【現地取材】日本進出を目指すフィリピンの食品産業。「IFEX Philippines 2026」で見えた認証・流通・信頼構築の課題
IFEX Philippinesとはフィリピン政府が主催する、国内最大級の国際食品見本市
フィリピン最大級の食品展示会「IFEX Philippines」が、第18回目の開催としてワールド・トレード・センター・メトロマニラ(World Trade Center Metro Manila)で開催されました。3日間にわたる会期中、フィリピンという国そのものを世界に紹介する場のような雰囲気に包まれていました。
フィリピンの食品産業は”日本”を見ています。しかし日本市場に届けるには、味だけでなく、認証・流通・信頼形成をつなぐ仕組みが必要です。当日の様子と、出展者のインタビューを通してお届けます。

7,000超の島々が育んだ食文化が一堂に集結

IFEX Philippines 2026の初日、ワールド・トレード・センター・メトロマニラの会場へ足を踏み入れると、五感が刺激されます。揚げ物の香ばしい香りがホール全体に漂い、アイスクリーム用冷蔵ケースから流れる冷気が人々の間を抜けていきます。

出展者たちはタガログ語と英語を自在に使い分けながら会話を交わし、その合間には、初めて口にする味を楽しむ人々の笑い声が響いていました。
7,000を超える島々からなるフィリピン。「フィリピン料理」とひと言で表現できるものではありません。地域ごとに異なる食文化が存在し、その数は数十種類にも及びます。海外ではアドボやシニガンといった料理が広く知られていますね。「IFEX Philippines 2026」は、フィリピン各地の味が一堂に会する数少ない機会のひとつ。フィリピン料理好きにとって、まさに天国のような場所です。
アドボ:お酢と醤油、ニンニクを使ったフィリピンの代表的な家庭料理
シニガン:酸味を効かせた、フィリピンを代表する伝統的な酸っぱいスープ料理

訪れていたのはフィリピン人だけではありませんでした。アジアやヨーロッパをはじめ、世界各国から来場者が集まっています。海外バイヤーの姿も見られました。純粋に食を楽しみに訪れた人も訪れていました。

取材したのは木曜日。平日にもかかわらず、初日から会場は大きな賑わいを見せています。IFEXが現在どれほど存在感のあるイベントへと成長しているのかを物語っています。
大統領夫人の来場が示したIFEXの存在感

IFEXの国家的な重要性を象徴する出来事は、会期の早い段階で見られました。フィリピンのファーストレディであるリザ・アラネタ・マルコス氏(Madame Liza Araneta-Marcos)が会場を訪れ各ブースを熱心に視察。立ち止まって試食をし、出展者に質問を投げかける姿が印象的でした。

その様子は公務をこなしているようには見えず、自国の食文化や出展内容に誇りを持っていることが伝わってきました。初出展の企業にとっては、このような注目や評価を得られることは大きな意味を持ちますね。

来場者の行列を生んだオリジナルツナ缶づくり

会場内で人気を集めていた企画が、センチュリー・ツナ(Century Tuna)によるオリジナル缶詰制作体験です。来場者は自分好みにデザインしたツナ缶を作れます。長い列ができていました。日常的な食品であるツナ缶を、思い出として持ち帰れる記念品へと変えた取り組みです。日常の中にある食べ物であっても、楽しみや喜びを見いだすという、フィリピンの食文化を象徴する考えが表れていました。
日本市場を目指すフィリピンの起業家たち

フィリピンの食文化を祝う華やかな雰囲気が広がっている背景には、海外市場への挑戦という目標がありました。多くの出展者にとって、日本市場は重要なターゲットとなっています。
世界ブランドを目指し日本市場に挑む

マニラ・クッキー・ストーリー(Manila Cookie Story)のマーケティング責任者である、ケイル・マンラグニット氏(Keir Manlagnit)は、自社商品の展開先として日本市場に大きな期待を寄せています。ショートブレッド(焼き菓子)は、防腐剤を使用せず、地元産の原材料を活用した4種類のフレーバーを展開。パッケージデザインには、フィリピンのジープニー(乗り合いバス)、伝統的な織物、地域の祭りなどがモチーフとして採用されています。

