
【乗船記】2泊3日の太平洋フェリー、名古屋→北海道・苫小牧航路は出張の選択肢になるのか、名古屋の乗り場から札幌まで、ワーケーションしつつ考えてみた
遠方への出張手段、普段何を利用していますか。新幹線、社用車、飛行機あたりがメジャーなところでしょうか。「MICE TIMES ONLINE」を運営する当社では、船もよく使います。船と言っても長距離航路のフェリーです。これまで、オレンジフェリー乗船記やパンスタークルーズ乗船記でご紹介してきました。今回は、名古屋から北海道・苫小牧までの2泊3日の太平洋フェリーを移動手段として選択。ビジネスで長距離フェリーの利用は「あり」なのか「なし」なのか、乗船しながら考えてみました。

太平洋フェリーの概要:名古屋、仙台、苫小牧を結ぶ航路
3船舶が結ぶ太平洋の航路
海に囲まれた海洋国家・日本。交通手段が発達した今でも多くの貨物や車両を輸送する手段として多くの船が近海を行き交います。海峡を渡るような船は、大きな橋やトンネルが開通したことで数を減らしていますが、長距離フェリーは今もなお多くの定期航路があります。
太平洋フェリーはその名の通り、太平洋を航路とするフェリーです。名古屋=仙台=苫小牧をつないでいます。大型フェリー3船舶が配備されています。他の長距離フェリー同様に自動車、二輪を載せることができます。

フェリー・オブ・ザ・イヤー32年連続受賞
太平洋フェリーによると雑誌「クルーズ」にて1992年から実に32年連続で「フェリー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。今回乗船した2代目「きそ」は2005年の第14回から2010年の第19回まで受賞しています。
国内最長級の乗船期間 2泊3日の船旅
太平洋フェリーの大きな特徴は、2泊3日、39時間にも及ぶ乗船時間です。名古屋発であれば、名古屋を19時に発ち、翌日16時に仙台に寄港、その翌日11時に苫小牧着というスケジュールです。もちろん、名古屋と仙台、仙台と苫小牧の区間でも利用できます。
※苫小牧発の場合は、苫小牧発19時発、翌日10時に仙台、その翌日10時半に名古屋着です。
国内フェリーで2泊できるのは、太平洋フェリーだけです。
3船舶のスペック
今回、乗船したのは「きそ」。太平洋フェリーの3船舶ではもっとも大きな総トン数です。竣工は2004年ですから、およそ20年ほど前に造られた船です。
いしかり | きそ | きたかみ | |
総トン数(トン) | 15,762 | 15,795 | 13,694 |
全長(m) | 199.9 | 199.9 | 192.5 |
幅(m) | 27 | 27 | 27 |
旅客定員 | 777 | 768 | 535 |
乗用車 | 100 | 113 | 146 |
トラック | 184 | 183 | 166 |
いしかり、きそはスイートルームを備えており、部屋のバラエティがあります。
客室は相部屋形式の部屋と個室に大きく分けられます。相部屋の寝台は床に寝るようなタイプと、寝台列車のようにひとりずつ寝台が用意されているものがあります。個室は和室、洋室、和洋室で、スイートは洋室です。
名古屋から苫小牧まで39時間、仕事をしながら過ごしてみました
名古屋港のフェリーターミナルへ。名駅からの直通バスが便利
名鉄バスセンター17時発のバスでフェリーターミナルに向かいます。公共交通を使い場合はこちらが最も便利でしょう。運賃は大人1000円。名鉄バスセンターにはコンビニやエアコンの効いた待合室があります。40分ほどでフェリーターミナルに到着、直行便なので寝てても大丈夫。


スマートチェックインで、手続き無しで乗船口へ

乗船日に送られてくるメールから「モバイルQR搭乗券」が発行されます。搭乗だけでなく、自室のカギにも使います。この画面をスクリーンショットしておきましょう。出港するとネットにつながらないところもあり、QRコードを呼び出せなくなるおそれがあるからです。
部屋番号も画面に表示されていて、現地での手続きは一切必要ありません。部屋の前にあるリーダーにQRコードを読ませて解錠、入室します。

