【寄稿】大阪IRと大阪ベイエリアのMICEの未来を”マカオ”から考える(G2E Asia 2026現地レポート)
2030年、大阪ベイエリアの夢洲(ゆめしま)では、日本初となる統合型カジノリゾート(以下:IR)の開業が予定されています。夢洲に近接する唯一のDMO「大阪ベイエリアMICE」では、新たな産業との連携を見据え、先行するアジア各国のIR施設の情報収集や、ビジネスリーダーとのネットワーク構築を進めています。地域の企業や関係者と直接対話し、情報や知見を地域へ還元していくことも、大阪ベイエリアMICEの重要な役割の一つです。
マカオで開催された「G2E Asia 2026」の視察は、IRを知るうえで外すことのできない国際展示会です。単にカジノ産業を知るための展示会ではありません。アジアにおけるIR産業の現在地と、大阪ベイエリアの未来を重ね合わせながら考える貴重な機会となりました。本記事では視察を通じて、大阪ベイエリアの将来像について考察します。
※「大阪ベイエリアMICE」に属するグランドプリンスホテル大阪ベイの井上雄二氏による寄稿記事です。

G2E Asia 2026とは?アジアを代表するIR・カジノ産業展示会

「G2E(ジーツーイー/Global Gaming Expo)」は、世界最大級のゲーミング・カジノ・IR産業向け国際展示会・カンファレンスです。アメリカの業界団体 American Gaming Association(AGA)と、展示会運営会社 RXが運営しています。
そのアジア版である「G2E Asia 2026」が、2026年5月12日(火)~14日(木)まで、マカオのベネチアン・マカオで開催。スロットメーカー、カジノ関連サービス、周辺商材などの展示や商談会が行われました。
まだ日本には存在していないIR産業を支える製造メーカー、デジタル技術、周辺サービス事業者に出会えます。また、毎日多数のカジノリゾート産業の最新動向が紹介されるセミナー・カンファレンスを実施。アジア各国から多くのIR・MICE関係者が集まります。
IRについて:https://micetimes.jp/mice-20-ir/
マカオ・コタイ地区の巨大IR「ザ・ベネチアン・マカオ」で開催

会場である「ザ・ベネチアン・マカオ」は2007年に開業したマカオ・コタイ地区にあるアジアを代表する巨大IRです。到着した時点では開場前にもかかわらず、多くの来場者が開始を待っていました。展示会エリアのみの入場は事前登録で無料。カンファレンスへの参加は有料パスが必要となります。

G2E Asia 2026 参加料金
カンファレンスパスでは「G2E Asia Conference」と「Asian IR Summitプログラム」への参加に加え、ランチやネットワーキングなどの機会も含まれています。単なる聴講だけでなく、業界関係者との交流の場としても設計されているようです。次回参加する際にはカンファレンスパスを取得し、より深く業界動向を学び、ネットワークも構築したいと思いました。ちなみに当日購入も可。
| パス種別 | 事前登録料金 (2026年5月11日まで) | 当日登録料金 (2026年5月12日〜14日) |
|---|---|---|
| 3日間パス | US$836 | US$880 |
| 2日間パス | US$599 | US$630 |
| 1日パス | US$428 | US$450 |
カジノ機器展示会からIR産業展示会に変わろうとしているのでは
会場となったのは、ザ・ベネチアン・マカオ内のCotai Expo Hall A〜C。展示面積は約30,000㎡に及びます。初めて訪れた私にとっては十分すぎるほど広大で、会場を歩くだけでもアジアのゲーミング・IR産業の広がりを実感できました。
一方で、G2E Asiaはかつてより規模を縮小しています。新型コロナ禍以前には、Cotai Expoの70,000㎡を超える展示フロアに約200社が出展し、16,000名を超える業界関係者が来場していました。背景には、オンラインゲーミング市場の成長が考えられます。従来のランドベース型カジノ機器を中心とした展示会の役割が変化しつつある可能性があります。

