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【取材】香川の離島で生まれたケモノ着ぐるみイベント「獣ヶ島」から地域が得た5つの発見。誘致だけがMICEではない。地域にイベントを“呼ぶ”から“生み出す”

第5回 獣ヶ島 集合写真

国際会議や大型の展示会の誘致に注力している、というのが地域MICEでよくあるシーンです。しかし、香川県・女木島で開催される「獣ヶ島(けもがしま)」は、逆のアプローチで発展してきたイベントです。ケモノ着ぐるみ文化を軸としたファンの集まり? いいえ、”コミュニティ主導型”のMICEの成功モデルと捉えられます。

本記事では、主催者・参加者・スタッフの声をもとに、”地域発のイベントをつくること”が、どのように人の流れを生み、関係人口を育て、島の活性化につながっているのかを紐解いていきます。

※2026年4月取材

目次

モフモフたちが離島に大集合!美しいビーチで開かれるケモノイベント「獣ヶ島」

離島・女木島で2019年に生まれて地域に根付いてきた

「獣ヶ島(けもがしま)」はケモノ着ぐるみ文化を軸としたイベントです。女木島(めぎじま)の美しいビーチをモフモフのケモノたちに開放する一風変わったケモノイベントをコンセプトに始まりました。野外や島内施設を自由に散策しながら写真撮影を楽しめ、非日常感のあるロケーションが参加者を惹きつけています。瀬戸内の離島という立地にもかかわらず、県内外はもちろん海外からも参加者が集まり、島に新たな賑わいを生み出してきました。参加希望者が殺到し、抽選システムが導入されるほどの人気イベントとなっています。

イベントは、2019年に7名の参加者からスタート。コロナ禍による中止を挟みながらも、毎年11~12月に継続開催され、規模を拡大していきました。2025年には第5回を迎え、地域に根付いています。

獣ヶ島 5 to the ADVENTURE
・開催日2025年11月22日~24日(2泊3日)
・参加者数:167名(うち島内宿泊78名)
・参加地域:香川県内、徳島・岡山・関西エリア。関東、沖縄、北海道、オランダ、韓国など、遠方からの参加者もいます
・リピート率:半数以上
・スタッフ:7名
・公式Webサイト:https://www.kemogashima.com/

世界各地でコンベンションが開かれるケモノ界隈・ファンダム文化

いわゆる“ケモノ界隈”と呼ばれるファンダム文化を背景にもちます。欧米で発展したファーリー・ファンダム(Furry Fandom)と呼ばれる、擬人化された動物キャラクターを愛好するサブカルチャーのひとつです。世界各地で大規模なコンベンションが数多く開催されており、日本でも「Japan Meeting of Furries」(JMoF)が2,000~3,000名規模で行われています。


1.主催者インタビュー:誘致しなくても人は集められる。受身ではなく“個人の熱”から始まった地域発イベント

「獣ヶ島」の主催者である たけふじ狐さん。神社とキツネを融合させたキャラクターは、たけふじ狐さん自身のオリジナル。デザインから着ぐるみ制作まで全てご自身で手がけます。地域おこし協力隊として女木島へ移住。任期満了後も島で働きながらイラストレーター活動をされています。

たけふじ狐さん

ー「獣ヶ島」はどのようなきっかけ、思いで始まったのですか?

「京都の芸術大学に通っていた学生時代から、“アート×地域活性化”に可能性を感じていました。京都で始めた”ケモノバー”を通じて、ケモノ系イベントを主催。もっと場所そのものを活かしたイベントができないかと考えるようになりました。そんな時、香川県の地域おこし協力隊の募集を見て。”島×ケモノ”のアイデアが浮かびました。ご縁があって2018年に、女木島の地域おこし協力隊に着任。ずっと自分の中で温めてきたアイデアが”獣ヶ島”です」

ー 開催までにどのような準備や苦労がありましたか?

「都会であれば、施設利用のルールや申請方法が明文化されていることが多いですよね。でも地方では、ルールが空気のよう。誰に確認を取れば良いのか、どこまで許可が必要なのか曖昧でした。そのため合意形成や金額の確認、許可の取り方など、ひとつひとつ地域の方と話しながら進めました。大切なのは、地域を知ること、その地域のキーパーソンを押さえることだと思います」

たけふじ狐さん

ー 最初にイベントを企画した時、どのような構想がありましたか?

