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【IMEXフランクフルト2026 現地レポート】3日間で73,000件の商談は、どう生まれるのか「人と人とのつながり」を設計する、世界最大級のMICE見本市を歩く

過去最大規模となったIMEXフランクフルト2026のホール8。約2,900社・団体のブースが並んだ
過去最大規模となったIMEXフランクフルト2026のホール8。約2,900社・団体のブースが並んだ(編集部撮影)

3日間で、73,000件。2026年5月19日(火)から21日(木)まで、ドイツ・メッセフランクフルトで開かれた世界最大級のMICE見本市「IMEXフランクフルト2026」で、事前に組まれた商談の数です。総参加者数13,515名は過去最大。94か国から4,739名のバイヤー(買い手側のMICE専門家)が集まりました。

ホール8の入口を抜けると、通路の先が霞んで見えるほどのブースの列が続いていました。あちこちの商談テーブルで名刺が差し出され、タブレットの画面が相手に向けられ、笑い声が上がります。ただ、この光景は、たまたま人が集まった結果ではありません。ここに立つ人の多くは、誰と、いつ、どこで会うのかを、フランクフルトに着く前から決めていました。

閉幕記者会見で、IMEXのカリーナ・バウアーCEOはこう語りました。「数字を超えたところにこそ、このコミュニティの『人』としての力とエネルギーがあります」。数字の見本市が、なぜ最後に「人」を語るのか。「人と人とのつながり」を、この見本市はどう設計しているのか。MICE TIMES ONLINE欧州特派員が歩いた、3日間の記録です。

会場の様子(IMEX提供)
会場の様子(IMEX提供)

IMEXとは、「人が出会う場」を20年以上つくり続けてきた見本市

IMEX(アイメックス)は、世界のMICE業界が一堂に会する、欧州最大規模の専門見本市です。観光局、コンベンションビューロー、ホテル、DMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー、現地手配を担う専門会社)、イベントテック企業などが世界中から集まり、商談を重ねます。秋にスペイン・バルセロナで開かれるIBTM Worldと並ぶ、欧州MICE見本市の双璧です。

創業者のレイ・ブルーム氏が構想を立ち上げたのが2001年。2003年にフランクフルトで初開催され、コロナ禍による中止を挟みつつ、20年以上にわたってメッセフランクフルトを舞台としてきました。現在はブルーム氏が会長、カリーナ・バウアー氏がCEOを務め、2011年には米ラスベガスで姉妹見本市「IMEXアメリカ」も立ち上げています。

会場のメッセフランクフルト。年間250以上のイベントを開催する、世界有数の見本市会場だ
会場のメッセフランクフルト。年間250以上のイベントを開催する、世界有数の見本市会場(編集部撮影)

会場のメッセフランクフルトは、年間250以上のイベントを開催する世界有数の見本市会場です。フランクフルト空港から車や公共交通で約20分、徒歩圏内に12,500室ものホテルを擁します。世界中から人を集め、会わせ、送り出す。その流れが、すでに都市のスケールで整っている。IMEXが20年以上この地に根を張ってきた理由の一つです。

背景にあるのは、ビジネスイベント産業の確かな成長です。イベント産業協議会(EIC)とオックスフォード・エコノミクスが2026年5月に発表した調査によると、世界のビジネスイベント産業は2025年に16.5億人の参加者を集め、GDPベースで1.8兆ドルの経済価値を生み出しました。世界第16位の経済規模に匹敵し、トルコやオランダ、サウジアラビアのGDPを上回ります。これだけの経済が「人が会う」という一点から動いている。だからこそ、その出会いを偶然に任せるわけにはいかないのです。

関連記事:IMEXフランクフルト イベントの歴史と日本市場との関わり

https://micetimes.jp/imex-frankfurt-2026/

数字が語るのは「規模」ではなく「密度」

今年のIMEXの規模を、主催者発表の最終データで確認します。総参加者数は13,515名。出展者は約2,900社・団体。バイヤーは94か国から4,739名。前年(2025年)の参加者13,335名、出展者2,882社、バイヤー4,466名をいずれも上回り、出展フロアの面積も過去最大を更新しました。

しかし、IMEXの本質は、この規模の数字ではありません。目を向けるべきは、商談の数です。会期3日間で事前予約された商談は73,000件。前年比8%増で、過去最高を記録しました。うち1対1の個別商談が63,500件を占めます。

会期3日間で交わされた商談は73,000件。その多くは、来場前から相手が決まっていた
会期3日間で交わされた商談は73,000件。その多くは、来場前から相手が決まっていた(編集部撮影)

本誌は会期前、公式ディレクトリに掲載された全出展社2,864社(最終的な出展者数は主催者発表で約2,900社・団体)のプロフィールに、ひととおり目を通しました。そこで痛感したのは、この規模の会場を「歩いて回る」ことの難しさです。3日間で約2,900のブースを見て歩くことは、物理的に不可能です。選択肢が多すぎるからこそ、来る前に会う相手を決めておく仕組みが要る。IMEXの巨大さは、そのまま「出会いを設計しなければならない理由」でもあるのです。

