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【インタビュー】韓国・釜山はビジネスを始めやすい?スタートアップとワーケーションの可能性(釜山創造経済革新センターのキムさん)

取材日:2025年4月14日

活気あふれるチャガルチ市場

韓国・釜山は観光だけではもったいない?

みなさんは、海外に新しいビジネスの拠点を持つとしたら、どんな国や街を思い浮かべますか?

今年の春、私たちは10日間ほど韓国・釜山に滞在しました。食事は美味しく、人はあたたかい。新しいビルと昔ながらの街並みが共存し、日本人にはとっても居心地がいい街だと感じました。ただ、これはあくまで“観光目線”のはなし。

では、釜山は「ビジネスの拠点」としてはどうでしょうか?
今回は、釜山駅前にある「釜山ワーケーション拠点センター」の代表であり、「釜山創造経済革新センター(Busan Center for Creative Economy & Innovation(BCCEI)」のキム・ヨンウさんにお話を伺うことができました。釜山創造経済革新センターは、地域に根ざしたスタートアップの育成と支援を行う公的なアクセラレーターです。

※アクセラレーター
大手企業や自治体がベンチャー、スタートアップ企業などの新興企業に出資や支援を行うことにより、事業共創を目指すプログラムを提供する企業や団体のこと。

この記事では、次の内容についてご紹介します。
・釜山は“ビジネス拠点”としてどんな街か
・日本企業が進出する際にどんな支援があるのか
・釜山のスタートアップとワーケーションの未来

海外でのビジネス展開や、拠点を探す皆さんにとって、ヒントになれば嬉しいです。


釜山創造経済革新センター(Busan Center for Creative Economy & Innovation(BCCEI) キム・ヨンウさん

日本がくれた恩を、今返したい

釜山ワーケーション拠点センターの代表を務めるのが、キム・ヨンウさん。彼の存在こそが、施設の魅力かもしれません。

キムさんは1999年に兵庫・姫路の大学で1年間語学留学を経験。田舎暮らしで受けた温かいもてなしが、今も心に残っているそうです。SNSのニックネームは「カツ丼好き」(笑)。日本文化へのリスペクトが感じられますね。

「留学したあのとき。日本の友人からもらったものが多いんです。毎日、一緒に御飯を食べに行きました。本当に親切にしてもらって…ありがたかったです。ずっと『何か日本のためにやりたい』と考えていました。でも忙しくてなかなか動けなかった。今は少し落ち着いたので、良いことをして返したいんですよね」

そんなキムさんが今、目指しているのは“日本と韓国をつなぐこと”

「日本の企業が釜山に進出するとき、役に立てたらと思っています。私は知っている人も多いので、必要な人を繋げられると思います。ビジネスのマッチングだけでなくて、日本と韓国の関係を深めるためにも、取り組みたいと思っています」


過去・現在・未来の時間が流れる

「釜山」という地名は知っていても、どんな場所か詳しく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。まずは、釜山の魅力について尋ねてみました。

「釜山のいちばんの魅力は、過去、現在、未来を一度に感じられることです。山側には、戦争時代の避難民が暮らした”甘川文化村”や”イバグキル”(過去)。釜山駅周辺にはビルが立ち並び、都市としての活気が感じられます(現在)。港側では再開発が進み、未来の姿を垣間見ることができます(未来)」

もう少し詳しく説明しましょう。

過去:サムスン、LG電子など輩出する産業拠点

「釜山は小さい街でした。昔は、山からすぐ海が続いていました。しかし、日本によって埋め立てられ、平地と港が作られました」

1547年の『丁未約条(ていびやくじょう)』締結直後、東莱(トンネ)は府に昇格し東莱都護府となり日本に正三品堂(官職の階級)の上官を派遣した。特に、倭館を管轄していた東莱府使は、対日外交の第一線として外交と軍事における重大な責務を担っていた。釜山浦に置かれた倭館は日本人の居住地、また、日朝の貿易や両国の人々の交流の場であった。
1876年の開港を機に釜山には近代化の波が押し寄せ、伝統都市東莱と並行して現在の中央洞地域も発展していった~

出展:Busan is good 釜山の歴史
https://www.busan.go.kr/jpn/history-of-busan

「日本統治時代に整備された港、鉄道、都市インフラが今も息づいています」

1908年には京釜鉄道として釜山から京城(現在のソウル)間が全通しました。韓国の鉄道網の基盤となり、現在も主要な交通路線として利用されています。朝鮮戦争(1950年)により、大韓民国は荒れ、多くの避難民が釜山に集まりました。結果、人口が増え、鉄道インフラや海外貿易が活発化、材料が手に入ったことで、”産業の拠点”となりました。現在のサムスンやLGの前身となる企業も存在しており、韓国の経済発展の礎を築いた場所なのです。

