【MICEの基礎知識22】テクニカルビジットとは? 工場見学と何が違う?テクニカルビジットで知る地域の産業や技術
国際会議や学会のプログラムには、会場を離れて企業や研究施設などを訪問する「テクニカルビジット」が組み込まれることがあります。水に関する会議で排水処理施設を見学したり、材料研究の会議で伝統的な製鉄技術に触れたりする取り組みです。企業研修でも、生産管理や経営の方法を学ぶために実施されています。テクニカルビジットとは何をするものなのでしょうか。MICEでの位置づけや国内外の事例、受け入れを進める際の課題を紹介します。

テクニカルビジットは会議や研修のテーマを現場で学ぶ視察
テクニカルビジットは、企業や研究機関、行政機関などの現場を訪れ、技術や研究、事業の仕組みを学ぶ視察です。MICEでは、会議や研修のテーマに関係する現場を訪問するプログラムとして行われています。
訪問先は工場に限らず、防災施設、水処理施設、医療施設などにも広がっています。施設の説明、見学、質疑応答を組み合わせたプログラムもあります。ただし、実験や操業の様子を必ず見られるわけではありません。施設の運用や公開範囲に応じて、見学できる内容は異なります。
エクスカーションにも学習や議論の要素があります
MICEでは、会議に伴う見学や体験に「エクスカーション」という言葉も使われます。エクスカーションとは、MICEイベントにおいて、本会議や展示会の合間に企画される地域探索や文化体験のプログラムです。そのため、「エクスカーションは観光、テクニカルビジットは学習」とは分けられません。工場見学や産業観光とも対象が重なります。名称に加えて、訪問の目的や、現地で何を学ぶプログラムなのかを見る必要があります。
エクスカーションについて詳しくはこちらをご覧ください
会議の関連プログラムや企業研修に組み込まれます
国際会議や学会では、会期中や会議終了後に、テーマに関連する施設を訪問する形があります。研究発表や議論に加え、実際の設備や地域の取り組みに触れる機会を設けています。企業研修では、生産方式や人材育成、企業経営などを学ぶために訪問します。浜松・浜名湖・磐田地域では、現場改善や働き方改革などをテーマにした視察が案内されています。
参加費の扱いはプログラムによって異なります。オーストラリアの「IHEA National Conference 2024」では、全日程の参加登録に視察が含まれていました。一方、アイルランドの「IAIA24」では、コースごとに視察料金が設定されていました。いずれも、参加登録や定員などの条件が設けられています。
出典:IHEA National Conference 2024「Technical Tours」
https://icebergevents.eventsair.com/ihea-national-conference-2024/technical-tours
出典:IAIA24「Technical Visits」
https://2024.iaia.org/technical-visits/
日本では地域の産業や技術を学ぶプログラムを展開
松江の国際会議で、たたら製鉄を学ぶ
2024年11月、松江のくにびきメッセで、新材料やデバイスの原子レベルの評価を扱う国際会議「ALC’24」が開催されました。研究発表に加え、たたら製鉄に関するプログラムが実施されています。参加者は「鉄の歴史博物館・菅谷たたら山内」などを訪れるコースに分かれ、地域とたたら製鉄の関わりを学びました。その後、出雲市の島根ワイナリーで、製鉄の工程を小規模に再現した「ミニたたら」の実演を見学しています。
材料を研究する会議で、地域に受け継がれた製鉄技術に触れた事例です。
出典:松江コンベンションビューロー「国際会議『ALC’24』開催」
https://www.matsue-cvb.jp/%E3%80%8C15th-international-symposium-on-atomic-level-characterizations-for-new-materials-and-devices-alc24%E3%80%8D%E9%96%8B%E5%82%AC/
浜松で、製造現場の改善方法を学ぶ
浜松・浜名湖・磐田地域のテクニカルビジットでは、ソミック石川のトヨタ生産方式や製造現場の改善、常盤工業の脱炭素や働き方改革、京丸園の農福連携などが紹介されています。ソミックグループの公開記事によると、当初は自社技術の説明を中心にしていましたが、参加者から、仕事に活用できる具体的な実例を求める声がありました。そこで、生産方式や改善活動の事例を交えた内容に変更しています。このプログラムでは、設備に加え、現場で働く人の業務の進め方も学びの対象になっています。
出典:浜松・浜名湖・磐田テクニカルビジットプロジェクト「テクニカルビジット(産業視察・研修)」
https://technicalvisits-japan.com/ja/
出典:ソミックグループ「製造現場の価値を観光資源に変える『テクニカルビジット』」
https://brand.somic.inc/archives/98/
横浜で、食品廃棄物から発電する仕組みを知る
