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Asian Board Game Festival Philippines

【マニラ取材】アジアのボードゲームが集結「Asian Board Game Festival」フィリピン初開催|コミュニティ主導型イベントの可能性

アジア各地のボードゲーム文化を紹介する「Asian Board Game Festival(ABGF)」が、2026年5月2日〜3日にフィリピン・パシッグ市のBayanihan Center(バヤニハン・センター)で初めて開催されました。会場にはアジア各国から数千人規模のプレイヤー、パブリッシャー、デザイナーが集まり、インディー・テーブルトップゲーム文化が一堂に介する場となりました。

現地のCarl Joseph Mercado(カール・ジョセフ・メルカド)がお届けします。

※テーブルトップゲーム
テーブルなどの平面上でボードやカード、駒、ダイス(サイコロ)などを用いて遊ぶゲームの総称。日本では「テーブルゲーム、アナログゲーム」などを指します。

朝6時30分、すでに数百人の長蛇の列

フィリピン・パシッグ市(フィリピンの首都マニラ首都圏にある都市のひとつ)。
朝6時30分には、カピトリョ(Kapitolyo)地区にあるBayanihan Center(バヤニハン・センター)の外にすでに行列ができ始めていました。イベントの開場まで3時間半以上ありましたが、フィリピンのテーブルトップ・ゲームのコミュニティにとっては“遅れられない日”でした。

午前10時のオープンまでに数百人のプレイヤー、デザイナー、パブリッシャーが会場を埋め尽くしていました。会場内にすぐに熱気が広がり、エネルギッシュな空気感は、どこか“フィリピンらしさ”を感じさせるものでした。

Asian Board Game Festival Philippines
今回の会場、Bayanihan Center

7年かけて広がったムーブメント、世界で4カ国目となるフィリピン開催

単なるゲームイベントではない、歴史的な瞬間でした。2019年にシンガポールで誕生したAsian Board Game Festivalは、アジア発のテーブルトップ・ゲームを世界へ広げることを目的にスタートしたものです。今回、シンガポール、マレーシア、タイに続き、世界で4カ国目となる開催地としてフィリピンに上陸しました。

設立したのは、シンガポールのボードゲームパブリッシャー「Origame」を運営するDaryl Chow氏。MICE TIMES ONLINEの取材に応じたChow氏は、長年フィリピンのイベントへ参加するなかで感じた魅力について語りました。

「私は約4年間、フィリピンを訪れ、現地のイベントに参加してきました。ボードゲームへの関心が高まっていると感じています。フィリピンのクリエイターが自分たちの作品を披露できる場、地域のゲーム制作者同士が交流し学び合える場、そしてフィリピンの人々が実際に遊びながら新しくユニークなゲームを発見できる場は重要だと思っています」

Daryl Chow氏(ABGF創設者/Origame代表、シンガポール)

Chow氏は、フィリピンのプレイヤーを”東南アジアでも特に情熱的で好奇心旺盛なコミュニティのひとつ”と表現しました。プレイヤーたちは、積極的にデザイナーへ話しかけ、深く考えてきた質問を投げかけ、ゲームの背景にある“ものづくり”を本気で理解しようとしているといいます。それこそがABGFが支援したいと考えてきたコミュニティの姿だと語りました。

開会挨拶を行うLudus DistributorsのFreddie Tan氏。フィリピン卓上ゲームコミュニティにとって歴史的な節目となりました

フィリピンでの開催は、Origameと、フィリピンを代表する卓上ホビーゲーム流通会社「Ludus Distributors(ルダス・ディストリビューターズ)」による共同開催です。Ludus Distributorsを率いるFreddie Tan氏は、ABGFをフィリピンへ招致するまでの経緯について語りました。まだ十分に実績が証明されていなかったコミュニティを信じながら、忍耐強く説得を重ねていくプロセスでした。

「フィリピンがABGFの拡大にふさわしい場所だと、シンガポールの主催者たちに納得してもらうまでには時間がかかりました。しかし、コミュニティからの反応は非常に前向きで、私たちの期待を上回るものでした」

Freddie Tan氏(Ludus Distributors/Larong Atin)

Tan氏によると大きな課題は、フィリピンの来場者がアジア発・フィリピン発のゲームをどこまで受け入れるか分からなかった点でした。フィリピン市場は、長年の植民地時代の影響もあり、歴史的に欧米製コンテンツへ関心が向きやすい傾向がありました。そのため「国際的な人気タイトルと同じ熱量で、アジアやフィリピン発のゲームを受け入れてもらえるかが未知数だった」と説明しました。

