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イベントの取材・レポート

【コラム】世はまさに大ツーリズム時代。ひとはなぜ名前をつけるのか。定番になるのはどのツーリズムか/ツーリズムEXPOジャパン2024を取材して

こんにちは、MICE TIMES ONLINEの井上です。
9月26日~29日に開催された日本で最大の旅行・観光業界の展示会「ツーリズムEXPOジャパン2024」。
会場を歩いていて、目につくのは●●ツーリズムという名称。ツーリズムEXPOだから当然じゃないか、とも思いますが、あれもこれも、なんとかツーリズムなのか、と本当に多いわけです。今回は「ツーリズム」について、あまり堅苦しくない程度に考えてみます。

まずは「ツーリズム」という言葉はどういう意味なのかおさらいをしておきましょう


ツーリズム(Tourism)とは?

「ツーリズム」とは、英語の「Tourism」から来ています。観光事業、観光を指す言葉です。
人々が日常生活の場所から離れて他の地域や国を訪れ、観光、休暇、ビジネス、学習などの目的で一時的に滞在する活動全般を指します。単なる旅行だけでなく、その過程での宿泊、食事、文化体験、レジャー活動なども含まれます。

UNツーリズム(旧国連世界観光機関(UNWTO))の定義
ツーリズムは、人々が通常の生活圏を離れ、連続して1年未満の期間、レジャー、ビジネス、その他の目的で他の場所を訪れ、それに関連する活動全体を指します。

注釈:UNWTOとは、国際連合の専門機関である「世界観光機関」のことです。2024年1月からは「UNツーリズム(UN Tourism)」に名称を変更しました。

観光よりも広い意味をもつとされることが多いですが、ツーリズムと観光は使い分けられることが多いです。何らかのテーマをもち体験の要素をもつものがツーリズムで、レジャー、娯楽中心なら観光といった感じでしょうか。

スポーツツーリズム、エコツーリズム、グリーンツーリズム、医療ツーリズムなど。
ツーリズムの前に何かキャッチーな言葉をつけると、すぐに●●ツーリズムが誕生します。その使い勝手のよさもあって、最近は様々なツーリズムが生まれています。
その使い勝手のよさは、なんとかテックであふれるテック業界のようです。フィンテック、エドテック、アグリテック、リテールテック、フードテック、バイオテックなどすでにいくつあるのかわからないほどです。テック(Tech)の名がつく展示会も多くありますね。

くしくもこの展示会は「ツーリズムEXPO」。ツーリズムたちが会場に溢れかえっている、となってもおかしくはありません。私には使い勝手のいい「ツーリズム」が所狭しと覇を競っているように見えました。世はまさに大ツーリズム時代。新大陸にたどり着き、定着するのはどのツーリズムでしょうか。

会場のMAP。なんとかツーリズムは国内コーナーで主に見かけました。海外のブースはお国柄が見えて、小さな万博のような雰囲気。


会場で見かけた数々のツーリズムたち

ロケツーリズム、ロケーションツーリズム

観光庁Webサイトには「ロケツーリズム」を紹介するページがあります。

ロケツーリズムとは、映画・ドラマのロケ地を訪ね、風景と食を堪能し、人々の“おもてなし”に触れ、 その地域のファンになることであり、朝の連続テレビ小説や大河ドラマの例を見ても分かるように、そのインパクトも大きいことから、ロケ地となった地域での持続的な観光振興の取組につながる観光資源として有望です。(観光庁でWebサイトより)

フィルムツーリズム、ロケーションツーリズム‥そしてコンテンツツーリズム、アニメツーリズム
アニメやマンガ、ドラマや映画に登場する場所は「聖地」とされ聖地ツーリズムとなります。聖地巡礼と「ツーリズム」の名前がつかない進化系のネーミングもあります。「聖地巡礼」はSNSやブログとの相性もよく、定着しつつありますね。

日本遺産ツーリズム

https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/news/4123

ホープツーリズム

https://www.hopetourism.jp/

福島県は、世界で類を見ない「複合災害(地震・津波・原子力災害)」を経験した唯一の場所。複合災害の教訓等から「持続可能な社会・地域づくりを探究・創造する」福島オンリーワンの新しいスタディツアープログラムです。(公式Webサイトより)