横浜市観光協会は、Jバイオフードリサイクル横浜工場をテクニカルビジット先として紹介しています。同工場では、食品廃棄物から有機物を分離し、メタン発酵で生じたガスを発電に使っています。視察では、工場や食品リサイクルについて説明を受け、発酵槽などの設備を見学する内容が案内されています。食品の廃棄とエネルギー利用の関係を、処理が行われる現場で学ぶプログラムです。
出典:横浜市観光協会「株式会社Jバイオフードリサイクル 横浜工場」
https://business.yokohamajapan.com/mice/ja/technicalvisit/%E6%A8%AA%E6%B5%9C%E5%B7%A5%E5%A0%B4/
海外では水処理から地域の環境管理まで対象に
カナダの水分野の国際会議で排水処理施設へ
2024年にトロントで開催された「IWA World Water Congress & Exhibition」では、ウォータールー大学の研究者がテクニカルツアーの企画に関わり、参加者をHespelerとElmiraの排水処理施設へ案内しました。大学の報告では、膜を使って酸素を供給する水処理技術の設備を見学したとあります。会議で扱う技術が、実際の施設でどのように使われているかを確認する視察です。
出典:ウォータールー大学「Showcasing innovation: Water Institute researchers at leading international conference in Toronto」
https://uwaterloo.ca/water-institute/news/showcasing-innovation-water-institute-researchers-leading
オーストラリアでは病院や設備メーカーを案内
メルボルンで開催された「IHEA National Conference 2024」の公式プログラムでは、当時建設中だった新Footscray Hospitalや、Victorian Comprehensive Cancer Centreへの視察が案内されました。非常照明メーカーの工場を訪れ、開発や試験、製造に関わる部門を見るコースも設定されています。医療施設に関わる会議で、病院や施設を支える設備メーカーが視察先になっています。
出典:IHEA National Conference 2024「Technical Tours」
https://icebergevents.eventsair.com/ihea-national-conference-2024/technical-tours

テクニカルビジットの受け入れに必要な準備
テクニカルビジットを企画する際は、参加者が何を学びたいのかを把握し、訪問先で見学・説明できる内容と合わせていきます。同じ工場でも、生産技術を知りたいのか、業務改善や人材育成を学びたいのかによって、説明する内容は変わります。
受け入れ側には、通常業務との両立という課題があります。見学の案内や質疑応答には担当者の時間が必要です。対応する人数や頻度、役割分担を決め、準備や案内にかかる負担を踏まえて料金を設定することも、継続的な受け入れに関わります。
公開できる範囲の確認も欠かせません。施設に入れても、操業や実験の様子まで見られるとは限らず、撮影や同業者の参加に制限がある場合もあります。見学内容や参加条件を事前に伝え、参加者の認識とのずれを防ぐ必要があります。
海外からの参加者を迎える場合は、専門的な説明や質問に対応できる通訳の手配も検討します。訪問先との調整に加え、移動や当日の案内まで含めて、誰が何を担当するのかを明確にしておくことが必要です。
オープンファクトリーとの違い。テクニカルビジットに組み込めるのか
オープンファクトリーは、企業が工場を外部に公開し、見学やものづくり体験を通じて、自社の仕事や製品への理解を深めてもらう取り組みです。テクニカルビジットは、技術や研究、業務の仕組みなどを学ぶための視察です。MICEでは、会議や研修のテーマに関係する現場を訪れます。訪問先には、工場のほか、研究機関や公共施設なども含まれます。
工場を公開する取り組みを表すオープンファクトリーと、視察の目的や内容を表すテクニカルビジットは、重なる場合があります。公開されている工場を、会議や研修のテーマに沿って訪問すれば、テクニカルビジットとして組み込むこともできます。
関連記事:オープンファクトリー
https://micetimes.jp/pre-sfv2026/
https://micetimes.jp/zosen-tekko-2025/
テクニカルビジットの目的は、テーマへの理解を現場で深めること
MICEにおけるテクニカルビジットは、会議や研修に関係する技術や取り組みを、現場で学ぶために行われています。材料研究の会議でたたら製鉄に触れる、水分野の会議で排水処理施設を訪れるなど、会議のテーマと訪問先で学ぶ内容が結びついています。
受け入れ側の事例からは、説明内容の見直し、日常業務との両立、公開範囲の設定といった実務も見えてきます。何を見学でき、どのような説明を受けられるのかまで含めて、テクニカルビジットのプログラムは構成されています。