その答えは、5月2日の朝、日の出前から通り沿いに伸びていた行列にすでに表れていました。


アジア発のゲームを体験する多くの来場者で賑わう展示フロア
アジア発のゲームを体験する多くの来場者で賑わう展示フロア

展示フロア:10カ国・200タイトル・ひとつのコミュニティ

展示フロアには、アジア各国のクリエイティビティが集まっていました。フィリピン、シンガポール、マレーシア、日本、韓国、インドネシア、タイ、台湾、ベトナム、中国の10カ国から、パブリッシャーやデザイナーが出展。200タイトル以上のゲームを紹介しました。ピーク時には常時300〜500人ほどの来場者が会場を行き交い、会話や笑い声、テーブルにサイコロが転がる音が会場内に響いていました。

イベントには15〜20組ほどの海外出展者と、30組以上のフィリピンクリエイターが参加。この比率についてTan氏は「意図的なものだった」と説明しています。ABGFはインディー重視のイベントとして設計されており、多くの大型ゲームイベントを席巻する欧米大手パブリッシャーではなく、小規模パブリッシャーや個人デザイナーを優先しています。

「アジアやフィリピンのデザイナーたちも同じように才能があります。彼らは自分たちの文化や市場を理解しています。そして地域文化に根ざしたゲームを生み出すことができます。今後さらに世界中のプレイヤーに響いていくと思います」

Freddie Tan氏

Chow氏も、この考えに共感を示しました。

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Origameのゲームラインナップ

Origameは、中国古典に登場する108人のキャラクターを題材にしたアジアテーマのゲーム「108 Outlaws」や、駐車場で車両を配置していく戦略パズルゲームなど、複数タイトルを出展。いずれのゲームも終日安定した人気を集め、プレイを終えたあとも多くの来場者がブースに留まり続けていました。


フィリピン人デザイナーたちが主役に

特に大きな意味があったのは、フィリピン人ゲームデザイナーたちにとっての存在意義でした。フィリピンのゲームデザインコミュニティは、長年にわたり静かに成長を続けてきました。しかし、その多くは国際テーブルトップ・ゲーム界のスポットライトの外側にありました。

Megalodon Games:フィリピンの定番デザート「Halo-Halo」をテーマにしたカードゲーム

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「Halo-Halo」を紹介するMegalodon GamesのRuiz氏とMarek氏。その名の由来となったフィリピンの定番デザートと同じように、フィリピンらしさにあふれた作品となっています

約15分で遊べる軽快な作品です。テーブル中央から具材カードを選び、自分のグラスへ加えながら組み合わせによって得点を競います。ユーモラスでテンポが良い。カードには防水加工が施されており、フィリピンの暑い夏や、屋外での集まりにも対応できる仕様です。

「家族でハロハロを食べるような感覚のゲームを作りたかったんです。みんなで楽しめて、少しカオスで、コミュニティ感がある。8人まで遊べるのも、フィリピン人が“みんな一緒に食べる文化”だからです」

Ruiz氏(Megalodon Games)

Fiction Mind Games:フィリピン民話をテーマにしたカードゲーム「Lagim」

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「Lagim」を通じてフィリピン民話を紹介するFiction Mind Games

2〜6人向けの卓上カードゲームで「Magic: The Gathering」や「Pokémon」のような一般的なカードゲームとは異なり、タロットカードを思わせるデザインを採用しています。「Lagim」に登場するカードには、フィリピン民話に登場するキャラクターが描かれており、それぞれの能力やスキルも元となった物語に基づいて設定されています。2020年のハロウィン時期にポートフォリオ作品として制作が始まり、その後「Comic Con Abu Dhabi」をはじめとするイベントでも展示されてきました。

「若い世代から大人まで、ゲームを通じてフィリピン民話に触れてほしいと思っています。すべてのカードがリサーチの積み重ねであり、すべてのスキルには元となる物語があります」

Norbert氏(Fiction Mind Games)

Carabao Chronicles:フィリピンの文化や価値観に深く根ざしたゲーム

Carabao ChroniclesのCara Funa氏。フィリピンの物語文化を作品として表現しています

「Twice Upon the Dream Life」を展示。「フィリピンの文化や価値観に深く根ざしたゲーム」と説明。国内外双方のプレイヤーへ向けて設計されたタイトルだといいます。制作者たちは、ゲームを通じてフィリピン文化を世界へ発信できることへの誇りについて語っていました。