会場の様子(IMEX提供)
会場の様子(IMEX提供)

73,000件を単純に3日で割れば、1日あたり約24,000件。出展社1社あたりにならせば、3日間でおよそ25件になります。もちろん商談が均等に配分されるわけではありませんが、この見本市が「来場者を待つ展示会」ではなく、「会う相手が、来る前から決まっている見本市」であることは、この数字が示しています。

密度を支えているのは、バイヤーの質です。来場した4,739名のうち3,731名、およそ8割が、事前審査を経て主催者に招かれた「ホステッドバイヤー」でした。業種別ではエージェンシーが68%、企業が16%、団体・協会が10%と、この3業種で全体の94%を占めます。さらに、来場バイヤーのおよそ3分の2が年間100万ドル超の購買予算を持つ組織に所属し、22%は1,000万ドル超を扱う組織のバイヤーでした。

来場バイヤー4,739名のうち、およそ8割が事前審査を経て招かれたホステッドバイヤー
来場バイヤー4,739名のうち、およそ8割が事前審査を経て招かれたホステッドバイヤー(編集部撮影)

IMEXの心臓部。「ホステッドバイヤー制度」という、出会いの装置

日本の読者にぜひ知っていただきたいのが、IMEXを支える「ホステッドバイヤー(Hosted Buyer)制度」です。これこそが、IMEXを一般的な展示会と一線を画す仕組みであり、73,000件という数字を生み出している装置そのものです。

ホステッドバイヤーとは、事前審査を通過し、確かな購買力を持つと認められたバイヤーのことです。IMEXは彼らに対し、航空券や宿泊といった渡航・滞在面の支援とVIP待遇を提供して招待します。その代わりバイヤー側は、会期中に出展者との実商談を一定数、事前に組むことが求められます。専属のリレーションシップマネージャーが一人ひとりに付き、最適な商談相手をマッチングします。

つまりこれは、単なる「おもてなし」ではありません。双方が義務を負う、互恵的な取り決めです。招く側は費用を負担し、招かれる側は時間と商談を約束する。この構造があるからこそ、フロアの人出が、そのまま商談へと変わっていきます。

ホステッドの条件に当てはまらない場合でも、一般のバイヤーとして登録すれば、オンライン商談システムや無料の教育プログラムを利用できます。間口は広く、それでいて商談の核は徹底して作り込まれている。この二段構えが、IMEXの強さの源泉です。

ホール9の「インスピレーション・ハブ」。今年は11のテーマで200を超えるセッションが開かれた
ホール9の「インスピレーション・ハブ」。今年は11のテーマで200を超えるセッションが開かれた(編集部撮影)

今年のテーマ「Design Matters」それは、見本市自身の自己紹介

IMEXは毎年「トーキングポイント」と呼ばれる年間テーマを掲げます。2026年から2027年にかけてのテーマは「Design Matters」。良いデザインは単なるビジネスの武器ではなく、物事の仕組みや感じ方、そして人そのものを変えていく力を持つ──IMEXはそんなメッセージを業界に投げかけました。

ここで言う「デザイン」の射程は、日本語の語感よりも広いものです。ブースの装飾や見た目だけでなく、来場者の行動や心理、空間設計、ニューロダイバーシティ(神経多様性)への配慮、サステナビリティまで含めた、「イベントをどう設計し、どう機能させるか」という意味でのデザインを指します。

言い換えれば今年のテーマは、IMEXという見本市そのものの自己紹介でもありました。誰と誰を、どの空間で、どんな順番で会わせるのか。IMEXが20年以上磨いてきたのは、まさにその設計だからです。

テーマを体現していたのが、ホール9に設けられた学びの空間「インスピレーション・ハブ(Inspiration Hub)」です。展示と商談はホール8で行われますが、アトリウムを挟んだホール9には、教育シアター、体験型企画(アクティベーション)、フードコート、ホステッドバイヤー専用ラウンジが集約されていました。今年は11のテーマにわたり200を超えるセッションが用意され、AIの実践的な活用から、利用者の多様性に配慮した「人間中心のデザイン」まで、いまの業界の関心を映した内容が並びました。

再利用可能な素材とモジュール構造を打ち出したブース。ブースを「作って壊す」慣習を見直す動きが広がっている
再利用可能な素材とモジュール構造を打ち出したブース。ブースを「作って壊す」慣習を見直す動きが広がっている(編集部撮影)

このホール9は、大規模なリニューアルを経ています。運営・デザイン・UXの各チームが横断的に再設計したインスピレーション・ハブとホステッドバイヤーラウンジは、再利用可能な展示ブースを推進する国際的な取り組み「Better Stands Initiative」で、最高位のゴールド評価を獲得しました。人がどう動き、どこで足を止め、誰と話すか。その設計は、会場をどうつくり、どう次へ残すかという問いと地続きです。「Design Matters」は、空間の使い方だけでなく、空間のつくり方にまで及んでいました。

