中部国際空港20周年の課題とMICEによる利用促進 ―セントレア(central、中央)であることの優位性と椙山女学園大学の学生の挑戦―/寄稿記事
中部国際空港(セントレア)は中部圏の玄関口として大きな期待を受けて開港しました。しかし、開港から20年を迎えた現在、コロナ禍の影響や急増するインバウンドの受け入れが「ゴールデンルート」の両端である成田・羽田・関西の各空港へ集中していることで、国際線、特に欧米からの便数が減少しています。貨物便も同様で、成田、羽田、関西の各国際空港に集約される傾向が強まっています。中部国際空港の利用促進には、「セントレアへ来ること」の明確な目的が必要です。そのためにMICEの積極的な活用と広域周遊ルート「昇龍道」によるリピーター層の誘客を提案します。
本記事は、椙山女学園大学現代マネジメント学部の水野英雄准教授による寄稿です。中部国際空港(セントレア)の活性化に向けた、同大学の学生たちの活動と提案を紹介します。空港の現状や、MICEのためのIR(統合型リゾート)誘致の状況にも触れています。

【はじめに】開港20周年を迎えたセントレアと「素通り」問題
2005年の「愛・地球博(2005年日本国際博覧会)」に合わせて開港した中部国際空港(セントレア)は、2025年に開港20周年という節目の年を迎えました。日本の中央に位置し、世界に誇る「モノづくり産業」が集積する中部圏の国際的な玄関口として大きな期待を集めてスタートした空港です。
しかし、開港から20年以上が経過した現在、セントレアを取り巻く環境は厳しいものになっています。首都圏の成田・羽田空港や、関西圏の関西国際空港といった巨大なハブ空港に国際線の多くが集約され、地方空港でもLCC(格安航空会社)の乗り入れが増えるなど、空港間での競合が激しくなっています。
具体的には、地方空港の「富山高山すし空港」は、富山から入って高山へ行くルートの明確化、「すし」という言葉でインバウンドに強く訴えることで国際便を増やしています。
さらに大きな問題となっているのが、訪日外国人旅行者(インバウンド)による「中部圏の素通り」問題です。コロナ禍が終わり、日本のインバウンドは順調に回復し、2025年には過去最高の約4,268万人を記録しました。しかし、その多くは「ゴールデンルート」と呼ばれる東京から京都・大阪間を移動しています。特に欧米豪からの観光客は、成田や羽田から入国し、東海道新幹線で名古屋を通り過ぎて京都や大阪へと向かう流れが定着しています。
「日本の中心にある」という抜群の立地を持ちながら、インバウンドに「セントレアから入国し、中部圏に滞在する理由」をうまく伝えきれていないのが現状の課題です。では、どうすればセントレアや中部圏を単なる「通過点」ではなく、「目的地(ディスティネーション)」にできるのでしょうか?
その解決の鍵として、ビジネスや国際会議を誘致する「MICE(マイス)」の活用と、大学生ならではの斬新なアイデアに着目した取り組みが始まっています。

【学生の挑戦】観光まちづくりアワードで「アワード奨励賞」を受賞!
この地域課題に対して、大学の学びの中から具体的な解決策を提案したのが椙山女学園大学現代マネジメント学部水野英雄ゼミの2年生です。水野ゼミの学生は各地で自治体や企業と協力しながら観光まちづくりに取組んできました。その活動の基本は「現地現物の精神」に基づいた徹底したフィールドワークで、現地調査や関係者と意見交換を行い、それぞれの地域の事情に合わせた解決策を考えていきます。
今回は、常滑や中部国際空港、さらにはパチンコ産業を徹底的に調査し、地域特性を活かした提案を考えました。その成果は、2026年2月10日、愛知県が主催する「観光まちづくりシンポジウム」(会場:のぶながホール)内の「観光まちづくりアワード」最終プレゼンテーション審査で発表されました。このアワードは愛知県の観光振興につながる新しいアイデアを学生から募集するコンテストで、県内外から寄せられた117件もの応募の中で選ばれた6組が登壇しました。