特等洋室はシティホテルに迫る高い機能性
利用したのは定員2名の特等洋室。個室です。1人で利用しても料金は高くなりません。PC仕事をするなら個室がおすすめです。機密情報を扱うならパブリックスペースより個室を選ぶのは当然として、コンセントの数、仕事をしやすいデスクなど設備も充実しているためです。

ダブルベッドと広めの浴槽がついたユニットタイプの水回り、冷蔵庫、クローゼット、大きなソファとビジネスホテルよりはひとつ上のクラスのホテルのようです。なんといっても大きな窓からの水平線の眺めは、陸のホテルでは絶対に叶わないもの。私の部屋は進行方向左手なので、海の向こうに陸地が小さく見えました。知多半島から渥美半島、御前崎、野島崎、犬吠埼を通過していく様子が楽しめました。
今回の運賃は26700円。2泊できる客室利用と北海道への移動手段として考えると、決して高い設定ではありません。ニーズの高くなる夏場を中心に価格は時期によって異なります。

船内の様子をご紹介、ラウンジ、展望通路、大浴場など共用スペースが充実
船の下のデッキは車両甲板で、5デッキ~7デッキが乗客用のエリアとなります。
船内の配置は「きそ」を例にとってご紹介します。「いしかり」「きたかみ」では異なる部分もあるのでご注意ください。
5デッキはエントランスホール・案内所、ショップ、大浴場、ゲームコーナーなどがあります。

6デッキはステージを備えたラウンジ、軽食コーナー、レストラン、展望通路、自由に使えるソファ席多数があります。
7デッキはほとんどが客室で、甲板に出ることができます。

2泊3日だと船内で5食。ご飯の時間はとっても大切
17過ぎに搭乗、18時からレストランでの夕食が始まります。海が見える席を希望するなら早めに足を運びましょう。レストラン入り口の券売機でチケットを買います。船内はすべて現金しか使えません。現金を忘れないようにしましょう。

長時間乗船のため、夕食2回、朝食2回、昼食1回を船内でとることになります。お弁当やカップ麺を持ち込んでもいいですが、レストランは美味しいので、一度試してみることをおすすめします。
朝食と昼食は1200円、夕食は2300円でいずれもビュッフェ形式。ちょっと高いわ、という方は軽食コーナーなら500円~800円ほどでいただけるメニューがあるので、うまく使い分けましょう。
個人的には品数の多さや内容から夕食をレストランにして、あとは軽食でもいいかなと思いました。


夕食:ローストビーフ、鰹のタタキが主役で、ほかにも主菜、副菜がたくさん並びます。御当地メニューとして、仙台麩、チャンチャン焼きなども。仙台麩の玉子とじをご飯にのせると「仙台麩丼」を作れます。これが大当たりの美味しさでした、真似してもいいです。

朝食:和洋のメニューで一般的な日本のビジネスホテルのようなラインナップでした。卵かけご飯ができるのがうれしいです。

昼食:4種類のカレーを中心としたメニュー。カレーが得意ではない人は食べるものが限られてしまいます。ひれかつ、野菜の揚げ物、タンドリーチキンのようなカレーに合いそうなものが並んでいます。ナンをトースターで温めていただくこともできます。


苫小牧に到着→札幌へ向かう

苫小牧到着は3日目の午前11時、気温は18度、涼しいです。フェリーターミナルからはバスが出ていて11:30発・苫小牧駅行き、11:46発・札幌行きがありました。私は苫小牧駅に向かい、特急北斗に乗ることにしました。ターミナルにはタクシーも待機しています。