「私たちはフィリピンらしさを表現するだけでなく、世界的に認知されるブランドを目指しています。日本での商談経験もあります。近いうちに再び訪問する予定です。日本は研究開発(R&D)の分野で非常に先進的であり、私たちが本気で参入したい市場のひとつです」
参入より難しい、信頼を築くこと

MLC Food Products Manufacturingのオーナーである、マリア・ルイサ・ゴンザレス・チュア氏(Maria Luisa Gonzalez Chua)は「MLC Tuyo Flakes」を携えてIFEXに出展しました。フィリピンで親しまれている干し魚「トゥヨ(Tuyo)」をベースにした商品で、4種類のフレーバーを展開。調理不要でそのまま食べられます。
トゥヨ(Tuyo):伝統的な塩漬けの干し魚

「IFEXは私たちにとって非常に重要なイベントです」とチュア氏。
「海外に住むフィリピン人、日本にいるフィリピン人の方々は、自国の食品を強く求めています。そのため日本市場への参入自体は比較的進めやすいのですが、課題は、信頼を築くことです」
日本輸出の壁となるのは認証取得

AA Globalのアービン・ロペス氏(Arvin Lopez)氏は、植物由来の原料を使用したクラックリングを紹介。フィリピンの伝統的なスナック「チチャロン(Chicharron)」を、よりヘルシーにした商品です。日本のバイヤーからも関心を集めているものの、輸出には高いハードルがあると語ります。
「私たちのような中小事業者にとって最大の課題は認証取得です。日本へ輸出するためにはASEAN基準や、それ以上の認証が必要です。取得には多くの時間とコストがかかります。それでも、日本市場には挑戦する価値があります」
クラックリング:豚の皮をカリカリに揚げたり焼いたりした食品
海外進出の鍵を握るブランディングとマーケティング

Cocina Eliasのジャネル氏(Janelle)は、フィリピン食品業界の次世代を担う若手起業家です。同社はFDA(米国食品医薬品局)認証を取得しており、原材料を地元農家から直接調達しています。バタンガス州産のリベリカ種コーヒー「Kapdng Barako(カプン・バラコ)」と、ターメリックにココアシュガーを組み合わせたブレンド商品を展開。

「フィリピン食品が海外市場へ進出する上で最大の課題は、ブランディングとマーケティングです。本格的に海外市場へ展開するためには、フィリピン貿易産業省(DTI)などの支援機関による後押しが必要です。製造基準やパッケージの標準化を進めることで、より大きな市場へ挑戦できるようになると思います」
注目を集めた日本、そして日本を目指すフィリピン

「フィリピン→日本」だけでなく「日本→フィリピン」の動きも見られました。
日本貿易振興機構(JETRO)フィリピン事務所が出展しており、日本産いちごを使用したアイスクリームを提供。あっという間に行列ができていました。フィリピン市場における日本産プレミアム商品の人気の高さがうかがえました。
Editor’s note:認証・流通・信頼、その先にある日本市場

IFEXフィリピンズ2026の会場を後にしたとき、私は思いがけない種類の「空腹感」を覚えていました。食べ物に対してではありません。「この先に何が待っているのだろう」という期待に満ちた気持ちが残っていたのです。

私はフィリピン料理で育ちました。よく知っているつもりでした。ただ、IFEXで出会った地域ごとに異なる味わい、挑戦を続ける新しいブランド、独自の表現を追求するシェフたち。まだ味わったことのないものが数多く存在していたことに驚きました。私がそう感じたのですから、初めてフィリピン料理に触れる日本の方々は、さらに大きな驚きと発見を感じると思います。