Titus Villanueva:フィリピン発のソーシャルディダクションRPG

「One of Us Will Die」を手がけるTitus Villanueva氏。フィリピン発のTTRPGを世界へ向けて展開しています

イベント全体の中でも特に“今このタイミング”を象徴する存在となっていたのが、Titus Villanueva氏による「One of Us Will Die」でした。フィリピン発のソーシャルディダクションRPGで、取材時点では国際Kickstarterキャンペーンの真っ最中。イベント開催時点で終了まで約2週間を切っていました。

「支援者の多くはアメリカからです。次に多いのがフィリピン。もっとアジアからの支援者にも参加してほしいと思っています。だから、このイベントに参加する意味があるんです。フィリピンのコミュニティだけでなく、世界へ向けてこのゲームを届けたいと思っています」

Titus Villanueva氏(One of Us Will Die)
※ソーシャルディダクション(Social Deduction)RPG
プレイヤーの中に隠れた裏切り者(または敵)を見つけ出す「人狼ゲーム」のような推理要素(ソーシャルディダクション)と、自分のキャラクターを演じる「テーブルトークRPG(TRPG)」の物語性や成長要素を掛け合わせたゲームジャンル

ABGF Philippinesに見る日本との架け橋

日本のパブリッシャーたちの存在感も欠かせません。同時に、参加予定でありながら実現できなかった企業の存在も印象的でした。

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Jelly Jelly GamesのJacek Mackiewicz氏。日本のインディー・テーブルトップ・ゲームをマニラに紹介しました

日本のインディーボードゲームパブリッシャー「Jelly Jelly Games」が出展していました。「Bahamut Dispute in Charge」や「Spark」といった2人用の戦略ゲームから「Munch Mime」、そして指の間に棒を挟んで遊ぶ世界的ヒット作「Yubibo」まで、幅広いタイトルを持ち込みました。

ボードゲームは、ビジネスであると同時に文化交流でもあります。地域やデザイナーごとに異なる感性やアプローチがあります。より多くのアジア発デザインが参入し、同じ課題に対して、新しい解決方法を示してくれることを楽しみにしています」

Jacek Mackiewicz氏(Jelly Jelly Games)

Mackiewicz氏は、海外展開を目指す日本のインディーパブリッシャーが直面している課題についても、率直に語りました。言語の壁や、日本のボードゲーム業界が歴史的に海外市場へ積極的に目を向けてこなかった点を挙げています。

「多くの日本のパブリッシャーは、英語をあまり話しません。また、日本のボードゲーム業界は海外イベントへ出る機会が多くありません。だからこそ、他の日本企業にも国際イベントへ参加し、世界の来場者を実際に見てほしいと思っています。日本の外にも市場があることを知ってほしいのです」

Jacek Mackiewicz氏

ビジネス面についてMackiewicz氏は、東南アジアを今後成長が期待される市場だと位置づけました。これは「日本のゲームを海外へ届けること」と、「海外のゲームを日本へ紹介すること」を通じて、世界中へ笑顔を届けるというJelly Jelly Gamesの企業理念に通ずるものです。
5月後半に開催される「All aBOARD Expo」への参加のため、再びフィリピンを訪れる予定です。同社は年内に開催される「Spiel Essen」に向けて、新作ゲーム2タイトルの準備も進行中。“壮大な宇宙冒険”と表現される、大規模な国際クラウドファンディングプロジェクトも含まれています。

なお、ABGFには、他にも複数の日本のパブリッシャーが出展予定でしたが、体調不良により参加できませんでした。会場では、その不在を惜しむ声も聞かれました。一方で、出展予定があったという事実そのものが、日本企業によるフィリピン市場への関心の高まりを示しています。フィリピンのテーブルトップ・ゲームイベントにおいて、日本企業の参加や関わりが、今後さらに広がるきっかけになりそうです。


Cili Padi Games:東南アジアの存在感を感じる、マレーシアとインディースピリット

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Cili Padi GamesのHiew Chok Sien氏。後ろでは、来場者たちが「Pinocchio」を初体験

マレーシアのインディーパブリッシャー「Cili Padi Games」は「Pinocchio」を出展。3〜7人向けの小型カードゲームで、ブラフと推理による駆け引きを軸にした内容です。カードを1枚引き、その内容を本当または嘘で宣言。場に出た全員のカード合計値が21を超えているかどうかを見極めながらゲームを進めます。