JR苫小牧駅。特急北斗はかなり席が埋まっていました。40分ほどで札幌です。快速エアポートに乗り継ぐ場合でも1時間ほど。お昼すぎに札幌に着ける、と考えておくのがよさそうです。
PC仕事にチャレンジ。ネットがつながらずやや苦戦
では、仕事をする環境としてはどうでしょうか。ネットはスマホのテザリングを使用しました。ネットに繋がる分には不便なことは何もありません。デスクは幅120センチ、奥行き45センチくらいで普段のデスクに近いサイズの方が多いです。むしろ自分のデスクとは違って散らかってません、ビジネスホテルでありがちな目の前が鏡で自分と対面し続けるような気まずさもなし。

ネットにつながりやすい時間帯がチャンスタイム
船は陸地から距離を取って進みますが、常にうっすらと陸が見えるくらいの距離です。まったくネットがつながらないわけではありません。初日、名古屋港を出て日が変わるくらいまではネットにつなげることができました。2日目は午後からは弱いものの、ネットにはつながっていて、16時の仙台到着時には普段と変わらない速度で使うことができました。19時半くらいまではちゃんとつながるのでチャンスタイムです。
船の中央にあり、厚い壁で囲まれたラウンジではほとんどアンテナが立たず、船内の場所によってもつながりやすさは変わってきそうです。

フェリーの揺れは気になる?仕事に集中できる?
船内では常に小刻みにカタカタ、コツコツとした揺れがあります。加えて、大きなうねりのようなユラッとした揺れがあります。これらが組み合わさった揺れは大型船特有のものです。歩くのが困難であったり、ペンが転がってしまう、といったことはありませんでした。季節と天候によりますが、酷い揺れは少ないと思います。心配な方は乗船前に酔い止めを飲んでおけば安心です。
仕事をするうえでは、揺れて困るということはありませんでした。作業スペースが広いこと、船内で移動して、気分転換できるため、鉄道よりも作業は圧倒的にしやすいです。
音に関しても気になる方は、気になるかなというレベル。耳栓やノイズキャンセリングのイヤホンなどで軽減できますから、持参するのもいいですね。食事やショー、下船のアナウンスがあるため、その点は注意しましょう。
乗船からどのように過ごせばいいのか
乗船してすぐにレストランへ、名古屋発では早々に見せ場
レストランでの夕食は混む前に済ませましょう。名古屋から出発の場合は出港後すぐに大きな見せ場があります。海に架かる名港西大橋をフェリーがくぐる様子は迫力があり、楽しめます。港の光景や工場夜景もしばらく眺められます。



船内散策、20時からはライブ
船内にどんなものがあるのか一通り見ていると時間は20時。ラウンジではライブショーが行われます。この日は大人向けのプログラムで年配の方はかなり盛り上がっていました。その後は21時半から映画を上映していました。
とこんなふうに過ごしていれば初日の夜は仕事なんてしてる暇はなさそう。積読になってる本を持ち込んで、読書と洒落込むのもよいですね。


日の出、日の入り、フェリーとのすれ違い
甲板からは360度のパノラマ。お天気がよければドラマチックな朝焼け、夕焼けに出会えます。2日目14時過ぎには太平洋フェリー「いしかり」号とのすれ違いも見られました。

仕事は2日目、ネットに繋がる間に準備をしておこう
2日目がまるまる船に缶詰となりますから、仕事のチャンスです。しかし、ネットにつながらない時間があるため、初日の夜や出発前に必要なデータを揃えておいたり、オフラインでも作業できるようにしておくのがいいでしょう。
名古屋発なら2日目夕方仙台でネットにつながりやすくなるため、ここでデータを同期させたり、メールやグループウェアの利用をすると安心です。事前に手続きしたら下船して近くのイオンモールやアウトレットで牛タンをいただく、というのも悪くないです。
さて、フェリーでの出張はありか、なしか。まとめていきましょう
フェリー出張のメリット・デメリット
結論から言えば、フェリーでの出張は『あり』です。
もちろん、状況にもよりますのでフェリー出張のメリット、デメリットを見ていきましょう。

