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2025年版「観光白書」発表:MICEについてはどのように触れられているか 令和6年度と令和7年度の施策の「違い」を読み解く

コラム, 地域/行政

5/27、観光庁から2025年版「観光白書」(以下、観光白書) が発表されました 。観光立国推進基本法に基づき毎年国会に提出される重要なレポートです。「MICE TIMES ONLINE」編集部はMICEの分野について、どのように触れられているのかを分析いたしました。

令和6年度に講じた施策(第Ⅱ部 MICE の推進)

まず、昨年度の振り返りから。内容をまとめてみると、次のようなものになります。

MICEの経済的価値の明確化と意義の発信

新型コロナウイルス感染症後の環境変化に対応するため、MICE開催の経済的価値をより正確に把握する取り組みが進められました。参加者の消費額調査や経済波及効果の分析を通じて「MICE簡易測定モデル」の改訂に向けた基礎作業が行われ、国際MICEの参加者数算出の精度向上も図られました。

政府一体でのMICE誘致推進・開催

「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」や大阪・関西万博の開催を契機とし、政府は関係省庁と緊密に連携。国際会議の日本への誘致活動を積極的に支援しました。

開催地の魅力向上と地域連携の強化

MICE開催地としての魅力を高めるため、地域資源の活用が重視されました。公的施設等をユニークベニューとして活用する動きを促進し、JNTOのウェブサイト等を通じて情報発信。会議主催者とコンベンションビューローの連携によるユニークベニュー活用や、インセンティブ旅行向けの新たな活用事例創出を54件支援しました。また、国際会議の開催効果を広範囲に波及させるため、政令指定都市を中心とした近隣都市との連携や、地域の多様な関係者を巻き込んだ新しい取り組み、さらにはインセンティブ旅行向けのコンテンツ造成やプロモーションツールの作成も15件支援され、各地域の誘致力強化に貢献しました。

JNTOによるグローバルな誘致活動の展開

日本政府観光局(JNTO)は、MICE誘致の最前線で多角的な活動を展開しました。アジアの主要都市でインセンティブ商談会を開催し、欧米やアジアから旅行会社のキーパーソンを招いて日本の魅力を直接体験してもらう機会を提供。オンライン広告やSNSを駆使し、日本のサステナビリティへの取り組みや国際会議の成功事例、大阪・関西万博関連情報を継続的に発信しました。

国際PCO協会(IAPCO)をはじめとする国際的なMICE団体との連携を強化し、情報発信、人材育成、最新動向の収集に努めました。データに基づいた誘致戦略も推進され、誘致ノウハウが不足する地方都市にはコンサルティングを提供、全国規模のセミナー開催やMICE見本市への出展支援も行い、国内全体のMICE開催件数の増加を目指しました。

国際競争力強化のための基盤づくり

MICE誘致における日本の国際競争力を底上げするため、ソフト・ハード両面での基盤整備が進められました。JNTOとコンベンションビューローの支援体制に関する情報発信や国内プロモーションを強化し、大学や学協会との連携を通じて国際会議の誘致拡大を図りました。日本学術会議も国際会議の共催やセミナー開催で貢献。特定のMICE推進都市には専門家を派遣し、各都市の強みを活かした取り組みとPR戦略を支援しました。

JNTOは、サステナビリティやデジタルリテラシーといった最新トレンドに対応できる専門人材の育成プログラムを充実させ、国際会議主催者やコンベンションビューローへのコンサルティング支援も強化。MICE施設の機能強化として、PFI・コンセッション方式導入支援や無線LAN等整備支援、国内主催者の開催意欲向上や若手研究者による国際会議開催支援なども実施されました。

新たな分野でのMICE展開

2024年11月には、日本で初となる「日本国際仲裁ウィーク」が官民連携で開催され、国際商取引における紛争解決拠点としての日本の魅力を世界にアピールしました。

全体を整理すると…

令和6年度は、海外ビジネス客誘致による経済効果と国際競争力強化を明確な目標に据え、多角的な施策を推進しました。経済価値の可視化と政府一体の誘致支援を基盤とし、地域ではユニークベニュー等の独自資源を磨き上げて受入体制を強化。JNTOがグローバルな誘致活動を牽引し、専門人材育成や施設機能向上といった国際標準のMICE環境整備も加速させました。さらに、国際仲裁など新たな分野への展開も見られ、日本のMICEプレゼンス向上への強い意志が示された1年と言えます。


令和7年度に講じる施策(第Ⅲ部 MICEの推進)

令和7年度はどうなのか、見出しが同じようなものが並んでいるので、「違い」の部分に目を向けてみます。令和6年度に講じたこととの違いからどういったことが見えてくるでしょうか。

令和6年度のMICE推進施策を土台とし、令和7年度の施策では、その継続とさらなる深化、そして重点の明確化が見られます。

MICE開催の経済的インパクト評価について

令和6年度は「MICE簡易測定モデル」の改訂に向けた消費額調査や経済波及効果の算出といった「準備段階」に重点が置かれていました。これに対し令和7年度では、実際にモデルの「改訂を行う」とともに、「過年度のMICE総消費額の算出」という、より具体的な成果物の作成へとステップを進める計画です。

政府一体となった誘致活動やJNTOによるプロモーション、国際MICE団体との連携

基本的な戦略の柱は、両年度で共通して強力に推進されます。しかし、JNTOの活動において、令和6年度は具体的な招請対象国・地域が一部示されていたのに対し、令和7年度の記述では対象市場の方向性は維持しつつも、より戦略的な枠組みの中での活動継続が示唆されています。