ゲームタイトルの由来となっている「Cili Padi」は、小粒ながら非常に辛いことで知られるマレーシアの唐辛子の名前です。小さなゲームながら強いインパクトを持つ作品であることを表現したネーミングだといいます。

「出展者・来場者ともに非常に多く、嬉しい驚きがありました。私は新しい市場で自分のゲームを紹介するために来ましたが、フィリピンには、まさに私が期待していたようなオープンさと好奇心がありました」

Hiew Chok Sien氏(Cili Padi Games)

Hiew氏は、日本のゲームデザインへの敬意についても語りました。特に「Love Letter」から大きな影響を受けたといい、小箱ゲームに対する自身のアプローチにもつながっていると説明しました。将来的には自身のゲームを日本へ展開したい考えも示しました。現在は、『西遊記』を題材にしたカードゲーム「Pilgrim Poker」の開発を進めています。アジアの古典物語をベースにしながら、親しみやすく文化的な魅力を持つゲームを作ることが目標だといいます。


MICEの視点で見る「ABGF」とフィリピンの展示会業界への可能性

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ABGFプレイ・パスポート。スタンプを集めながら景品を獲得し、ゲームを通じてアジア各国の作品を体験できる企画

MICE業界の視点から見ると、ABGF Philippines 2026は、コミュニティ主導型イベントのあり方を示す興味深い事例でした。イベントは入場無料インディー重視の方針を明確に打ち出し“販売”よりも“参加体験”を重視した構成となっていました。にもかかわらず、イベントは大きな経済効果や文化的な広がり、さらには国際的な注目を集めていました。

小規模パブリッシャーや個人デザイナーでも参加しやすいよう、ブース料金は意図的に低く設定されていました。結果、初年度のイベントは黒字化には至らず、マーケティング費用や物流コストが収益を上回ったといいます。

「今年は“実証”の年だと考えています。ここには、投資をする価値のある情熱的で成長中のコミュニティがあることを、スポンサー企業に示したいのです。私たちはスポンサー候補企業に向けて呼びかけています。取り組みを支援し、毎年継続できる持続可能なイベントにしてほしいと考えています」

主催者 Freddie Tan氏

このスポンサー支援への呼びかけは、フィリピンのMICE業界全体にとっても重要な意味を持っています。フィリピンでは、年間MICE収益を9,500万米ドルから2030年までに4億2,000万米ドルへ拡大する目標を掲げています。ABGFのようなコミュニティ主導型イベントは、地域からの高い関心や国際的な参加実績を示す事例になります。企業スポンサーや投資を呼び込むきっかけになる可能性があります。

Asian Board Game Festival Philippines

パシッグ市 カピトリョ地区のBayanihan Centerが会場に選ばれたことにも意味がありました。同施設はマニラ首都圏からアクセスしやすい立地にあり、カピトリョ地区は近年、マニラでも特に活気あるクリエイティブエリアとして注目されています。マニラの会場インフラが発展を続けるなか、ABGFのようなイベントは、ゲーム分野への需要が確実に存在し、拡大していることを示していました。

Editor’s Note:今必要なのはフィリピンと日本をつなぐ橋

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私が最も印象を受けたのは、イベントの規模そのものではありません。もちろん来場者数も非常に多く、会場は大きな賑わいを見せていました。それ以上に印象的だったのは、会場内で交わされていた”会話の質”。商談や取引ではなく、同じものを愛する人たちが集まり、その熱量を共有できる場所を求めて出会っていたのです。

日本の読者へ向けて強調したいのは、ABGF Philippines 2026が示した大きな可能性です。フィリピンのテーブルトップ・ゲームコミュニティは、日本のパブリッシャー・デザイナー・イベントとの深い交流を求めています。関心も、熱量も、そして受け入れる環境も整いつつあります。必要なのは双方をつなぐ“橋”です。ABGFのようなイベントや、今回のような取材活動も、橋を築く一部になっているのだと感じました。ABGFは、来年もフィリピンへ戻ってくるかもしれません。その頃には、会場前の行列はさらに早い時間からできているのではないでしょうか。

写真、文章:Carl Joseph Mercado(カール・ジョセフ・メルカド)

日本の大型テーブルゲームイベントBGBEの取材記事もあわせてご覧ください

https://micetimes.jp/close-up-bgbe-02/
https://micetimes.jp/report-board-game-business-expo-2026/

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