フィリピンの食品業界は、次の段階に進む準備ができています。起業家が日本市場について真剣に語ってくれました。日本貿易振興機構(JETRO)はすでに現地で活動しています。日本にはフィリピン系コミュニティが存在し、自国の食品を待ち望む人々もいます。認証制度への対応、流通網の整備、そして市場からの信頼の獲得。乗り越えるべき課題はたくさんあります。今後必要となるのは、その両者を結ぶ橋渡し。「IFEX Philippines」のような場だと思います。

合わせて、料理デモンストレーションも魅力的なのです。
再解釈されるフィリピン料理 ― 文化を受け継ぐシェフたち

フィリピン南部に受け継がれるタウスグ料理
Palm Grill(パーム・グリル)のシェフ、ミゲル・“ミギー”・カベル・モレノ氏(Miguel “Miggy” Cabel Moreno)による調理デモンストレーションが印象的でした。モレノ氏は、2025年版ミシュランガイド・フィリピンの創刊版において、ミシュラン ビブグルマンの評価を受けた、初のタウスグ族出身シェフとして知られています。継承しているのは、スールー諸島やミンダナオ島南部に根付くタウスグ料理です。この地域の食文化はZamBaSulTa(ザンバスルタ)と総称されます。フィリピン国内でもまだ広く知られているとは言えません。
ZamBaSulTa(ザンバスルタ):フィリピン南部ミンダナオ島の4つの地域「(Zamboanga、Basilan、Sulu、Tawi-Tawi)」の頭文字をとった総称

披露されたのは「Amor Del Mar(アモール・デル・マール)」と呼ばれるタウスグ伝統のシーフードボイル料理。地域特有の香辛料とココナッツミルクを組み合わせて調理されたその一皿は、濃厚な旨味と爽やかさが見事に共存していました。食べ終わったあとも残り続けるような味わい。この料理をもう一度味わうためだけでも、IFEXを再訪したいと思わせるほどでした。

多様な文化を受け入れるフィリピン料理
別のデモンストレーションでは、違う経歴を持つ2人のシェフが、同じステージに立ち、それぞれ披露しました。登壇したのはモリス・ダンゼン・カタンハル氏(Morris Danzen Catanghal)と、フィリピン現代料理界を代表する存在の一人であるマイク・“タタン”・サルトウ氏(Myke “Tatung” Sarthou)です。ダンゼン氏はイタリアで8年間暮らし、イタリアの料理コンペティション「Gino Cerca Chef(ジーノ・チェルカ・シェフ)」で優勝した経験を持ちます。その後、オーストラリア・メルボルンへ移住しました。

「ピナクベット・リゾット」を披露。ピナクベットはフィリピンで親しまれている野菜の煮込み料理ですが、ダンゼン氏はこれをイタリア料理の技法で再構築しました。料理には伝統的なピナクベット特有の酸味がしっかりと残されておりながら、まったく新しい表現へと生まれ変わっていました。普段であれば、フィリピンではピナクベットをおかずとして白米と一緒に食べます。今回は、米そのものがピナクベットの旨味を吸収し、一粒一粒に味わいが染み込んでいます。

一方のサルトウ氏が提供したのは、「クリームチーズ・サーディン・ルンピア」です。ルンピアはフィリピン版の春巻きともいえる料理ですが、クリームチーズとイワシを組み合わせた独創的な一品でした。2人の料理はそれぞれ異なる方向性ながらも、見事に調和。

ダンゼン氏「この料理は私自身の背景を表しています。イタリアの技法を活用しながら、新しいフィリピン料理を表現したいと考えました。ただし、フィリピンとイタリアの両方に共通する“家族を大切にする文化”や温かさは失いたくありませんでした」
世界各地で活躍するフィリピン人のシェフは、伝統的なフィリピン料理を再現するだけでなく、自身が暮らしてきた国や地域の食文化と対話し、新たなフィリピン料理を生み出していました。それこそが、フィリピンの食文化が持つ独自性なのかもしれません。さまざまな文化を受け入れ、取り込み、変化しながら発展してきた柔軟さこそが、フィリピン料理の大きな魅力といえるでしょう。