開催地としての地域の魅力向上

ユニークベニューの活用促進や地域連携によるコンテンツ造成支援は継続されます。令和6年度は具体的な支援件数が示されていましたが、令和7年度では「各地域の強みや長期戦略に基づく」支援という質的な側面がより強調されており、より戦略的なアプローチへの移行がうかがえます。

国際競争力強化のための基盤整備

専門人材育成や大学・学協会との連携、MICE施設の機能強化といった多岐にわたる取り組みが引き続き重視されます。特に令和7年度では、MICE施設における「DX(デジタルトランスフォーメーション)やサステナビリティ対応の強化、多言語ウェブサイト等の整備支援」がより具体的に明示され、時代の要請に応じた施設の高度化が一層推進される見込みです。

そして、令和6年度に日本で初めて開催された「日本国際仲裁ウィーク」は、令和7年度も継続して開催され、国際仲裁分野における日本のプレゼンス向上と関連する専門家の訪日促進を定着させる動きが加速します。

総じて、令和7年度のMICE施策は、令和6年度の取り組みの成果と課題を踏まえ、経済効果の精緻な把握を進めつつ、地域ごとの戦略に基づいた魅力向上と国際標準の受入環境整備を一層強化し、持続可能で競争力を高めMICEにおいて日本の地位確立を目指すものと言えます。


IRやワーケーション…MICEにつながる分野について

IR整備の推進:MICE機能拡充と国際競争力向上への期待

IR(統合型リゾート)整備は、令和7年度も引き続き重要な施策として位置づけられています。計画では、カジノに対する様々な懸念への万全な対策を講じつつ、日本のMICEビジネスの国際競争力向上、魅力ある滞在型観光の促進、国内各地の魅力発信と送客に資する施設整備を進めることが目標とされています 。IR施設にはMICE機能が盛り込まれることも想定されますので、MICEと密接に関連する分野として注目していきたいところです。

ワーケーション推進:国内交流拡大と新しい旅のスタイルの定着へ

ワーケーションは、令和7年度の施策において、主に「国内交流拡大」の文脈で引き続き推進される計画です。人口減少下においても国内旅行の実施率向上や滞在長期化を図るための主要な取り組みとして、「二地域居住の促進につながる第2のふるさとづくり」やユニバーサルツーリズム促進などと並んで挙げられています 。ワーケーションは、新しい旅のスタイルとして国内交流を活性化させる手段として、継続的に推進されていくことになるでしょう。


観光白書が示すMICE戦略 – 重点施策としての期待と今後の課題

今回の観光白書からは、日本がMICEをインバウンド戦略における高付加価値化の鍵と捉え、経済効果創出と国際競争力強化を目指す姿勢が読み取れます。令和6年度には経済価値の可視化、政府一体での誘致支援、地域資源を活用した受入体制強化、JNTOによる多角的なグローバル活動、そして国際標準を見据えた環境整備などが推進されました。

令和7年度もこれらの取り組みは継続・深化され、特に経済効果測定の具体化やMICE施設におけるDX・サステナビリティ対応の強化など、時代の要請に応じた戦略的な進化が見込まれます。IRやワーケーションといった関連分野の動向も、MICE市場活性化に間接的ながら影響を与える要素として注目されます。

しかしながら、「MICE TIMES ONLINE」としては、白書全体におけるMICEの記述ボリュームや、より野心的な戦略目標の提示という点では、MICEが持つポテンシャルと戦略的重要性に対して、やや控えめな印象も拭えません。「MICEの推進」に並んでいる「項目」も多少の発展はあれど、特に目新しいものや革新的なものも見受けられないという印象です。あくまで「白書」であって、具体的な政策・計画ではないかもしれませんが、指針や方向性を示すものとして考えるともう一段踏み込んだものを期待したいです。

MICEの分野は観光庁(国土交通省)以外にも、外務省、経済産業省、文部科学省をはじめ多くの省庁や公的機関が関わっています。「MICE庁」のような独立官庁は世界的に見ても例はありません。シンガポール、韓国、イギリスなど多くの国ではMICE専門部局が設置され、縦割りの行政をとりまとめる役割を果たしています。MICEの専門性や推進力を高めるための、新組織や外局の設置は「日本モデル」として注目を集める可能性はありますが、現状ではその可能性は高くありません。たとえば、GDS-Index 2024では参加都市も少なく、上位40都市に日本勢は入っていません。アジア太平洋地域ではシンガポールが7位、シドニー10位、高陽(韓国)18位にランクインしています。縦割りを超えた体制整備が進まなければ、DXや脱炭素化の分野で国際的に後れを取る懸念もあります。

今後、MICEが国家戦略としてさらに明確に位置づけられ、具体的な目標設定と共に、各施策がより強力に推進されていくことに期待が集まります。当編集部としても、日本のMICE振興に向けた動向を引き続き注視してまいります。

解説:白書とは

白書(はくしょ)とは、政府や公的機関が特定の分野について現状や課題、今後の方針などをまとめて公表する公式な報告書です。政策立案や国民への説明責任、根拠ある議論のために作られ、行政の透明性を高める役割もあります。白書の起源は19世紀のイギリスです。政府が政策説明のために発行した冊子の表紙が白かったことから「ホワイトペーパー」と呼ばれました。日本では1947年に経済白書が初めて発行され、その後さまざまな分野で白書が作られるようになりました。

経済白書、防衛白書、観光白書などが代表例で、毎年発行され広く公開されています。白書は社会や行政の現状を知り、今後の方向性を考えるうえで重要な資料となっています。

観光庁Webサイト「令和6年度観光の状況 令和7年度観光施策」(観光白書)について」https://www.mlit.go.jp/kankocho/news02_00041.html

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