全国工場夜景都市協議会 https://kojoyakei.info

名前をつけるなら「工場夜景ツーリズム」でしょうか。2023年4月現在では13都市が参加。連携して大きな取り組みにできるというのはひとつの特徴ですね。

日本酒蔵ツーリズム

日本酒蔵ツーリズム推進協議会のブース。こちらも多くの酒蔵が参加することでひとつのツーリズムとして盛り上げています。

スポーツツーリズム、武道ツーリズム

こちらはスポーツ庁のブースです。スポーツツーリズムを掲げるブースは多く見かけました。「武道ツーリズム」は力強くなかなかのパワーワードです。

スポーツ文化ツーリズム

スポーツツーリズムと似ていますが、ブースの方によると「違う」ということでした。文化財やその周辺でスポーツやアクティビティを組み合わせたもののようですが、少しわかりづらいかもしれませんね。

文化庁報道発表 https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94088302.html

星空ツーリズム

日本の地方の満点の星空もツーリズムの対象。写真は奈良県の天川村のブース。星空をアピールしています。全国の夜空がきれいな地域や街が星空を使ったプロモーションを展開。展示会では星空ツーリズムの出展エリアも設けられていました。

アドベンチャーツーリズム

日本アドベンチャーツーリズム協議会ブースでは、エコツーリズムやグリーンツーリズムとの違いをパンフレットなどで説明されていました。自然・文化・アクティビティの2つ以上の要素からなるのがアドベンチャーツーリズムということです。

ジャパンショッピングツーリズム

ジャパンショッピングツーリズム協会がブースを出展。これは協会名なのか、ツーリズムの名称なのか、区別がつきづらいですが、ツーリズムのようでした。

ショッピングは、日本を体験できる最高の観光コンテンツです。訪日ゲストはショッピングを通じて日本を体験し、日本の商品とともに旅の思い出や日本のストーリーを母国に持ち帰り、家族・友人と共有します。JSTOは、こういった旅を「ショッピングツーリズム」と定義しています。(公式Webサイトより

モトツーリズム

日本モトツーリズム推進機構がブースを出展。出展エリアは「ドライブツーリズム」。ツリーング、レース観戦だけではなく、ツーリングにプラスして「ゆっくり景色を楽しむ」ことなどを加えた「モトツーリズム」を普及させることを目的としているそうです。
御船印を展開する御船印めぐりプロジェクト事務局も出店されていましたが、名付けるならクルーズツーリズムでしょうか、それともスタンプを求めて巡るスタンプツーリズムでしょうか。マンホール、博物館などを求めて巡る旅にも名前がつくかもしれません。意外なことにダムツーリズムは国土交通省サイトにも説明ページがあって、ダムカードも知られていますね。

エコツーリズム

エコツーリズム推進協議会が出展。エコツーリズムはツーリズム界の重鎮ともいえる存在です。京都ecoトリップのブースでは自転車による京都観光の提案がされていました。
「エコツーリズムとは、地域ぐるみで自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。(環境省Webサイトより)」

サステナブルツーリズム

セミナーでは「日本におけるサステナブルツーリズムの推進」をテーマにしたものがありました。サステナブルは他の業界と同様に重要な要素となっていくと思われます。他のツーリズムとの組み合わせで普及していくかもしれません。

クラフトツーリズム

ものづくりの国、日本においてはクラフトツーリズムは国内外からの旅行者を集める大きな動きになっているようです。全国各地でクラフトツーリズムをうたう取り組みがされています。従来はお土産、名産品として購入するだけだったものが、作る体験をすること、製造現場に近い距離で見学すること、職人との対話、など様々な体験ができるようになっています。

農泊

笛吹市農泊観光ツーリズム推進協議会が出展。農泊のほかにもアグリツーリズムファームツーリズムなども知られるようになっていますね。グリーンツーリズムも近いものでしょうか。
「「農泊」とは、 農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことです。地域資源を観光コンテンツとして活用し、インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と関係人口創出を図ります。(農林水産省Webサイトより)」

