1. HOME
  2. MICEあれこれ
  3. DX・AI・Tech
  4. 【取材】Tech Osaka Summit 2025:生まれ変わった大阪スタートアップイベント。関西発スタートアップは14社 万博や関連イベントが追い風になる
DX・AI・Tech

【取材】Tech Osaka Summit 2025:生まれ変わった大阪スタートアップイベント。関西発スタートアップは14社 万博や関連イベントが追い風になる

これまで「Hack Osaka」と行われてきた大阪、スタートアップのイベントが2025年9月、リニューアル。Tech Osaka Summit 2025」として「大阪・関西万博を契機に、今までにない成長や交流の機会を創出」することを掲げ、2025年9月16日・17日にグランフロント・ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンターにて開催されました。どのようなイベントになったのか、開催初日に会場を訪ねました。

主催者提供

Tech Osaka Summit 2025とは イベントの概要について

これまで計12回、世界中の起業家や投資家、大企業、自治体など、スタートアップエコシステムの幅広いプレイヤーが交流する場として開催されてきた「Hack Osaka Summit」からリニューアル。9月17・18日に大阪・関西万博会場内で行われた「GLOBAL STARTUP EXPO 2025」をはじめ、大阪市内各所で実施された「UMEDA INNOVATION WEEK」とも連携を図り、世界中から集まった関係者を巧みにイベントへと誘導する戦略が組まれました。

Tech Osaka Summit 2025

Tech Osaka Summit 2025

開催概要

名称:Tech Osaka Summit 2025
会期:2025年9月16日(火)~9月17日(水)10:00~18:00
会場:グランフロント大阪 北館(地下2階 ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンターおよび地下1階 イベントラボ)
主催:大阪市、(公財)大阪産業局、(一社)うめきた未来イノベーション機構、(公財)都市活力研究所、(独)日本貿易振興機構大阪本部

公式Webサイト https://www.innovation-osaka.jp/tech-osaka-summit/

イベントの概要、歴史など詳しくはこちらをご覧ください


Tech Osaka Summit 2025
主催者提供

会場から溢れる人…堀江貴文氏ら豪華登壇者によるトークセッションが盛況

会場に到着すると、10:30からのオープニングセレモニーを前に、受付前には30人ほどの人だかりができていました。すでに名刺交換や意見交換をする人たちの姿が、あちこちにありました。海外からと見られる方も多く、至るところに同時通訳レシーバーのレンタルが用意されていましたが、多くの方が直接英語で会話している様子。
会場は2フロアにまたがるため、2カ所以上でスタンプを集めると万博オリジナルグッズがもらえるラリーを開催し、参加者が楽しみながら周遊できる工夫がされていました。

Tech Osaka Summit 2025

オープニングセレモニーには、山本剛史大阪副市長が登壇。挨拶後にはミャクミャクも駆けつけ、「一緒に盛り上がりましょう! Let’s enjoy this event together!」と高らかに開会が宣言されました。

Tech Osaka Summit 2025

4つのコンテンツでビジネスマッチングを実現

個別に区切られたブースで商談できる「Speed Dating」や事前予約制の「BtoB Meeting」、関西地域の強みであるグリーンテック、デジタル、バイオ・ライフサイエンス/ヘルスケアの3つの分野のピッチコンテスト「Tech Osaka Award 2025」など、具体的な成果を生み出すためのコンテンツを実施。

Tech Osaka Summit 2025
堀江貴文氏の講演中、展示会場からほとんど人が消えるほどの人気
Tech Osaka Summit 2025

さらに、第一線で活躍するゲストを招いての「トークセッション」は、250席ほど用意されたイスが満席に。特に、実業家の堀江貴文氏(SNS media&consulting株式会社 ファウンダー)による「万博は通過点だ。関西から世界を変えるスタートアップへ」と題した講演には、多くの人だかりが。立ち見の参加者は数えられないほどになり、セッション会場からはみ出るほどの盛況ぶりでした。

Tech Osaka Summit 2025

関西発の出展者ブースへ誘う動線が奏効

受付前から展示会会場に入ると、目の前にあるのが「INNOVATION STREAM KANSAI」エリア。関西発のスタートアップが14ブース並びます。この一角のみ壁で囲われているため特別感が演出され、通路も少し狭くなっている分、より活況に見えました。実際、他のエリアよりも常に人通りが絶えず、大阪で開催する意義や主催者の意図を明確に感じられる会場配置でした。


