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MICEのひと

【取材】今、京都外国語大で行われるMICEの授業とは。学生がMICEプランを考えてプロがフィードバック。岩田准教授が授業を通じて伝えたいこと

「語学を活かせる仕事は、もっと多様であることを学生に伝えたい」

京都外国語大学の岩田英以子准教授(以下、岩田先生)は、かつてMICE関連の業界で活躍されていました。岩田先生が授業を通じて、学生に伝えていることはどういうことなのか。授業を取材するとともに、岩田先生にお話をうかがいました。

京都外国語大学 研究者総覧 岩田英以子准教授
https://gyouseki.kufs.ac.jp/kufshp/KgApp?resId=S001210

課題は「半日京都ツアー企画をプレゼンせよ」プレゼン相手はMICEのプロフェッショナル

京都外国語大学 国際貢献学部 グローバル観光学科 岩田ゼミの学生15名が、3チームに分かれプレゼンテーション。
THE J TEAM株式会社 取締役のジェームスさんと、京都外国語大学を卒業し昨年9月に同社に入社した大福さんの、2名がゲストスピーカーとして参加しました。

右列手前:ジェームスさん 右列奥:大福さん

学生たちは、事前に練った京都ツアーを英語で発表します。

優勝者には岩田先生からのお菓子のプレゼントが!

クライアントが実現したいことに”ノーとは言わない”

THE J TEAM株式会社は、インセンティブトラベル(MICEのI)を中心に、アメリカやヨーロッパの企業向けにさまざまなイベントやツアーを手がけています。着物体験、茶道、書道、寿司作り、J-POPコンサート、相撲観戦、忍者パフォーマンスなど、多彩なコンテンツをイベントでは開催しています。どれもユニークで、海外の参加者の心に残る仕掛けばかりです。

初京都の海外ゲスト向けの「半日京都ツアー」を企画、英語でプレゼンする

前提条件
・海外から京都に初めて訪れた30~40代の男女5~6名
(企業の旅行・イベント参加が目的で、チームビルディングも視野に入れる)
・6月の平日、13時京都駅出発~18時京都駅着(全行程5時間、ランチ含む)
・予算は上限なし
・参加者は英語しか分からない

学生チームのプレゼン内容はどのようなものだったのでしょうか

1チーム目:京都・伏見エリア巡り

地元の食、伝統体験、歴史的な場所を巡る。伏見桃山駅から月桂冠大倉記念館、伏見稲荷大社など、「京都・伏見でしか体験できないこと」を盛り込みました。

2チーム目:日本の伝統美を五感で体験

寿司作り体験、南座での歌舞伎鑑賞、茶道体験など。スタッフの英語対応、Googleの評価・レビューを参考に決めました。

3チーム目:日本文化体験施設でゆったりと過ごす京都体験

錦市場近く「錦 折鶴屋」での着物体験、書道など日本文化体験を、ゆったり過ごせる「おまかせコース」として提案しました。

優勝したのは3チーム目!おめでとうございます!

学生への質問タイム。学生に「なぜ」を問いかける

プレゼンのあとは、THE J TEAMのお二人からの質問タイム。学生がどのように企画、情報収集を行ったのかを聞くためのものでした。学生たちは英語で答えていました。

・どんな基準でツアー内容を決めたのか
・京都出身か否かで“京都”の捉え方は変わったか
・Googleのレビューや星評価は重要か、その理由
・ヴィーガンやハラル対応は意識したか

日本に初めて来る人の立場に立って想像してほしい

岩田先生は「Googleの星の数や口コミ、Instagramだけでは分からない、ゲストが感じることを現地で体験して考えてほしい」といいます。課題に取り組む際に伝えていたのは、“相手をもてなすこと”“日本に初めて来る人の立場に立って想像すること”

またプレゼン前には、チームごとに現地視察をする”フィールドワーク”を行いました。
“英語しか分からないと思って京都を歩いてみて”と伝えました。例えば地下鉄に乗るときにどう感じるかなど。京都ですら、英語表記がないところがあるじゃないですか。インターネットで調べなくても、3年間通って見えた京都があるはず。学生ならではの視点で考えてほしいと思っています」

評価・審査シート

岩田先生がこの授業を行う理由:MICE業界が広げる”語学の価値”と”キャリア”