ヘルスツーリズム

気仙沼ヘルスツーリズム協議会が農泊ブースにて展示されていました。ヘルスツーリズムはさらに、主にインバウンドを対象にしたメディカルツーリズム(医療ツーリズム)にも分かれます。
ウェルネスツーリズムと呼ばれるツーリズムも存在します。スパ、ヨガ、瞑想、フィットネス、レクリエーションなどを体験するツーリズムです。
「ヘルスツーリズムとは、旅行という非日常的な楽しみの中で、旅行中のトラブルを回避したり、健康回復や健康増進を図るものをさします。そして旅をきっかけとして、旅行後も健康的な行動を持続することにより、豊かな日常生活を過ごせるようになることをいいます。(ヘルスツーリズム振興機構Webサイトより)」

ツーリズムのこれからを考えてみる

展示会のメインビジュアル。
「旅、それは新たな価値との遭遇」。なるほど、ツーリズムと名前をつけて、旅のあらたな価値を提案するということなら、しっくりきます。観光地の情報よりも、こういったスタイルの旅なのか、こういう価値や体験の旅ができるのか、伝えるためには「ツーリズム」が果たす役割は大切です。

今回の記事では30ほどのツーリズムを取り上げました。展示会のすべてを拾いきれてはいませんので、その数たるやいくつになるのか想像もつきません。そうそう、展示会を巡るのもエキスポツーリズム、展示会・見本市ツーリズムなのかもしれませんね。

開場前の東京ビッグサイトの行列。これだけの人々がツーリズムを求めています。

大ツーリズム時代の課題と未来

なんとかツーリズムはキャッチーでインパクトもあります。マーケティングの観点からも有効で、今後も当面は大ツーリズム時代が続くと考えられます。

観光案内所と化すブースと知恵と工夫を感じるブース

課題がないわけではありません。ほとんどのブースには紙のパンフレットが大量に設置されていて、エコやサステナブルとはいい難い。日本では各地の観光案内所や駅やホテルで紙のパンフレット、リーフレット、観光案内がラックや棚に設置されています。展示会のブースはその観光案内所がただ派手に大きくなって、置いている紙の種類が増えているだけという印象を受けるものもありました。現地の玄関ともなる案内所と展示会のブースが同じでいいのかなと疑問を持ちました。

海外のブースは工夫されていて上手に体験に導いています。日本のブースは紙を置いて、パネルを掲示しているだけのものが多いのです。お金をかけなくても、もっと知恵を出せるはずで、海外のブースの工夫が光りました。日本のブースでも工夫が見られるものはありますが、少数派です。
あたらしいツーリズムを提唱する展示会も、次世代に向けてアップデートするタイミングが来ていると感じます。

名前をつけるだけでは、結局どんな旅なのか見えてこない

実態がどういったものかわかりづらいツーリズムもあります。各地を結ぶことや、名物をツーリズムに置き換えるだけでは従来のプロモーションの名前を変えただけに見えるものがあります。絶景や観光地、名物、グルメに違う名前をつけるのではなく、体験や人の気持ちやこころに寄り添うツーリズムがもっと出てきてもいいでしょう。

落ち込んだ気持ちを前向きにしてくれるツーリズムや、ご褒美に自分を連れ出してあげるツーリズムなど、いずれは旅人の数だけツーリズムが存在する時代がやってくる。そのためのツーリズムEXPOになれば楽しいだろうと未来を妄想したりします。妄想ツーリズムです。とってもエコ。

日常会話で●●ツーリズムという言葉はまず聞きませんし、町中で耳にしたことも私はありません。聖地巡礼・ロケ地巡り、推し旅、乗り鉄・鉄旅といったツーリズムを使わない言葉のほうが浸透しているのではないでしょうか。

びわこビジターズビューローのブース。シガリズムトリップという独自ワードで一線を画していました

娯楽で旅をするようになったのは江戸時代からとされており、それでもごく一部の人の話でした。
海外旅行が自由にできるようになって60年。
東海道新幹線開業から60年。
日本の人々が自由に旅行できるようになったのは実は最近です。
色々書きましたが、旅に名前がつくようになったなんて、素敵な進歩です。
自由に旅が楽しめる時代に感謝しつつ、世界中の人たちが旅に名前をつけて楽しんで旅ができる時代になることを願ってやみません。

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