マカオでは2023年からゲーミングテーブル6,000台、ゲーミングマシン12,000台という上限が設定されました。マカオ市場における新規ゲーミング機器の導入余地を限定する要因の一つであり、カジノ機器メーカーにとっては、新規機器導入による市場拡大が以前ほど期待できなくなっている側面もありそうです。
その一方で、マカオ政府がMICE、エンターテインメント、スポーツ、文化、観光などの非ゲーミング分野の強化を進めています。G2E Asiaもまた、従来のカジノ機器展示会からカンファレンス色を強化し、AI・デジタル技術、スポーツイベント、エンターテインメント、ツーリズムマーケティングを含むIR関連イベントへと変化させているのかもしれません。

ザ・ギャラクシー・マカオで開催されるUFC Fight Nightの広告。マカオのIR事業者は、従来のゲーミング収益に加え、スポーツイベントやコンサート、MICEなどの非ゲーミングコンテンツを拡充して、収益ポートフォリオを多角化しています。
日本にはまだないプレイヤーたちと出会えた
日本ではあまり知られていないものの、世界のカジノ・IR産業では圧倒的な存在感をもつ企業が数多く出展していました。いくつか紹介します。
Aristocrat Gaming(アリストクラット・ゲーミング):世界中のIR施設で採用されるゲーミングメーカー
オーストラリアを代表するゲーミングメーカーです。世界中のカジノ・IR施設向けにスロットマシンやゲーミングマシンを提供するだけでなく、カジノ管理システム(Casino Management System)を提供しています。今回は大型スロットマシンや最新ゲームを展示しており、特に「5Dragons」シリーズなど、中国文化圏を意識した演出が印象的でした。

Light & Wonder(ライト・アンド・ワンダー):スロットからデータ分析まで手がける総合ゲーミング企業
本社はアメリカ・ネバダ州ラスベガス。アジア市場への注力をしており、マカオ・シンガポール・フィリピン市場で存在感を強めています。スロットマシン、電子ルーレット、ジャックポット演出、会員管理、キャッシュレス、データ分析まで含めたカジノ運営サービスを供しています。

IGT(アイジーティー:インターナショナル・ゲーム・テクノロジー):世界90以上の宝くじ運営団体と提携する企業
世界最大規模のゲーミンググローバル企業です。世界100か国以上で事業を展開し、従業員も1万人を超えます。スロットマシンやシステムでも有名ですが、ビジネスの最大の柱は「宝くじ(Lottery)システム」の分野。世界中の約90に及ぶ政府系・民間の公式宝くじ運営団体と長期的なパートナーシップを締結しています。つまり世界中の政府から国家財源の管理を委託されている『超巨大な社会インフラテック企業』であるということ。日本でいう、国家インフラを陰で支えるNECや日立の『宝くじ・ゲーミング版』のような立ち位置ですね。ロトや電子宝くじにおいて世界の宝くじ経済を支えるほどのシェアがあります。

TransAct(トランスアクト):カジノの信頼性を守る印刷機器
カジノ運営を支える「カジノ機器サプライヤー」が多く出展している点に面白さがあります。一見、「この機器がカジノ産業とどう関係しているのだろう?」と思うような製品が非常に重要な役割を担っています。安定した運営品質やセキュリティを根底から支えているのは、見えないインフラ専門技術です。
その代表例は、米国企業のTransAct Technologies(トランスアクト・テクノロジーズ)。彼らはカジノ運営に欠かせない「TITO(ティートー)」の仕組みを支える、高性能な印刷機器を提供しています。TITOチケット=お金。バーコード不良、印字かすれ、紙詰まり、重複発行、読み取りエラーは機械トラブルではなく、「監査問題」「不正疑義」「会計差異」につながる重大なオペレーションリスクに。だから、厳格な認証機関の基準をクリアした製品だけが採用されており、同社もカジノ業界では代表的な企業の1社として知られています。

JCM Global(ジェイシーエム):培ってきた日本の技術を活かして展開
一見すると海外企業のようですが、実は本社は大阪にある「日本金銭機械(Japan Cash Machine)」です。世界中のカジノ向け紙幣識別機やコインカウンターの分野で高いシェアを誇ります。日本では偽札識別精度や紙幣搬送技術、機器の耐久性、現金管理に非常に高いレベルを要求されます。アミューズメント関連機器とも、この技術は相性が良いのです。同社はもともと自動販売機や紙幣処理、現金認識の技術を培っており、そうした「日本の高精度な現金処理技術」を世界のカジノ市場へ展開してきました。現在はネバダ州、ニュージャージー州、シンガポール、マカオ、フィリピン、オーストラリアなど、世界各地の規制当局から信頼を獲得しています。2030年開業予定の大阪IRでも採用されれば、”大阪の企業”が”大阪IRの裏側を支える”という興味深いストーリーが生まれます。