語学は大きな武器であり、可能性はもっと広い

岩田先生は、語学ができることは大きな武器になると語ります。

「語学を活かす仕事というと、学生は今まで目にしたことのあるホテルや航空業界などの仕事を思い浮かべることが多いですね。どれも素晴らしいお仕事ですが、語学の可能性はもっと広い。”ほかにも道がある”と知ってほしいのです。語学ができるって大きな武器です。『語学がみんなの可能性を広げるんだ』と、ひたすら言い続けています」

MICE業界の給与水準の高さ

かつて、外資系医療機器メーカーの営業をされていた岩田先生。最初は仕事で使うのは日本語だけでしたが、仕事で英語を使いたい一心で、地道にラジオ英会話を続けていました。

「30歳の頃、医療従事者向けのアメリカの医療ツアーの企画・運営する仕事を任されました。私にやってほしいと言われた日のことを、今でも鮮明に覚えています」

医学学会などイベントの現場では、“大きなお金”が動くことを目の当たりにしたそうです。その後、派遣社員のマネジメントや製薬会社の人事など、さまざまな経験を積むなかで、給与も上がっていきました。

「現在は医療業界から離れて教育業界に身を置いていますが、業界が違うだけで給与水準が大きく違うと気づいたんです。これだけ語学を努力して身につけているのだから、それがきちんと給与として報われる業界があることを伝えたかった。MICEはどちらかというとBtoBのビジネスで、資金力のある企業から報酬を得られる可能性が高い。関わる案件が、何千万円、何億円規模になるものもあります」

小さくても機会と役割を持つこと

とはいえ、現場に触れることがなければ、多くの学生にとって、見たこともない”BtoBビジネス”は就職の選択肢に入りにくいのが現状です。だからこそ、岩田先生は業界に触れられる機会をつくっています。

「以前、ゼミのフィールドワークがきっかけでMICEに興味を持ち、ホテルの法人営業に関わりたい学生や、京都国際会議場でアルバイトを初めて、卒業論文のテーマを”グローバルMICE”に選んだ学生がいます」

また、機会を通して学生の変化を感じるといいます。

「学生の成長を感じます。少しずつ喋るのが上達していたり、身だしなみを整えてきていたり。みんな語学が好きだし、もっと上達したいと思っている。話す機会があれば多分頑張れると思うんです。小さくても機会と役割を持つことが大事だと思います。
私からは『こんなイベントあるよ』と、学生に声をかけています。過保護な気もしますが、何も無いよりは、少しでも気付きや発見があればいいなと。本来、機会は自分で見つけられるといいなと思いますが、こうしてあげられるのも大学が最後ですから」

自分でハンドルを握って運転してほしい

”自分で考え、選択すること”を身につけてほしい。

『人生が長いドライブだとしたら、あなたは運転席と助手席どちらに乗りたいですか?』と、よく問います。運転して事故するかもしれないけど、自分の選択の結果だったら納得がいきます。どちらに曲がるか、進むか自分で考えて決めて選んだ道であれば、好きなところに行けて、新しい景色を発見できます。

こうした話をして『もっと何かできるかもしれない』と出会った中の100人に1人でも思い、将来、世界を変えてくれるかもしれない。そんな思いで教育に向き合っています」


Editor’s note:語学に限らず、あらゆる分野の学生のキャリアはMICEにつながる

教育の現場で学生と向き合い「心に火をともす経験」をどう作れるかを考える岩田先生。彼女のような存在に憧れ、やがて社会を動かす人材が育つ。そんな授業の一場面に立ち会うことができました。

語学は、世界と選択肢を広げてくれる武器になる。その先にMICE業界という可能性が広がっていることも、多くの学生に知ってほしいと感じます。国際的に活躍できるチャンスもここにはあります。

このことは他の分野で専門性を高めている学生にも同じことが言えるのではないでしょうか。建築・設計、デザイン・クリエイティブ、ホスピタリティ、経営・マネジメント、物流、工学、エンジニア……MICE業界には活躍できるフィールドがあるはずです。MICEに身を置くものとして、その可能性を学生や若い人材にもっと伝えていくことは、未来のMICEのために本当に大切なことだと思います。

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