現在の韓国の新幹線にあたる高速鉄道KTX(慶州駅)


甘川文化村(カムチョンムナマウル)
朝鮮戦争の際、北朝鮮から避難してきた人々が家を密集して建てたバラック集落でした。坂の勾配が急で階段も多く、当時は貧民たちがその場しのぎで小屋を建てて暮らしていました。2009年にまちおこしのため、展望スポットやイラストが描かれ、観光名所となりました。

草梁イバグキル(チョリャンイバグキル)
19世紀末の釜山港の開港を皮切りに、日帝強占期(1910~1945年)、1945年の解放後に勃発した韓国戦争(1950~1953年・休戦)により、多くの人々が避難民として釜山に生活の場を築き始めた1950年代から60年代、高度経済成長に沸いた1970年代から90年代の釜山にまつわる逸話がたくさん残っています。


現在の釜山駅前の様子

現在:消滅危機と高齢化が進むからこそ“次”を育てる土壌がある

「釜山は、韓国第2の都市として長年にわたり商業都市としての地位を築いてきました。しかし近年、人口減少や高齢化、企業のソウル一極集中といった課題に直面しています。経済力が下がり厳しい状況です。大企業をつくることも難しい…。今やるべきは”スタートアップ”ではないか!と思っています。釜山市もスタートアップ育成のために、投資、インフラ、政策に力を入れているんです」

韓国雇用情報院は、釜山の消滅リスク指数が0.490と2024年6月に発表したのはしました。広域市の中で初めて消滅危険地域に分類されたのです。2025年3月時点で釜山市の65歳以上の人口比率は23%に達し、超高齢化社会に突入しています。

その一方で、2025年2月にも釜山市と金融界が力を合わせて3兆ウォン(約3000億円)を超えるファンドを造成し、地域企業の業種転換とスケールアップ支援。韓国の動向としても、スタートアップの挑戦に積極的。2024年5月には韓国の中小ベンチャー企業部(以下:中企部)は、スタートアップの日本進出拠点となる「K-創業企業事業所(K-スタートアップセンター:KSC)東京」を開所。韓国政府の「中小・ベンチャー企業のグローバル化支援対策」の一環です。

世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2025」(2025年1月)では、韓国企業はスタートアップを含め1031社が出展し、過去最多を更新。CES 2025の「CES イノベーションアワード 2025」は458の製品・サービスが受賞し、その中から「Best of Innovation」として選出された34の内、15が韓国企業の出展でした。AI、ヘルスケア、スマートシティー、セキュリティーなど多様な分野で受賞しています。

未来:ワーケーションタウン。 “住みながら働く街”へ

釜山港の北側に位置する「北港」では、いま大きな再開発が進んでいます。きっかけは、2006年に釜山港新港が開港したことでした。従来の北港は役割を終えた形となり、2008年から親水空間として活用する「都市大改造計画」がスタートしました。

北港は釜山駅より海側に位置します。一帯にはショッピングセンターやホテル、展示場、劇場、国際会議場などを備えた複合施設が建設される予定です。

引用:Busan is Good Webサイト 土地利用構想(案)より

合わせて、スタートアップ拠点施設も生まれるそう。

「アーチの後ろの青い倉庫、見えますか?あの場所にスタートアップ支援施設ができます。なぜ、あの場所なのか。“釜山最初の港”だからです。ここから韓国の大企業が生まれました。だから、今度は私たちも同じ場所で新しくスタートアップを育てたい。来年の夏以降に始動予定で、イベントも開催予定ですよ」

キムさんは、さらなる構想を語ってくれました。
シーズン1 インフラを整える
シーズン2 グローバルワーケーション(イベント)を2025年に行う
シーズン3 タウン型ワーケーション

「住みながら働く街」へ——。

釜山ワーケーション拠点センターの様子

「施設ではなく、ワーケーションタウンを作りたいです。住みながら働き、街で生活をする。例えば、時差のある国の人でも安心して働けるよう、24時間利用可能な環境づくりができると良いですよね。『LAVALSE HOTEL(ラバルスホテル )』では、24時間開放されたワークスポットとして開放しています」


ソウルよりも始めやすい

飛行機であれば、東京から約2時間、大阪からは1時間半ほど。フェリーでは、大阪、下関、博多、対馬から運行しています。何より飛行機、船であっても朝に到着して日中動けることが嬉しいポイントです。

キムさん「金曜日の夜に船に乗って、翌朝釜山に着く。1泊2日全部遊んで、月曜日の朝8時に戻ってそのまま休み無しで出社(笑)。以前飛行機が台風でキャンセルになったとき、フェリーは動いていて本当に助かりました」