◎メリット
・非日常体験:船旅は多くの人には日常から離れた、新鮮な体験の機会となります。こういった経験がビジネスにおいて、気づきや発見をもたらしてくれるのは、ビジネスパーソンの皆さんには経験のあることでしょう。
・設備が充実、ご飯も美味しい:バスや鉄道に比べるとパブリックスペースが圧倒的に大きく、自由度が高いのはフェリーの特徴です。大浴場やラウンジといった施設も無料で使えます。レストランも調理したものを提供するため、温かく、広い店内ではゆったり座って食事できます。客室はグレードによりますが、スイートならシティホテルのような体験が待っています。
・移動と宿泊を兼ねる:長距離フェリーは夜行のものが多く、到着すると午前の場合は無駄な時間が少なくなります。高速夜行バスでも同様ですが、ベッドでしっかり眠れることや、お風呂に入れるのはフェリーの強みです。
・鉄道では行けないルート:大阪→別府、舞鶴→小樽、東京→徳島→北九州といった鉄道では乗り継ぎが大変なルートがあるのも魅力です。片道をフェリーに置き換えるといった使い方も素敵です。
▲デメリット
・時間がかかる:30ノットの速力でも時速にすると55キロ程度。やはりフェリーは時間がかかるというイメージにつながりがちです。乗り場まで町の中心部から時間がかかるのも事実です。船内での過ごし方の工夫やターミナルに直通のバスを見つけて利用しましょう。
・船酔い:これは悩ましい問題です。慣れてもダメなものはダメという方もいます。酔い止めがかなり効果的です。乗船前に服用して備えれば効果が期待できます。酔ってからでは遅いのでお早めに。
・ネット環境:現代のビジネスシーンではネット環境が弱いのは厳しいですね。瀬戸内海航路など比較的ネットにつながりやすいものもあります。事前に実際に乗船された方のブログや動画で確認してみるとよいでしょう。オフライン作業できる環境を準備しておけばある程度対応できるものもあると思います。
私は時間がかかってもゆったりできる環境で出張先までの移動を楽しもうとする生粋の乗り物好きです。ですので、私の意見は参考にならないとしても、船旅がもたらすリラックスした雰囲気や充実した設備や食事の魅力は大きいと考えています。
出張先でも「フェリーで来たんですよ」とひとネタ仕込めますので、そのあたりも含めて『あり』判定です。

インセンティブトラベル、ワーケーションへの利用
船旅そのものは意味のあるものにしてみようという考え方はいかがでしょうか。
たとえば、インセンティブトラベルとしてちょっと豪華な部屋での旅の機会を提供したり、社員旅行でフェリーを選択するというものです。船には定員がありますから、繁忙期でも船内はゆったりと利用できます。夜行なら存分に飲んで楽しんでもいいですね。(船はお酒に酔いやすくなるのでそこは注意です)
鉄道や自動車だと渋滞や駅の混雑はどうしようもありません。船には船のよさがあるわけです。
仕事もできますのでワーケーションの入口にもなります。到着先でワーケーションするとしても移動時点からワーケーションが始まるという、ワーケーションマニア(?)にはたまらないことになります。普段と違う環境でワーケーションに臨みたいということであれば、フェリーを使った旅はまさにうってつけ。かく言う私も今、船内で記事を書いています。
定期夜行列車が「サンライズ」のみになった今の日本で、夜行列車の代わりに夜行旅を演出してくれるのが長距離フェリーだと勝手に思っています。ほかではできない経験をフェリーで体験する、その参考にしていただけるとうれしいです。
船内写真ギャラリー

ゲームコーナー。いわゆるビデオゲーム(業務用ゲーム)はありませんでした、寂しい

自販機コーナー。特別高い価格設定ではありません

大浴場。海を眺める展望風呂です

7デッキ甲板

フェリーターミナルの建物

橋をくぐった直後

内装は南国の雰囲気
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