東京・大井に新たなMICE拠点誕生なるか。東京都競馬がアリーナ建設を含む大規模開発計画を発表
東京都競馬株式会社は2025年12月、長期経営ビジョン2035および中期経営計画2030を発表しました。その中で注目したいのが、大井競馬場を中心としたエリアでの「アリーナ整備」を含む大規模な再開発構想です。都心からのアクセスに優れたこの地が、競馬場というユニークベニューの特性を活かしつつ、どのように変貌しようとしているのでしょうか。

【中期経営計画2030】150億円を投じるアリーナ建設計画
今回発表された中期経営計画2030「the 1st Furlong」において、最大の目玉といえるのが大井エリア(勝島)におけるアリーナ整備計画です。同社は2026年から2030年までの期間に合計約750億円の投資を計画しており、そのうち約150億円がアリーナ整備に充てられる予定となっています。
※Furlong(ハロン)競馬で用いられる距離の単位、1ハロン=約200m。
このアリーナは資料によれば、大井競馬場内再整備の進捗を踏まえて整備されるものであり、競馬だけでなくスポーツやライブなども楽しめる空間を目指していることが明記されています。これまで競馬場といえばレース観戦が主たる目的でしたが、アリーナの併設によって、多様なエンターテインメントが集積する複合的な拠点へと進化することになります。
今後のスケジュールとしては、計画やスキームの検討を経て設計に入り、場内再整備の進捗を見ながら建設が進められる見込みです。都市計画公園に指定されている大井競馬場の特性を活かし、新たな体験を生む空間として、アリーナ事業が最も有力であると捉えられています。
【背景と狙い】デジタル時代における「リアルな場所」の価値再定義
なぜ今、競馬場運営会社が巨額を投じてアリーナ建設に乗り出すのでしょうか。その背景には、公営競技を取り巻く環境の劇的な変化があります。近年、インターネット投票の普及により、わざわざ競馬場に足を運ばなくてもレースを楽しめるようになりました。利便性の向上という点ではプラスですが、一方で「競馬場というリアルの場に求められる役割」が変化していることを意味します。
東京都競馬は、少子高齢化や働き手不足といった社会課題を認識した上で、大井独自の実体験の価値を高める必要があると判断しました。その答えが「都心型エンターテインメント競馬場」への転換です。単に馬券を買う場所ではなく、人が集い、心が昂るような空間をデザインすることで、世界に誇れるランドマークを創造しようとしているのです。

【MICE視点で見る展望】最強のユニークベニューとしての可能性
MICEの視点から見ると、この計画は高いポテンシャルを秘めています。第一に、大井競馬場自体がすでに強力な「ユニークベニュー」であるという点です。広大な敷地と夜間照明設備、そして競走馬が走る非日常的な景観は、アフターコンベンションや特別感のあるパーティ会場としての魅力を持っています。
ここに近代的なアリーナ機能が加わることで、活用の幅は広がります。アリーナで大規模なカンファレンスや製品発表会を行い、その後のレセプションを競馬場のスタンドや屋外エリアで開催するといった、一体的なイベント運営が可能になります。資料でも「人が集う空間をデザイン」し、「まちの賑わいを生む新たな事業を検討」するとされており、周辺エリアを含めた回遊性の向上が期待されます。
ファンエリアの再整備も同時に進行しており、ワクワク感を高める入場エリアや、競馬の新たな楽しみ方を提供する施設の整備も計画されています。これらが完成すれば、ビジネスイベントの参加者にとっても、滞在の満足度が大きく向上することは間違いありません。
勝島エリアが描く未来のエンターテインメント都市
東京都競馬が掲げる長期ビジョンのスローガンは「未来の想像、空間の想造、笑顔の創造」。大井競馬場という歴史ある資産に、アリーナという新たなエンジンを搭載することで、勝島エリアは公営競技の場から、東京湾岸エリアを象徴するエンターテインメント・シティへと生まれ変わるかもしれません。2030年に向けて動き出したこの「未来の空間創造プロジェクト」は、MICE開催地としての東京の競争力を高める重要な計画となるでしょう。アリーナの規模や具体的なスペックなど、詳細な情報の公開が待たれます。