関西のスタートアップブース・気になった出展ブースでお話を聞きました

Tech Osaka Summit 2025

PATENTIX:あらゆるパワー半導体の課題を解決した次世代の素材「GeO2

Patentix株式会社は、パワー半導体の新しい素材を開発する立命館大学発のベンチャーです。ワイドバンドギャップ半導体・SiCの後継として、二酸化ゲルマニウム(GeO2)に着目。小型化、高効率化、高耐圧化、低コストを実現し、次世代への貢献をめざしています。スタートから2年半、従業員20人に満たない会社でありながら、酸化ガリウムの研究に携わってきたベテランが多く在籍するため、開発のスピードが早いことが強みです。基盤をメーカーに売るビジネスモデルであるため、顧客のノウハウを生かしたデバイス開発によって、幅広い応用が見込まれるといいます。

Tech Osaka Summit 2025

「Hack Osaka Summit」には過去2回参加してきました。今回の会場規模の広がりやブース・来場者の多さに驚いたといい「去年までは大学関係の知り合いが来ていたイメージ。新たな出会いが一気にできそうです」と期待を口にしていました。

Patentix株式会社 WEBサイト https://www.patentix.co.jp/


Tech Osaka Summit 2025

LENZO:サステナブルなAIとマイニングのハードウェアを提案

NVIDIAなどで知られるAI半導体、またこれと同じ設計を使って、仮想通貨を掘る「マイニング」を行う機器を展示していました。
システムの開発者である中島康彦教授のプレゼンテーションを聞き、「日本を背負うのはこの技術だ」と感銘を受けた藤原健真CEOが直談判。奈良先端科学技術大学院大学の公認を受け、2024年12月に生まれたばかりの会社です。

「マイニングは、電気をお金に変える手っ取り早い方法。温暖化や脱炭素などを気にせず、今のうちに掘りつくしてしまおうという国には負けていられません」「AIも同じで、私たちが少しの便利を得るために膨大な電力が消費されていることは、ほとんど知られていない。結果として今夏の猛暑などにつながっているのに『では、AIの使用をやめるか』とは誰も言えません」と、中島教授。
そこで同社が掲げているのが「SUSTAINABLE AI&CRYPTO」。ただ電力を抑えられるだけでなく、ひいては地球のためになることを大きくアピールしています。

Tech Osaka Summit 2025
藤原健真CEO(中)とシステム開発者の中島康彦教授(右)

今回のイベントで「海外の投資家から大きな小切手をいただければ、ミッションコンプリートです」と笑う藤原CEO。そもそもAI半導体分野への理解が進んでいないといい、課題解決に向け国内外への発信に注力。その並々ならぬ思いが、発する言葉からヒシヒシと伝わってきました。

LENZO株式会社 WEBサイト https://lenzo.co.jp/


Tech Osaka Summit 2025

CCHサウンド:500年ぶりに発見された「軟骨伝導」を生かしたイヤホンで高齢社会に貢献、万博会場で3万人が試着

頭蓋骨を震わせる「骨伝導」はすでに広く知られているものの、長時間の使用によるQOLの低下が課題でした。しかし、奈良県立医科大学の細井裕司教授が、軟骨を震わせることで音が生まれる現象を2004年に発見。骨伝導からは実に500年ぶりの発見です。すでに補聴器に採用されている「軟骨伝導」を、一般の方が使える集音器として開発。聞こえにくさを感じている高齢者などを窓口で案内する際に有効で、300ほどの自治体ですでに導入されています。

通常のイヤホンと違い、音が出る穴がないので音漏れがしない、耳を完全にふさいでしまわないため外耳道の病気を予防できる、簡単に手入れができるので公共の場で取り入れやすいなど、多くのメリットがあります。難聴が認知症につながるリスクも指摘されており、高齢化が進む日本をはじめ世界中にニーズがあると考えています。関西万博にも計4週間参加し、3万人ほどの人が試着。「リモート会議が増えているので病気が気になっていた」「音漏れしないのがうれしい」と多くの声をいただいたそうです。

Tech Osaka Summit 2025

「0から1にした新しい技術。これを10にするためにどんな組み合わせができるか、企業との出会いに期待しています」

また、株式会社CCHサウンドのブースには、けいはんな学研都市が共同で出展。スタートアップの研究開発に、住民の知恵や知識を生かすサポート体制を紹介していました。「けいはんな学研都市には大小さまざまな企業が集まり、相談できる相手がたくさんいるので心強い。住民の意見も忖度がないので、とても良い仕組みだと感じています」