世界地図がそのまま会場に広がる。各国・地域のパビリオンが通路ごとに連なっていた
世界地図がそのまま会場に広がる。各国・地域のパビリオンが通路ごとに連なっていた(編集部撮影)

会場を歩く──「約束された出会い」と「約束されていない出会い」

ここからは、実際に歩いた会場の様子をご案内します。行ったことのない方にも、現地の空気を感じていただければ幸いです。メイン会場となるのは、ホール8。約2,900社・団体のブースが整然と並び、耳に入ってくるのは英語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語。世界地図がそのまま会場に広がっているかのようでした。

国・地域パビリオンの多彩さも、IMEXならではです。欧州各国はもちろん、アブダビやドバイ、カタール、オマーンといった中東勢、ケープタウンやダーバンなどのアフリカ勢、オークランド(ニュージーランド)やコスタリカといった遠方の観光地まで。今年はアフリカ勢の出展が過去最大級となり、モザンビークやアンゴラが初出展。米国カリフォルニア州も初めて単独ブースを構えました。国際情勢の不透明感が続くなかでも、湾岸地域が確かな存在感を示していたことが強く印象に残っています。

存在感を放った湾岸地域のパビリオン。中東勢は今年も大型のブースを構えた
存在感を放った湾岸地域のパビリオン。中東勢は今年も大型のブースを構えた(編集部撮影)

ただ、どのパビリオンも、ただ見せるための空間ではありませんでした。凝った装飾の中心にあるのは、いつも、向かい合って話すためのテーブルです。

そしてアトリウムを渡り、ホール9へ。商談で活気づくホール8とは打って変わって、ここには落ち着いた空気が流れています。教育シアターの後方で立ち見をする人。ラウンジのソファでコーヒー片手に語り合う人。セッションを終えて、その場で名刺を交換する人。

アトリウムを渡ってホール9へ。商談のホールと、学びのホールをつなぐ空間だ
アトリウムを渡ってホール9へ。商談のホールと、学びのホールをつなぐ空間だ(編集部撮影)

この二つの空間の対比こそが、IMEXの設計思想そのものだと感じました。ホール8は、商談という「約束された出会い」の場。ホール9は、学びと雑談から生まれる「約束されていない出会い」の場です。人が人とつながるには、その両方が必要なのだと、会場を歩きながら確信しました。

まとめにかえて…「人と人とのつながり」を、偶然に任せない

閉幕記者会見で、IMEXのカリーナ・バウアーCEOは、こう語りました。

「数字を超えたところにこそ、このコミュニティの『人』としての力がある」と語ったカリーナ・バウアーCEO
「数字を超えたところにこそ、このコミュニティの『人』としての力がある」と語ったカリーナ・バウアーCEO(IMEX提供)

「数字を超えたところにこそ、このコミュニティの『人』としての力とエネルギーがあります。それこそがIMEXの核心です。AIが大きな話題を集める一方で、対面のミーティングはいま、再び輝きを取り戻しています。信頼に根ざした、生身の人間どうしの会話にこそ価値がある。互いに刺激を与え合うなかから、ビジネス、友情、雇用、そして業界のイノベーションといった、いくつもの実りが生まれていくのです」

73,000件という商談の数は、偶然の産物ではありません。事前審査でバイヤーを選び、渡航を支援し、専任のマネージャーがマッチングを組み、商談のホールと学びのホールを分けて配置する。そのすべては、人と人が出会う確率を、一つひとつ引き上げるための仕組みでした。

ただし、仕組みが用意できるのは、出会いの「確率」までです。そこから信頼が生まれるかどうかは、テーブルを挟んで向き合った二人のあいだでしか決まりません。数字の見本市が、最後に「人」を語る理由は、そこにあります。そして出会いの設計は、会場を出たあとも続きます。商談のあと、どれだけ早く、どれだけ具体的な提案を返せるか。つながりが本当に決まるのは、握手のあとの数日間なのだと思います。

IMEXの次なる舞台は、2026年10月13日〜15日に米ラスベガスで開かれる「IMEXアメリカ」。フランクフルトでの次回開催は、2027年5月11日〜13日です。

人と人とがつながり、国境を越えてビジネスが生まれる。2003年の初開催以来、IMEXが掲げてきた原点は、20年以上を経ても変わっていません。変わったのは、その原点を偶然に委ねないための仕組みが、20年をかけてここまで緻密になったことです。日本でMICEを設計する私たちにとってのベンチマークも、おそらくそこにあります。

引き続き、本誌欧州特派員が、欧州MICEの最前線を現地からお届けしてまいります。

IMEXロゴ

IMEX 公式Webサイト https://imexevents.com/

※記事・写真:リチャード・モート / MICE TIMES ONLINE 欧州特派員
(一部、MICE TIMES ONLINE編集部にて編集)

本記事の参加者数・商談数などの数値は、IMEXグループ発表の最終データ(2026年5月)およびイベント産業協議会(EIC)の2026年調査に基づきます

こちらもご覧ください IMEXフランクフルト 欧州から見た日本MICEの「いま」

https://micetimes.jp/report-imex-frankfurt-2026-01/

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