「最初は20~30名規模まで育てられたらと思っていました。まさかここまでの反響があるとはと、正直驚いています。”また来たい”、”癒された”と言っていただけるのは本当に嬉しいですね。
コンセプトで大切にしているのは“のんびり”。島ならではのリラックスした空気感を大事にしています。だから、あえて企画を詰め込みすぎない。初めて参加する人でも疎外感を感じないよう、参加者同士の格差が生まれにくい設計を意識しています。たとえばステージの企画はつくりません。島全体がステージだからです。写真コンテストは島民の方々による投票にしています。“競争”が強くなりすぎない工夫をしています」

その結果、参加者からは「とにかく癒された」という声が多く寄せられます。

ー 地域の方々の反応は?回を重ねるごとに変わってきましたか?

「意識したのは、地域の方の要望にしっかり応えること。信頼関係をつくることが先だと思いました。地域のための仕事を積極的にする中で、獣ヶ島のアイデアも受け入れてもらえるようになりました。今では説明しなくても、島の方々が理解してくださります。毎回写真を撮りに来てくれる方もいらっしゃいます。持ち込んだ異文化が浸透した感覚があります」


2.参加者インタビュー:わざわざ行きたいをつくる仕掛け。不便さを魅力に変える

第2回からずっと参加されている、参加者のびわびわさんに獣ヶ島ならではの魅力を聞きました。

びわびわさん(キャラクター名:豆助くん)

ー 獣ヶ島のユニークさは何でしょうか?

「やはり“島を楽しむことそのものがコンセプト”になっていることですね。ゆったりとしたイベント自体が珍しいです。通常のケモノ系イベントでは、たくさんの企画でスケジュールがぎっしり…が多いです。でも、獣ヶ島はその真逆。自由にのんびり過ごせます。ぼーっと海を眺めたり、写真を撮ったり、参加者同士でゆったり話したり。“何もしない時間”を楽しめるイベントは実はとても珍しいのです。
”屋外”がメインという点もユニーク。ほかのイベントは屋内施設を貸し切って開催されることが多い。島のビーチを背景にケモノの写真を撮れる機会はとてもレア。参加者が喜んで参加するのだと思います」


3.一度きりの来訪で終わらない。島の祭りに参加する関係人口へ

ー なぜ島の大祭りに参加されるようになったのですか?

引き続き、びわびわさんに話を聞きます。
「獣ヶ島にリピーターで来るようになり、前日からテント泊などしているうちに島に知り合いができて、女木島を身近に感じられるようになりました。島の祭りの太鼓台の担ぎ手が少ないという話を聞き”じゃあ自分も参加してみよう”と。どんどん女木島が好きになっていき、大切な場所になっています。楽しませてもらっている恩返しがしたいという気持ちがありました」

女木島大祭りの太鼓台

ー 参加されてみて、どうでしたか?

「想像以上にハードでした! 太鼓台は重いですし、動きもかなり激しくて驚きました。海水に入るところでは溺れそうになりましたね(笑)それでも、獣ヶ島をきっかけに知り合った5名と一緒に参加して、“大変だったけどまたやりたいね”と話しています。地域に迎え入れてもらえたような、身内になれた感覚が印象に残っています」

太鼓台が海に入る様子
びわびわさんの言葉から分かるのは、イベントだけ留まらないということです。人との関わりを通して心が動くことで、地域への愛着へと変わっていくプロセスが見えました。訪れるゲストが”お客さん”から“関わる人”へと変わる。それこそが獣ヶ島が生み出している大きな価値だと言えるでしょう。


4.閑散期に人が来る。観光の“空白”を埋める存在

秋冬開催が島の経済を支える

女木島の観光のハイシーズンは春から夏にかけて。特に夏の海水浴シーズンがもっとも賑わう時期で、11月~12月になると観光客は減り、島はオフシーズンに入ります。オフシーズンに開催されるのが獣ヶ島です。着ぐるみの参加者には過ごしやすく、島内施設は忙しくない時期だからこそ、貴重な来訪機会となっています。

毎回来店される常連のマリアさん

連日の宿泊利用で島が賑わう、飲食店・宿への波及効果

筆者の運営する「女木島ゲストハウス&カフェMegino」では会期中、連日宿泊利用。カフェ営業でも大きな賑わいをみせました。イベントに合わせて、徳島でフレンチレストランを営む、オオカミのロキ店長とコラボ。獣ヶ島限定メニューを提供し、来訪者と一体となった企画が生まれました。さらに夜間はテラスを開放し、交流スペースとして活用。島の方によるスナック営業が行われ、普段とは違ったかたちで昼夜盛り上がりました。