株式会社CCHサウンド WEBサイト https://cch-sound.co.jp/


アイ・エレクトロライト:揮発しにくく燃えにくい「イオン液体電池」

Tech Osaka Summit 2025

爆発・火災事故を起こすとして、昨今問題になっているモバイルバッテリー。揮発しにくく燃えにくいイオン液体に変えるだけで安心・安全を実現する「イオン液体電池」を提案するのが、株式会社アイ・エレクトロライトです。長寿命のため、メンテナンスフリーの機器などへの使用も視野に入れています。

関西大学の石川正司教授が、イオン液体をリチウムイオン電池に使用できると世界で初めて発見したのは2005年です。10年近く研究が続けられていました。2024年にElectrochemistry誌の「BIMONTHLY MOST DOWNLOADED PAPERS」第2位に選出されたこと、さらに万博での出展や最近のニュースなどが追い風になり、一気に知名度や注目度が高まったと実感しているそうです。

実績ができたものの、従来のリチウムイオン電池と比べ高価になるため、付加価値を見出してくれる投資家や企業との出会いが喫緊の課題。普及していけば価格も下がるため、今までなかった新たな用途の発見にも期待しています。

Tech Osaka Summit 2025

同じ日にグラングリーン大阪北館 HOOPSLINK KANSAIで開催された関連イベント「SUCSUC-CONNECT 2025@UMEKITA」でも、同社の主任研究員が登壇し、研究内容を紹介。今回の好機を逃すまいと、スタートアップ関連イベントを有意義に活用されていました。

株式会社アイ・エレクトロライト WEBサイト https://ielectrolyte.net/


Tech Osaka Summit 2025

ボスケシリコン:世界初のシリコン経口投与を当たり前にし、“健康長寿”の実現を

株式会社ボスケシリコンは、大阪大学でシリコンを使った経口投与可能な新規医薬品素材を研究する小林悠輝特任准教授が2019年に設立。腸に到達して初めて水分と反応し、水素を発生させる新規素材の開発に成功しました。

シリコンが水分と反応して水素が発生すると、病気の元になる活性酸素が水に変化。体への負荷を変えることなく酸化ストレスを低減できます。また、水素だけが腸から吸収されて便と一緒に排泄されるため、副作用や環境汚染への影響がないことも大きな特徴です。

展示していたのはサプリメントでした。老化やうつ病、糖尿病、アトピー性皮膚炎など「酸化ストレス性疾患」と呼ばれる病気の治療薬としての活用に向け、研究を進めています。取材中、どうしても話を聞きたいと海外からの参加者がブースへ。参加者は「アニマルヘルスの研究者だ」と名乗られ、今後ぜひ連絡してほしいと約束されていたのが印象的でした。

Tech Osaka Summit 2025

シリコンを経口投与すること自体が世界初の試み。
「今後は当たり前になる世界をめざしています。シリコンを通じた社会貢献、健康寿命の延伸、“健康長寿”の実現に寄与したいです」

大阪大学 産業科学研究所 新産業創成研究部門 新産業創造システム研究分野(小林グループ)
https://kobayashilab-silicon.com/


主催者提供

最後に:Tech Osaka Summit 2025で感じた熱量。関西のスタートアップにとっての好機に

関西に拠点を置くスタートアップばかりを取材し感じたのは、圧倒的な熱量です。会社の代表や長年研究を続けてきた研究者がブースに立っていることもあり、技術の高さや秘めたポテンシャル、人類や社会への貢献など、時間をかけて丁寧に熱く、語っていただきました。

どの技術やシステムも「世界初」「500年ぶり」など、誰かに話したくなるものばかり。今はまだ知られていなくても、数年後に当たり前になり得る技術が一同に介したイベントは、なかなかないのではないでしょうか。

主催者提供

「新しい技術なので、認知度が低い」「いち早く取り入れようと挑戦する企業や先手を打って投資しようとする人が少なく、必要性やメリットを理解してもらうのに時間がかかる」と課題を語る出展者が多かったことが印象的です。

大阪・関西万博ですでに出展を終えた企業が複数あり、今回のイベントと合わせて世界中の人に知ってもらう絶好の機会になったようです。前身のイベント出展者からは、規模が大きくなったとの感想もありました。後年、振り返ると、この2025年が関西のスタートアップにとって大きな意味のある年になったと思い出されるのではないでしょうか。Tech Osaka Summit の来年も大変楽しみになりました。

関連記事:スタートアップ関連イベントなど

カテゴリー