【取材】BSIグループジャパン担当者に聞く。GREEN×EXPO 2027のISO 20121認証に見るMICE業界の持続可能なイベント運営とは?
2027年3月に横浜市で開幕するGREEN×EXPO 2027は、イベントの持続可能性という観点において重要な成果を上げました。GREEN×EXPO協会(正式名称:公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会)がA1クラスの国際園芸博覧会として、初めて持続可能なイベント運営の国際規格であるISO 20121を取得したのです。本記事では、審査登録機関であるBSIグループジャパン株式会社への取材を通じ、認証の背景や審査の裏側に迫ります。
サステナビリティを中核に据えた巨大プロジェクトが、どのようにして環境や社会に配慮した運営体制を築き上げているのかは、MICE関係者にとって重要な道標となるのではないでしょうか。
※2026年7月23日取材

GREEN×EXPO 2027が持続可能なイベント運営の国際規格を取得した背景
大規模なイベントを開催するにあたり、サステナビリティの理念を運営の根幹に据えることは業界において、避けて通れない国際的な潮流となっています。しかしながら、具体的な道しるべがない状態でゼロからサステナブルなルールを策定し、実行することは現場にとって困難を極めます。そこで指針となるのがISO 20121という国際規格です。


今回、BSIグループジャパン株式会社の認証事業本部長 泉 佳夫 氏と、営業・マーケティング本部 営業部 ICT & Finance, Manufacturing & Mobility Business Development Manager 加藤 友 氏にお話をうかがいました。
–まず初めにGREEN×EXPO協会がISO 20121の認証を取得しようとされた狙いや背景についてお聞かせいただけますか。
BSIグループジャパン 加藤氏(以下、加藤氏)「取得の背景には、国際園芸博覧会を統括する国際団体である国際園芸家協会(AIPH:International Association of Horticultural Producers 本部:イギリス)が提唱するサステナビリティ理念の実現を目指す姿勢がありました。近年のオリンピックやワールドカップといった巨大な国際イベントにおいて、統括団体が各国の組織委員会に対して、持続可能な運営体制の構築すなわちルールの策定を求めるケースが標準化しています。しかし、何も手がかりがない状態で体制を構築することは非常に難しいため、イベント運営のデザインとなるISO 20121という規格が求められるのです」
BSIグループジャパン 泉氏 (以下、泉氏)「第三者認証を取得することには、対外的なわかりやすさという大きなメリットもあります。組織が環境や社会への配慮に真摯に取り組んでいることを、客観的に証明できるため様々なステークホルダーに対して、活動を理解してもらう上で非常に強力な手段となります」
ISO 20121とは:持続可能なイベント運営の国際規格
ISO 20121 は、イベントと社会との関係性および社会に与える影響、さらにイベントに対するステークホルダーの期待を
プレスリリースより
的確に把握することを求める国際規格です。これにより、イベントの企画・運営・評価に関わる活動全体において、環境・社会・経済の観点から持続可能性の継続的な改善を図るためのマネジメントの枠組みを提供します。
イベントの持続可能性を支える国際規格「 ISO 20121 」は、 2007 年に BSI が開発に関わった BS 8901 に基づき策定が進められました。 BS 8901 は、環境・社会・経済のバランスが取れた持続可能な大会を運営することを目的に開発された英国規格です。
その後、国際大会での実践的な活用を通じて、より包括的で国際的な枠組みが求められ、国際規格としてISO 20121 が正式に発行されました。以降、 ISO 20121 は日本を含む複数の国々で開催された国際的イベントにおいても導入され、持続可能なイベント運営の基盤として採用されています。
MICE業界においても、自主的なルール作りだけでは、その実効性や客観性を証明することが難しくなっています。第三者機関の審査を経ることで、社会的な信頼性を確保し、関係者への説明責任を果たすことができるという点は、多くのイベント主催者にとって参考になる視点です。
関連記事:パシフィコ横浜が日本のMICE施設として初めて、持続可能なイベント運営の国際規格「ISO 20121」の認証を取得
https://micetimes.jp/interview-pacifico-iso/