水野ゼミは、『セントレアをミニIRにしてMICEを誘致!―会議の合間にパチンコとボートレース(競艇)を楽しむブレジャー・ワーケーション―』と題して、ビジネス目的のMICEと、余暇を楽しむ「ブレジャー(Bleisure:Business+Leisure)」や「ワーケーション」を組み合わせ、セントレアや隣接する国際展示場「Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)」を目的地(ディスティネーション)にするという構想です。この提案は見事「アワード奨励賞」を受賞しました。

【斬新な発想】「ミニIR」とは? カジノに代わるパチンコとボートレースの提案
MICEのための「IR(Integrated Resort:統合型リゾート)」と聞くと、多くの人は大規模なカジノや高級ホテル、国際会議場が一体となった巨大な施設を思い浮かべるでしょう。日本でも全国各地でIR誘致が検討されてきましたが、巨大なカジノを新設するには膨大な建築コストがかかる上、治安面や依存症への懸念から反対意見も多く、実現へのハードルが極めて高いのが実情です。愛知県でも空港島内でのIR事業者の募集が行われましたが、当初に予定した期間内に応募した事業者がなく期間が延長された、市民団体による反対が起こっているなど様々な課題に直面しています。
そこで学生たちが考えたのが、「巨大なカジノを作らなくても、既存の施設を活用して低予算で整備できる『ミニIR』」という考え方です。学生たちは、アメリカ・ラスベガスのハリー・リード国際空港のターミナル内にたくさんのスロットマシンが設置され、飛行機の搭乗待ちの時間に利用客が手軽に楽しんでいる光景に着目しました。そして、「カジノに代わる日本独自、そして名古屋ならではの娯楽体験とは何か?」を追求していったのです。
そこで行き着いたのが、庶民の身近なレジャーである「パチンコ」と、常滑市にある「ボートレース(競艇)」でした。「MICEでパチンコ?」と驚かれるかもしれません。しかし、歴史を紐解くと、愛知県・名古屋市は「パチンコ発祥の地」とされています。大正末期から昭和初期にかけて名古屋の遊技場から発展したパチンコは、現在でも愛知県内に大手メーカーの本社や関連部品工場、ソフトウェア開発企業が集積している一大産業です。つまり、パチンコは単なる遊びではなく、名古屋が誇る「モノづくり技術」と「ポップカルチャー」が融合した独自の地域産業であり、観光資源となり得るのです。

【足で稼いだ現地調査】セントレア・展示場・常滑の街を駆け回る!
学生たちの提案が高く評価された理由は、単なる机上の空論ではなく、自らの足で現場を歩き回った丁寧なフィールドワーク(現地調査)に裏打ちされていたからです。学生は研究を進める中で、様々な場所へ直接足を運び、施設関係者や自治体・観光関係者への聞き取り調査(ヒアリング)を実施しました。
- 中部国際空港(セントレア):ターミナル内の旅客動線や空きスペースの確認
- Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場):MICE開催時の参加者の動きや施設の状況、周辺環境の確認
- ボートレースとこなめ:レース場の雰囲気や観光資源としての可能性の探求
- 地元のパチンコホール:遊技機の仕組みやエンターテインメント性の体験・調査
- 常滑市内の歴史的街並み(やきもの散歩道など):MICE参加者が立ち寄れる観光コースの開拓
現地調査を通じて学生が提案したのが、セントレアのターミナルビルやAichi Sky Expoのフリースペース、周辺ホテルのロビーなどに、体験型のパチンコブースやアミューズメントエリアを設置する「ミニIR」構想です。

