都市で主流の大規模MICEとは異なり、小規模MICEに特化することで独自の強みを発揮できます。小規模MICEは数十人から数百人規模の会議や地域における展示会、イベントを指し、地元産業や特定のテーマに焦点を当てたイベントが中心となります。たとえば、地域の特産品や地元企業の技術を活かした展示会は、地域の産業振興に直結します。
こうしたイベントは、規模が大きすぎない分、運営コストや設備面の負担が少なく、地方でも実現しやすい点が魅力です。また、参加者に対して地域の特色を深く体験させることで、地域ブランドの向上にもつながります。
報奨旅行で地方の強みを発揮できる
特別な体験を提供する地方の魅力
報奨旅行(インセンティブ旅行)は、企業が社員や取引先への褒賞として行う旅行であり、通常より特別な体験が重視されます。地方には、都市部にはない自然景観や伝統文化、地元の食材を使った料理など、報奨旅行の参加者にとって特別感を与える要素が豊富です。
海岸沿いのリゾート地でのリラクゼーションプログラムや、地域特有の伝統工芸を体験するツアーは、参加者に忘れられない思い出を提供します。このような体験は企業の評価を高めるとともに、地域の観光地としてのイメージアップにもつながります。
■インセンティブトラベル(報奨旅行)について詳細はこちら
コストパフォーマンスの高さが選ばれる理由になる
地方での報奨旅行のもう一つの魅力は、都市部に比べて費用を抑えながら質の高いサービスを提供できる点です。宿泊施設や会場費が比較的安価であるため、企業にとってコストパフォーマンスが高い旅行先として選ばれることが増えています。さらに、地元の食材を活用した食事や地元企業の協力を得た体験型プログラムは、参加者の満足度を高めると同時に、地域の経済循環を促進します。
地方開催特有の強み
地域資源を活かした特別なプログラム
地方には、自然や文化、歴史といった都市部にはない独自の資源が豊富にあります。これらの資源を活用したMICEプログラムは、参加者に特別な体験を提供します。例として、温泉地でのリトリート型会議、山間地でのアウトドアアクティビティ、地域の伝統行事を取り入れた展示会などが挙げられます。
これらのイベントは、地域特有の要素を取り入れることで「ここでしか体験できない」という魅力を創出し、参加者の記憶に残るMICEを実現します。
ホスピタリティと地域住民の力
地方で開催されるMICEでは、地域住民との交流や温かいおもてなしが参加者に好印象を与える大きなポイントです。たとえば、地元産品を使った料理を提供する農家や、地域の文化を紹介する地元ガイドが参加者との接点を作ることで、イベント全体に親しみやすさが加わります。
また、住民がイベント運営に参加することで地域全体が盛り上がり、一体感が生まれます。このような交流は、参加者が地域に愛着を感じ、将来的な再訪につながる可能性を高めます。
MICEが地域ブランドを世界に発信する
地域の魅力を効果的にPR
地方で開催されるMICEは、地域の魅力を国内外に発信する強力なツールです。地元企業の商品やサービスを展示会で紹介したり、国際会議で地域特有のテーマを議論したりすることで、参加者にその地域の価値を伝えることができます。
さらに、海外メディアやインフルエンサーを招致してイベントの様子を発信すれば、地域の認知度向上や観光客の増加が期待できます。
国際化の推進と地域の成長
MICEイベントを通じて海外からの参加者が訪れることで、地域の国際化が進みます。たとえば、地元の若者が通訳や運営スタッフとして参加すれば、異文化を学びながら国際経験を積む機会となります。このような取り組みは、地域の人材育成や次世代のリーダー輩出にも寄与します。
持続可能なMICEと地域の未来
環境に優しいMICEの実現
地方では、自然環境を活用した持続可能なMICEが実現しやすい特徴があります。たとえば、地産地消を意識したケータリングや、再生可能エネルギーを活用したイベント施設の運営が挙げられます。こうした取り組みは、環境意識の高い現代の参加者に評価されるだけでなく、地域の長期的な発展にも貢献します。
地域コミュニティとMICEの連携
MICEイベントは地域住民の協力が欠かせません。住民が積極的に関わることで、地域全体が一丸となり、イベントが成功に導かれます。また、イベントの運営を通じて生まれる新たなコミュニティのつながりは、地域の結束力を高め、今後のイベント誘致にも良い影響を与えます。
地方でのMICE開催の課題
地域活性化の大きなチャンスとなる一方で、解決すべき課題も存在します。ここでは、主要な課題を簡潔に整理します。
1. 交通アクセスと宿泊施設の制約
地方都市では、国内外からのアクセスが不便な場合が多く、参加者の移動に時間がかかることが課題となります。規模が大きくなるほど、宿泊施設をはじめとした受け入れ体制の不足が、影響を与えることがあります。近年ではライブイベントやスポーツ行事で宿泊施設不足や交通機関がマヒすることなどがたびたび報じられることがあります。周辺地域とも連携することや、国や都道府県の支援を受けて無理のない運営ができるように準備を進めることになるでしょう。
宿泊施設の充実はエリアにより経済的な効果をもたらします。一方で不足することは、そのエリアに十分なお金が落ちないことを意味します。宿泊施設の充実は大きな課題となります。
※地方に限らず、大都市圏でも宿泊施設や交通インフラはたびたび大きな問題となっています。
2. 会場設備と運営力の不足
最新技術を備えた大規模な会場が不足していることが多く、特に国際的なイベントでは基準を満たす施設が少ないことが問題です。また、イベント運営を支える専門人材やノウハウの不足も、円滑な運営を妨げる要因です。既存の施設を活用できる企画、複数の施設をうまく活用する取り組みなど工夫するケースも見られます。
3. 認知度とプロモーションの弱さ
地方の開催地は、大都市に比べて知名度が低く、地域の魅力を伝えるプロモーション活動が不十分な場合があります。参加者や主催者にとって魅力的な選択肢と認識されにくい現状があります。一般的な観光を誘致する場合と異なる、アプローチが求められています。
4. 地域資源の活用不足
地方特有の文化や自然を活かした独自のコンテンツが不足していることが課題です。地域資源を戦略的に活用し、他地域との差別化を図ることが重要です。
地方が描くMICEの未来
地方におけるMICEは、経済効果だけでなく、地域ブランド力向上や国際化、持続可能な社会づくりにおいて重要な役割を果たします。特に、小規模MICEや報奨旅行では、地方が持つ自然や文化、ホスピタリティを活かした独自の魅力を発揮することが可能です。課題を克服しながら、地域ならではの価値を世界に発信するMICEモデルを確立することで、地方の未来にはさらなる可能性が広がるでしょう。