Mega Fortris(メガ・フォートリス):改ざんを防ぐためのインフラ企業
セキュリティシール、封印管理システムを提供するMega FortrisがなぜG2Eに出展しているのでしょうか。それは改ざんを防ぐためのインフラ企業だからです。例えばカジノで人気のゲームに「バカラ」があります。使用前・使用中・使用済みカードを厳密に管理します。カードのすり替え、マーキング、偽カード混入が発生すると、カジノ側が巨額の損失を被る可能性があるためです。
Mega Fortrisが提供するシンプルなプラスチッククリップが、物理的な開封防止とデジタルによる個体識別を組み合わせることで、プレイカードの健全性を担保する仕組みとなっています。
Mega Fortrisはマレーシア発のグローバル企業でマレーシア本社のほか、海外11か国に営業・運営拠点を展開しており、物流、銀行、航空だけでなく、石油・ガス、医療・製薬など、高度なセキュリティ(開封防止)が求められる分野を網羅しています。特に「プレイングカード(トランプ)の管理」に特化したソリューションは、同社の成長戦略の大きな柱となっています。

海外サプライヤーは大阪IRをどう見ているのか
大阪IRについての印象を、参加者から聞くことができました。
カジノ機器やシステムのサプライヤーの選定は、一般的に開業の1〜2年前に具体化していくと言われています。2030年秋頃の開業を予定している大阪IRについても、現時点ではまだ各社が動向を見極めている段階という印象でした。長年にわたり計画の延期や調整を重ねてきた経緯もあり、海外サプライヤーの間では、期待感と同時に慎重な空気も感じられました。

興味深かったのは、ターゲットについての意見です。開業直後の来訪者は海外インバウンドよりも、国内需要が中心になるのではないかと見る人もいました。その根拠として挙げられていたのが、韓国の江原ランドの事例です。江原ランドは韓国で唯一、韓国人が入場できるカジノです。当時を知るサプライヤーは「地方から観光バスで多くの人が訪れていた光景が印象的だった」と振り返ります。
もちろん大阪IRと江原ランドは、立地も性格も異なります。関西国際空港、夢洲、MICE施設、ホテル、エンターテインメント、都市観光と連動する国際都市型のIRとして計画されています。実際、大阪府・大阪市の計画では、年間約2,000万人の来訪者のうち、国内約1,400万人、国外約600万人を想定。国内7割・国外3割という見込みになっています。
それでも、日本初という話題性や希少性から、開業から1〜2年は国内からの来訪が大きな比重を占めるのではないか。そして本当の実力が問われるのは話題性が落ち着いた3年目以降ではないか――。そうした関係者の見方は非常に現実的に感じられました。

何もなかった埋立地がアジア有数のIR都市になった
G2E Asia 2026の参加を通じて印象に残ったのは、現地で出会った関係者の言葉でした。
現地関係者は「現在のマカオ・コタイ地区は、何もない埋立地からスタートしました。15年ほど前までは認知度も低く、世界中の人々が積極的に訪れる場所というイメージはありませんでした。しかし現在では、NBAの試合や世界的なスーパースターのライブが開催される、アジア有数のIR・MICE・エンターテインメントエリアへと大きく成長しています」と語りました。
大阪・夢洲もまた、IRを起点に大きく変化する可能性が十分にあると感じています。大阪IRの開業は2030年秋頃の予定。重要なのは開業直後の話題性だけではなく、その後にどのようなMICE需要や観光需要、ビジネス交流、都市開発を生み出していけるか。大阪ベイエリアMICEとしても、その変化をただ待つのではなく、地域全体の可能性を広げる一員として関わっていきたいと考えています。

筆者:グランドプリンスホテル大阪ベイ 井上雄二さん

大学ではアラビア語を専攻し、エジプトとチュニジアへの留学経験あり。
大阪ベイエリアMICE
https://osakamice.jp/
グランドプリンスホテル大阪ベイ
https://www.princehotels.co.jp/osakabay/