歴史ある規格開発機関が担う本質的な審査、イベントサステナビリティへの深い知見
今回、審査を担当したBSIグループジャパンは、英国政府から国家標準化機関に指定されているBSIの日本法人です。BSIは1901年にロンドンで設立され、鉄道用レール規格の標準化から始まり、125年にわたり世界の様々な規格開発を牽引してきました。ISO 20121の基となったBS 8901という英国規格も、ロンドンオリンピックの開催を契機に大会組織委員会と共同で策定されたものです。
–深い知見を持つBSIとして、今回のGREEN×EXPO協会の審査において、特にどのような点を評価されたのでしょうか。
加藤氏「私たちの審査では、単に個別の取り組みを点数化して評価するわけではありません。重要なのは、規格の要求に沿った組織づくりとルール作りが適切に行われているかという点です。GREEN×EXPO協会の場合、遵守すべき様々な制約や、国際園芸家協会が掲げるサステナビリティモデルが存在します。地元行政やスポンサー企業、そして来場者といった多様なステークホルダーからの期待を考慮し、それらを内部の運営ルールにうまく落とし込んでいる点を重点的に評価しました」
イベントという一過性の事業において、持続可能なマネジメントシステムを構築することは容易ではありません。BSIの審査は、適合性の確認にとどまらず、組織が自らの課題をどのように設定し、解決に向けてどのようなプロセスを踏むべきかを評価する本質的なものとなっています。
多様な人材が集まる寄り合い所帯をまとめるマネジメントシステムの求心力
イベントの組織委員会は、通常の民間企業とは異なる特有の難しさを抱えています。様々な行政機関や協賛企業から出向してきた人々が集まる、時限的な組織であるため、互いに異なる企業文化や背景を持つメンバーが短期間で協力し合う必要があります。
–様々な背景を持つ方々が集まる中で、認証取得に向けて組織内にどのような運営体制が整えられ、また、どのような苦労があったのでしょうか。
加藤氏「私たちは外部の審査機関ですので、内部の苦労のすべてを把握しているわけではありませんが、サステナビリティ推進の専門部署が旗振り役となり、各部署を巻き込んでいく体制をとられていました。トップマネジメントのコミットメントを引き出し、多様なメンバーをまとめていく過程には、多大なご苦労があったと推察します。時限的な組織が一つにまとまる上で、ISO 20121という指針が存在したことは非常に大きかったはずです」
泉氏「一般企業のプロジェクトであれば、現金や明確な評価といったインセンティブが存在しますが、イベント運営においてはそのような動機付けが働きにくい環境にあります。手探りの状態でゼロから進めるよりも、ISOという規格や認証という明確なゴールを目指す方が、組織全体が同じベクトルを向きやすく、実務を進める上での強力な求心力として機能したのだと考えています」
明確な目標がない中で、多様な価値観を持つ人々をまとめることは困難があります。規格という共通言語を用いることで、組織内に一貫した運営体制を構築し、プロジェクトを前進させる推進力を得ることができるのです。

サプライチェーン全体を巻き込む具体的な環境配慮、来場者視点の工夫
ISO 20121は、組織が遵守すべき要求事項を定めていますが、具体的にどのような課題を設定するかはそれぞれの事情に委ねられています。GREEN×EXPO協会は、サステナビリティ戦略に基づき、気候変動対策や生物多様性の保全、資源循環などを重点分野として掲げています。
–サステナビリティの理念が、実際の調達や会場運営、そして来場者体験にどのように反映されるのか、関係者が自分ごととして感じられるような具体的な取り組みの例があれば教えてください。
加藤氏「イベント業界は、様々なサプライヤーが複雑に連動して成り立っています。この規格を取得することで、人権や環境への配慮を持ったサプライチェーンの構築が必須となります。サプライヤーに対して一定の行動基準を示すことで、ステークホルダーからの信頼を獲得し、コスト面でもリサイクル資材の活用による削減効果などが期待できます。スポンサー企業にとっても、環境貢献性の高いイベントを支援することは、ブランドイメージの向上に直結します」
審査において確認された具体的な取り組みの例を少しご紹介いただきました。
たとえば、植物由来繊維を使用したユニフォームの採用、地域に親しまれている桜を適切に管理する仕組みをなどが挙げられます。来場者への配慮としては、暑さ対策を考慮し、少し涼しくなる時間帯に合わせて開演時間を延長するといった工夫も計画されており、サステナブルな取り組みの一環として構築されています。
これらの取り組みは、環境保護にとどまらず、来場者の快適性や安全性の向上にも寄与します。GREEN×EXPOの来場者が会場での体験を通じて、運営側の深い配慮を感じ取ることができかもしれません。
有形と無形の価値を未来へ繋ぐイベントレガシーの姿
大規模なイベントが終了した後に何を残すかというレガシーの問題は、近年MICE業界において重要視されています。ISO 20121の規格内でも、レガシーをどのように残していくかについての計画策定が求められています。
–イベントが終了した後のレガシーについて、ISO 20121の観点からはどのように見据えられているのでしょうか。また、今後の審査の関わり方についても教えてください。
加藤氏「レガシーには、過去の大阪万博における太陽の塔や、大阪・関西万博の大屋根リングといった有形のものだけでなく、目に見えない無形のものも含まれます。会場を訪れた来場者がサステナブルな取り組みを体験して行動を変えることや、参加したスポンサー企業や自治体の担当者がイベントで得た知見を、自らの組織に持ち帰って還元していくカルチャーの醸成などがそれに該当します。私たちは、来年5月から6月にかけて認証から1年以内の継続審査を行う予定です。この審査では、実際の現場の運営状況を確認し、より良いレガシーの創出につながる改善点があれば指摘させていただきます」
泉氏「認証を取得して終わりではなく、それを対外的にどうわかりやすく伝えていくかが重要です。来場者が会場でサステナブルな工夫を体験し、どのような気持ちを持って帰るかが無形のレガシーに大きく影響します。自分たちの改善の結果に満足するだけでなく、来場者や関係者の目線に立って伝え方を工夫する余地はまだまだあり、それが真のレガシーへと繋がっていくと考えています」
イベントという非日常の空間で得た気づきが、日常の社会へと還元されていく過程こそが、イベントが果たすべき真の役割です。来場者の体験そのものがレガシーでもあるということですね。
業界全体で取り組む意識改革と自らの課題を設定するプロセスの重要性
ISO 20121は、博覧会の主催者など組織委員会だけのものではありません。展示会の企画運営会社やブースの施工会社、そしてケータリングや物流を担う企業など、イベントに関わるあらゆるプレイヤーが取得できる規格です。
–今回の取り組みが他の展示会や国際会議の主催者、そしてイベントに関わる様々な企業にとって、どのように参考になるのかお聞かせください。
加藤氏「この規格は何かを強制するものではなく、組織が自らの立場やステークホルダーの要請に応じて、何を重要視すべきかを示す実践的なガイドラインです。
たとえば、廃棄物を多く出す企業であれば廃棄物削減を、物流会社であれば二酸化炭素の削減を重要課題として設定します。主催者だけでなく、現場を支える企画会社や施工会社など、あらゆる立場の企業がこの規格の考え方を取り入れることで、イベント業界全体と社会をより良く変えていけると信じています。私自身、過去にイベント運営に携わっていた経験から、その可能性を強く感じています。
私は2012年版のISO 20121翻訳に携わり、今回の2024年版についても関連協会からの要請を受けて翻訳を担当いたしました。この規格が日本のイベント業界に深く根付くことを願っています」
泉氏「マネジメントシステムは、一度構築すれば継続的に改善していく土台となります。最初は完璧でなくても、仕組みを持ち、改善の途上にあることを対外的に証明できるメリットは非常に大きいです。ハードルが高いと誤解されがちですが、自社の課題に合わせて柔軟に活用できる規格であることを広く知っていただきたいですね」