業態にもよりますが、週末をうまく使えば、釜山出張は気軽にできるのです。

「さらに、オフィスの賃料や人件費はソウルの約半分。過度な競争環境もなく、行政のスタートアップ支援プログラムが非常に充実しています。挑戦のハードルが低く、スタートアップにとって”始めやすい環境”が整っています。」


パートナーは”ロッテ”。ネットワークを活かし大手メーカー、専門家と繋がれる

釜山駅から徒歩5分。24階建ての高層ビルの最上階に釜山創造経済革新センターが運営する、「釜山ワーケーション拠点センター」があります。釜山の「昔と今と未来」を眺めながら仕事ができる、釜山で仕事をするなら押さえておきたいところです。


「なにより大事なのは“繋がること”だと思っています」

韓国有数の大企業グループである「ロッテ」がパートナー。現地で“会いたい企業や専門家”とのネットワークづくりをサポートしています。「釜山に来たけれど、誰とも繋がりがない…」といった不安も、この場所でならすぐに解消されるかもしれません。

日韓スタートアップの相互支援を行う「LOTTE VENTURES(ロッテベンチャーズ)」と連携し、2023年から「L-Camp Japan」というスタートアップ支援プログラムを東京で毎年開催。2024年も盛況のうちに終了し、日本から韓国へ、韓国から日本へと挑戦する企業を後押ししています。

※ロッテグループ
韓国でサムスンなどに次ぐ第5位の巨大財閥で、食品、百貨店、ホテル、化学、レジャーなど多岐にわたる事業を展開しています。

あらゆる場所で「ロッテ」の名前を見ることができます。


そのほか、釜山ワーケーション拠点センターでできることをまとめました。

・住所登録
会社の住所を登録できます。登記住所にして起業し、ビジネスが軌道に乗れば社員を採用したり、オフィスを構えることも可能です。サテライトオフィスとして登録するのも良いでしょう。

・毎週開催のWデイ
釜山のビジネスのネットワーキングを広げるなら毎週水曜日に開催される「Wデイ」に参加してみましょう。“Wednesday”と“Worcation”の頭文字から名付けられたこのイベントでは、午後から交流会やピッチ、ゲストトークが開かれ、地元ブランドの立ち上げ経験者や、業界を牽引するIT起業家などの話を直接聞くことができます。



・洗練された、集中できる環境で仕事ができます。

ワーケーション拠点センターについての記事


ワーケーション参加企業への支援も充実

釜山でワーケーションを行う企業・個人に対して、以下のような支援を提供しています。

<支援内容(一例)>
・ワーケーション専用空間の無償利用
・「Wデイ」などのネットワーキングイベントへの参加
・地元ビジネススポットの紹介

平日3日以上の滞在で、以下の特典付き:
・1泊あたり5万ウォンの補助(最大10泊)
・5万ウォン相当の観光バウチャー支援
・ウェルカムキット提供
・パートナーセンターの利用やギフトカード特典など


2025年以降に開催される関連イベント

  • 2025年9月22日〜23日 『FRYASIA(フライアジア)』(釜山 BEXCO)
    韓国・アジアを横断するスタートアップの祭典「FRYASIA」。
    スタートアップ企業や投資家などが参加予定

  • 2025年9月ごろ ワーケーションイベント開催予定(釜山)
    デジタルノマドの誘致を見据えたイベントを釜山で開催予定。韓国の大手企業・地域企業と、日本のスタートアップが交流・商談できるような「ビジネスを生む場」を目指しています。

  • 来夏以降:起業家支援複合施設でのイベント開催予定(釜山 北港再開発)


まとめ:挑戦者にやさしい釜山。一歩を踏み出しやすいビジネス拠点としての選択肢

ビジネスをスタートさせるなら「ソウル」をイメージされるかもしれません。しかし家賃も人件費も高く、ライバルも多いため“戦いが厳しい”場所でもあります。その点、釜山は“戦いやすい街”。ソウル同等の、交通インフラが整っており、飛行機、船、地下鉄、バスと、移動手段に困ることはありません。訪れてみて、想像以上に“都会”だという印象を受けました。暮らしやすさと市場規模のバランスも魅力です。何より、釜山には“挑戦者を歓迎する空気”があります。新しいビジネスの種をまく場所として、「釜山」を候補に入れてみませんか?まずは観光でもいいので、一度訪れてみることをおすすめします。


参考資料

毎日経済 韓国代表経済メディア
https://www.mk.co.kr/jp/economy/11238100

JETRO:韓国政府、スタートアップの日本進出を積極支援
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/05/f51d2e361db67f54.html

日経XTECH:CESに大量出展し過去最多のアワード受賞、存在感高める韓国スタートアップ
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01231/00124/

KORIT:LOTTE VENTURES、日韓スタートアップの海外進出を支援
https://www.korit.jp/news/event/unicornfactory-lotteventures-japan-korea-startup-ai-lottecvc-241018/

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