女木島ゲストハウス&カフェMegino Webサイト
https://megijima-megino.com/

安心して迎えられる来訪者という価値

お宿の運営側から見ると、一般的な観光客とは少し異なる印象を受けます。マナーがよく、アルコールを伴う場面でもトラブルの心配が少ない。場所貸しの最後にはスタッフの方々がゴミ回収や忘れ物などの確認を行うなど、施設を大切に使う意識の高さが感じられます。背景には、ケモノイベント文化で培われてきた「みんなで気持ちよく楽しむためのルール」があるといいます。

“今後も長く楽しむために、場を守る”という共通認識があるからこそ、地域側も安心して受け入れられる
イベントが地域に受け入れられていく上で、重要なポイントと言えるでしょう。


5.小さな島でも集められる。誘致に頼らないMICEのかたち

主催者の展望:継続のカギは「リスペクト」にある

改めて主催者のたけふじ狐さんに今後の展望を伺いました。

ー イベントを継続するために大切にしていることは?

現地の”人”と”場所”へのリスペクトを忘れないことです。地域活性化プロジェクトの多くは、外から来た側が、人口減少等で衰退している地域を”変えてあげる”意識を持ってしまいがちです。しかし、上から目線のアプローチは長く続かないと感じていました。
地域に入ると、島の景観や施設はイベントのない日も含め、島の方々が手をかけて維持管理されていることに気が付きます。見えない積み重ねがあるからイベントが成立している。だから感謝の気持ちを持ちながら、丁寧に説明し、イベントが長く続けられるように協力をお願いする。そのプロセスにしっかり時間をかけることを大切にしています。」

ー今後獣ヶ島をどのようなイベントにしていきたいですか?

「長く続けていきたい思いはあります。1回きりのイベント、単発のイベントをすることは比較的簡単です。一方で、継続するのは別の難しさがありますね。想定以上に多くの人が参加していただけるイベントになったからこそ、向き合うことがあります。
”何のために、どう続けて、どの規模が適切か”が、今の課題です。法人化やチーム化の必要性を感じていますが、イベントに合う仕組みなのか、周囲の納得感はあるのか。2026年は一旦立ち止まり、運営体制や仕組みを見直す予定です」


紅妖さん

イベントを支えるスタッフへのインタビュー

長期間の準備と、当日の運営を支えるスタッフの存在も欠かせません。1年がかりで準備をして、直前には毎週ミーティングが行われます。スタッフの紅妖さんとずーさんにお話を伺いました。

ー なぜボランティアスタッフとして関わられているのでしょうか?

紅妖さん
「第1回目に参加したとき、これまで画面越しで見ていた世界が、目の前に広がっていることに感動しました。そして主催されているたけふじ狐さんをクリエイターとして尊敬しています。だから力になりたいという気持ちが沸いてきました」

ずーさん
「獣ヶ島がきっかけでケモノ界隈を知りました。参加者側の熱意に感動しました。ローカルな場所でもこれだけ人を集められるんだという可能性も感じて。また、スタッフだからできるコミュニケーションも魅力的です。1人の参加者に声をかけたり、交流のきっかけをつくっています」

ずーさん(キャラクター名:だいずくん)

お二人の言葉から伝わってくるのは、主催者・たけふじ狐さんへの信頼と尊敬。イベントそのものへの愛着です。「たけふじ狐さんの力になりたい。イベントに貢献したい。期待に応えたい」。スタッフの方々の真摯な想いが、イベントの質を高めます。


人を大切にすることが、結果として地域を強くする地域の中からイベントを“生み出す”

獣ヶ島の取材は、地方でイベント生み出す面白さと同時に、継続する難しさを感じさせられました。地域活性化は、ともすると外からの正解を持ち込もうとする動きが生まれがちです。しかし獣ヶ島では、地域の方々を尊重し大切にする気持ち・関係性を築くことから始める姿勢が徹底されています。それがないと地域にイベントは根付かないという信念があり、その価値観がスタッフや参加者の方々にも共有されています。大規模なイベントに成長してもなお、地域との摩擦が生まれず関係性が深まっているのでしょう。

また、外からイベントを誘致してくる「以外」の方法を教えてくれました。地域の中からイベントを“生み出す”とういう方法です。地域をよく知る人が企画し、地域が受け入れ、共に育てていく。人の流れが生まれ、関係人口が増え、地域経済にも波及していく。生まれるのは単なる賑わいではなく、新たなカルチャーであり新たな場所の価値です。

誘致だけではない、地域のMICEというかたち。獣ヶ島の取り組みは、ほか地域にとっても「人を大切にし、受け入れて育てることが、持続可能なイベントを生む」という重要なヒントを提示している事例ではないでしょうか。

女木島が登場する他の記事もぜひご覧ください

https://micetimes.jp/report-setogei-25-megijima/

https://micetimes.jp/setouchi-wellness-report/

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