持続可能な社会の実現に向けたMICE業界の新たなスタートライン
今回の取材を通じて、GREEN×EXPO 2027のISO 20121認証取得が、日本のイベント業界全体にとって重要な転換点のひとつであると感じました。多様なステークホルダーが連携し、環境や社会に対する配慮を統合的に管理する仕組みが整えられたことは、他の展示会や国際会議、スポーツイベントにとっても参考になる事例です。会場に足を運ぶと、きっと体験することもできるでしょう。
BSIグループジャパンの皆様が持つ、イベント業界に対する深い愛情と、社会をより良く変えていこうとする強い熱意は、取材の端々から伝わってきました。規格の翻訳作業に自ら携わり、日本のイベント業界に規格が根付く土壌を作ってきた専門家たちの存在は、業界にとって大きな財産です。
サステナビリティに対する深いコミットメントを組織内に定着させるための共通言語として、規格を活用する意義は大きいと言えます。日々のイベント運営における資材の調達や、来場者への細やかな配慮は、単なる業務の枠を超え、持続可能な未来へのメッセージとなります。
認証取得はゴールではなく新たなスタートとなります。今後の具体的な成果と、社会に引き継がれるレガシーの創出を、業界全体で支え、見守っていきたいです。
BSI グループジャパンについて
BSI グループジャパンは、 1999 年に設立された BSI の日本法人です。マネジメントシステム認証、医療機器認証、製品試験・認証、第三者保証サービスおよび研修の提供を主業務とし、また規格開発のサポートを含め規格に関する幅広いサービスを提供しています。さらに、時代のニーズに合わせて、デジタルトラストの実現に向けた体制構築や、サステナビリティに関する取組への第三者保証業務を提供し、組織のガバナンス強化と企業価値向上に寄与しています。
プレスリリースより
https://www.bsigroup.com/ja -JP/
GREEN×EXPO 2027 開催概要
名称:2027年国際園芸博覧会(International Horticultural Expo 2027, Yokohama, Japan)
略称:GREEN×EXPO 2027
テーマ:幸せを創る明日の風景(Scenery of the Future for Happiness)
開催期間:2027年3月19日(金)~2027年9月26日(日)
開催場所:旧上瀬谷通信施設(神奈川県横浜市)
博覧会区域:約100ha(うち会場区域80ha)
クラス:A1(最上位)クラス(AIPH承認、BIE認定)
参加者数:1,500万人
有料来場者数:1,000万人以上
主催:公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会
公式マスコットキャラクター:トゥンクトゥンク
公式アンバサダー:芦田愛菜、ゆず
GREEN×EXPO 2027公式Webサイト https://expo2027yokohama.or.jp/
あわせてお読みください…GREEN EXPOとは? APCC2026開催について
https://micetimes.jp/greenexpo-2027-mice/
https://micetimes.jp/apcc-2026/