国際会議や展示会に参加する海外からのゲストにとって、会議のスキマ時間やフライトの待ち時間に、日本の高度な技術やアニメ・ゲームとコラボした「ポップカルチャーとしてのパチンコ」を短時間で体験できる仕組みは、非常に新鮮で魅力的なコンテンツになります。多言語のルール解説のQRコードを用意したり、ガイドがサポートしたりすることで、カジノのようなギャンブルではなく、日本の風営法に基づく健全で明るい「文化・エンターテインメント体験(遊技)」として楽しんでもらうことができるのです。
【MICE×ブレジャー】会議の合間にエンタメを!広がる新しい滞在スタイル
世界的なMICEの潮流は、単に会議室で難しい話を聞くだけのスタイルから、参加者にその地域ならではの感動体験(カスタマーエクスペリエンス)を提供し、滞在時間を延ばしてもらうスタイルへと変化しています。その結果、地域での消費支出額が増え、地元経済が潤うという好循環が生まれます。


セントレアのすぐ隣にある「Aichi Sky Expo」は、日本で唯一の「空港直結型国際展示場」であり、約60,000平方メートルという広大な展示面積を誇ります。しかし、イベントが終わった後の夜間の楽しみ(ナイトタイムエコノミー)や、空き時間に手軽に楽しめるエンタメスポットが周辺に少ないことが課題でした。
学生の提案は、セントレアとAichi Sky Expo、そして常滑の街全体をひとつの「ミニIRエリア」と捉え、ビジネスとレジャーを融合させた以下のような滞在スタイル(ブレジャー)を提示しています。
1.会議の合間やフライト前に「ミニIR」体験
空港や展示場内で、短時間で手軽に日本のパチンコやアミューズメントを楽しむ。
2「ボートレースとこなめ」でのエキサイティングな体験
会場からすぐ近くにあるレース場で、水上のモータースポーツとしての迫力を鑑賞・体験する。
3 常滑の伝統産業と食文化を満喫
日本六古窯の一つである常滑焼の「やきもの散歩道」を散策し、知多半島の美味しい海の幸や地酒を堪能する。
さらに、この提案は常滑周辺にとどまりません。セントレアを拠点として、飛騨高山や白川郷、金沢、立山黒部などを巡る中部・北陸の広域周遊ルート「昇龍道(しょうりゅうどう)」へとつなげることで、リピーターとなるインバウンド客の滞在期間を延ばし、地域全体に大きな経済波及効果をもたらすことを目指しています。

【次のステップへ】学生チャレンジプロジェクトとMICE人材の育成
アワードでの受賞を経て、この取り組みはさらに大きな広がりを見せています。現在は椙山女学園大学の「学生チャレンジプロジェクト」として、3年生の京極ゆめ乃さん、青木彩紗さん、井田美咲さん、上野麻紘さん、鈴木陽菜さん、谷田梨里さん、野村玲央さん、平野綾さん、宮崎愛菜さんの9名(責任教員:下坂光准教授)が中心となり、「中部国際空港の活性化と知多半島の観光振興―セントレア(central、中央)であることの再認識と活用―」というテーマで研究と実践を深めています。
IRというと「巨大なホテルやカジノが必要」という固定観念にとらわれがちですが、学生の柔軟で大胆な発想は、「地域にある既存の資源を活用して新しい価値を生み出す」という重要な視点を教えてくれます。教室の中だけで学ぶのではなく、地域の企業や行政と連携しながら実際の課題解決に取り組む、このプロセス自体がこれからのMICE産業や観光業界を支える「次世代の人材育成」に直結しています。
セントレアが開港20周年を超え、新しい時代に向けた利用促進が求められる今、学生の若い感性とチャレンジ精神が、中部圏のMICEと地域活性化に大きな新しい風を吹き込んでいます。

筆者プロフィール
水野 英雄(みずの ひでお)
椙山女学園大学 現代マネジメント学部 准教授
専門分野:国際経済学、観光経済学、経済政策
1968年 名古屋市 生まれ。名古屋大学大学院経済学研究科博士課程後期課程退学。観光による地域経済の活性化、クルーズ客船の寄港促進、ダークツーリズムによる誘客等の研究や観光まちづくりの実践に取り組んでいる。
椙山女学園大学 教員紹介ページ
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