【取材】開幕直前の京都モダン建築祭・藤井事務局長が語る、まちの建築を主役にしたイベントが広がった5年間
京都のまちを歩き、気になっていた建物へ。2026年10月31日から11月8日までの9日間、第5回となる「京都モダン建築祭」が開催されます。今年は、過去最多となる約150件の建築が参加します。
今回は、京都モダン建築祭実行委員会事務局で事務局長を務める藤井容子氏に、企画や運営の舞台裏を伺いました。訪れる前に読めば、当日の楽しみが増えるかもしれません。すでに参加した方も、「あの体験には、そんな思いがあったのか」と振り返りながら読んでみてください。

2026年京都モダン建築祭は、過去最高の約150件が参加
京都モダン建築祭は、2022年に文化庁の京都移転記念事業として始まった、建築の一斉公開プロジェクトです。京都市内に残る明治以降のモダン建築を「生きた文化財」として捉え、未来へ受け継ぐ仕組みづくりを目指しています。
2026年は、10月31日から11月8日までの9日間開催されます。対象は、北山・松ヶ崎、西陣、御所周辺、岡崎、東山、京都駅・七条など、市内の計13エリアです。
参加する建築は、過去最多の約150件。このうち61件は、パスポートを使って事前予約なしで見学できます。気になる建築を選び、京都のまちを歩きながら巡ることができます。
事務局長を務める藤井容子氏の背景
京都モダン建築祭実行委員会事務局で事務局長(統括責任者)を務める藤井容子氏。まち歩きツアーを主宰する「まいまい京都」の事務局メンバーとして活動しながら、「京都岡崎魅力づくり推進協議会」のコラボレーターとして、企画や編集にも携わってきました。
執筆された、明治28年の第四回内国勧業博覧会から始まる岡崎の成立と「ハレの場(都市の広場)」としての変遷を考察した論考『特集 博覧会が生み出すもの ハレの場・岡崎の成立』は面白いのでぜひ読んでほしいです。特にMICEの勉強にもなります。https://www.ameet.jp/feature/6141

5年目を迎えた建築祭への手応えと変化
きっかけは京都市京セラ美術館の「モダン建築の京都」展
立ち上げから5年目を迎えた京都モダン建築祭。始まりの経緯と、回を重ねて感じている手応えを伺いました。
藤井氏
「きっかけは、2021年に京都市京セラ美術館で開催された『モダン建築の京都』展でした。当時、この特別展を企画された前田尚武さんや、アドバイザーの笠原一人先生、倉方俊輔先生と、まいまい京都代表の以倉さんが、展覧会の公式オンラインサロンとまち歩きを組み合わせた取り組みを行いました。年に一度、京都の名建築が一斉に扉を開くイベントをつくれないか、という話が持ち上がりました。行政をはじめ、さまざまな関係者と進めていくために実行委員会をつくり、京都市にも共催に入っていただいてスタートしました」

マニアックな趣味から可愛い・楽しい建築
実行委員会のひとりで、合同会社まいまいの代表の以倉敬之氏も加わり、この5年間で感じた参加者や、社会の変化について話してくれました。
以倉氏
「建築を楽しむことが、身近になったと感じています。かつては、建設業界の関係者など男性を中心に、マニアックな趣味という方が目立ちました。今ではむしろ女性のほうが多く、ディテールの装飾や素材の手ざわり、空間の居心地など多様な楽しみ方が増えてきました。
建築祭という名前を大々的に使ったのは、『京都モダン建築祭』が最初だったと思います。その後、神戸建築祭、東京建築祭と続き、全国各地でも建築祭が立ち上がっていきました。音楽祭や芸術祭のように、建築を巡るイベントも一般的に楽しめるものだと、世の中に広まっていったように思います」

新しく持ち込まず、既存の資源を活かす
建築そのものを楽しんでもらうための工夫
京都モダン建築祭の主役は、まちにすでにある「建築」です。建物の意匠や、そこに積み重なってきた歴史、人々の営みを、訪れた人にどう感じてもらうのでしょうか。
以倉氏「これまでは素敵な建築があっても、アート作品の展示やコンサートの開催などをしなければ、イベントとして成立しないのではないかという思い込みがあったと思います。でも実はそんなことはなくて、建築は文化的な営みが積み重なってできたものであって、それだけで面白いのです。建築祭は、ありのままの建築を体験して楽しむことが基本です。そのための工夫として、オーディオガイドや、『建築ナビゲーター』という案内役を配置したりしています」
建築を「見る」から、その場で過ごす時間を楽しむ体験へ
回を重ねる中で、建築の楽しみ方を提案するプログラムも増えていきました。

藤井氏
「1年目は、まず建築を『見る』対象として公開することから始まりました。そこから、『建築の中にいる時間を、いかに豊かに感じてもらうか』を考えて、内容を深めてきました。
2023年には、京都市京セラ美術館内の中央ホールにテントを張り、宿泊するプログラム『モダン建築に泊まろう』を実施しました。2024年からは、鑑賞で会話を通じて感じたことを話し合い、見方を深めていく親子向け『対話型建築鑑賞』が始まっています。2025年には、武徳殿(京都市武道センター)などを舞台に、アカペラライブ『エコー遺産』を開催。600人が集まり、声の響きを通して建築を感じる時間を過ごしました」

面白いのは、歌を聴くこと自体が目的というより、歌の響きやその変化を通して建築を感じようとするプログラムである点です。目で見るだけでは気づかなかった建物の特徴に、耳を澄ませることで出会えます。企画の中心にはいつも建築があります。

5周年の「東山大茶会」はお茶を通して建築を感じる
2026年の建築祭全体の運営テーマは「建築の密度を高める」です。特別イベント「東山大茶会」を展開します。お茶を味わいながら、その建築の中で過ごす時間を楽しむ試みです。宿泊、対話、歌、茶会。さまざまな体験を入口に、建築の魅力に触れる機会をつくっています。

建物の所有者と考える、無理なく公開できる方法
参加する約150件の建築のうち、61件はパスポートで、残りの90件はガイドツアーや連携企画などを通じて訪れることができます。建物の所有者や管理者との調整は、どのようにしているのでしょうか。
藤井氏
「私たちが『何かしたい』と考えるよりも先に、所有者さん自身にそうした思いがあると感じます。東山の結婚式場『パビリオンコート』さんも、建物をもっといろいろな形で活用したいと考えていらっしゃいました。ただ、土日は結婚式があるため、週末のパスポート公開は難しく、まずはガイドツアーから始めました。今年は祝日がちょうど重なり、先方から『この日は1日公開してもいいですよ』とお話をいただいたんです。何かこれまでなかった新しい取り組みに一緒に挑戦しましょうか、ということになりました」

まちにある建築を、使いながら未来へつなぐ。京都モダン建築祭の運営から学ぶこと
京都モダン建築祭の取り組みには、地域の建物や文化を生かしたイベントづくりのヒントがあります。出発点となるのは、まちにある建築や、そこで続いてきた人々の営みに目を向けることです。普段は通り過ぎている建物にも、足を止めて訪ねたくなる魅力があるかもしれません。
2026年の京都モダン建築祭は、10月31日に始まります。建物の美しさや歴史はもちろん、扉をひらく所有者の思いや、体験をつくる人たちの工夫にも目を向けてみてください。まちにあるものを生かして人を迎える、その具体的な方法に出会えるはずです。



